安曇野ジャズファンの雑記帳

信州に暮らすジャズファンが、聴いたCDやLPの感想、ジャズ喫茶、登山、旅行などについて綴っています。

浦久俊彦著「フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか」(新潮選書)

2018-03-02 20:05:09 | 読書

1月にピアニストのイリーナ・メジューエワが書いた「ピアノの名曲」(講談社現代新書)を読んで、リストのピアノ曲に関心を持ちましたが、その際に、クラウディオ・アラウのリスト作品集(CD6枚組)を購入し、折に触れて聴いています。このCDを聴いているうちに、リスト本人に対する関心が高まってきたので、この本を読んでみました。

   

著者の浦久俊彦(うらひさとしひこ)さんは、1961(昭和36)年生まれ。音楽プロデューサー。高校卒業後、19歳で渡仏、パリで音楽学、哲学などを学ぶ。2007年には、三井住友海上しらかわホールのプロデューサーに就任している方です。

目次は次のとおり。

第一章 神童の神話
第二章 スキャンダルはアーティストのトレードマーク
第三章 巡礼の年
第四章 失神したがる女たち
第五章 「ピアニスト」の誕生
第六章 グランドピアノはなぜ大きくなったのか
第七章 ショパン VS. リスト
第八章 四百人の弟子と後継者たち
第九章 知られざる晩年の肖像

(感 想)

フランツ・リスト(1811~86年)は、日本でも名前は知られているものの、その生涯は一般にほとんど知られていないし、音楽についても深く知ろうとすると、急にわからなくなると記し、『なぜ、リストはここまで語られないのか。なぜ、リストは理解されないのか。その理由は何なのか。それが不思議で、書き始めた』という執筆の動機を明らかにしています。

僕も、リストの曲は、せいぜい「愛の夢第三番」とか「巡礼の年」を聴いていたくらいで、その先のピアノ曲や管弦楽曲についてはさっぱりでした。この本は、リストの生涯や生きていた時代背景などを知るには絶好のものでした。一気に彼に対する理解が深まります。曲の解説書ではありませんが、彼の曲が身近に感じられるようになった気がします。

リストは傑物だったのだと驚くようなことが記されています。いままで僕が知らなかっただけで、ご存じの方が多いと思いますが、ちょっと書き留めておきます。

1 史上最大のヨーロッパ・ツァー 1839年11月ウィーン公演から1847年9月エリザベートグラード公演まで、8年間という長期にわたるツァーを行っています。公演回数は1000回を数え、超人的です。 

2 ピアノのリサイタルを発明し、始めたのがリストだった。ひとりのピアニストと一台のピアノによる演奏会という形式を発明。

3 1848年にワイマールの宮廷楽長になりピアニストを引退し、以後作曲活動が活発になり管弦楽曲も多く書いている。リストの活動自体がこれほど、くっきりと分けられとは知りませんでした。

4 グリーグがリストを訪ねて、ピアノ協奏曲を見てもらったところ、初めて見ただけで、完璧に演奏したというエピソードがあり、リストの超人的な読譜力は、常人の想像を超えていた。

5 1835年5月のマリー・ダグー伯爵夫人との駆け落ちから、スイス、イタリアをめぐる旅に出て1844年5月の破局まで続くが、その旅を背景として書かれた作品が『巡礼の年』だったということを、この本で初めて知りました。

リストの作品を、ピアノ曲だけでなく、管弦楽曲を含めていろいろ聴きたくなりました。エキサイティングな面白い本です。

【クラウディオ・アラウ・リスト作品集】

   

ピアノ曲はこのCD(6枚組)で聴いています。2曲のピアノ協奏曲や「ピアノソナタロ短調」、「超絶技巧練習曲」、「巡礼の年」などが収録されています。アラウはチリ生まれですが、ドイツで研鑽を積んでいて、ベートーヴェンをはじめ多くの録音を残しました。リストの作品も得意としていました。