紫陽花記

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別館「銘茶処」

「とある日のこと」夏祭

2016-03-06 14:54:19 | 「とある日のこと」2016年度


夏祭無人の街を越えて行く(なつまつりむじんのまちをこえていく)

人生の戦友となる夫と日帰りバス旅行に参加した。『相馬野馬追』の二日目。

 全線開通した常磐道を北上する。東日本大震災の教訓からか、内陸の標高の高いところを通っている。左の窓から風景を眺めていた。緑の深い木々の中に合歓の花が次々と見えてくる。山に自生する木らしく、大きく枝を広げ桃色の綿毛のような花を沢山付けている。

 眼下に見える風景が一変してきた。深緑色のシートに覆われた、数え切れない塊。屋根の崩れた家屋。破れたままのビニールハウス。草の生い茂った屋敷。雑草で畦さえ見分けのつかない田畑。人影一つない。『原発事故』の後遺症だ。放射線量がまだ残っていることが解る。被災者の悲しみが胸を突く。今現在どのような暮らし方をしているのだろうか? お祭りを観に行く自分がこれでいいのだろうか? どんなに悲しい運命でも、他者に代わってもらえない現実。

 暫くの間、まだ帰還出来ない地域を走行する。やがて、整備された家屋敷が見え始め、耕した田畑が見えてきた。作物が出来たとしても、買ってもらえないという現実がまだあるらしい。『相馬野馬追』の会場となる雲雀ヶ原祭場地へは、午前十一時半頃着いた。団体観覧席へ。

 旅行社オリジナルの昼食弁当を食べ終わった頃から、式典が始まった。祭場の広場に集結した騎馬武者達。大震災の、原発事故の、その全てから復活を遂げようとする意気込みが、猛暑を蹴散らす勢いとなっていた。「相馬流山踊り」八十人からなる踊り手が、整然と舞う。甲冑競馬」一二〇〇メートルを先祖伝来の旗指し物をなびかせて疾走する騎馬武者。羊腸山を駆け上がる人馬。「神旗争奪戦」。どれを見ても、騎馬武者の壮観さに、未来の希望が漲っていた。