紫陽花記

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腹ペコダンサー

2019-11-29 09:24:55 | 「とある日のこと」2019年度


腹ペコダンサー

 月に1回踊りに行くダンスホール。マスターの厳しい目に留まったダンサーばかりが、スタッフとしてお客様のお相手をしている。プロや一般ダンサー、それに大学のダンス部学生など。客は、中高年の女性が断然多く、ペアで入店する人たちは数組程度。綺麗に磨かれた50坪ほどのフロアーや更衣室、トイレなどまで、営業時間終了後にスタッフ全員で掃除する。いつでもお客様が気分よく楽しめられるように気配りの出来ている店である。

 今日のスタッフは、プロ2、一般2、学生1であった。殆どが黒や白などを基調にした服装である。客はみな華やかなダンスウェアー。一人ずつ分け隔てなく順番にスタッフに導かれて踊り出す。スタッフは、客の力量に合わせるようにリードしてくれるので、皆が満足気な表情で、踊り終わると席に戻ってくる。

 営業時間中盤になった頃、私の手を取ったのは20代前半のスタッフ。白の上着のその子は、と言うのも、孫より1つか2つ年上のようなダンサー。最初に踊ったのはクイックステップだったが、確実なボディのリードが私を難なくフロアーいっぱいに踊らせてくれていた。その子が、「おなかすいているの」と言う。「あら、どうしたの」「朝から何にも食べてなくて、集中力が無くなって」と言う。確かに、リードの勢いが無い。すぐに15分間の休憩時間になるのだが。

 私はダン友と話し合って、持っているクロワッサンと御煎餅などを袋に入れて、トイレに向かうついでに手渡した。次回踊ってもらった時に、「ありがとうございました。御蔭で、このとおり元気が出ました」と言った。確かなリードが戻っていて、存分に踊らせてもらえた。
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