孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロマ差別  欧州を逃れてアメリカへ逃れるロマも増加 東欧諸国の「破られた約束」

2016-09-24 22:09:37 | 欧州情勢

(独ベルリン・ノイケルンの雑貨屋オーナーが店先に貼った「ロマはお断り」・・・・でしょうか。画像は【6月2日 「各国反応 – 気になる海外反応を配信」】 素人の手書きにしては上出来なデザインのようにも見えます)

犯罪関与などの現実が助長する欧州におけるロマ差別
“ロマ(Roma)は、ジプシーと呼ばれてきた集団のうちの主に北インドのロマニ系に由来し中東欧に居住する移動型民族である。移動生活者、放浪者とみなされることが多いが、現代では定住生活をする者も多い。”【ウィキペディア】(厳密には、ジプシーと呼ばれている人々には、ロマ以外の人々も含まれるようです)

日本では「ジプシー」という呼び名が方が一般的ですが、「ジプシー」などの呼称は物乞い、盗人、麻薬の売人などの代名詞のように使われる場合がままあり、「差別用語」のイメージがあるため、ポリティカル・コレクトの観点から現在は「ロマ」の呼称が使われることが多いようです。

呼称を変えたからといって差別がなくなる訳でもありませんが、あからさまな嫌悪感・侮蔑をまき散らすよりはましでしょう。

欧州におけるロマへの根深い差別の問題は、これまでも何回か取り上げてきました。
2013年8月24日ブログ“人権重視の欧州で続くロマ差別  ロマ分断の「壁」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130824
2013年10月24日ブログ“移民・外国人への風当たりが強まる欧州で、相次ぐ被差別民族ロマの話題”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131024
2016年3月4日ブログ“難民・移民問題に揺れる欧州が昔から抱えるもひとつの異民族・異文化問題・・・「ロマ」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160304
2016年7月16日ブログ“ルーマニアの「奴隷村」とロマ差別”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160716

現在、ロマはルーマニア・ブルガリアなど東欧を中心に、西欧にも広く拡散しており、各地で差別の対象となっています。

“欧州連合の行政府・欧州委員会によると、欧州に暮らすロマの人口は推定1000万~1200万人。 欧州評議会の各国別推計によると、ルーマニア185万人、ブルガリア75万人、スペイン72万5000人、ハンガリー70万人、スロバキア49万人、フランス40万人、ギリシャ26万5000人、チェコ22万5000人、イタリア14万人など。”【ウィキペヂア】

欧州でのロマへの差別的感情は、イスラムやユダヤ以上に強いものがあるとか。

ロマが差別される理由として・流れ者の民族で文化が違う。・キリスト教徒ではない。・コーカソイド(白人系)ではない。・個人主義で、決して地域に同化しない。などが挙げられていますが、現実問題として差別されて合法的な暮らしが困難なロマが窃盗などの犯罪や物乞いに関与することが多いことが一般市民の彼らへの感情を更に悪化させているものと思われます。

****ベルリンの雑貨屋でロマ・ジプシーが出禁になる【緑の党は差別と反撃****
独ベルリン・ノイケルンの雑貨屋で連日起こる万引き被害からオーナーが店の入り口に「ロマはお断り」と書いた紙を貼ったことが今物議を醸している。

このオーナーのアクションに独緑の党は怒り爆発。レイシズムだと痛烈批判を行う。

ベルリン・ノイケルンは特に移民が多く住むエリアで 地下鉄構内を歩くと、ドイツ語や英語だけではなく、トルコ語、アラビア語、 東欧言語、ベトナム語などが聞こえてくる、いわゆるマルチカルチュラルなエリアだ。

ノイケルンにあるその雑貨屋は、日々いわゆるシンティ・ロマ人による万引き被害に悩んでいた。警察に通報しても何の解決にもならなかったようだ。

その中オーナーの女性は、シンティ・ロマ人立ち入り禁止の札を店に貼り、ジプシーの立ち入りを防ぎ、問題を解決しようとしたが、この対応が「レイシズム」だとドイツの緑の党を始め、 左翼活動家から大きな批判を集めることになった。

加えて、警察もこの女性オーナーに対して、民衆扇動罪で捜査を始めたようだ。

シンティ・ロマ人による万引き、スリ、物乞いは近年ドイツでは大きな問題になっている。
今回の雑貨屋での万引きの手口は、妊婦のフリをしたロマが来店し、その大きなお腹に商品を詰めていくというもの。その他は、観光地などでアンケート用紙を持って近づき、気を逸らしている間に、 財布や携帯電話を抜き取るという手口だ。

また、2007年にシンティ・ロマ人が多く住むルーマニアとブルガリアがEUに加盟したことにより、多くのシンティ・ロマ人がドイツにやって来た。

また、バルカン半島にも多く住むシンティ・ロマ人は、昨年の難民流入以来どさくさに紛れてドイツにやって来ている。

バルカン半島諸国が安全国として認定されて以来、自動的に強制送還の手続きが進んではいるものの、送還を拒否するシンティ・ロマ人が続出。 多くのシンティ・ロマ人が消えていることも大きな問題になっている。【6月2日 http://kakkokuhannou.com/ドイツ/【万引き地獄】ベルリンの雑貨屋でロマ・ジプシ/】
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もっとも、いったん差別意識が出来上がってしまうと、理由などなくても差別が継続する・・・という面もあります。
そこらあたりは、日本にも残存する同和問題や在日韓国・朝鮮人などへの根深い差別意識を考えればわかります。

差別の欧州を逃れてアメリカへ
ロマの人々は、欧州における差別を逃れるためアメリカに渡るケースも増えているようです。
アメリカが温かく彼らを迎え入れてくれる・・・という訳ではありませんが、少なくとも欧州のようにロマを意識していないだけでも、ロマにとっては暮らしやすいのでしょう。

****ヨーロッパを追われアメリカに逃れるロマの人々****
<アメリカへの亡命を求めるヨーロッパのロマの人々が増加している。EU加盟と引き換えに、ロマの生活環境の改善を約束したルーマニアなどの中欧諸国が、その約束を反故にしたからだ>(写真はルーマニア北部のスラムで暮らすロマの家族)

アメリカの国境警備隊は、メキシコから入国しようとする多様な国籍の人々には慣れきっている。しかしここ数年、ヨーロッパの特殊なグループの人々の難民申請が、わずかではあるが特異的に増えている。

ヨーロッパでナショナリズムや外国人排斥(ゼノフォビア)の風潮が高まるなか、迫害を理由に亡命を求めるルーマニア国籍の少数民族ロマの人々が着実に増加している。今年7月までに既に1800人のルーマニア人が収容された。昨年1年間は400人以下だったので、大幅に増加した。

警官に保護を求める不法入国者
そのほとんどが亡命申請者だ。ヨーロッパでのヘイトクライム(憎悪犯罪)や根強い差別によって、生活上の様々な機会が制限されているというのが理由だ。(中略)

ロマの増加の背景には、ヨーロッパでの長い迫害と放浪の歴史がある。差別的に「ジプシー」と呼ばれることもあるロマの人々は、ヨーロッパ各地に暮らす少数民族だ。

もともとはインドから移民してきたと言われ、何世紀にも渡ってヨーロッパ諸国の政府から、人種隔離、迫害、公民権剥奪、退去処分などの不当な差別を受けてきた。多くの人々がいまだに極度の貧困状態にある。

ロマの人々のアメリカへの移住は、歴史を通じてあったが、20世紀初頭は特に顕著だった。ここ数年の流入は歴史的に見れば僅かだが、ヨーロッパ諸国がロマの人権を守れなかったり、または守ろうとしなかったりしていることに対して、ロマの人々が絶望している兆候だと、ロマ擁護の活動家は指摘する。

「現在、特に西ヨーロッパ諸国では、ロマも移民も歓迎されない。社会環境は敵対的で、暴力事件も起きている」と、米ラトガース大学准教授でヨーロッパ・ロマ人権センター理事長のエセル・ブルックスは話す。ルーマニアの一部の都市では、公共の場所でロマが隔離されているところもあるし、「犬とジプシーは入るべからず」という看板も目にする、と言う。

ロマ擁護の人権活動家ジェリコ・ジョバノビッチによると、つい10年前には、市場経済や民主選挙の広がり、移動の自由の拡大で、偏見も少なくなるだろうと希望的な見通しを持つロマの人々が多かった。

EU統合でなくなるはずだった差別
2003年や2007年ごろ、中欧諸国のEU加盟協議が始まり、ハンガリーやルーマニア、ブルガリアはEU加盟と引き換えに国内法の整備を迫られた。人権擁護を推進すると同時に、新たな人権プログラムを実施して、社会の底辺の劣悪な環境で生活し、物乞いや泥棒を生業としているという偏見があったロマのコミュニティーを、支援して社会へと統合することが求められた。

ジョバノビッチはそれを「破られた約束」だと言った。

「ここ数年で状況は大きく悪化した。東欧諸国もEUに加盟した途端、ロマの生活支援などどうでもよくなってしまった」

当初、EUの基本原則である「人の自由な移動」を好機ととらえた一部のロマ人は、職を求めて西ヨーロッパ諸国への移住を試みた。だが2009年のギリシャ危機に端を発した欧州債務危機やシリア難民の急増、ローンウルフ(一匹狼)型テロリストによるテロ攻撃の脅威からエスカレートした反移民感情など逆風が強まり、少数民族や移民に対する敵意の連鎖が止まらなくなった。

米調査機関ピュー・リサーチ・センターが行ったここ数年の調査から、欧州各国でロマに対する否定的な見方が国民の過半数を占める実態が明らかになった。2016年にはイタリアやフランス、ドイツといった国々で、ロマを「好意的でない」と答えた人が、イスラム教徒やユダヤ人に対する割合を大きく上回った。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルや人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチなどは、EU各国でロマに対する体系的な差別の実態調査を続けている。

米国務省が公表したルーマニアに関する2015年の人権報告書は、ロマを標的にした差別は「重大な問題」だと指摘。具体的な問題点として、警察による暴行、嫌がらせ、公共の場所でのサービス提供の拒否、子どもの学校の隔離、医療保険制度の不備などを列挙した。

かくいうアメリカも亡命資格を得るのが難しいことで有名だし、そもそもロマはアメリカや国連が定めた規則で難民の認定基準を満たしていない。

ロマがアメリカへの亡命に成功したケースをいくつか見てきたブルックス曰く、「大量の証拠書類を提出しなければならないうえ、認定される確率は低い」。彼女は今後、貧しいが紛争国の出身ではないロマがアメリカで「経済難民」として扱われ、難民認定がさらに難しくなる事態を懸念している。

失われた希望
ジャバノビッチは、ロマ人に経済移民というレッテルを貼るのは間違いだと言った。「彼らは何世紀にもわたりヨーロッパで貧しい生活を送ってきた。一番問題なのは、ロマ人がもはや希望を持てないことだ」

EUにはロマ人の福祉の充実に役立てるために割り当てられた資金があるのに、有効活用されていないことにも言及した。

「2003〜04年にかけて、我々の団体がロマの権利拡大のために複数のプロジェクトを立ち上げたときは、現在と比べて集まった資金こそ少なかったが、政治的な機運は高まっていた。今はその逆で、資金は足りても政治的な盛り上がりに欠けている」

アメリカを目指す理由について、アメリカがよりオープンな国で、ロマであろうと目立つことなく溶け込みやすい印象があるからだと専門家は見ている。ほとんどのアメリカ人はロマが迫害されてきた少数民族であることや、「ジプシー」という言葉が蔑称だということすら知らない。

今年の米大統領選挙を見ても明らかなように、アメリカは国内で人種的なマイノリティをめぐる問題を抱えている。たとえロマ人がアメリカで居住権を得られても、移住する地域や肌の色によっては、人種差別や排外主義に直面せざるを得ないのが現状だ。【9月23日 Newsweek】
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ハンガリーやチェコにおける教育差別
ハンガリーなど東欧諸国は、現在シリアや北アフリカなどからの難民・移民の受け入れを拒んでいますが、その問題以前に果たすべき“宿題”が残っています。

もっとも、その‟宿題”に取り組む意思はさらさらないようです。

****ハンガリー:ロマの分離教育を廃止せよ****
欧州委員会は、ハンガリーのロマの子どもたちに対する教育的差別に対し、正式に対処することを決定した。この決定で、何世代も続く不正義に風穴を開けなければならない。

欧州ロマ権利センターやアムネスティ・インターナショナルなどの人権団体が、同国でロマの子どもたちが教育制度で常に差別や分離を受けてきたことを示すさまざまな事例を欧州委員会に提供した。それを受けての今回の決定だった。

ハンガリーは、欧州委員会の要請に応え、ロマの子どもたちに対する差別を廃止する措置を速やかに取らなければならない。

同委員会は、「ロマの子どもたちへの差別は、もうたくさんだ。これ以上、制度的差別や分離は容認できない」と語った。

公式には条約侵害手続きとよばれる今回の介入は、欧州委員会が、その加盟国が国内法や欧州法を遵守していることを保障するための仕組みだ。

2014年以降、同様の問題でEU(欧州連合)の差別禁止規定に抵触したとして、チェコとスロバキアの2件で適用された。

ハンガリーが欧州委員会の懸念に対応しなければ、本ケースは欧州裁判所に付託され、同国は、金融制裁を科される可能性がある。

この侵害手続きは、ハンガリーのロマの子どもたちが、長年教育的に差別され、その45%が分離教育を受けてきたことを示す事実にもとづいて取られた措置だ。

欧州人権裁判所、ハンガリー国内の裁判所、差別のない待遇局(Equal Treatment Authority)が、「ハンガリーの教育分離は違法である」という判決を下したにもかかわらず、同国は、共学に向けた施策をまったく取らなかった。それどころか、民族差別をさらに助長する教育政策を取とうとしている動きさえあった。

分離による平等などあり得ない。強引な差別は、ロマの子どもたちの未来を否定し、さらに次の世代をも困窮と貧困に陥れる。

ハンガリーは今こそ、教育分離を廃止するために、早急に具体的な措置を取り、ロマの子どもたちが、国内外の人権義務にそった教育の権利を享受できるように保障しなければならない。
アムネスティ国際ニュース 2016年5月26日 【6月 1日 アムネスティ・インターナショナル日本】
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上記記事にもあるチェコの教育差別については、以下のようにも。

****チェコ教育現場での差別****
差別は子どもにも向かう。そしてそれを行政が助長している。ハンガリーで、ルーマニアで、スロバキアで、チェコで、ロマというだけで一般教育からはじき出し、知的障がい者のための学校やロマだけを集めた学校へと追いやっているのだ。(中略)

ロマの子どもたちは公用語のチェコ語が母語でないことも多いが、チェコ政府はサポートを行うどころか、面倒だからと一般の学校への入学を拒否しているのだ。

チェコの人口に占めるロマの人びとの割合は3%に満たない。にも関わらず、軽度の知的障がい者用の学校・学級の子どもたちの30%近くは、ロマの子どもたちだ。明らかに異常な多さだ。

こうした差別はEU法や国際人権法に違反する行為であるが、それがチェコではまかり通っている。

また、たとえ一般の学校への入学を許されたとしても、生徒や教職員たちからいじめや差別的な扱いを受けたりすることもある。

一般レベルの教育を受ける機会を奪われることは、将来の可能性も摘み取られてしまうということだ。そして貧困や疎外から抜け出せない悪循環に陥らされてしまう。

チェコ政府はこういった状況に対し適切な対策をとることを怠ってきた。これは人種差別以外のなにものでもない。【2015年07月24日 アムネスティ・インターナショナル日本】
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差別する側の人間性の問題
先述のようにロマの人々が実際に犯罪や物乞いなど社会秩序を乱すような行為にかかわることが多いという現実はあるにしても、彼らをそのような境遇に追いやっているもは何なのかを考える必要があります。

家を借りることもできず、仕事にもつけず、満足な教育すら受けられない・・・こうした状況にあれば生きていくために犯罪にかかわるのは当然の結果でもあります。

ロマが欧州の歴史に明示的にあらわれるのは15世紀頃からが多いようです。少なくとももそのころから何百年にもわたって続く差別意識を解消することは容易ではありませんが、放置していい問題でもありません。

こういう言い方は建前的な“ポリティカル・コレクトネス”として疎んじられる傾向にもありますが、差別の問題はロマの問題というより、差別する側の人間性の問題です。
日本国内における差別に関しても同様です。

ところで、“寛容”を普遍的価値基準としているという欧州におけるホロコーストやロマ差別などを考えるとき、若い頃にたまたま見かけた五木寛之『風に吹かれて』に書かれた、欧州の「人間扱いしていない区別」とアメリカの「同じ人間としての差別」に関する一節を思い出します。
 
あの文章が真実の一端を指摘したものなのか、あるいは小説家のひねくれた見方にすぎないのか、そこは未だによくわかりませんが。

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