孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  「指導者なきデモ」で集会禁止令撤回に追い込むものの、今後の展開は不透明

2020-10-23 21:54:35 | 東南アジア

(タイ・バンコクの反政府デモで飲食物を販売する露天商(2020年10月21日撮影)【10月23日 AFP】)

 

【香港を想起する「指導者なきデモ」「水になれ」】

タイでの若者らを中止とした王室改革・首相辞任要求を含む反政府・民主化要求運動は、政権側の厳しい姿勢にも関わらず、依然として続いています。

 

その特徴は、香港での抗議行動と同様に「指導者なきデモ」という性格です。

 

****タイと香港に見る「指導者なきデモ」の時代 森浩****

「われわれ全員がリーダーだ」。タイで若者が中心となった反政府デモが急速に拡大している。18日には首都バンコクで数千人が参加したデモが行われ、参加者は三本の指を宙に突き立て、大声で冒頭のスローガンを叫んだ。

 

三本指のポーズは、独裁体制への抵抗を描いた米映画「ハンガー・ゲーム」(2012年)に登場するもので、抗議活動のシンボルとなっている。

 

タイでときの政権への抗議活動は珍しいものではない。2000年代に入っても、王室支持者の「黄シャツ派」とタクシン元首相を支持する「赤シャツ派」によるデモがあった。

 

今回の抗議デモで参加者は、プラユット首相辞任や軍政下で制定された憲法の改正などを求めている。陸軍出身のプラユット氏は14年の軍事クーデターで権力を掌握。民政移管を目指した昨年の総選挙では、多数派工作で下院過半数を確保して続投を決めた。

 

「民主的な選挙を経たはずなのに、民主的でない政権が続いた」とはデモ参加者の男性(22)の言葉だ。デモの矛先は絶大な権力を持ち、既得権益を代表する存在である王室にも向かっている。

 

ただ、今回は過去の抗議とはやや趣を異にする。抗議集会はソーシャルメディア(SNS)で主に呼び掛けられる。デモは複数のグループが緩やかに連携する形で、国内各地でゲリラ的に実施されている。象徴的な指導者はいない。

 

このようなデモには既視感がある。香港で昨年6月以降に本格化した「逃亡犯条例」改正案を発端とした抗議だ。臨機応変にデモを実施するという意味で「水になれ」が合言葉となった。

 

記者は昨年9月に香港を取材したが、誰が作ったか分からない「午後7時にショッピングモールで抗議活動実施」というメッセージがSNSで拡散するや、帰宅途中の学生やサラリーマンら数百人が集まった様子に驚いた。実際、タイの抗議活動も香港を相当意識しており、「水になれ」というスローガンはタイのSNSにも登場する。

 

インターネット上で広がり、リーダーが存在しない−。香港とタイに共通したデモの特徴は、抗議活動の新バージョンという意味で「反政府デモ2・0」とも呼べるだろう。

 

政府からしてみればデモ隊側と妥協点を模索しようにも指導者がおらず交渉が難しい。摘発を続けても、各地でデモが続発し、沈静化にてこずることになる。国とテロ組織の戦いは、軍事力や戦術が大幅に異なることから「非対称戦」と呼ばれるが、政府とデモ隊の関係もまた「非対称」と言える。

 

結果、政府側が取る策はネット規制を含む力による押さえ込みということになる。中国が6月末、香港に国家安全維持法(国安法)を導入して民主活動家の徹底的な弾圧を開始したのはその最たるものだ。

 

タイ政府も10月15日、バンコクに非常事態宣言を発令し、デモ参加者の強制排除を行った。だが、一度付いた火は簡単には消えず、宣言後も抗議活動は継続している。

 

アジアのみならず世界で権威主義の台頭が指摘され、一方で民主的な体制を求める動きも強まっているように見える。水のようにしなやかで砕けない「全員がリーダー」というデモは、権威主義と戦う市民の武器として力を持ち続けるだろうか。【10月20日 産経】

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「指導者なきデモ」という点では、もっと遡れば2011年にアメリカ・ニューヨークで展開された反格差抗議行動「ウォール街を占拠せよ」も想起されます。

 

この種の運動は、明確な指導者を書くため、要求の統一性に欠け、長期間の運動の維持が困難で、時間とともに下火になっていく・・・・という弱点も指摘されていました。

 

今回のタイの場合は、「ウォール街を占拠せよ」の反格差「われわれは99%だ」の漠然とした主張に比べれば、憲法改正などの具体的要求という点では統一性が見られます。

 

明確な指導者がいないということで、当局側の“タイ、抗議抑え込み狙い緊急措置 民主派デモの指導者逮捕”【10月16日 CNN】“王妃車列妨害で逮捕状=活動家2人に―タイ”【10月16日 時事】といった強硬な対応も、デモを封じこめることができていません。

 

SNSを駆使し、臨機応変にデモを実施するという「水になれ」・・・香港だけでなく、いまや世界各地の抗議行動スタイルの定番スタイルともなりつつありますが、デモ参加者の上を行くのが商魂たくましい屋台業者・露天商・・・という下記記事は面白い話です。

 

****まるで「CIA」 デモ隊を先回りするタイの露天商****

タイの首都バンコクで続く大規模な反政府デモでは、その優れた情報収集ネットワークから米中央情報局になぞらえられる存在がいる──屋台で飲食物を売る露天商たちだ。

 

政府が先週、デモ収束に向けた厳しい措置を導入して以降、デモ参加者らは当局を出し抜くために集会の場所を直前まで公表しない「ゲリラ」戦略を取るようになった。だが参加者らはすぐに、自分たちが到着する前から露天商らが会場で出店準備を始めていることに気づくこととなった。

 

ある露天商はAFPに対し、フェイスブック上で最新デモ会場についてのヒントを集め、同業者と常に連絡を取り合うことで、いち早く情報を察知していると説明。「以前も稼ぎは良かったけれど、デモ会場に店を出すようになってからは売れ行きがさらに良くなった」と語った。

 

7月に抗議運動が始まってから商売は繁盛しており、デモ会場に屋台が集まる様子はおなじみの光景となった。デモ参加を呼び掛ける20日の投稿には、屋台の写真とともに「CIAを最初に送り込もう」とのコメントが添えられた。 【10月23日 AFP】

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露天商が先回りできるのに、警察側がそれをできない・・・という話もよくわからないところ。

生活をかけた切実さの違いでしょうか。

 

【当局側の強硬姿勢は奏功せず メディア規制の動きも】

閑話休題。

こうした「水になれ」という運動で、“タイの学生らは17日、首都バンコクの高架鉄道や地下鉄の駅に集まり、それぞれの駅で一斉に反政府デモを行った。”【10月17日 共同】といった散発的なデモが拡散。

 

“タイ 3日連続反政府デモ 警察が学生を強制排除”【10月17日 FNNプライムオンライン】“タイ反政府デモへ放水 封じ込め狙う当局、若者ら抗戦”【10月17日 朝日】という当局の強硬対応は奏功していません。

 

****タイ反政府集会、2万人規模に拡大 強制排除が逆効果に****

タイでプラユット政権の退陣などを求める反政府集会が、政権側の集会禁止措置や放水による強制排除があったにもかかわらず、18日もバンコクなどで開かれた。政権側の出方によっては、衝突が起きる可能性もある。参加者は逮捕されたリーダーらの似顔絵を掲げ、「仲間を釈放しろ」などと声を上げた。

 

反政府集会は18日夕からバンコクの戦勝記念塔前など数カ所で始まり、参加者は合わせて2万人規模に膨らんだ。バンコクの会社員の男性(25)は「当局の強硬な対応で、眺めるだけだった人々もデモに参加するようになった。真の民主化が実現するまでデモに加わり続ける」と話した。

 

7月から続く反政府集会で中心になっている若者は軍事政権の流れをくむプラユット政権の退陣や、軍政下で制定された憲法の改正、タブー視されてきた王室改革などを求めている。

 

タイ社会は格差が大きいうえ、新型コロナウイルスなどの影響で庶民の暮らしは一段と厳しさを増す。デモに集まる若者たちには、軍や王室など一部の権力層や特権階級による支配への不満と反発がある。

 

主催者らは、ふだんはドイツにいることが多い国王が帰国中の14日、大規模なデモを決行。政府は15日にバンコクに緊急事態を宣言して5人以上の集会を禁止し、首相府前にいたデモ隊を強制排除。16日には、バンコク中心部での数千人規模の集会に放水し、散会させた。

 

また警察は16日、王妃らが乗った車列を妨害したなどとして、反政府デモに参加していた活動家2人を逮捕した。有罪なら最高刑は終身刑で、見せしめ的に刑罰が厳しい容疑に問うことでデモ参加者らを萎縮させる狙いがあるとみられる。

 

それでも若者らは17日、バンコク市内の数カ所に分散して集会を開き、人数は計2万人規模に。地方でも十数県で集会が開かれた。

 

政府はリーダー格を相次いで逮捕し抑え込みを図るが、若者らはSNSを通じた呼びかけで次々に街頭に繰り出している。政権側は高架鉄道や地下鉄などを止め、集結を阻止しようとしているが効果は限定的だ。

 

一方、こうした措置は市民生活の混乱も招いている。

 

警察幹部は18日、非常事態宣言下のデモが違法であることを改めて強調し、法に基づく対応を取ると語った。再び強硬手段に出る可能性がある。【10月18日 朝日】

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「指導者なきデモ」に対し“政府側が取る策はネット規制を含む力による押さえ込みということになる”ということでは、下記のようなメディア規制の動きも。

 

****タイ警察、デモ報道巡りメディアの調査を命令****

タイ警察は19日、同国でのデモの報道を巡り、情報を制限する緊急措置に違反した疑いがあるとして、4つのメディアの調査を命じたと発表した。

メディアの間では怒りの声があがり、政府による報道の自由の侵害との声が強まっている。

16日付の警察の文書によると、4つのメディアと抗議団体のフェイスブックアカウントに対する調査が命じられた。 

警察の広報担当者は、「情報機関から、一部のコンテンツと歪曲された情報が混乱と扇動のために使われ、社会に動揺をもたらしたとの情報を得た」と発言。調査を行うのは放送規制当局とデジタル経済社会省で、報道の自由を抑制する計画はないと述べた。

デジタル省の報道官は、法律違反の30万以上のコンテンツの中から、4つのメディアと抗議団体のページを削除する裁判所命令を要請したことを明らかにした。

タイの独立系ニュースサイト、プラチャタイは、今回の動きは検閲命令と主張。英語版がツイッターに「タイの人権と政治運動について正確な情報を報じることを誇りに思っており、活動継続へ最善を尽くす」と投稿した。【10月19日 ロイター】

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****タイ、デモ収束見えず 政府のメディア圧力にも反発****

タイで若者を中心とする大規模な反政府デモが14日以降、連日続いている。集会禁止措置や強制排除があったにもかかわらず、収束の兆しはない。政権側はデモを中継するネットメディアにも圧力をかけるなど封じ込めに必死だが、強硬姿勢がさらに若者らの怒りを招く事態に陥っている。

 

地元メディアによると、タイの裁判所は20日、反政府デモの中継をするなどしてきた「ボイスTV」のオンライン報道を差し止める決定をした。タイ当局が他の三つのネットメディアとともに、「間違った情報」を発信しているとして命令を求めていた。

 

政府は15日に出した非常事態宣言で5人以上の集会を禁じ、15日朝と16日夜にデモ隊を強制排除したものの、反発した若者らはデモを継続。直前にSNSを通じて場所を告知し、ゲリラ的に数カ所に分散して開催する方法で連日、合わせて数千人から2万人規模のデモを続けている。20日は地下鉄や高架鉄道の複数の駅で、それぞれが抗議の意思を表す形を取った。

 

政府は、デモ参加者らが使っている通信アプリの規制も関係当局に要請。ネットを通じたデモの拡大に歯止めをかける狙いがあるとみられる。

 

だが、メディア側は「報道の自由を侵すものだ」と批判。デモ主催者らも強く反発しており、政権の強硬姿勢がデモ拡大を招く状況が続きそうだ。

 

一方、タイ政府は20日の閣議で、事態の収拾策を話し合う臨時国会を26、27日に開く方針を決めた。デモ隊の要求の一つである憲法改正についても議論し、デモを沈静化させたい考えとみられるが、事態の収束に向かう一助になるかは不透明だ。【10月21日 朝日】

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閉鎖を命じられたボイスTVは、タクシン元首相の一族が一部保有しているウェブメディアで、ボイスTV側は「政府は他社への見せしめのためボイスTVを選んだと指摘した」とも反発しています。【10月21日 AFPより】

 

【プラユット首相 若者らへの譲歩で打開の道を探る 抗議デモのの今後は不透明】

こうしたなかで、プラユット首相は強行対応だけでは限界があるとみて、若者らに譲歩の姿勢をみせる形で、事態の打開を図ろうとしています。

 

****タイ首相、若者に自制促す=集会禁止解除の用意****

タイのプラユット首相は21日夜、国民向けにテレビ演説し、バンコクなどで続く反政府集会に関し、意見の相違は議会を通じて解決を目指すべきだと訴え、若者らに自制を促した。タイ政府は来週、国会を臨時招集して集会への対応策を話し合う。

 

首相は「和解を目指す時だ」と強調。一方で、バンコクで5人以上の集会を禁じた措置を解除する準備を進めていると述べ、「暴力行為がなければ禁止措置を即座に解く」と明言した。【10月21日 時事】

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しかし、若者らの抗議行動はエスカレートし、3日以内の首相辞任要求へ。

 

****タイ反政府デモ“3日以内の首相辞任”要求****

タイで21日夜、反政府デモを続ける学生らがプラユット首相の3日以内の辞任を求め、一時、首相府の前まで迫る事態となりました。

バンコクでは学生らが現政権の退陣や王室の改革を求めるデモを続けていて、21日夜は警察のバリケードを破り、首相府の前まで行進し、一時、緊迫した事態となりました。

学生らは政府側に、プラユット首相が3日以内に辞任するよう求める書面を提出しました。

デモ参加者「首相の辞任を求める書面を渡せたのは非常に重要で勝利につながる一歩だ」(後略)【10月22日 日テレNEWS24】

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****タイ首相、集会禁止令を撤回 大規模デモ阻止できず****

タイのプラユット・チャンオーチャー首相が、5人以上の集会を禁じた緊急命令を撤回したことが分かった。

 

官報「王国政府公報」によると「首相は、10月15日付で出した厳格な非常事態宣言を、10月22日正午(日本時間同午後2時)をもって取り下げると発表した」という。

 

タイでは、学生主導の民主化デモが7月中旬から拡大し、プラユット首相の罷免と軍事政権下で2017年に公布された憲法の改訂を要求している。また、デモ指導者の中には、強大な権力を持つ裕福な王室の改革も求めており、物議を醸している。

 

タイ政府は先週、王室の車列に向かってデモ隊が反政府運動の象徴となっている3本指を立てるしぐさを下ことを受けて、5人以上の集会を禁じる緊急命令を出した。だが、その後も首都バンコクでは連日デモが続き、効力を発揮できていなかった。 【10月22日 AFP】

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今後については、“強硬姿勢を続けてきた政府が譲歩した形ですが、学生らは3日以内に首相が辞任しなければ再び大規模なデモに踏み切るとしていて、事態が収束する見通しはたっていません。”【10月22日 日テレNEWS24】

 

ここまでは一定に当局側を押し込んだ形の抗議デモですが、ここから先の首相辞任要求などには厚い壁があります。

 

更に、王室改革となると国民全体の共感を得られるかも問題があります。ここに深入りすると国民分断の危険性もあります。

 

****タイで8日連続反政府デモ 王党派グループも集会で対抗****

タイでは21日も各地で反政府デモが開かれた。デモの開催は8日連続。参加者はプラユット政権の退陣や憲法改正に加え、王室予算の削減や王族を中傷・侮辱した場合に適用される不敬罪の廃止などの王室改革を訴えた。

 

 21日はワチラロンコン国王の祖母シーナカリン王太后の生誕120年記念日で、王室を支持する「王党派グループ」も、各地で集会を開いて反政府デモに対抗。王室のシンボルカラーの黄色いシャツを着た人たちが参加した。

 

地元紙によると、王党派グループの指導者ワロン・デキットウィグロム氏は、反政府デモ隊との対決は望まないとしながらも、「我々の国は王制があるからこそ、これまでも平和を維持できてきた」と訴えた。【10月21日 毎日】

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「指導者なきデモ」で運動を統制維持し具体的要求実現につなげていくのは、非常に困難な道のりのようにも思えます。

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