孤帆の遠影碧空に尽き

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インドネシア  ジョコ政権のイスラムへの“すり寄り”現象 いまだに続く「処女検査」

2019-12-05 22:34:22 | 東南アジア

(【2015年10月19日 COURRIER】)

 

【「イスラム教徒が既に勝利を収めている」】

従来、“寛容”や“多様性”が重視されたインドネシアにおいて、昨今、多数派イスラム教徒の支持を背景にイスラム主義的価値観が前面に出つつあることは、これまでも再三取り上げてきました。

 

インドネシアのジョコ大統領は、先の大統領選挙で、イスラム強硬派に支持された対立候補プラボウォ氏の追撃を振り切るために、自らも穏健派イスラム指導者を副大統領に据えることで勝利しましたが、イスラム重視の流れに“すり寄った”とも言えます。

 

****インドネシア大統領、イスラム社会への対応が課題に****

インドネシアで(4月)17日に実施された大統領選は、現職のジョコ大統領が複数の民間調査機関の集計結果を踏まえて勝利宣言した。

 

ただこれらの結果からは、イスラム強硬派がより先鋭化して対立候補のプラボウォ氏に投票した事実も明らかになった。

 

そこで思い出されるのは、同国の作家エカ・クルニアワン氏が2カ月前に、「イスラム教徒が既に勝利を収めている」と主張していたことだ。(中略)

 

ジョコ氏は多様な社会の実現を掲げて再選を果たしたとはいえ、宗教的に両極化が進んでいるインドネシアをうまく統治していかなければならず、同氏を支持したイスラム勢力の要求に応じながら、プラボウォ氏を推したイスラム強硬派の攻撃をかわしていくのは簡単ではないかもしれない。

 

コントロール・リスクの政治アナリスト、アクマド・スカルソノ氏は「短期的にはジョコ氏は国民の多数を占めるイスラム教徒の意見や利益を受け入れていく必要がある。なぜなら多数派が不安を感じれば、少数者を守るのは難しいからだ」と述べた。もっともそれでインドネシアがサウジアラビアのような厳格なイスラム法を適用するような国に変わるわけではないとしている。

 

インドネシアは国民の90%近くがイスラム教徒だが、公式には世俗主義を掲げており、一定数のヒンズー教徒やキリスト教徒、仏教徒なども暮らしている。

 

しかし一部からは、同国の伝統だった宗教的寛容さが危うくなってきていると心配する声が聞かれる。イスラム教を保守的に解釈することがより支持されるようになってきたからだ。

 

それを示す材料として、イスラム金融の需要拡大や、人前で髪を隠す「ヘジャブ」をかぶったり、全身を覆う「ブルカ」をまとう女性が増えていることなどが挙げられる。

 

<分断化>

プラボウォ氏は選挙戦で陣営強化のためにイスラム強硬派と手を組んでいた。実際、民間集計結果を見ると、アチェ、西ジャワ、西スマトラの3州を2014年の前回の選挙に続いて確保しただけでなく、前回ジョコ氏に敗れた州のうち4つを奪取。

 

これらの州はいずれもシャリーア(イスラム法)を導入し、人口の97%余りがイスラム教徒であるため、インドネシアで最もイスラム保守色が強いとみなされている。 専門家によると、こうした分断化は今後も解消されそうにない。

 

オーストラリア国立大学の研究員イブ・ウォーバートン氏は「今回の選挙は政治的な分断化の加速をもたらした。もはやジョコ氏とプラボウォ氏が最前線でぶつかり合うことはないので状況は落ち着くかもしれないが、対立の構図は決してなくならない」と述べた。

 

プラボウォ氏を応援したイスラム強硬派の多くは、以前にキリスト教徒のバスキ・ジャカルタ特別州知事がイスラム教を侮辱したとして大規模な抗議デモを起こした人々と重なる。

 

バスキ氏は一時ジョコ氏と緊密な関係にあったものの、ジョコ氏は反イスラムのレッテルを張られるのを嫌って、その後バスキ氏とは距離を置くようになった。さらにジョコ氏は選挙戦で、自身が真のイスラム教徒である点を強調し、国内最大のイスラム穏健派団体NUやイスラム教の有権者にアピールを続けてきた。

 

こうした中でジョコ氏が副大統領候補にNUの指導者マアルフ・アミン氏を選んだことは、逆に世俗派や進歩派には衝撃を与えた。アミン氏は2016年、イスラム教徒がクリスマスの行事に参加するのを禁止する布告(ファトーワ)を出したほか、バスキ氏がイスラム教冒とくで有罪判決を受けるに至る証言を行った。

 

一方でアミン氏の存在は、ジョコ氏が本当にイスラム教徒との約束を守るか疑っていた有権者の不安を和らげる上で効果を発揮した。ジョコ氏のある側近は、これからアミン氏が特に宗教問題や政策において重要な役割を果たすと予想した。

 

かつてイスラム強硬派はインドネシアの政治において小さな存在にすぎなかったが、今ではイスラム擁護戦線(FPI)などを中心に主要政治勢力となり、インドネシアを保守的なイスラム教の国にすることを提唱している。

 

こうした運動への有権者の支持も拡大しており、2017年にピュー・リサーチセンターが実施した調査では、イスラム教徒の72%がシャリーアを国法とすることに賛成した。【4月21日 ロイター】

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【人権侵害批判を受ける、また、イスラム保守強硬派が支持する政敵プラボウォ氏を国防相に】

“ジョコ氏とプラボウォ氏が最前線でぶつかり合うことはないので状況は落ち着くかもしれないが、対立の構図は決してなくならない”との指摘でしたが、実際は、ジョコ大統領は過去には人権侵害の批判もあるプラボウォ氏を閣内にとりこみ与党化する形で“安定政権”樹立を選択しています。

 

しかし「安定」は得られるかもしれませんが、それは「改革」を停滞させ、プラボウォ氏の背後にいるイスラム強硬派の勢いを更に加速させることに他なりません。

 

****大統領選の対敵抜擢で物議、インドネシアの新内閣****

インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は10月23日に大統領2期目(2019年から2024年)を支える内閣の陣容を発表した。10月20日の大統領就任式でジョコ大統領は「2045年までに世界の5経済大国の仲間入りを目指す」として、経済大国への成長を目標に掲げた。

 

その大きな目標への道筋をつける意味からも、まずは閣僚に若手企業人やベテランビジネスマンなどの経済専門家を起用し、経済中心の内閣をアピールしてみせた。

 

人権侵害疑惑の元軍幹部を国防相に

一方で、政治的思惑が絡む人事も見受けられ、国民の不興を買っている。

 

中でも議論を呼んでいるのが、最大野党「グリンドラ」の党首、プラボウォ・スビアント氏の国防相への大抜擢だ。

 

プラボウォ氏は、4月の大統領選をジョコ大統領の対抗馬として戦い、僅差で敗北した後も、選挙管理委員会や選挙監視庁、憲法裁判所などに選挙結果への不満を訴えるなど、最後まで選挙結果に納得しなかった。彼の起用について、ジョコ大統領の支持者がいい感情を抱くはずがない。

 

プラボウォ氏は軍人時代、(中略)、民主化要求がスハルト政権打倒を叫ぶに至ると、プラボウォ氏は、学生運動家や民主化活動家に対する過酷な弾圧を指揮し、さらに1999年に独立の是非を問う住民投票が行われた東ティモールでも以前から独立派への暴力、殺害の指揮をとったとされており、「人権侵害の張本人」と目されている。(中略)

 

またジョコ大統領は、プラボウォ氏以外にも、国軍の元幹部、現職の国家警察長官など治安組織の要人を再任・新任した。

 

そうした布陣を見ると、国内の治安問題、特にIS関係者らによるテロや、学生団体・人権組織による政府批判、さらにパプア地方での騒乱・独立運動などに厳しい姿勢で臨むような体制となっている。

 

そのことから早くも一部地元マスコミからは、「民主化の停滞ないし後退」との手厳しい批判が上がり始めている。(中略)

 

政治力学に配慮せざるを得ない大統領

(中略)これは、政党党首でもなく、警察や軍に強力なネットワークや支持者を持たない「庶民派」ジョコ大統領の「弱み」を補うための布陣でもあり、メガワティ元大統領らの政治エリート、各政党党首の自薦他薦などという政治力学に左右された結果とも言える顔ぶれでもある。(中略)

 

テロや反政府運動、パプア地方での独立運動など、インドネシア情勢は大きく揺れ始めている。

 

「イスラム教徒が圧倒的多数の国でありながら民主化を達成した国」とされてきたインドネシアだが、その評価を維持したまま、経済成長を続けることはできるのか。不安を抱えつつ、「ジョコ・ウィドド丸」は怒涛逆巻く大海へ漕ぎ出したと言える。【10月29日 大塚 智彦氏 JBpress】

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なお、前出【ロイター】にもある、イスラム主義の攻撃対象となって失脚・服役したバスキ・ジャカルタ特別州知事は出所したようです。

 

****宗教侮辱の元知事、復権=収監経て国営企業重役―インドネシア****

インドネシアの首都ジャカルタ特別州のバスキ前知事が25日、国営石油会社プルタミナの筆頭監査役に任命された。バスキ氏はジョコ大統領の盟友だが、イスラム教を侮辱した罪で収監。1月に出所後は目立った活動をしていなかった。大統領の政権基盤強化とイスラム保守勢力の影響力低下を受け、復権した格好だ。

 

バスキ氏は中華系キリスト教徒。ジャカルタ州知事だったジョコ氏を副知事として支え、ジョコ氏の大統領就任で2014年、知事に昇格した。

 

人気はあったが、イスラム教の聖典コーランを引き合いにした発言が問題視された。17年に宗教冒涜(ぼうとく)罪で禁錮2年の判決を受け、知事選も敗れた。【11月25日 時事】 

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上記記事の“イスラム保守勢力の影響力低下”の意味するものは知りません。

プラボウォ氏と関係強化によって、とりあえずはイスラム保守強硬派の表立っての政権批判が収まっているということを指すものでしょうか?

 

だとしても、それは政権自体がイスラム主義に近寄った結果であり、“イスラム保守勢力の影響力低下”というようなものではないようにも思うのですが。

 

【イスラム的価値観を反映する「処女検査」】

インドネシアにおいて、イスラム的価値観と結びついた社会風潮が、いまだに続く「処女検査」という慣行。

 

****まだ続いていたインドネシア軍・警察による処女検査 今や軍将校の婚約者まで拡大?****

<「倫理観や身体検査」の一環とする処女検査に科学的根拠はなく、国際社会から廃止を求められているのに>

 

インドネシアで軍や警察を志望する女性は、今も採用時に「処女検査」を強制されている。

 

廃止を求める国際社会の圧力にもかかわらず、インドネシアの警察は採用予定の女性の「倫理観や身体検査」の一環として、2本の指を膣中に挿入して処女膜の有無を調べる「処女検査」をいまだに実施している、とオーストラリア放送協会(ABC)が10月20日に報じた。

 

世界保健機関(WHO)は2014年、処女検査に科学的根拠はないとの見解を発表。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは、インドネシアのジョコ・ウィドド大統領に対して即時廃止を求める声明を発表した。

 

ABCによれば、ヒューマン・ライツ・ウォッチに寄せられた告発で、身元が分からないようザキアと名乗ったある女性は、今年の警察の採用試験に応募後、処女検査を受けて不採用になった、と語った。

 

「膣だけでなく、肛門にまで指を挿入してきた。検査の間はずっと激痛だった」と彼女は言った。「思い返すたびに泣けて、生きていくのが嫌になる」

面接で自分は処女だと訴えたが、不採用になった。

 

ニュージーランドのオークランド工科大学のシャリン・グラハム・デイビーズ准教授は2015年に発表した報告書で、女性応募者は「見た目」でもふるいにかけられている、と批判した。

 

軍でも横行

処女検査は警察だけでなく、軍の採用試験でも行われている。

 

軍に採用予定のリアンティと名乗る女性は今年8月、香港英字紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストの取材に対し、インドネシア東部パプア州ジャヤプラの軍の仕事に応募したが、男性の衛生兵による処女検査を受けさせられたと語った。

 

「一刻も早く終わってほしかった。人生で最も長く感じた数分間だった。男性に触られた経験が一度もなかったから屈辱的で、ショックだった」と彼女は同紙に語った。

 

ヒューマン・ライツ・ウォッチは2017年の報告書で、処女検査は「性に基づく暴力」であり「無意味なことが広く知られた慣習」と非難した。

 

検査はインドネシア軍の各部署の女性職員の採用で数十年続いており、軍将校の婚約者にまで対象が広がっている、と同団体は指摘する。

 

「軍や警察による侮辱的な処女検査をインドネシア政府が見逃し続けていることは、女性の権利を保護する政治的な意思が恐ろしいほど欠如している証だ」と、女性権利擁護ディレクターを務めるニシャ・バリアは言った。「それらの検査は女性を傷つけ、差別し、平等な就業機会を奪っている」【2018年11月2日 Newsweek】

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“インドネシア軍のモエルドコ将軍は、ジャカルタ・グローブの取材に対して「人の道徳性を判断する他の方法はない。なぜ批判されなければならないのか?」と回答。

また、ガーディアンの取材に対して軍の広報担当者は「処女検査」は不適切な女性を選別する手段であり、「処女でなければそのメンタリティに問題がある」と語っている”【2017年11月29日 HUFFPOST】

 

昨今のイスラム主義的価値観の台頭。ジョコ大統領のイスラムへの“すり寄り”からすれば、こういう慣行はおそらくなくなることはないのでは・・・とも危惧されます。

 

****「非処女」で代表漏れ、インドネシア女性選手の悲劇****

フィリピンのマニラ首都圏周辺一帯のルソン島で11月30日から12日間の予定で東南アジア諸国による国際競技大会「東南アジア競技大会(SEA GAME)」が始まり、各国のアスリートによる熱戦が続いている。(中略)

 

しかしその一方でインドネシアではメダル競争や選手の活躍とは別の話題がニュースとなっている。それは17歳の女子体操選手が大会直前の合宿から強制排除される事件が起きたからである。

 

女子選手の母親などによると強制排除の理由は女子選手が「処女でなかったから」というもの。これは「体操競技とは無関係の選手の極めて個人的なことであり、事実とすれば許されることではない」としてマスコミを中心に強い関心を集め、青年スポーツ省、インドネシア国立スポーツ委員会、体操競技協会や女子選手の出身地の州知事、政府与党関係者まで巻き込んだ論争に発展する事態となっているのだ。

 

「結婚前の性交はタブー」というイスラム教の規範

当該選手を大会選手枠から外した体操競技のコーチは「強制帰国は素行に問題があり、競技への集中力が欠けていたため」として「処女か処女でないか」が理由ではないと主張している。

 

しかし青年スポーツ省は「事実関係を調査してもし処女性が強制排除の理由であれば、人権問題であり放置できない」との立場を示している。

 

女子選手は地元に帰還してから病院での医学的検査を受けた結果「処女である」との診断が下された。

 

だがインドネシア国内ではいまだに「17歳の非処女は国際競技大会に出場する資格がないのか」との主張と、インドネシアの圧倒的多数を占めるイスラム教の「結婚前の性交は禁忌」との規範に照らして「やむを得ない」との考え方が対立。国民の間にイスラム教の規範に基づく考え方が根強いことも示している。

 

過去にはオリンピックでバドミントンや重量挙げでメダルを獲得したこともある東南アジア域内きってのスポーツ大国インドネシアが今、女子選手の「処女性」を巡って揺れ動いているのだ。(中略)

 

圧倒的多数のイスラム教の規範が優先

インドネシアは世界第4位、約2億6000万人の人口のうち88%をイスラム教徒が占める世界で最も多くのイスラム教徒が住む国である。

 

しかしながら宗教、民族、文化、言語などの多様性を認めることで統一国家を維持するため、マレーシアやブルネイなどと異なりイスラム教を国教とは規定しておらず、少数派であるキリスト教、ヒンズー教、仏教なども等しく認めている。

 

しかし、近年イスラム保守派や急進派が圧倒的多数を背景に「イスラム教規範を半ば強制したり、暗黙の優先がまかり通ったりと宗教的少数派には厳しい状況」が生まれつつあるのも事実。

 

インドネシアでは警察や軍隊に入隊を希望する未婚の女子は女医が2本指を膣内に挿入する形での「処女検査」が国際的人権団体やキリスト教組織の強い反対にも関わらず現在も続けられているといわれている。

 

警察官の場合は「法を執行する職務の警察官が未婚で性体験を有するようではその資格がない」というのが処女検査の根拠とされているが、これも婚前交渉を禁忌とみなすイスラム教の影響が深く関係している。

 

国立スポーツ協会、体操協会、青年スポーツ省はいずれも処女が理由の排除をこれまでのところ否定しているが、コーチとのやりとりで実際に何があったのか「詳細な調査を行いたい」としている。

 

しかし当面は841人の大選手団を派遣し56競技中52競技にエントリーして熱戦を繰り広げている大会が開催中であることから「現在はフィリピンでの競技の支援に専念したい」としており、本格的な調査は大会閉幕後になりそうだ。【12月5日 大塚 智彦氏 JBpress】

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