孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ総選挙  与党過半数割れ クルド系政党躍進 戦略見直しを迫られるエルドアン大統領

2015-06-08 23:03:47 | 中東情勢

(得票率で1位となった政党を県別に色分けした地図  
中央内陸部の広いオレンジが与党AKPで、全般に低開発ですが、エルドアン政権期が開発政策を全国に広げることで、過去10年の経済成長の恩恵に浴してきた地域です。 
沿海部の赤色が共和人民党(CHP)で、トルコ内で先行して発展した地域です。
東部の緑色が国民民主主義党(HDP)で、クルド人が多く居住する地域です。
https://twitter.com/trthaber/status/607644048229203968/photo/1
 
エルドアン大統領悲願の実権型大統領制導入は困難に
トルコ・エルドアン大統領が、大統領権限を強化した実権型大統領制導入のための憲法改正への道を開く与党議席数を獲得できるかが注目されていたトルコ総選挙は、クルド系政党の躍進によって与党は過半数割れに追い込まれました。

****<トルコ総選挙>与党過半数割れ 憲法改正、困難に****
7日投票のトルコ総選挙(1院制、定数550、任期4年)は即日開票され、トルコ・アナトリア通信によると、イスラム系与党の公正発展党(AKP)が得票率40.8%(開票率99%)で258議席となり、2002年の政権獲得以来初めて過半数を割ることが確実になった。

第1党は維持するが、実権型大統領制の導入に向けた憲法改正に必要な330議席には遠く及ばなかった。今後、連立交渉が不調に終われば、早期の解散・総選挙となる可能性もある。

 ◇クルド系政党躍進
また、今回の選挙で初めて公認候補を立てた左派系の少数民族クルド系政党、国民民主主義党(HDP)が得票率13.1%で79議席を確保し、選挙前の29議席から大幅に躍進した。

トルコ総選挙では全国平均得票率が10%未満の政党は議席を得られない。このため、クルド系政党は、最近まで、無所属で出馬し、当選後に政党に参加する形を取ってきた。HDPは今回初めて党として選挙戦に臨んだ。

アナトリア通信によると、中道左派で世俗主義の野党、共和人民党(CHP)は得票率25%で132議席を獲得。右派の民族主義者行動党(MHP)は得票率16.3%で81議席を得て、いずれも議席を伸ばした。

トルコのヒュリエット紙によると、AKPを率いるダウトオール首相は選挙結果を受け、「国家の決定は最善のものだ。心配は不要。我々はいかなる力にも屈しない」と語り、求心力低下の可能性を指摘する声に反論した。

一方、HDPのデミルタシュ共同党首は笑顔で勝利演説し、「左派の力を結集した勝利だ」と述べた。

AKPは今後、MHPなどとの連立を模索する可能性がある。トルコのザマン紙によると、MHPの副代表はAKPとの連立について「検討は時期尚早」との表現にとどめた。【6月8日 毎日】
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5月31日ブログ「トルコ クルド系政党の支持拡大で総選挙(6月7日)での苦戦を強いられる与党・エルドアン大統領」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150531)でも触れたように、与党の得票率もさることながら、単独政党の形では初めての選挙となるクルド系政党が議席確保を可能とする“得票率10%”のラインを越えられるかどうかが注目点でした。

結果は13.1%と選挙前予想の上限値あたりまでいったことで、無所属で選挙に臨んだ前回(2011年)より50議席増やし、その分、与党AKPが70議席ほど減らして過半数割れとなりました。

これにより、エルドアン大統領が目指す憲法改正は難しい情勢となりましたが、今後の連立交渉も容易ではなさそうです。

野党第1党の共和人民党(CHP)は、国父ケマル・アタチュルクに由来する中道左派政党ですが、世俗主義を掲げる点で、イスラム主義政党の与党AKP・エルドアン大統領とは宿敵の関係にもあります。

イスラム主義という点では、イスラム的価値観・トルコ民族主義を重視する極右的な野党第2党の民族主義者行動党(MHP)がAKPとは近い位置にあります。

ただ、共和人民党(CHP)にしても民族主義者行動党(MHP)にしても、連立政権には加わらないことを選挙公約としています。

【「トルコの民主主義にも最良の結果」かどうかは、今後の対応次第】
トルコはシリア戦略などで中東の要ともなる地域大国ですが、イスラム色、更には反対派を力で封じ込めるような権威主義的な傾向を加速しているエルドアン大統領に欧米は批判を強めていましたので、今回選挙結果は欧米の期待する形になったとも言えます。

****シリア巡り米も注視****
中東の地域大国トルコの動向は周辺国にも影響を及ぼす。過激派組織「イスラム国」(IS)が台頭したシリア内戦をめぐってトルコとの間で摩擦がある米国は、トルコ総選挙の結果を注視している。

IS打倒を最優先する米国に対し、トルコはシリアのアサド政権崩壊を狙う。トルコは米国が敵視するアルカイダ系組織「ヌスラ戦線」などを支援しているとみられている。ヌスラ戦線は反アサドの立場でシリア内戦を戦っている。

米シンクタンク「中東研究所」のギョヌル・トル氏は「欧米は強いAKPを望んでいない」と分析。選挙でAKP政権が力を増せばヌスラ戦線などを支援する形でシリアへの関与を強め、米国との関係を損ないかねないからだという。

「HDPが議席を取り、AKPの力が弱まるのが欧米が望むシナリオだ。AKPの独裁色を弱め、クルド人も国会に進出する。トルコの民主主義にも最良の結果だ」と語った。【6月7日 朝日】
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しかし、“トルコの民主主義にも最良の結果”かどうかは、それほど単純でもなさそうです。

今回選挙を左右したのはクルド人の投票行動です。

かつて世俗主義政党・共和人民党(CHP)が政権にあった時代は少数派クルド人の権利は著しく制約されていました。

それに対し、AKP・エルドアン政権はクルド人への融和策を進め、その推し進める経済発展の恩恵がクルド人にも及ぶことで、与党AKPはクルド人を票田としてきました。

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・・・・なぜかというと、クルド人の存在を否定し、強く弾圧してきたのは歴代の共和人民党政権だからです。共和人民党政権は、どの選挙でも常にクルド地域では負けています。あからさまなクルド人政党、権利擁護の主張が許されなかった時代も、東南部のクルド人たちは野党に投票するという形で、トルコ民族主義の中央政府・共和人民党に「No」の意志を表明していたのです。

それに対して、エルドアン政権期には、クルド人への権利付与が進み、クルド独立運動の武装勢力との和平も一定程度進みました。これはEU加盟交渉で条件づけられたという外在的要因が強いですが、同時に、選挙で勝ってきた大衆政治家であるエルドアン首相が、票田としてのクルド人に目をつけたという要因もあります。

クルド人地域はアナトリア半島の内陸部・黒海沿岸地域と、低開発という点では共通しています。民族紛争に対する掃討作戦といった政策を別にすれば、アナトリアの底辺を底上げして新興中間層に押し上げるというエルドアン政権の推進した経済開発政策は、クルド人地域にとっても大きな恩恵をもたらすものです。

それによって、エルドアン政権期のAKPはクルド地域でも与党化を進めてきたのです。(後略)【池内恵氏 「中東・イスラーム学の風姿花伝」http://ikeuchisatoshi.com/i-1173/
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与党AKPの票田であったクルド人が今回選挙で与党から離反し、独自の政党を押し立てて高得票率を実現しえたのは、前回ブログで取り上げたように、イスラム過激派ISに包囲されたシリアのクルド人居住地域コバニ(トルコ国境線のすぐ近く)の戦闘で、エルドアン大統領が救出・支援に動かず「クルド人を見捨てた」とクルド人を失望させたことによります。

長年トルコ国内で分離独立を目指してテロ活動を行ってきたクルディスタン労働者党(PKK)の存在は、トルコ国内の非常に敏感な問題でもありますが、コバニを実効支配していたクルド人勢力がPKKと支援関係にあったことで、エルドアン大統領が「クルド人を見捨てた」ことにもなりました。

また、もともとエルドアン政権は、シリアでアサド政権と戦うイスラム過激派に融和的、あるいは武器支援するような関係にもありました。

与党AKP以外でみると、共和人民党(CHP)は長年クルド人の権利を抑圧してきた政党であり、トルコ民族主義を掲げる民族主義者行動党(MHP)もクルド人とは相いれません。

左派系の少数民族クルド系政党、国民民主主義党(HDP)が今回大量議席を獲得したことで、クルド人問題が議会内外で先鋭化することも考えられます。

今後どのように展開するかは、AKP・エルドアン大統領が、議席を奪ったクルド人勢力に敵対的な対応で臨むか、あるいは、宥和策を講じて再度その票の取り込みを図るか・・・によります。

従来のイスラム主義対世俗主義の対立、強権的姿勢への抵抗に加えて、クルド人問題も先鋭化するとなると、社会混乱にもつながります。

改革派としてのエルドアン政権の基本性格
かつて「アラブの春」が始まった頃は、“イスラム民主主義”のモデルケースとして脚光も浴びたエルドアン政権ですが、ここ1~2年は、もっぱらその強権的な政治姿勢への国内外の批判と、イスラム過激派対策での欧米との不協和音ばかりが目立つようになりました。

ただ、国内的な支持は依然根強く、そのイスラム色の強い姿勢が「敬虔なイスラム教徒の支持を集めている」とも評されています。

しかし、エルドアン政権への根強い支持が、単に「敬虔なイスラム教徒の支持」だけでないことは、前出【池内恵氏 「中東・イスラーム学の風姿花伝」http://ikeuchisatoshi.com/i-1173/】が詳しく指摘しています。

軍や財閥などエリート層が欧化主義・世俗主義で開発独裁的に経済を牽引し、その恩恵を受けた既得権益層が共和人民党(CHP)の支持基盤となっているのに対し、“エルドアン率いる公正発展党がさらに次の段階の発展をもたらし、新たな中間層を出現させた”としています。

“アナトリア半島から続々上京してイスタンブール周辺に住み着いて経済機会を狙い、子弟に教育を受けさせているような新興中間層が、エルドアンとAKPの元々の支持基盤なのです。彼らに支持されて政権につき、彼らが豊かになるような政策を力強く実施し、実際に経済発展をもたらしたから、エルドアンは支持されているのです。”【同上】

既存の政治・経済体制を打破する形で、国民から広い支持を集め、既得権益層と厳しく対立したという点では、タイのタクシン元首相にも似たものがあります。

タクシン元首相は、それまでの政治・経済の枠外に置かれていた農民や貧困層に焦点をあてることで支持を拡大し、そのことが既得権益層の激しい反発・恐れを招きました。

ただ、タイの場合は、バンコクなどの都市部中間層は、タクシン元首相の金権体質や農民・貧困層重視政策を嫌って既得権益層側についています。

また、トルコのクルド人と同様に、タイにも深南部イスラム教徒という少数派が存在しますが、エルドアン政権がクルド宥和策でクルド人の支持を広げたのに対し、タクシン元首相は深南部イスラム教徒を厳しく弾圧し、彼らを反タクシン勢力に追いやっています。

新興中間層からの支持を集め、クルド人における支持も広げる・・・というエルドアン政権でしたが、政治経済的な階層間の対立には、イスラム主義対世俗主義という理念の違い基づく対立も重なってきます。(タイの場合は、そういう絶対的な差異として、既得権益層側はタクシン元首相に王室軽視のレッテルを貼ろうとしているようにも思われます)

【「民主主義はバスのようなもの。目的地に着いたら降りればいい」】
一方、新興中間層と既得権益層の対立、経済成長の鈍化のなかで、エルドアン大統領の強権的姿勢が強まっているのも事実です。

“もともとは改革派の庶民の政党だったAKPが、長期政権化して党指導部はエリート化して汚職にまみれています。旧来型エリートによるクーデタなど超法規的な政権転覆の陰謀を恐れるあまり、過度に対決的な姿勢で臨みメディア規制などもしています。

その背景にある国論の分裂は、上記に記したような政治経済的な階層差を背景にしているだけに、解消が困難です。そしてこの国論の分裂を、エルドアンが大統領となればいっそう煽り対決姿勢を強めるのでは、という危惧の念にはもっともという面もあります。”【同上】

****本当の敗者はエルドアン(大統領)だ」 トルコ総選挙で敗れた与党 強権手法に高まる不満****
「本当の敗者はエルドアン(大統領)だ」。第2党の共和人民党(CHP)幹部は7日夜、こう断じた。

与党・公正発展党(AKP)の創設者であるエルドアン氏は2003年、補欠選挙で当選してすぐに首相に就任して以降、選挙では連戦連勝を続けてきた。

首相在任中は国際通貨基金(IMF)主導の構造改革路線を前政権から引き継いで経済の安定化を実現。その成果を都市部に比べて開発が遅れていた地方部に手厚く分配し、支持基盤を強固なものとしてきた。

その一方でエルドアン氏は、自身に批判的なメディアへの統制を強めるなど強権的な手法を多用し、AKPと財界の癒着や汚職をめぐる疑惑も後を絶たなかった。政敵を排除するなどしてAKP内で絶対権力を確立した同氏は、オスマン帝国時代の王になぞらえて“スルタン”と呼ばれた。

「民主主義はバスのようなもの。目的地に着いたら降りればいい」
エルドアン氏はかつて、ヨルダンのアブドラ国王にこう語ったと伝えられたことがある。民主主義は権力掌握の手段としかみなしていないとも受け取れる発言だ。

AKPが今回総選挙で大統領権限の強化に向けて改憲を主張したことは、野党や反AKPを支持する市民には「危険な野望」と映ったようだ。

総選挙では、内戦下のシリアに接する南部でAKPが大きく票を減らした。シリア反体制派を支援し、170万人超の難民を受け入れてきたエルドアン氏の対シリア政策への不満が強いことも明らかとなった。

AKPの過半数割れで、改憲論議がひとまず頓挫したことは間違いない。昨年、大統領となったばかりのエルドアン氏がレームダック(死に体)に陥るとの見方さえある。

最大都市イスタンブールでは7日夜、反AKP派の市民らが花火を打ち上げるなどして同党の過半数割れを祝った。

一方で、どのような組み合わせになっても、イデオロギーや民族的な支持基盤が異なる各党が連立を維持するのは困難とみられる。

政治が不安定化すれば、それを是正するとの名目でエルドアン氏が早期の解散・総選挙に動くとの観測もあり、手負いの“スルタン”の闘争は今後も続く可能性が高い。【6月8日 産経】
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「民主主義はバスのようなもの。目的地に着いたら降りればいい」・・・・発言の真意はどのようなものだったのでしょうか?

もし本当にそのような発言をしたのであれば、いかなる真意にせよ、民主主義国のリーダーとしてはその資質を問われてもやむを得ません。

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