孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「貧者の兵器」ドローンが秘める紛争の形を変える可能性 ドローン対応で「超後進国」日本

2019-09-29 22:39:28 | 国際情勢

(中国の戦闘用水陸両用ドローン「ウミイグアナ」【9月29日 GLOBE+】)

 

【サウジ石油施設攻撃で明らかになった「貧者の兵器」ドローンの有用性】

イランだか、イエメン・フーシ派だか、あるいはそれ以外の者によるもだかはわかりませんが、サウジアラビアの石油施設が攻撃を受けた件は、アメリカとイランの核合意をめぐる対立あるいは交渉に多大な影響をもたらし、両国関係の行方は混迷を極めています。

 

そうした国際政治に与えたインパクトもさることながら、この攻撃は軍事技術でのインパクトもあったようです。

 

****サウジ石油施設攻撃で判った爆撃用ドローンの破壊力****

9月14日未明に、サウジアラムコ(国営石油会社)のアブカイクとクライスの施設計19カ所が爆撃され、サウジアラビアはパニックに陥った。

 

この事件は、日本では「よくある政情不安の中東の一事件」として、簡単に報じられた。だが私は、もしかしたら歴史に残る「大事」になるかもしれないと、心底懸念している。

 

「米国かサウジがイランを攻撃してきたら全面戦争しかない」

事件直後、イランがバックアップするイエメンのフーシ派が犯行声明を発表した。ところが、サウジアラビア国防省は9月18日、イランの巡航ミサイル7機とドローン18機による犯行だったと主張。

 

急遽、サウジアラビアを訪問したマイク・ポンペオ米国務長官も同日、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子と会談後、「イランの犯行」と断定した。

 

これに対し19日、イランのジャバド・ザリフ外相は、米CNNに出演し、「事件には一切加担していない」と完全否定。「アメリカかサウジアラビアがイランを攻撃した場合は、全面戦争となる他はない」と警告した。(中略)

 

私がこの事件で注視したのは、果たしてイランの犯行か、そうではないかという部分ではない。それとはまったく異なる二つのことである。

 

1万5000ドルの兵器が最新鋭パトリオットの防空網をやすやすと突破した事実

第一は、「真犯人」さえ分からない弱小の武器によって、今年年末に日本からバトンタッチされてG20(主要国・地域)の議長国になるような国家を揺るがすことが可能になったという事実である。

 

CNNを見ていたら、専門家の解説で、1万5000ドルくらいあれば、あの程度のドローン兵器は作れてしまうと言っていた。

 

2017年5月、就任して4カ月後、トランプ大統領は初の外遊先に、サウジアラビアを選んだ。それは同国が、2カ国間の武器売買契約としては史上最高額の計1100億ドルもの武器を、アメリカに発注してくれたからだ。ムハンマド皇太子とがっちり握手を交わしたトランプ大統領は、「アメリカはサウジアラビアと共にある」と、得意満面で述べた。

 

これによって、サウジアラビアは88基のパトリオット・ミサイルを配備した。うち52基が最新型だった。

 

ところが、わずか1万5000ドルの武器が、1100億ドルの備えをする国を、いとも簡単に突き破ってしまったのである。これこそまさに、人類の戦争史に残る「兵器革命」ではないか。しかも、「真犯人」がどこの国の誰かも知れない「匿名性」を保っているので、攻撃する側としては、報復されるリスクも減らせる。

 

今後、似たような犯行が次々に起こるリスクを、世界中が覚悟しておかねばならないだろう。

 

2020年東京五輪の警備は万全なのか

例えば、日本の安倍晋三政権を嫌悪する「個人」もしくは「グループ」がいたとする。その個人もしくはグループは、日本人であっても外国人であっても構わない。

 

その個人もしくはグループが、どこかから「ドローン爆弾」を飛ばして、東京永田町の首相官邸を狙ったらどうなるだろうか? もしくは、今回のように18機も同時に飛ばしたなら、東京の主要拠点は軒並み狙えてしまう。しかも、犯人はA国だかB国だかC氏だか、分からないのだ。

 

そんな事態が起こったら、日本がアメリカから買った高価な防衛ミサイル「PAC3」など無力だ。秋田と山口に配備する、しないと言って揉めている3000億円もの「イージス・アショア」も同様だ。

 

つまり、世界の安全保障は、これまでとはまったく異なるステージに入ったのである。今後、AI(人工知能)が発達していけば、「ドローン爆弾」は、ますますスピードと飛距離、そして精度を増すだろうから、ほとんど防御不能になっていく。

 

極言すれば、「悪意のある個人」が、日本の中枢に壊滅的打撃を与えることができる時代の到来である。かつ、その悪者は逮捕されないかもしれないので、その気になれば何度だって犯行を重ねられる。差し当たっては、来年夏の東京五輪の警備を、根本から変えねばならなくなるかもしれない。

 

この事件で私が思った二つ目は、中東の混乱は今後、ますます混迷の度合いを深めていくだろうということだ。そしてそれによって、日本は間接的に苦境に陥るかもしれないということだ。(中略)

 

だが、国連総会を舞台にしたアメリカとイランの「バトル合戦」は、何の成果も生み出さないだろう。国連総会で本当に話し合うべきは、「核の脅威」と同様、「ドローンの脅威」をいかになくすかということだ。【9月22日 近藤 大介氏 JBpress】

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下記記事も、ドローンのもたらす軍事的「厄介さ」「脅威」を同様に指摘しています。

 

****ドローン攻撃はパンドラの箱? 対応は厄介、「開戦の口実」にも****

(中略)小型のドローンでもGPSを使い、片道飛行なら数百キロの飛行が可能だ。低空飛行する小さい物体はレーダーで探知しにくく、対空ミサイルや戦闘機で撃墜は困難、夜間なら機関銃も役に立たない。

 

搭載する爆弾は小さいが、弾薬庫や石油タンクなどに命中すれば被害は大きく、ゲリラと戦う正規軍には悩みのタネだ。

一方、大国側は無人機を撃墜されても人的損害はないから、他国の領空や境界付近で偵察を行い、撃墜されれば開戦の口実にすることも起こりうる。

 

厄介な武器である軍用ドローン開発を先導したイスラエルと米国は、パンドラの箱を開けた形だ。【9月25日 田岡俊次氏 AERAdot.】
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特に注目されるのは、「貧者の兵器」とも呼ばれる「格安」のドローンが、巨額の費用で構築されるミサイル防衛網を突破したことです。

 

これによって、今後の戦争の形が変わることもありえます。

 

****「貧者の兵器」、変える紛争 サウジ攻撃2週間****

(中略)費用の安さから「貧者の兵器」と呼ばれるこのドローンが紛争の形を変えつつある。

 

(中略)ピーター・ブルックス元米国防次官補代理は、「精密誘導のために衛星からの信号を受ける装置などを搭載していた可能性がある」と指摘する。

 

イエメンの反政府武装組織フーシが「10機のドローンで攻撃した」との声明を発表。だが、米国は攻撃を受けた方角などからイエメンではなく、イラン方向からの攻撃と主張している。

 

 ■イラン製、高性能

英NGO「ドローン・ウォーズ・UK」が公表した昨年の報告書によると、ドローンは米国とイスラエルが2000年代初頭から10年以上、開発で独走してきた。

 

それが今、中国やイランなどの国家のほか、フーシといった非国家勢力が「第2世代」として登場している。

 

イランは、12年に初めてミサイルを搭載できる軍用ドローンの存在が明らかになり、翌年には量産を開始。フーシなど複数の武装組織がイラン製ドローンを手にしたという。

 

主力機種の翼長は5メートルほどとみられる。北海道大学の鈴木一人教授によると、イランの軍用ドローンは10年代に飛躍的に性能が向上。1千キロ以上離れたイエメンからの攻撃も、「最新のイラン製ならば技術的に不可能ではない」と言う。

 

また、鈴木教授は「イランが自国開発のモデルにしたのは米国の技術だ」と指摘。01年に始まったアフガン戦争で、イランは墜落した米国のドローンを回収して技術を採り入れたという。

 

一方、精密攻撃のためには通信衛星が必要だが、イランは自前の衛星を持っていない。仮にイランやフーシの犯行ならば他国の衛星を使った可能性がある。

 

鈴木教授はドローンの機体に飛行経路のデータが保存されている可能性はあるとしつつ、「残骸を見る限りではデータを回収するのは難しそうだ」と指摘する。

 

 ■小型、防衛は困難

ドローンにはパイロットはおらず、厳しい訓練は必要ない。小型の機体ならコストも低い一方、これを防ぐのは容易ではない。

 

ロイター通信などによると、安価なドローンであれば1機1千ドル(約11万円)程度だが、迎撃のためにパトリオットミサイルを1発使えば、約300万ドル(約3億2千万円)がかかる。

 

サウジはこれまで、巨費を投じて米国などから防空システムを導入し、フーシが発射した弾道ミサイルドローンを撃ち落としてきた。だが、石油施設への攻撃を許したことで、防空態勢の再構築が喫緊の課題となった。

 

サウジの防空システムは主に高高度から高速で落ちてくる弾道ミサイルの迎撃を想定。だが、今回使われたとされるドローンや巡航ミサイルは比較的に低空低速で飛行するなどの特徴があり、レーダー検知が難しい側面がある。

 

米軍制服組トップのダンフォード統合参謀本部議長は、「今回のような脅威は一つのシステムだけでは防げない。重層的な防衛能力があれば、多くの無人機が飛来するリスクを減らせる」と指摘した。【9月29日 朝日】

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【イエメンはすでに「ドローン戦争」へ】

ちなみに、イエメン・フーシ派がドローンを使うのは今に始まった話ではなく、最近はドローン攻撃に重点を置くようになっており、イエメンの紛争はすでに「ドローン戦争」の様相を呈していました。

 

****「ドローン戦争」本格化、中東の武装勢力が能力拡大****

容易に入手できるテクノロジーにより、米国とペルシャ湾岸地域の同盟国は新たな危機に直面している。

イエメンの反政府武装勢力「フーシ派」が攻撃に使用している軍用ドローンは、米国や同盟国が公式に認めているよりはるかに精度が高く、到達範囲が広いことが関係者の話で分かった。

 

昨年7月、サウジアラビアの首都リヤド郊外にある国営石油会社サウジアラムコの石油精製所がフーシ派のドローンによる攻撃を受けた。同社幹部と湾岸国の政府関係者が明らかにした。

 

また関係者によると、同じ月にフーシ派のドローンがアラブ首長国連邦(UAE)の防衛システムをかいくぐり、アブダビの国際空港で爆発した。(中略)

 

サウジ政府の推計では、サウジが撃退したフーシ派のドローン攻撃はこれまでに140回を超える。フーシ派は当初はプロペラ駆動式の偵察用小型ドローンを飛ばしていたが、すぐにより大型の飛行機型ドローンを使うようになった(国連調査団はこの大型モデルにUAV-Xという呼称をつけた)。

 

国連によると、大型ドローンは時速150マイル(約241キロ)で900マイル以上の飛行が可能だ。サウジとUAEの首都を含む湾岸地域のほとんどが到達範囲に入る。

 

フーシ派のドローンが急速に進歩したことについて、サウジ政府関係者とトランプ政権はイランの関与を主張している。ただ一部の米政府関係者は直接的な支援については疑問を呈している。イランはこれらの疑惑を否定している。(中略)

 

政府関係者やアナリストによると、簡単に武器に転用できる市販のドローンテクノロジーは対策が難しく、世界各地の紛争を一変させる可能性を秘めている潜在力があることをこれらのドローン攻撃が示しているという。(中略)

 

国連の調査官によると、フーシ派のドローンの内部には米国や中国、ドイツ、日本で製造されたモーターが発見されている。(中略)

 

ドローン攻撃が増加する一方で、フーシ派による弾道ミサイル攻撃が成功する回数は減りつつある。(中略)サウジ政府関係者によると、最近ではミサイルよりドローンを撃墜することが多いという。

 

米国はサウジやUAE、オマーンと緊密に連携して弾道ミサイル密輸ルートの封鎖に動いており、比較的安価で市販の部品で作れるドローンはフーシ派にとってミサイルに代わる兵器となっている。(後略)【5月6日 WSJ】

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今回事件の直近では、8月17日にフーシ派がサウジアラビア東部の油田に対してドローン攻撃を行い、油田内の天然ガス施設が出火しています。

 

同油田はフーシ派が掌握するイエメン北西部の地域から1000キロ以上離れており、アラブ首長国連邦(UAE)との国境に近いとのこと。

 

これらを考えると、「フーシ派に今回のような大規模・精密な攻撃は行えない」とも一概には言えないようにも思われます。

 

【ドローン先進国の中国 「超後進国」の日本】

ドローンが戦争の形をかえようとしている今、日本の対応は?と言えば、「超後進国」と非常に遅れているようです。

 

****サウジ石油施設攻撃で注目集める軍事ドローン 突出する中国、日本は「超後進国」****

(中略)

ドローン先進国の中国

(中略)攻撃主体がフーシであれイランであれ、兵器としては安価といえるドローンは、アメリカ軍や高額なアメリカ製装備で身を固めた同盟国への非対称戦で極めて有効なことが今回、示された。(中略)

 

ドローンは軍用のみならず、民間機部門でも輸出産業として極めて有望なため、中国では官民挙げて膨大な数の企業体(多くがベンチャー企業)が各種開発に取り組んでいる。ドローンメーカーの数ではアメリカをしのぎ、今や軍用ドローンの種類や生産量では世界一と考えて差し支えない。

 

中国軍が保有するドローンに関する正確なデータは明らかにされていないものの、これまでのところ米軍情報機関などが発表しているだけでも中国軍が採用したドローンは、固定翼機とヘリコプターを含めて20種類前後に上る。うち、8種類は既に運用中で、確認されているだけでも1000機以上は実戦配備されているもようだ。中には、中国空軍ならびに中国海軍のドローン運用数はすでに6000機を超えていると分析する専門家もいるほどだ。

 

水陸両用の無人装甲車も

中国軍は無人潜水艇や無人水上艦などの開発も着実に進めている。さらには、かつてアメリカ海兵隊などでもアイデアが出たものの実現には至らなかった無人水陸両用装甲車まで手にしつつある。(中略)

 

信じられないほど遅れている日本

中国軍は膨大な数の無人航空機の生産・配備を進め、様々な分野でドローンの導入を進める。そうした各種無人兵器の戦力化の一方で、陸軍将校を中心に30万人もの人員削減を達成しているのである。

 

アメリカやNATO諸国でも軍事組織での大規模な人員削減はやむを得ない趨勢となっている。空軍、海軍、陸軍でも各種ドローンを導入して、人員は縮小させても戦力はむしろ強化させようと努力している。

 

このような国際的軍事常識に照らすと、少子化が進む日本では世界に先駆け、各種ドローン兵器によって防衛力の強化を推進しなければならないことになる。

 

ところが、このような軍事常識に背を向け、中国軍と対極にあるのが自衛隊なのだ。

 

たとえばドローン分野においては、陸上自衛隊はFFOS、FFRSと呼ばれる無人偵察機(ヘリコプター)ならびにJUXS−S1という小型固定翼機を運用しているが、中国軍やフーシのものと比べると「おもちゃのラジコン」程度のレベルの代物である。

 

米軍頼みの防衛省・自衛隊は、無人航空機の開発調達に関心を示さなかったため、軍用ドローンと呼べる代物を装備していないという、世界でも稀な軍事組織となってしまったのである。

 

無人掃海艇(機雷を除去する無人機)を除く無人水中艦艇や無人水上艦艇それに無人車両の分野でも、自衛隊は何も保有していない。要するに、ドローン戦力では自衛隊は、中国軍はもとより数多くの国々の軍隊とは比較することができないほど立ち遅れているのが現実なのである。【9月29日 GLOBE+】

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中国は、ドローン輸出も拡大させています。

 

****兵器も安くて高性能…中国製の軍事用ドローンが欧州進出****

中国の軍事用ドローンが、ヨーロッパに到着予定だ。セルビア軍は準備ができ次第、成都飛機工業公司のドローン兵器、翼竜1を9機受け取る。(中略)

 

中国は、安くて性能のよい無人戦闘システムを構築していて、中東、中央および南アジアの一部、そして今やヨーロッパにおいても注目を集めている。(中略)

 

すでに、多くの国、特に、厳しい輸出制限の関係でアメリカからこのテクノロジーを入手するのに苦労している国々が、中国のドローンを購入している。

 

中国は中東で多くのドローンを販売してきた。翼竜だけでなく、生産者が「世界で最も人気のある軍事ドローン」と呼ぶ、彩虹(Rainbow)シリーズといったモデルも含まれる。

 

無人機システムの輸出は、たとえ中国のドローンがアメリカのシステムと同等ではなく単に似ているだけの物だとしても、世界兵器市場での存在感を高めて、おそらく他のさまざまな軍事的な取引や防衛協定を生み出し、そしてさらなる世界的影響力の可能性への扉を開くだろう。

 

中国の国営メディアによると、中国はすでに、開発中のステルス・ドローンの輸出に意欲を見せているという。【9月15日 BUSINESS INSIDER】

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