孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナへのロシア介入  ロシア・ウクライナの得るもの、失うもの

2014-03-04 23:31:50 | 欧州情勢

(クリミア半島のシンフェロポリに展開するロシア軍とみられる識別を明示していない兵士 “”より By World Armies http://www.flickr.com/photos/46146685@N04/12885297564/in/photolist-kCCw3Q-kDqUFe-kDrGki)

ロシア “静かな制圧”を進める
ウクライナの親ロシア派ヤヌコビッチ政権の崩壊も想定外の急展開でしたが、それに続くクリミア半島へのロシア介入・制圧も瞬く間の出来事でした。

“米政府によると、プーチン露政権は、重装備した約6000人のロシア軍空挺(くうてい)部隊と海軍兵力をクリミア半島に派遣。オバマ政権高官は2日、「ロシア軍はクリミア半島を完全に影響下に置いた。事実上の占領状態にあるのは疑う余地がなく、占領に向けた準備を整えつつある」との分析を明らかにした。だが、米国は軍事介入については検討していないとした。”【3月3日 毎日】

政治的にもロシアへの帰属意識が強い親ロシア勢力が自治政府を掌握し、ロシア帰属を目指す多数派のロシア系住民とクリミア半島を支配下に取り戻したいロシア政府の意図が合致する形で、軍事・政治の共同歩調で“親ロシア勢力による半島支配の枠組み作りがほぼ確立”【3月3日 毎日】した状況です。

当然ながらウクライナは、クリミア半島のロシアによる制圧、東部ウクライナにもロシアの圧力が及ぶ事態に、祖国防衛の感情が高ぶっています。

****白昼堂々の侵略」=ロシアを強く批判―駐日ウクライナ大使****
「もし日本にロシア軍が入ってきて同じ目に遭ったらどうか、考えてみてほしい」。ハルチェンコ駐日ウクライナ大使は4日、東京都内の大使館で記者会見し「白昼堂々の侵略が行われている」と南部クリミア半島を占拠するロシアを強く批判した。

「やつらは侵略者、われわれは犠牲者」と訴える大使は、緊迫する本国の情勢を受け、すっかり疲れた様子。時折厳しい言葉でロシアのプーチン大統領を批判したが、すぐに「感情的になり申し訳ない」と何度も言葉を詰まらせた。【3月4日 時事】 
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****ウクライナ情勢 露の“侵略”に怒りと恐怖「プーチンは地獄の扉開く****
ウクライナの首都キエフは3日夜、ロシア軍が南部のクリミア半島で、ウクライナ軍に降伏するよう最後通告したとの報道を受け、怒りと恐怖、不安が交錯した。

「ロシアの侵略者たちは必ずや後悔する」「プーチン(露大統領)は地獄への扉を開くだろう」。ウクライナ暫定政権と国民は、ロシアの“侵略”に徹底抗戦する姿勢で団結した。

「ウクライナがクリミアを手放すことはない」
ウクライナ暫定政権のヤツェニュク首相は3日、キエフでの記者会見で、ロシア側が事実上、掌握しているクリミア半島を手放さないことを明確に示した。

キエフのウクライナ国防省には、若者から中高年まで、志願兵の登録に続々と押しかけている。ロシア系住民が多い南部や東部でも志願者が後を絶たず、「これほどの愛国的な雰囲気はかつてない」(国防省報道官)という。

キエフ大学の女子大生、アリョーナさん(20)は「クリミアはウクライナの領土。母なる大地を守るために戦う」。男子学生のアンドリイさん(23)も「侵略者が勝てた戦争はない。どんなに長く苦しい戦いでもパルチザン(ゲリラ戦)の戦いに持ち込み、必ず勝利する」と述べ、圧倒的な軍事力を持つロシアにも屈服しない姿勢を強調した。

ロシア軍の展開にウクライナでは、正規軍だけでは対応できないとして、有志を募って装備を購入し、市民防衛隊を結成しようという声も上がるなど、一挙に対露防衛の準備が進もうとしている。(後略)【3月4日 産経】
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ただ、激情にかられる形でロシアの挑発に乗って軍事衝突を起こしても、グルジアの二の舞になるだけで、ロシアのクリミア半島占領を既成事実化するだけのように思われます。ウクライナは慎重な対応が必要とされます。

世界の市場動向などを見ると、今すぐにロシアとの軍事衝突になるこ危険は小さいのでは・・・と読んでいるようです。
ロシア側も欧米側が対抗して介入するとは思っていません。

しかし、現在はロシアは圧倒的な武力を背景にクリミア半島内の基地・施設を封じ込め、あるいは取り込んでいく“静かな制圧”を行っていますが、ウクライナ軍との一触即発の緊張状態にあり、偶発的な衝突をきっかけに火の手があがる事態も否定はできません。

日本を含めた欧米では、ロシアの軍事介入は許されないという論調が殆どです。

とは言っても、内情をみると、日本の場合、北方領土問題に関してプーチン大統領との間で解決に向けた糸口をつかみたい思惑がありますので、ロシア批判に前のめりになれない事情があります。秋にはプーチン大統領訪日も控えています。

アメリカは冒頭にもあるように、軍事的にロシアと事を構える考えは論外です。
欧州も、ロシアの圧力を警戒するポーランドやバルト3国など東欧諸国と、ロシアとの関係を破綻させたくないドイツなどとの間では温度差があり、踏み込んだ対応は取りにくい状況です。

ロシア軍事介入の得失
一歩ひいて、ロシアの軍事介入の得失を論じたのが、下記の国末憲人氏の指摘です。

****軍事介入はロシアにとって「得」か「損」か****
ウクライナ情勢が急変を続けている。ロシアの大規模な軍事介入は起きるのか。しばらく膠着状態が続くのか。判断は難しいが、現地3月3日未明までの状況を見る限り、ロシアは介入の準備を整えつつ脅しと挑発を続け、ウクライナ新政権と欧米諸国の出方を見ている段階だ。あわよくば、侵攻なくしてクリミア半島を支配下に置くことも視野に入れているように見える。

ウクライナで親欧米政権を生むきっかけとなった2004年の「オレンジ革命」を教訓とするプーチン政権は、今回強硬手段に訴える可能性が強い。一方で事態を軟着陸に持ち込む道も、まだ残っていると見る。

ウクライナ側が挑発に乗らず、賢明にも国家の統一を保つことができれば、の話であるが。
事態打開の鍵は、意外にウクライナ側が握っているのかも知れない。(後略)【3月4日 フォーサイト】
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国末憲人氏は、ロシアの得失を以下のように論じています。

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「軍事介入によって得られるもの」
①黒海艦隊の拠点を確保できる。
ただし、黒海艦隊の重要性は冷戦時代のイメージに負うところが大きく、現在ではその役割が大きく低下しているともいわれる。
②ロシア外のロシア系住民の期待に応える形で、ロシアの大国としての信頼感を内外に示すことにつながる。
ただし、ロシアがクリミア半島を併合するか、南オセチアや沿ドニエストルなどのような親ロ非承認国家を樹立した場合、相当な反発が予想され、半島内部の内紛につながる可能性もある。

「軍事介入によって失うもの」
①国際社会の信頼 ロシアの孤立は避けられない。
確かに欧米はウクライナを“心中相手”と考えるほどには重視していないが、“これまでロシアが、欧州評議会(CE)や欧州安保協力機構(OSCE)の枠組みで欧州諸国と築いた信頼も、失墜する。欧州の一員として、少なくとも表面上国際法を守ることでロシアが得た「まともな国」のステータスは、小さくない。これを失うことへの批判の声は、ロシア国内でも上がるだろう。”

②ウクライナ国家自体 東部など「親ロ地域」でのロシアへの反発を高め、国全体を親欧米に導く可能性がある。
“ロシアは、クリミア半島というしっぽを手にして、ウクライナという本体を欧米側に差し出す行為を演じている、とも考えられる”【3月4日 フォーサイト より】
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ロシア言い分にも・・・
今回のウクライナ問題を冷静に眺めると、ロシア・プーチン大統領の言い分にも一部理がある部分や、その反応も理解できる部分もあります。

プーチン大統領は4日、記者会見し、武力で権力を掌握したとして、ウクライナ新政権を批判しています。
確かに、ヤヌコビッチ政権を追い込んだのは野党勢力の平和的なデモだけでなく、過激派の暴力的な活動があったからでもあります。

特に、与野党・関係国の交渉で政権側が野党側要求を丸呑みする形で譲歩したにも関わらず、抗議活動が収まらず、結局ヤヌコビッチ氏がキエフを離れる事態に至った経緯は、反政府側が“合意を無視した”ともとれます。

もし、これが逆の立場で、追われた政権が親欧米派であったら、欧米側は“合意を無視し、民主主義を無視した暴力で権力を奪った”と激しく批判するでしょう。

追われたヤヌコビッチ大統領は選挙によって選ばれた代表者であり、抗争の焦点となったロシア接近政策も、最大貿易国がロシアであり、天然ガスもロシアに握られているウクライナの国情からすれば、その妥当性は別にして、一概に否定されるべきものではありません。

もちろん、デモ隊との衝突で多くの犠牲者を出した強硬手段は非難されるべきものでしょうが。

ロシアは介入正当化の根拠して、ロシア系住民の保護と併せて、ヤヌコビッチ前大統領がプーチン大統領に送った「ウクライナ国民保護のため」にロシア軍の展開を要請する書簡をあげています。

ロシア・プーチン大統領のクリミア半島への思いも理解できます。
報じられているように、クリミア半島がウクライナ領となったのは、1954年、ソ連のフルシチョフ党第1書記(当時)が、クリミアの帰属をロシア共和国からウクライナ共和国に変更したことによります。

これについては、「ウクライナ人のニーナ夫人への誕生日プレゼントだった」といった話もありますが、その真偽は別として、当時はソ連邦内の単なる付け替え作業ということで、あまり問題にはなりませんでした。

後にソ連が解体し、ウクライナが独立国となったことで問題が顕在化する訳ですが、1954年当時は想定されていなかったことであり、ロシア側が「クリミアを返せ」と言いたくなるのもわかります。
ウクライナ側の「クリミアはウクライナの領土。母なる大地を守るために戦う」というのは、どうでしょうか?

もちろん、だからと言って軍事介入していい・・・という話ではありませんが。
ただ、「プラハの春」をソ連戦車が踏みつぶしたのとは異なり、クリミア住民の6割を占めるロシア系住民はロシアの介入を歓迎しています。

ウクライナの得失
ロシア軍の圧倒的な軍事的優位性という現実や、上記のような事情も踏まえると、個人的な思いとしては、最終的にはウクライナが“クリミア半島というしっぽ”をロシア側にくれてやる形になってもいいのでは・・・という感もあります。それによってウクライナ本体のアイデンティティが確立できるのなら。

今回のロシア介入がなければ、親欧米派の新政権は、クリミアどころか親ロシア的な東部をまとめることも困難だったのではないでしょうか。東西分裂が危惧されていました。
ロシア介入のおかげで、東部にもロシア警戒感が広がり、結果的にクリミア以外のウクライナの一体性を獲得しつつあるように見えます。

ロシア帰属を求めるロシア系住民が多数を占めるクリミアは、ウクライナにとどまったとしても厄介の種になるだけです。力で抵抗を抑えれば、ウクライナ政権の正統性にも傷がつきます。
原則論で言えば、スコットランドのイギリス独立住民投票のように、最終的に帰属を決めるのは住民の意思です。

更に現実的な話をすれば、ロシアの脅威だけでなく、ウクライナは財政が危機的状況にあるという大問題もあります。ヤツェニュク首相は「国庫はほとんど空っぽの状態だ」と、危機的な財政状況を明かしています。
新政権はEUに支援を期待していますが、EU側にとっても本音としては負担が重い話で、あんまりありがたくないところです。

しかし、ロシア介入という現在の状況に至っては、欧米としてはウクライナの経済危機を救うしかないでしょう。
ロシアに脅かされているウクライナ新政権を経済的に破たんさせる訳にはいきません。
その意味でも、ロシア介入はウクライナとって都合のいい結果にもつながります。

もちろん、クリミアを分離するにしても、約4割を占める非ロシア系住民の権利・生活保護が大前提となります。
クリミア新政府及びその連帯保証人としてのロシアは、非ロシア系住民の扱いについて保証する責務を明確にする必要があります。

クリミア自治政府は、分離を問う住民投票を3月30にも行う予定のようですが、できるならば非ロシア系住民の権利侵害がないか2年間ぐらいは国際機関による監視が行われたのちに、問題なく統治できるようならその時点で分離なり、ロシア帰属なりに・・・という形が望ましいと思われます。

こうした考えは、「領土の問題は国家の基本であり、損得を論じるべきものではなく、その他の問題と同列に扱うことはできない」という考え方からすれば論外ですが、所詮領土はその時の事情・力関係で行ったり来たりしているものです。
そして、本来、帰属を決めるのは住民の意思であるべきです。

また、ロシアの軍事介入を認めるようなことは、暴力的なロシアを増長させることになるとも批判されるでしょうが、南オセチアとアブハジア、あるいはクリミアをロシアが獲得できたとしても、ロシアは「まともな国」のステータスを失うことで、大局的に見れば国際社会において大きな損失を負担することになると思われます。ソチ五輪の成果も完全に消失します。恐れられることはあっても敬意を払われない存在というのは悲しいものです。

別の見方をすれば、南オセチアとアブハジア、あるいはクリミアの問題は、ソ連崩壊・冷戦終結という大変動の微調整ともとれます。多少の揺り戻しはあるでしょう。

ウクライナとしては、最終的にクリミアを失うことになっても・・・という冷静さをもって、落としどころを探る必要があります。

すでにロシアは、軍事的圧力だけでなく、天然ガスなどを使って圧力をかけ始めています。
****ロシア、ガス供給でウクライナに圧力****
ウクライナに軍事介入してクリミア半島を掌握したロシアが、天然ガスの供給でも圧力をかけ始めた。ロシア国営の大手天然ガス会社、ガスプロムの広報担当セルゲイ・クプリヤノフ(Sergey Kupriyanov)氏は3 月1日、ガス代金の債務15億5000万ドル(約1570億円)の支払いを改めてウクライナに要求。

失脚したヤヌコビ ッチ元大統領とロシアのプーチン大統領が昨年12月に合意した格安レートの見直しも示唆した。(後略)【3月4日 ナショナル・ジオグラフィック】
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破綻寸前のウクライナ財政にとっては大問題です。

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