孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾  独立志向の頼氏が民進党総統選予備選挙に出馬の意向 「一つの中国」清算の可能性も

2019-04-16 23:17:00 | 東アジア

(総統選の民進党公認候補を決める党内予備選に立候補を届け出た頼清徳前行政院長(首相)は19日、李登輝元総統の台北市内の自宅を訪れ、総統選に向けて教えを請うた。【320日 フォーカス台湾】

李登輝元総統はもともとは国民党ですが、独立志向を強め、国民党を離れています。中国に対する歯に衣を着せぬ批判でも知られている独立派長老です。現在は96歳。)

 

【台湾をめぐる米中の綱引き】

今も昔も台湾をめぐる問題は国際的な大問題であり続けていますが、近年は米中対立、中国経済の減速に伴う習近平主席の台湾問題への傾斜などの流れの中で、これまで同様の曖昧な「一つの中国政策」が維持できるか危ぶむ声も出ています。

 

****迫りくる台湾をめぐる米中危機****

台湾をめぐる米中の対立は、本欄でも何度も指摘してきた通り、高まる一方である。

こうした事態に懸念を示す、最近の論説、社説の中から、米外交問題評議会のリチャード・ハースによる215日付け論説を中心にご紹介する。同論説の要旨は、以下の通り。

 

米中外交は、米国は「中国は一つであり台湾は中国の一部であるという中国の立場」を認識する(acknowledge)とする、3つのコミュニケ(1972年、1978年、1982年)を基礎としている。

 

1979年の台湾関係法には、米国の台湾へのコミットメントが明記されている。3つのコミュニケと台湾関係法が相まって、米国の「一つの中国政策」の基礎をなしている。

 

この構造は、勝利の方程式となってきた。中国は世界第二の経済大国にまで発展し、台湾も経済発展と民主化を遂げた。米国は、地域の安定、中台双方との緊密な経済関係により利益を得ている。

 

問題は、時間が尽きつつあるのではないかということだ。長年、米国の政策立案者は、台湾が独立その他、中国に受け入れられないことをしないか、懸念してきた。台湾の指導者は理解しているように見える。ただ、彼らは「一国二制度」による統一を拒否している。

 

しかし、今や、安定は米中双方により危機にさらされている。

 

中国経済の鈍化は習近平を脆弱な立場に置き得る。習が、国民の目を経済成長の鈍化から逸らすために外交政策、とりわけ台湾問題を使うことが懸念される。

習は今年1月、台湾併合を目指す考えを繰り返し、そのために武力行使を排除しないと述べた。

 

米国も、過去40年間機能し続けた外交的枠組みを守らないようになってきている。ジョン・ボルトン安全保障担当補佐官は、就任前、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に、「一つの中国政策を見直す時だ」とする論説を寄稿している。トランプも、米大統領(あるいは同当選者)として、1979年以来初めて台湾の総統と直接話をした。

 

最近、5人の共和党上院議員が、ナンシー・ペロシ下院議長に、蔡英文総統を米議会に招くよう求める書簡を送った。そんなことをすれば、米台間の非公式の関係と矛盾し、中国の強い反応を招く。

 

政府内外の多くの米国人が中国に強いメッセージを送ることを望み、そうすることで失われるものはほとんどない、と信じている。

 

この計算が正しいかどうか、全く明確ではない。中国の経済制裁、軍事力行使が行われるような危機が起これば、2300万の台湾人の自治、安全、経済的繁栄が危機に瀕する。中国にとり、台湾危機は米国および多くの近隣諸国との関係を破壊し、中国経済にダメージを与えるだろう。

 

危機により、米国は台湾への支援を求められ、それは新冷戦あるいは中国との紛争に繋がり得る。といって、台湾の自助努力に全て任せるという判断は、米国の信用を損ね、日本の核武装、日米同盟の再考に繋がりかねない。

 

関係者全てにとり、リスクが高くなっている。相手にとって受け入れられないような象徴的な一歩を避けるのが最善だ。現状維持には欠点があるが、一方的な行動、きちんとした解決策の伴わない状況打破の企てよりは、はるかにマシである。

 

(論評)

上記論説でハースが言っていることは、3つのコミュニケと台湾関係法に基づく「一つの中国政策」が40年間機能してきたのだから、今後ともそれに従って各当事者が自制すべきである、ということである。(中略)

 

自制は重要だが、米国の「一つの中国政策」の枠組みが今後も有効であるのかは、検討を要する。中国が台湾を併合する意思は一貫しているが、今や、中国は軍事大国であり、台湾併合のために武力行使を排除しない、と明言している。

 

米中双方が危機を作り出しているというが、やはり中国の責任が重いのではないか。米国が強い態度をとり中国を抑止することの方が「現状維持」に資すると思われる。米国の最近の対中強硬姿勢は止むを得ないと言うべきであろう。(中略)

 

米国の対応で、むしろ最も心配すべき点は、トランプ大統領が、台湾問題が米中の間でカードとなり得ると解釈され得るような発言をしてしまうことであろう。トランプは、そういう不用意な発言をする傾向があるので、注意を要する。【312日 WEDGE

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経済失速から目をそらすために、ことさらに台湾併合をアピールする習近平主席、安易に台湾を「取引」のカードに使うことが懸念されるトランプ大統領・・・・二人の政治指導者のもとで台湾問題の危険性が増しているという状況です。

 

アメリカの台湾支援は、常に中国を刺激する側面があり、上記記事にもある蔡英文総統の米議会招へいも、もし実現すれば中国の激しい反発は避けられないでしょう。

 

また、台湾へのアメリカの軍事支援についても、中国は常々問題視しています。

 

****米国、台湾に軍事訓練提供 中国軍をけん制****

米トランプ政権は15日、台湾軍のパイロットの訓練プログラムなど総額約5億ドル(約560億円)分を台湾に売却することを決め、議会に通知した。台湾海峡で活動を活発化させる中国軍をけん制する狙いがあるとみられる。

 

訓練はF16戦闘機のパイロットが対象で、米西部アリゾナ州の基地で行う。F16関連の装備や修理なども含まれている。

 

米国務省高官は米CNNに対し「台湾が十分な防衛力を維持するためのものだ」と述べた。台湾国防部は16日、「台湾の防衛力強化につながり、米国の決定に感謝する」との声明を出した。

 

中国軍は台湾への軍事的圧力を強めており、3月末には中国軍の戦闘機2機が台湾海峡の中台の中間線を越えて台湾側に侵入。15日も多数の爆撃機などが台湾を周回飛行した。

 

トランプ政権は台湾支援の姿勢を強めており、これまでに計2000億円規模の武器売却を決定している。台湾はF16戦闘機の新型機売却を米側に求めているが、まだ実現していない。【416日 毎日】

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アメリカとしても、中国を刺激しすぎるF16戦闘機の新型機売却までは認めないが、台湾への軍事訓練提供は認める形で中国の最近の台湾周辺での活動活発化をけん制する・・・・という、微妙なバランスを意識した対応です。

 

【中国軍事演習に台湾「ひるまない」、中国「見くびってはならない」】

中国の台湾周辺での軍事演習というけん制に対しては、台湾・蔡英文総が「台湾はひるむことはない」と反発、一方、台湾の反発に対して中国が更に「(中国の意思と能力を)見くびってはならない」と批判・・・と、いつものことながら緊張したやり取りが続いています。

 

****台湾、中国の軍事演習にひるむことない=蔡総統****

台湾の蔡英文総統は16日、中国が今週行った軍事演習について、台湾がひるむことはないと述べた。台北で開催された米台関係に関するフォーラムで記者団に述べた。

中国人民解放軍は、軍艦、爆撃機、偵察機が15日に台湾周辺で「必要な演習」を行ったと発表した。ただ定例の演習だったと説明した。

蔡総統は「われわれの領域に対して一切妥協しない。常に民主主義と自由を堅持する」と述べた。また、米国による台湾への武器売却は台湾空軍の能力強化につながると付け加えた。

台湾の国防部(国防省)は、中国軍の行動を監視するため、15日に軍用機と軍艦を緊急出動させたと発表。中国政府が「台湾海峡の現状を変えようとしている」と非難した。

ポール・ライアン前米下院議長が率いる代表団は、米国と台湾の関係を定めた台湾関係法の成立から40年を迎えるのに合わせて台北を訪問した。フォーラムは台湾の外交部が共催した。

ライアン氏は、米国は台湾に対するいかなる軍事的脅威も懸念事項と考えているとし、非生産的だとして中国に中止を求めた。【416日 ロイター】

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****中国が台湾に警告 「主権守る決意見くびるな」****

中国人民解放軍の軍機などによる台湾周辺の「巡航」を台湾の蔡英文政権が批判したことに対し、中国国務院(政府)台湾事務弁公室は16日に発表した報道官談話で「国家主権と領土を守るわれわれの堅い決意と強靱(きょうじん)な能力を見くびってはならない」と警告した。談話は、蔡政権が「民衆をだまし、機に乗じて両岸(中台)の対立をあおっている」と非難した。

 

中国国防省は15日、東部戦区の艦艇や爆撃機、偵察機などの海空戦力が台湾東方の海域で合同訓練を実施したと発表。「敵」に対して爆撃機や駆逐艦などによる打撃を加える訓練だったとした。

 

一方で訓練について「主権国家の正当で合法的な権利であり、台湾海峡の安定と平和に資する」と主張した。【416日 産経】

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【今後の台湾情勢を左右する民進党内の争い 独立志向の頼氏、総統選出馬の意向】

こうした微妙な台湾をめぐる緊張を大きく左右するのが、来年1月に行われる台湾の次期総統選挙です。

 

昨年11月に行われた統一地方選では、中国に距離を置く与党・民進党が惨敗、中国との協調姿勢を見せる野党・国民党が躍進し、次期総統選挙では国民党による政権奪還の可能性も言及される状況となっています。

 

そうなれば、現在の中台緊張は、中国側のペースで一気に緩和することが予想されます。(そのことは、台湾が中国に飲み込まれる危険性と裏腹ですが)

 

そうした政治状況に、台湾独立派は危機感を強めています。

 

****台湾独立派が中部で反中国集会 総統選に危機感****

台湾の独立を主張する複数のグループが13日、台湾中部の台中市の駅前で中国による統一に反対する集会を開き「中国に抵抗し台湾を守ろう」と訴えた。

 

来年1月の総統選で対中融和路線の野党、国民党が勝利すれば、統一への流れが加速するとの危機感が背景にある。

 

主催者側は「昨年11月の統一地方選後、中国の勢力が台湾に入り込んでいる」「来年の総統選で台湾の主権を守らなければならない」と、中国にのみ込まれることへの警戒を訴えた。

 

統一地方選では台湾独立志向の与党、民主進歩党(民進党)が大敗。台中市でも市長が民進党から国民党に交代した。【413日 共同】

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なお、316日に行われた補欠選挙では、与党・民進党は低迷に一定に歯止めをかけた結果ともなっています。

 

****台湾・与党、党勢低迷に歯止め 立法委員補選***

台湾で(3月)16日、立法委員(国会議員に相当)4議席の補欠選挙が行われた。与党、民主進歩党は改選前の2議席を維持し、昨年11月の統一地方選で惨敗した党勢の低迷に歯止めをかけた。

 

台湾では来年1月の総統選まで選挙がなく、二大政党が前哨戦と位置付けた。

 

民進党は地盤の南部・台南市の選挙区で、総統選への出馬の呼び声がある頼清徳(らい・せいとく)前行政院長(首相)の側近が出馬。党員の女性が予備選を不服として離党して出馬し基盤票の流出が指摘されたが、元台南市長の頼氏が支援し当選を果たした。頼氏自身も総統選への出馬の可能性をつないだ形だ。

 

一方、野党、中国国民党は改選前2議席から1議席減らした。国民党はメディアが注目する高雄市の韓国瑜(かん・こくゆ)市長が応援に入ったが、民進党から議席を奪うことはできなかった。韓氏人気の限界を指摘する声が出そうだ。【316日 産経】

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民進党・蔡英文総統にとって問題なのは、野党・国民党よりは、身内の民進党内における頼清徳(らい・せいとく)前行政院長(首相)の総統選出馬でしょう。

 

過度の中国刺激をさけて台湾独立などには曖昧な姿勢を続けるのに対し、頼清徳氏はストレートな独立志向を隠さず、国民的人気は蔡英文総統を上回っています。

 

その頼清徳氏が総統選に出馬するとなると、予備選挙が実施され、現在の支持率では蔡英文総統は予備選の段階で敗北するということにもなります。

 

****総統選、前行政院長が名乗り 蔡総統と与党指名争い 台湾**** 

台湾で来年1月にも行われる総統選で、与党民進党の前行政院長(首相に相当)、頼清徳(ライチントー)氏(59)が18日、党内の予備選への立候補を届け出た。

 

現職の蔡英文(ツァイインウェン)総統(62)に比べ、頼氏は台湾独立志向が強い。一般党員や有権者の人気は蔡氏を上回るとされ、候補者選びは混迷しそうだ。

 

頼氏は18日、党本部で立候補を届け出た後、報道陣に「台湾を第二の香港、第二のチベットにしてはならない」と、中国の圧力への危機感を訴え、「台湾を守る責任を負う」と、総統選への意欲を語った。

 

頼氏は元医師で、立法委員(国会議員)や南部の台南市長を経て、2017年9月に蔡政権の行政院長に就任。「ポスト蔡氏」の有力候補とみなされてきた。昨年11月の統一地方選で民進党が大敗した責任を取り、今年1月に行政院長を辞任。動向が注目されていた。

 

蔡氏は支持率で野党国民党の候補者にリードを許している。頼氏の立候補の背景には、独立派を中心に党内で残る「蔡氏では中国とも野党とも戦えない」との懸念や不満がある。 

 

民進党は討論会や世論調査などを経て、4月中旬に総統選候補者を決定する。【319日 朝日】

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民進党執行部は蔡氏に一本化する方向で調整を進めてきましたが、頼氏は一歩も引かない構えです。

蔡氏は予備選に敗れれば1期目の任期満了(来年5月)での退任を余儀なくされるため、危機感を強めています。

 

****台湾・与党、予備選混迷 蔡氏VS頼氏 深まる対立****

台湾の与党、民主進歩党で、2020年1月の総統選の候補者を選ぶ党内予備選が混迷を深めている。

 

再選を目指す蔡英文総統(62)と頼(らい)清徳(せいとく)前行政院長(首相に相当)=(59)=の対立が深まり、党の分裂を避けたい党執行部は予備選を今月下旬から5月22日以降に先送りした。話し合いによる候補者の一本化を目指すが、頼氏は反発しており先行きは見通せない。(中略)

 

中台関係の「現状維持」を掲げる蔡氏と異なり、頼氏は「台湾独立」を公言し党の伝統的な支持者の受けが良い。清新な印象もあって世論調査の支持率は蔡氏を上回る。

 

ただ、現在の党執行部は頼氏が3月18日に出馬を突如、表明して以降、蔡氏への配慮と映る行動を繰り返している。蔡氏が同21〜28日に外遊した際には頼氏に選挙運動の自粛を要請。両氏に近い総統府の陳菊秘書長ら5人の調整役を任命し事実上、頼氏の出馬撤回を模索してきた。

 

今月8日に両氏の直接会談が平行線に終わると、蔡氏は翌9日に総統府で臨時の記者会見を開き、「大切なのは誰が予備選に勝つかではなく、どうやって本選に勝つかだ」と主張。08年と12年の総統選は予備選の“後遺症”で敗れたとして、予備選実施に否定的な見方を示した。

 

予備選は世論調査だけで行うため、現状で突入すれば蔡氏が敗れる可能性が高い。蔡氏はその一方で「私は現職。再選を目指すのは総統としての責務だ」と自身は譲らない姿勢を強調している。

 

台湾各紙によると、10日の党会合では、蔡氏の支持派が予備選延期を強硬に主張した。調整役の5人は今後も頼氏の説得を続けるとみられるが、頼氏が応じる気配はない。

 

12日には延期に反発した蔡(さい)明憲(めいけん)元国防部長(国防相)が離党を表明。蔡、頼両氏もお互いに批判を続けており、確執が深まっている。【415日 産経】

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中道的なスタンスが国民支持を失い、与野党ともに、より急進的なスタンスの方が国民に好まれる、結果的に世論が両極に分断されるという現象は、アメリカをはじめとして各国で見られる現象ですが、台湾でも同様のようです。

 

もし、このまま頼氏が引かずに予備選に突入し、蔡氏が敗れるということになれば、来年1月の総統選は、中国との協調を重視する国民党候補と、独立志向を鮮明にする頼氏の争いということにもなります。

 

仮定の上に仮定を重ねた話ですが、そうした総統選で頼氏が勝利すれば、独立志向を鮮明にする台湾・頼氏に対し中国の軍事オプションの可能性も一気に高まる(日本も対応を迫られる)ということにもなります。

 

まずは、民進党内の調整がどうなるかが注目されます。

 

 


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