孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

バングラデシュ総選挙  荒れ模様の展開のなかで、「何らかの方法で」与党勝利の見込み?

2018-12-30 22:55:26 | 南アジア(インド)

(ダッカで遊説中に与党支持者とみられる数十人の集団に襲われ、重傷を負った父親の血まみれの服を手に、「これで公正な選挙といえるか」と糾弾する野党関係者【12月29日 読売】)

【「女帝」の対立】
バングラデシュでは今日30日が総選挙投票日ですが、多くの死傷者を出す荒れ模様の展開になっていることが、連日報じられています。

****与党優位か、衝突で12人死亡=治安一層悪化も―バングラデシュ総選挙****
バングラデシュで30日、総選挙(定数350)の投票が実施された。

有力野党の指導者が収監されたり、支持者が拘束されたりする中で投票日を迎え、与党アワミ連盟(AL)の優位が予想されている。

与党支持者や警察と野党支持者との間で衝突が頻発し、AFP通信によると30日、12人が死亡。11月に選挙実施が決まって以降の死者は少なくとも25人に達した。
 
即日開票され、同日中にも大勢が判明する見通し。地元メディアによると、与党関係者が投票を妨害したという訴えがあり、選管が調査を行う方針。ただ、与党が勝利すれば公正な調査が進むかは不透明だ。投票結果を受け、治安がさらに悪化する懸念もある。【12月30日 時事】 
******************

バングラデシュの政権を交互に担当してきた与党ALと野党BNPの両女性党首は、よく似た経歴・境遇とも言えます。

現首相であるアワミ連盟(AL)のシェイク・ハシナ氏は初代大統領であるシェイク・ムジブル・ラーマンの娘です。一方、野党第一党のバングラデシュ民族主義党(BNP)の党首であり元首相のカレダ・ベグム・ジア氏は、ムジブル・ラーマンの暗殺後に就任した二代目大統領ジアウル・ラーマン氏の妻です。

ハシナ首相の父も、ジア元首相の夫も政治的な非業の死を遂げており、二人の女性リーダーは、それぞれ相手のことを「自分の父親と家族を殺した」、あるいは「自分の夫を暗殺した」と憎みあう犬猿の仲だと言われています。

両者の対立は、「女帝」の対立とも言われています。

二大政党が政権を交互に担当するという“一見民主的な”政治動向にもかかわらず、政争による混乱が収まらないのは、背景に両女性リーダーの間の根深い“私怨”が存在していることもあります。

こうした政治状況を一掃しようと、2007年1月には、軍を後ろ盾とする暫定政府が全権を掌握、政治的混乱を招いてきたハシナ、ジア両氏が汚職容疑で相次いで逮捕され、各政党では党内改革も同時に実施されましたが、有力指導者が現れず、結局、ハシナ、ジア両氏とも釈放されて、「女帝」の対立が再現しています。

ただ、両者の現時点での明暗ははっきりしており、2009年からの長期政権を担い、さらに3期目を目前にしているハシナ氏に対し、ジア氏は資金横領で有罪判決を受けて収監されています。

****ジア元首相に禁錮7年=4000万円を横領―バングラ****
バングラデシュの裁判所は29日、ジア元首相に対して、運営に関与していた慈善団体の資金を横領した罪で禁錮7年を言い渡した。ジア氏は既に今年2月、別の孤児院向けの基金から現金を横領した罪で禁錮5年の判決を受けており、年内に行われる見通しの議会選には出馬できない。
 
判決によると、ジア氏は首相在任中の2001〜06年、同じく有罪判決を受けた側近ら3人と3150万タカ(約4160万円)を横領した。二つの禁錮刑の刑期は統合されて計7年間となるが、ジア氏側は上訴する可能性もある。【10月29日 時事】
*****************

【「(選挙管理員会も味方についている)ALは何らかの方法で議席の70%を取る」との予想も】
選挙予測は、与党側による合法・非合法の厳しい対応・工作によって野党側は十分な選挙活動ができず、与党が勝利する・・・という見方が一般的です。選挙管理委員会も味方についているし・・・・。

ただ、選挙後の混乱も必死とも見られています。

****バングラデシュ総選挙、与党一色で投票始まる****
野党支持者らの相次ぐ逮捕に批判も

バングラデシュで30日午前8時(日本時間同11時)、5年に1度の総選挙(定数350議席)の投票が始まった。選挙戦期間中に野党支持者らの逮捕が相次ぎ、首都ダッカの投票所にはハシナ首相率いる与党アワミ連盟(AL)の支持者ばかりが並んだ。公平性に疑問符が付くなか、ハシナ首相が3期連続で政権を握るとの見方が多い。

バングラデシュの首都ダッカの投票所前には30日、与党候補者のポスターの下、与党支持の有権者らが並んでいた
投票所となったダッカの高校前には、投票開始時点で160人の有権者が列をなしていた。

一時間前から先頭で待ったムスリム・シッダさん(56)は「ALに投票する」と話し、胸に付けたバッジを指さした。ALのシンボルである小舟の印と、この小選挙区の候補者の顔写真が写っていた。後ろに続く人々の多くも同じバッジを胸にし「ALだ」と口をそろえた。

野党連合によると「過去1カ月半で1万5千人以上の野党候補・支持者らが不当に逮捕された」。警察側は暴動容疑などが理由だと、逮捕の正当性を主張する。ALの党関係者は「暴力は与野党双方が総選挙のたびにやる恒例行事だ」として、与党による公権力を用いた一方的な弾圧ではないと強調した。

選挙前のバングラ議会では、ALが8割の議席を握り、一党支配に近い構図だ。最大野党バングラデシュ民族主義党(BNP)などが前回選挙をボイコットしたことが主因だ。

今回はBNPを含め10以上の政党が参加するが、BNPのジア党首が汚職罪で収監されているうえ「野党はポスターの張り出しも許されなかった」(ダッカ在住の野党支持の大学教授)。

ある企業経営者は「公正に投票を実施すれば、BNPが議席の50%を取り、ALは30%にとどまる」と話す。選挙戦期間中の暴力や不当逮捕で「ALは庶民の多くの支持を失った」からだ。ただ「警察だけでなく選挙管理委員会もハシナ首相の側に付いており、ALは何らかの方法で議席の70%を取る」と予想する。

1971年の独立直後に外相や石油相を歴任し、90年代までALに属していたカマル・フセイン氏は、いまは野党連合に加わる。29日にダッカで開いた外国人記者向けの会見で「人々(野党支持者)が投票を妨げられたり、一方的な投票(与党支持)を強要されたりすれば、選挙無効や再選挙の要求など、あらゆる選択肢を視野に入れている」と話した。【12月30日 日経】
*****************

【暴力的な政治風土】
「暴力は与野党双方が総選挙のたびにやる恒例行事だ」・・・・確かに、そういう面があります。

前回2014年1月の選挙では、ボイコットしたBNPなどによって、各地で投票所や車両に放火するなどの暴力的投票妨害がなされ、投票日だけで警察の発砲などによって19人が死亡しています。

選挙に限らず、バングラデシュでは政治活動に暴力が伴うことが多く、野党主導の反政府ゼネストは「ハルタル」と呼ばれる暴力状態になります。

****バングラデシュのホルタル(ハルタル)について*****
(中略)ホルタルと言うのはいわゆる「ゼネラル・ストライキ」に当たる活動で、主にインドやバングラデシュ、スリランカやネパールなど南アジアで行われる政治活動の一環です。

地域ごと呼び名は違いますが(例えばネパールでは「バンダ」と呼ばれる)、目的はたいがい「時の政府に対しての反対活動」を行う事です。

この活動の主な方法は、「商店や学校、オフィスなどの機関の活動を停止せよ」「列車やタクシー、電動式の乗り物の通行を自制せよ」というものです。

これはホルタル賛同者だけでなく、普通の住民にも影響が出ます。

このホルタル宣言に反して、「事業の運営」や「バスなどの運行」を強行すると、ホルタル賛同者から強力な妨害行為を受ける事もしばしばです。

時には「放火」や「投石」などの手段に出るホルタル賛同者もあり、結局ホルタルの賛同者でない者も商店を閉めたり、バスの運行をやめたりする事が多く、結局は大きな範囲でのストライキに拡がってしまいます。

政府事務所や、政党事務所が集積する地域ではシュプレヒコールを上げた行進などが行われ、たびたび警察との衝突も起こります。

渋滞の激しいバングラデシュの首都ダッカでも、この日に限っては道路も交通がほとんどありません。
かといって、車などで動こうとするとホルタル賛同者からの襲撃がある可能性があり、動けない状況です。
もちろん運輸もストップするため、経済人にとっては大きな痛手となる政治活動です。

もともとはイギリス統治下にあったインドでマハトマ・ガンジーがイギリス政府に対して提起した「非暴力・非協力」という静かなる反対運動でしたが、最近では上記に掲げたように「強制的なホルタル賛同」を求められ、決して「非暴力」とは言い難くなってきました。(後略)【国際人材交流機構ホームページ】
******************

ホルタル(ハルタル)は、ALが政権を握っているときはBNPが、BNPが政権を握っているときはALが主導します。

【若者の政府への不満が募っている 「こうした不満が一気に表面化すれば、野党の勝利も」】
こうした政治風土もあって、今回、与党・政権側の選挙工作はし烈なものになっているようですが、そういうものがなければ、与党側は苦戦するのでは・・・とも指摘されています。

であればこそ、政権を維持したい与党側はし烈な工作を行っている、その結果「(警察・選挙管理委員会を味方につける与党)ALは何らかの方法で議席の70%を取る」とみられる状況にもなっています。

****バングラデシュ 経済安定成長も若者ら政権に不満 30日総選挙****
5年間の任期満了に伴うバングラデシュ総選挙(定数350)が30日、投開票される。

2009年から政権を担うハシナ首相の与党・アワミ連盟(AL)は高い経済成長を実現する一方、野党・バングラデシュ民族主義党(BNP)の政治家や支持者を多数拘束するなど強権的な姿勢を強めてきた。

ALが優位とみられるが、BNPは若者を中心に広がる政権への反発を支持拡大につなげたい考えだ。
 
「今は事実上の独裁政権だ。私だっていつ殺されるか、逮捕されるか分からない」。BNP幹部は電話取材に声を潜めた。BNP党首のジア元首相は2月、汚職罪で有罪判決を受け、総選挙に出馬できなかった。BNPによると、12月だけでBNP関係者約2000人が当局に拘束された。
 
ハシナ政権が5月に始めた麻薬「ヤーバー」の撲滅作戦で摘発されたり殺害されたりした容疑者の中に、BNP関係者が多数いたとの指摘もある。
 
バングラでは1990年代から、ALとBNPがほぼ交互に政権を担い、時の与党が野党を締め付ける状況が続いてきた。BNPは14年の前回選を「公平ではない」としてボイコットした。
 
一方、ハシナ政権下では安定した経済成長が実現。16年以降は国内総生産(GDP)の実質成長率が7%を超え、失業率も低下した。

しかし、71年のパキスタンからの独立時の功労者の親族らが公務員採用で優遇される「クオータ制」に対する反発から、今春に大学生による大規模なデモが起きた。高学歴者の失業率が高いとも指摘され、若者の政府への不満が募っている。
 
有権者の10%程度を占めるとされるイスラム保守層の動向も注目される。ALは世俗主義を掲げ、特に16年のダッカテロ事件以降は過激派掃討に力を入れてきた。

だが、ALは近年、BNPの支持層だった保守票を取り込むため、イスラム教宗教学校の学位を公的に認定したり、イスラム団体との連携を強化したりしてきた。
 
地元ジャーナリストは「一定の保守票はALに流れるだろう。だが、選挙目当ての政策が過激主義を広めることにもつながりかねない」と懸念を示す。【12月27日 毎日】
******************

その不満を募らせる若者の動向が選挙結果に大きく影響します。
(本来は、そういう話ですが、「ALは何らかの方法で議席の70%を取る」という状況は、また別次元の話になります。)

****12月30日にバングラデシュ総選挙、行方を占うカギは若者の動向****
バングラデシュ総選挙が12月30日に実施される。バングラデシュは一院制(300議席)の小選挙区制で、前回2014年の際は最大野党バングラデシュ民族主義党(BNP)が選挙をボイコットしたため、今回は10年ぶりに野党が参加する。

政権与党のアワミ連盟(AL)は7%超と好調な経済成長率と国民所得の向上を成果としてアピールし、BNPは民主主義を取り戻すことを掲げている。

特にBNPは、前回選挙で大規模な抗議活動を行ったことにより、多くの死傷者を出した反省から、2018年2月にカレダ・ジア党首が収監された後も、主だった抗議活動はしていない。

そのジア党首は3選挙区で立候補を届け出たが、いずれも選挙管理委員会から却下され、立候補できていない。そのため、BNPは1971年の建国時に憲法草案に携わった、独立時の英雄の1人であるカマル・ホセイン氏を候補者に担ごうとしたが、最終的に同氏は立候補していない。

BNPを中心とする野党連合の求心力が弱まっている一方で、バングラデシュは伝統的に反現職傾向が強いといわれている。

地場の政治アナリストは「地方の農村部に住む多くの貧困層は経済成長の恩恵にあずかっておらず、10年間の政権に飽きており不満が鬱積(うっせき)している」とした上で、「こうした不満が一気に表面化すれば、野党の勝利も十分にあり得る」と指摘する。

また、今回の選挙の行方を占う上で、重要な点が若者の動向だ。全有権者のうち、35歳以下が70%を占めている。こうした中、与党ALは2018年7月末の学生を巻き込んだバス事故による学生運動を受けて、道路交通法を改正した。

また、独立時に貢献した子孫の就職を優遇するクオータ制度の一部について、長らく続いた学生からの批判を受けて廃止した。

さらに、与野党ともに高齢となった党員の公認を取りやめ、新たに若い候補者を擁立することによって若者票の取り込みに注力している。

総選挙の結果は、バングラデシュにおける日本の円借款による大型インフラプロジェクトの計画や進捗にも大きな影響を与える可能性があり、その動向から目が離せない。【12月21日 JETRO】
*******************

“日本の円借款による大型インフラプロジェクトの計画や進捗”には影響するかもしれませんが、越年したロヒンギャ難民の帰還問題にはどうでしょうか?多分、どっちが勝っても、ミャンマー側の対応が変わらないかぎり、大きく進展することはないのでしょう。

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« シリア  米軍撤退発表で、... | トップ | アメリカ経済の先行き FRB議... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

南アジア(インド)」カテゴリの最新記事