孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ軍の対クルド軍事侵攻  存在感を高めるロシア 曖昧なトランプ米政権の対応

2019-10-13 23:05:52 | 中東情勢

(トルコ国境に近いシリア北東部ラスアルアイン付近に集結した親トルコのシリア人民兵の戦車(2019年10月12日撮影)【10月13日 AFP】)

 

(【10月13日 朝日】)

 

【現地勢力を代理人として使う大国】

トランプ大統領の実質的了解を得た形でシリア北部・クルド人勢力支配地域に侵攻したトルコ軍の攻勢が続いており、10万人が避難を余儀なくされています。

 

****トルコ軍、クルド人地域への攻勢強める 国境の町に侵攻****

シリア北東部で越境軍事作戦を展開するトルコ軍は、国際的な非難や米国の制裁警告にもかかわらず、クルド人勢力への攻勢を強めている。

 

11日には、戦略的要所となる国境の町ラスアルアインに侵攻した。

 

トルコ軍とシリアの親トルコ派民兵らは、前夜からクルド人部隊と戦闘を繰り広げた末、ラスアルアインに入ったと、トルコとクルド人勢力双方が明らかにした。

 

ラスアルアインは、トルコが軍事作開始から4日目で初めて掌握したクルド人支配地域の町。トルコ国防省はこれをラスアルアイン陥落と称賛した。

 

一方、現地のクルド人防衛勢力はラスアルアインの陥落を否定。現地のAFP記者も、トルコ側の部隊がラスアルアインに入ったのは事実だが、掌握には至っていないと話している。

 

■トルコ軍が圧倒的に優勢

(中略)シリア人権監視団によると、11日の戦闘におけるSDF側の死者は少なくとも23人。トルコが9日に軍事作戦を開始して以来、クルド人兵士の総死者数は81人となり、クルド側は勢力下にあった27の村を失った。

 

これに対し、トルコの国防省と半国営アナトリア通信によると、同時期のトルコ軍側の死者は4人。

 

■民間人も犠牲に、10万人が避難

トルコ軍による空爆やクルド人勢力の激しい反撃で、国境をはさんだ双方の民間人にも犠牲者が出ている。

 

人権監視団によると、国境のシリア側で民間人少なくとも38人が死亡。またトルコメディアは、クルド人勢力の砲撃によってトルコ側で民間人18人が死亡したと報じた。

 

トルコ政府は、越境軍事作戦の目標は、アラブ系シリア人を主とした親トルコ勢力が管轄する安全地帯をシリア内に設置し、アラブ系シリア難民360万人の一部を再定住させることだと主張。

 

これに対しSDFは、トルコの軍事侵攻の狙いは、クルド人の犠牲の上に地域の民族地図を書き換えることだと反論している。

 

国連によれば、トルコの越境作戦によって、既に10万人が避難を余儀なくされている。【10月13日 AFP】

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上記記事で“トルコ軍とシリアの親トルコ派民兵らは・・・”とあるように、トルコ軍の先兵となっているのがシリアの親トルコ派民兵です。

 

一方、周知のように、クルド人勢力はアメリカのIS掃討作戦でその先兵となっていました。

 

アメリカにしても、トルコにしても、現地勢力を代理にたてた戦いという点では一致しています。

 

*****アラブとクルドの民族対立操る、トルコ侵攻、先兵はシリア反体制派****

トルコ軍がシリア侵攻の「平和の春」作戦に踏み切り、徹底抗戦を叫ぶクルド人勢力との戦闘が激化、民間人の犠牲者も出始めた。侵攻はトランプ米大統領が“青信号”を与えたことが引き金だが、トルコのエルドアン大統領は先兵として配下のシリア反体制派アラブ人を動員、クルド人との民族対立を巧みに操る戦略を実行している。

 

大国の身勝手

(中略)トルコはこれまで16年と18年の2度、シリア北西部への侵攻作戦を行っているが、今回の作戦の狙いは何か。大きく言って2つある。1つは自国の安全保障上の脅威に直結するテロ集団と見なすクルド人勢力を東部国境地域から一掃し、シリア領内に安全保障を確保する「緩衝地帯」を設置することだ。トルコの当初の計画ではその規模は長さ120キロ、幅30キロに及んでいる。

もう1つの狙いは、国内に抱えるシリア難民360万人の帰還場所としてこの「緩衝地帯」を活用するということだ。アナリストによると、トルコは国家財政を圧迫している難民問題を早急に解決したいと考えており、いったん「緩衝地帯」が確保された場合、難民を同地に強制送還する計画ではないかという。

エルドアン大統領は侵攻に批判的な欧州に対し、「トルコに侵略というレッテルを張るなら、シリア難民360万人を送り込む」と逆に恫喝している。欧州連合(EU)とトルコは欧州を目指す難民をトルコが抑止、収容する代わりに補助金を支払うという協定を結んでいる。

注目したいのはエルドアン大統領が侵攻作戦の先兵として、「シリア国民軍」などシリアの反体制派アラブ人民兵を使っている点だ。トルコ人の犠牲を最小限にとどめるため、代理人を活用するという典型的な大国の手口だ。

 

クルド人が米国の支援を受けて過激派組織「イスラム国」(IS)を壊滅させ、シリア北東部の支配を固めたことで、同地域から追われたアラブ人が多く、クルド人に対する民族的な反感も強い。

エルドアン大統領はそうしたアラブ人たちを支配下に収めて武器を与え、訓練し、民族感情の対立をうまく利用してクルド人との戦闘の先陣を切らせている。アラブ人1万4000人が侵攻作戦に参加しているもよう。米国が米国人の血を流さないよう、クルド人という代理人を使ってIS掃討作戦を実施したのと同じ構図だ。大国の身勝手さが透けて見える。

 

クルド人の新たな庇護者

(中略)エルドアン大統領は11月に訪米、ホワイトハウスでトランプ大統領と会談する予定になっており、その会談まではトランプ氏の日々のツイッターの調子をうかがいながら、同氏の逆鱗に触れないよう注意深く侵攻作戦を展開する腹積もりと見られている。

攻撃されたクルド人側はどう反撃しようというのか。空軍力など圧倒的に優位な軍事力を持つトルコ軍に正面からまともな戦闘を挑んでも勝機はないだろう。「クルド人はゲリラ戦で対抗するしかない」(ベイルート筋)というのが軍事専門家の一般的な見方だ。ヒット・エンド・ランのゲリラ戦でトルコ軍を泥沼に引きずり込むというやり方だ。

だが、クルド人も補給や資金面で支援してくれる後ろ盾、「庇護者」が必要だ。

これまで後ろ盾となってきた米国からは「裏切られて見捨てられた」(同)。シリアのアサド政権との反トルコ連合形成を模索したが、「米国の手先とは付き合えない」と冷たくあしらわれた。

「やはりロシアのプーチンにすがるしかない」(アナリスト)。これがクルド人にとって唯一の選択肢なのかもしれない。プーチン大統領はイランとともにアサド政権の後ろ盾であり、トルコのエルドアン大統領とも関係が良好。米国と仲たがいしてまでロシア製の防空システムを購入したことでも分かるように、2人の関係は相当強力だ。

すでにシリアの将来のキングメーカー的な地位を確立しているプーチン氏にとっても、クルド人という持ち札を加えることは中東での影響力拡大に大きなプラスになるし、対米けん制のカードにも使える。クルド人の頼みを入れ、トルコとクルド人の間の調停に乗り出すかもしれない。

ただ、ロシアが調停に乗り出したとしても、トルコがいったん占領したシリア北東部を完全に手放すことはなく、侵攻前の元の状態に戻る可能性は低い。クルド人は米国の支援を得て、いったんは北東部を支配下に置き、宿願だった「独立国家樹立」の夢を見た。だが、夢ははかなく消え、せいぜい獲得できるのは「自治権の強化」ぐらいのものではないか。クルド人の受難は続く。【10月12日 WEDGE】

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【クルド・トルコ双方から頼られるロシア・プーチン大統領】

クルド人勢力側が頼る相手としてロシア・プーチン大統領が指摘されていますが、アメリカ・欧州がトルコへの制裁・武器輸出停止という形になると、トルコもロシアに頼るという構図も出てきます。

 

すでにフィンランドとノルウェー、オランダに続いて、ドイツとフランスも12日、対クルド作戦に使用されかねない武器の対トルコ輸出を一時停止しています。

 

*****トルコの北シリア侵攻(国際的反応)****

(中略)今後トルコの侵攻がどう進展していくかは良く分かりませんが、仮に明日のベルギーでのEU外務省会議が、対トルコ強硬政策に合意し、それを基にオランダドイツ仏以外の国も、対トルコ武器禁輸に踏み切るようなことになれば(上記3国以外で重要なのは英国ベルギーイタリア等か)、NATOの重要なメンバーであるトルコが、その主要な武器供給源を欧米ではなくロシアに頼るという現象も起きる可能性があり、そうなるとトランプのウクライナへの武器供与差し止めと合わせて、NATOのロシアに近接している重要な個所で、NATO不信、NATO離れが起きる可能性が出てくるでしょう。

ウクライナ問題と合わせてトルコ問題でも一番ほくそ笑んでいるのはプーチンでしょう。【10月13日 「中東の窓」】

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アメリカに対しては、クルド人勢力側から「見殺しにしている」との強い非難が向けられています。

 

****クルド人司令官、米高官に「我々を見殺しにしている」*****

トルコによるシリアのクルド人勢力への軍事作戦が続く中、クルド人主体の部隊「シリア民主軍(SDF)」の司令官が米国務省高官に、「あなた方は我々を見殺しにしている」と告げたことが分かった。CNNが独占入手した米政府の内部文書で明らかになった。

 

これによると、SDFの幹部マズロム・コバニ・アブディ氏は10日の協議で、過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」と戦う有志連合の調整を担うウィリアム・ローバック米副特使に対し、「あなた方は我々のことを諦めた。我々を見殺しにしている」と告げたという。

 

マズロム氏はさらに「あなたたちにはクルド人を守る意思がないのに、別の部隊がやって来て我々を守るのも望ましくないという。我々のことを売ったのだ。道徳にもとる」と述べたとされる。

 

マズロム氏は米国に対し、トルコの攻撃を阻止するか、シリア民主軍によるアサド政権や後ろ盾のロシアとの取引を認めるか、どちらかしかないと強調。

 

取引が成立した場合、ロシア軍機によるシリア北東部上空での飛行禁止区域設置が可能になり、トルコは空爆を実施できなくなる。政権当局者によると、米国はクルド人がロシアに接近する展開は望んでいないという。

 

マズロム氏は「米国が守れないなら、私はロシアやアサド政権と取引して彼らの航空機を受け入れ、地域の防衛に当たってもらう必要がある」としている。

 

トランプ大統領は先に、50人規模の米軍要員に国境地帯からの撤退を指示。これを受けトルコはシリア侵攻を開始した。

 

トランプ政権の一部は、米軍が残っているか否かにかかわらずトルコは侵攻したはずだと主張し、シリアのクルド人勢力を見捨てたわけではないとしている。【10月13日 CNN】

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ロシア軍機によるシリア北東部上空での飛行禁止区域設置は、(仮に実施されるとすれば)クルド人側の要請によってという形ではなく、トルコとクルド人勢力の停戦仲介にロシア・プーチン大統領が入り、その停戦合意を担保するためにロシアが設置・・・という形をとるのではないでしょうか。

 

【アメリカのトルコへの「重大な制裁」は?】

アメリカの対応は・・・。

 

****トランプ氏、トルコに「重大な制裁」へ シリア越境作戦続く****

スティーブン・ムニューシン米財務長官は11日、トルコがシリア北東部で開始したクルド人勢力に対する軍事作戦の拡大をけん制する措置として、ドナルド・トランプ大統領が大規模な対トルコ制裁を承認する意向だと発表した。

 

一方、トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は軍事作戦続行の意向を改めて表明した。(中略)

 

ホワイトハウスで記者会見したムニューシン長官は、トランプ氏が間もなく「重大な制裁」を承認する大統領令に署名すると表明。ただ、米国は直ちに同制裁の発動はしない意向だと説明した。制裁はトルコ政府の関係者を標的としたものになるという。

 

トランプ大統領は6日、米軍のトルコ・シリア国境周辺からの撤退を指示し、トルコによる軍事作戦開始の事実上のきっかけを作った。ただトランプ氏はここにきて、米国には停戦を仲介する用意があると表明している。

 

マーク・エスパー米国防長官は停戦に向けた交渉の準備段階として、トルコに対し攻撃停止を「強く促した」と表明。

 

一方でトルコのエルドアン大統領は直ちにこれに応じ、攻撃は「停止しない」と言明した。(後略)【10月12日 AFP】

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トルコ政府の関係者を標的とした制裁が「重大な制裁」にあたるのか?

自分で“ゴーサイン”を与えておきながら、停戦を仲介する用意というのも・・・・?

 

****「クルド人勢力見捨てた」批判に対応、米が5千万ドル拠出****

米ホワイトハウスは12日、トランプ大統領が、トルコの軍事作戦により不安定化するシリアで迫害される民族や宗教における少数派を保護するために5000万ドル(約54億円)を拠出したと発表した。

 

米国が少数派民族クルド人勢力を見捨てたとの批判が国内外で高まるなか、具体的な対応策を打ち出す必要があると判断したとみられる。【10月13日 読売】

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“具体的な対応策”にしては地味です。もちろん、これで終わりではないでしょうが。

 

【トランプ大統領の言う「一線を越えれば」とは?】

混乱する状況のなかで、トルコ側から米軍への砲撃、更には、トルコ軍による民間人処刑といった事態も。

 

****シリア北部で米軍に砲撃、トルコ側の陣地から 米国防総省****

トルコ国境に近いシリア北部の町コバニ付近で11日午後9時(日本時間12日午前3時)ごろ、トルコ側の陣地から米軍が砲撃を受けたと、米国防総省が発表した。

 

米国防総省のブロック・デウォルト報道官は、「安全メカニズム地帯から数百メートル以内の場所で爆発があった。この場所に米軍がいることはトルコ側も知っていた」「米軍に負傷者は出ていない。米軍はコバニから撤退しない」と述べた。

 

デウォルト報道官は、正当な理由のない攻撃には「速やかに防衛的措置を取る」とし、そのような措置を引き起こしかねない行為をしないようトルコに要求すると述べた。 【10月12日 AFP】

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コバニからの米軍撤退を促す、トルコ側の恫喝でしょうか。

 

****トルコ側部隊「民間人19人処刑」=シリアで子供、女性政治家ら―人権監視団****

9日にシリア北部で始まったトルコ軍によるクルド人勢力に対する越境軍事作戦で、在英のシリア人権監視団は13日、「トルコ側の部隊が子供や女性政治家を含む民間人19人を処刑した」と発表した。

 

事実ならトルコに対する国際世論が硬化するのは必至で、米国が先に警告した対トルコ経済制裁発動につながる可能性もある。

 

人権監視団によると、トルコ軍が制圧を目指すシリア北部テルアビヤドの南方で「銃殺刑」が行われた。テルアビヤド一帯では、トルコ軍の支援を受けるシリア反体制派が地上作戦に従事している。これにより、9日以降のシリア領内での民間人の死者数は52人に達したという。

 

反体制派はロイター通信に対し、殺害の一部について関与を否定した。【10月13日 時事】 

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トランプ大統領は、トルコがシリア問題で一線を超えればトルコ経済を「壊滅」させると述べていますが、その真意は明らかにしていません。

 

上記のような民間人処刑は、一線を越えるのか、超えないのか?

 

“トルコは1年前、米国による制裁と関税が一因となって通貨危機に陥ったが、ここ数カ月は通貨リラが落ち着きを取り戻してインフレ率も下がり、経済は過去20年で最悪の景気後退から脱した。

しかしシリア北部からの米軍撤収と、トルコ軍によるクルド人勢力への攻撃開始を嫌気し、通貨リラは足元で約4カ月ぶりの安値を付けている。”【10月11日 ロイター】

 

脆弱な状態にあるトルコ経済は、アメリカが本格的な制裁を科せば、深刻な打撃を被ります。

トランプ大統領がどこまでやるか・・・によりますが。

 

****米、矛盾する中東政策****

トルコの攻撃の契機になったのは、米国が6日に黙認する声明を出し、シリア北部に駐留していた米軍を移動させたことだ。

 

米国はこれまで過激派組織「イスラム国」(IS)掃討のため、YPGと共闘しており、攻撃容認は「クルドを見捨てるものだ」と米議会から批判が噴出。米軍の撤退でISが息を吹き返し、アサド政権を支援するロシアやイランの影響力が強まることへの懸念も強い。

 

だが、「中東の紛争地からの米軍撤退」が持論のトランプ大統領は方針を変えていない。11日にはムニューシン米財務長官がトルコに「重大な制裁」を用意していると公表したが、内容は明らかにしなかった。

 

一方、エスパー米国防長官は11日、サウジアラビアの石油施設への攻撃に関連し、同国に駐留する米軍部隊を3千人増派すると発表した。「攻撃を起こした」と米国が主張するイランへの牽制(けんせい)が目的だが、シリアでの行動と矛盾する。【10月13日 朝日】

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