孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インドネシア  大統領選挙と連動して強まるイスラム保守主義の「モラルパニック」

2018-11-20 22:57:09 | 東南アジア

(バイクの後部座席で横乗りする女性=2018年11月16日、ジャカルタ、野上英文撮影【11月17日 朝日】
私は旅行先でときおりバイクタクシーを利用しますが、こういう「横座り」は非常に危険なように思うのですが・・・)

イスラム法適用のアチェ州 「男性を誘惑するから」女性はバイクまたがるな

今月4日から12日まで、インドネシアのバリ島を旅行していましたが、イスラム教徒が大多数のインドネシアにあってバリ島はバリ・ヒンズー教であること、また、大胆に肌を露出した欧米系女性旅行者がそこらじゅうを闊歩していることなどもあって、イスラム教的な窮屈さとは無縁の島です。(他の島のイスラム教徒における、そうしたバリ島の特殊性への反感が、かつての外国人観光客を対象にした大規模テロの背景にあるのかも・・・)

バリでは、男性の運転するバイクの後部に女性が乗っているのはごく普通の光景ですが、イスラム教の戒律がインドネシアでも特別厳しいスマトラ島北部のアチェ州ではどうでしょうか。

そのあたりについて、日本語ガイド氏に「アチェであんなふうに乗っていたら、鞭打ちの刑になるんじゃない?」と尋ねると、「そういうところの女性はかわいそうですね」とのことでした。

男女の二人乗りがどうなのかは知りませんが、アチェでは女性がバイクの後部座席に「またがる」ことが禁じられ、乗るときは「横座り」しないといけないとか。恐ろしく危険です。

****「誘惑するから」バイクまたがるな…差別? 警告に批判****
イスラム教徒が多いインドネシアでも唯一、イスラム法に基づく刑罰が定められたスマトラ島北部アチェ州の都市で、女性がバイクの後部座席にまたがって乗るのが禁じられ、警察による警告が相次いでいることが批判を呼んでいる。「危険で差別的だ」と疑問視する声が大きい。
 
同州第2の都市ロクスマウェで13日、イスラム法違反を取り締まる専門の警察が道路検問を実施。バイクに乗る女性17人に「座り方を変えるように」と警告した。

地元メディアによると、運転する場合は女性もまたがらざるを得ないが、その際は体形が分かりやすいジーンズなどを着ることが市の条例で禁じられている。

5年前に条例を制定した市長は「男性を誘惑してはならない」と説明する。
 
インドネシアはイスラム教徒が人口の9割弱を占めるが、検問のニュースが広がると、ネット上では横座りが原因の死亡事故を引用して「安全ではない」とする主張や「女性に差別的だ」という批判が相次ぐ。
 
専門家によると、イスラム法に女性のバイクの乗り方の規定はない。ただ、首都ジャカルタでも横座りする女性を見かける。

女性らに話を聞くと、「またがるのははしたない」とか、スカート姿では「またがれない」との声が聞かれた。こうした考え方や男性中心の思想と融合して、保守的なアチェ州ではこうしたイスラム法解釈が広がっているとみられる。
 
同州の他の自治体でもここ数年、既婚夫婦のみがバイクの2人乗りを認められたり、飲食店で夫婦以外が同じテーブルに座ることが禁じられたりと、規制が増えている。【11月17日 朝日】
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「男性を誘惑してはならない」・・・・戒律・規則で女性の衣服・行動にまで制約をかけるので、日本人的にはごく普通の衣服・行動に劣情を催してしまうのでしょう。

かつてアフガニスタンを支配した旧タリバン政権は、女性のハイヒールについて、その靴音が男性を誘惑するとして禁止していました。

バイクにまたがる女性やハイヒールに問題があるのではなく、そうしたものに劣情を催すイスラム男性の側に問題があるように思うのですが・・・。不自然なまでに制約された状況にあっては、時に抑えがたい欲望が性犯罪や暴力という形で噴き出す・・・ということも想像されます。

なお、アチェ州における宗教警察による女性の服装チェックは以前から行われています。下記は2010年の記事です。

****ズボンの女性にロングスカートの着用を徹底へ、インドネシア・アチェ州****

(インドネシア・アチェ州の西アチェ県で、バイクに乗ったカップルの服装を点検する宗教警察(2010年5月25日撮影) (筆者注:この女性は結局、自分が不適切な服装(体形があらわれるズボン)をしていたことを認めてノートに署名することになったようです)

インドネシア・アチェ州の宗教警察は、26日から、イスラム法に違反していると見なされる服装をした女性に対し「ロングスカートの着用」を徹底していくことになった。西アチェ県の当局者が25日明らかにした。

この当局者によると、同州では計2万着のロングスカートが配布されており、西アチェ県の宗教警察も、26日から「間違った服装」をした女性たちを見つけたら、その場でこのロングスカートに履かせるよう通達された。

同州では、イスラム法に基づき、女性が「ぴったりした」ズボンを着用することを禁じる規則が今年1月1日から施行されており、一部のイスラム教徒から反発を招いている。

なお、宗教警察は、これまでも定期的に女性の服装に関する指導を行っているが、規則に違反した女性を逮捕する権限は持っていない。一方で、ギャンブル、姦通、飲酒などの宗教義務違反に関しては逮捕の権限があり、こうした違反者には「むち打ち」の刑が適用される。

同州の議会は前年、姦通者および同性愛者に対し石打ちによる死刑を適用する法案を可決したが、知事が署名していないため成立はしていない。【2010年5月26日】
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【強まるイスラム保守主義 大統領選挙戦とも連動してLGBTを標的に】
アチェ州に限らず、近年インドネシアにあってはイスラム的価値観を重視する宗教的保守主義の傾向が強まっていることは、これまでもしばしば取り上げてきました。

そうした宗教的保守主義がまず攻撃対象にするのは、LGBTのような性的マイノリティーです。
インドネシアでは来年4月に行われる大統領選挙に向けて、すでに9月から選挙戦が始まっていますが、野党候補を支持するイスラム保守派によるLGBTを標的にした攻撃は、そうした選挙戦とも連動しているようです。

****インドネシアで吹き荒れる「モラルパニック」 標的はLGBT****
人口2億6000万人の世界最大のイスラム教国インドネシアに今、「モラルパニック(モラルや社会秩序を逸脱していると見なした特定の集団に多数の人々が激烈な反応を示すこと)」の嵐が吹き荒れている。

来年行われる選挙戦を前に、イスラム強硬派によって政治的につるし上げられているのは、普段から標的とされやすい性的少数者だ。逮捕者も相次ぎ、LGBTコミュニティーに不安が広がっている。

インドネシアでは、LGBTは常に不道徳だとそしられてきた。だが、ここ最近の政治的弾圧の背景には、宗教的な保守化が進行していることが挙げられる。

中には、性的少数者を拘束して「更生させる」権利を要求する政治家まで現れるなど、強力なイスラム強硬派が率いるこうした変化によって、穏健派のイスラム教国というインドネシアのイメージも様変わりしてきている。

西ジャワ州では最近、地元自治体がいくつかのモスク(イスラム礼拝所)に対し、同性愛の「危険性」に関する説教を行うよう要請。

一方、会員8000万人を抱える国内最大のイスラム教組織「ナフダトゥル・ウラマー」は、同性愛に対する取り締まりを要求している。

さらにジョコ・ウィドド大統領が再選を狙って共に戦う副大統領候補に選んだ相手が、同性愛者を非難する発言で知られる保守派のイスラム教指導者であることから、LGBTコミュニティーはますます懸念を強めている。

米調査機関ピュー・リサーチ・センターが2013年に行った調査では、インドネシアのイスラム教徒の72%が、同性間の性行為を禁じたイスラム法を世俗法の代わりに導入することに賛成し、今年行われた調査では、国民の90%近くがLGBTコミュニティーに「脅威」を感じると回答した。

「(総選挙の実施によって)政治的なスケープゴートが増えかねない」と言うのは、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの研究員、カイル・ナイト氏だ。「政治家が発した言葉による脅しがたちまち、物理的な攻撃に姿を変えてしまう」

■「今の状況は間違っていると言える指導者が必要」
インドネシアでは同性愛は合法であるにもかかわらず、警察は昨年、反ポルノ法違反などを理由に少なくとも300人の性的少数者を逮捕した。

「法執行機関による憎悪に基づく職権乱用を、多くの人が通常の措置と見なしている現状は憂慮すべきだ」と、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルインドネシア支部のウスマン・ハミド事務局長は警鐘を鳴らす。

HRWによると、LGBTコミュニティーに対する一連の弾圧は、2016年にモハマド・ナシール高等教育相が、大学でLGBTの学生団体の活動を禁じたことに端を発する。以来、警察はLGBTの人々を摘発するため、ナイトクラブ、サウナ、ヘアサロン、ホテル、一般住居にまで踏み込んで捜査を行ってきた。

当局は批判に動じない。西スマトラ州のナスルル・アビット副知事は、「LGBT(行為)は非常に有害であり、われわれはそれを撲滅するよう不断の努力を行っている」と主張している。

インドネシア議会は、同性愛も含めた婚外性交渉を犯罪と見なす法案を検討しており、保健省は、同性愛を精神疾患に分類する医療指針の導入計画を発表した。

当局は、ソーシャルメディアも標的にしている。先ごろ、LGBTコミュニティーのフェイスブックページにリンクを張ったとして、男性2人が逮捕された。米グーグルは今年1月、インドネシア政府の要求に応じて自社のインドネシア版オンラインストアから、世界最大の同性愛者向けデートアプリを削除した。

ジョコ大統領はじめ、再選を目指す政界の有力者が、インドネシア社会で忌み嫌われている性的少数者を擁護する見込みは少ないと、HRWのアンドレアス・ハルソノ氏は語る。「これは間違っていると言う勇気を持つ指導者をわれわれは必要としている」【11月20日 AFP】AFPBB News
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【ジョコ大統領側も反対勢力を摘発】
ジョコ大統領としては、盟友でもあり、副大統領候補とも見られていた華人でキリスト教徒でもあるジャカルタ州前知事バスキ・チャハヤ・プルナマ(通称アホック)氏が「反イスラム」として宗教冒涜罪に問われ、知事選も敗退した経緯があるだけに、宗教保守派の動向には神経を使っています。

比較的穏健なイスラム教指導者を副大統領候補に据えたのも、イスラム保守派の攻撃をかわす狙いがあってのことです。(そういう状況にあるので、ジョコ大統領がLGBTに救いの手を差し出し、火中の栗を拾うことはないでしょう)

ジョコ大統領は、単に保守派の攻撃をかわすだけでなく、反対勢力潰しにも乗り出しているとも指摘されています。

****庶民派ジョコ氏、摘発強化 4月の大統領選へ警戒 インドネシア****
来年4月に投開票されるインドネシアの大統領選で、現職のジョコ大統領が「反イスラム」と批判されることに神経をとがらせている。

人口の9割弱を占めるイスラム教徒の動向が勝敗を左右するためだ。反ジョコ氏の大規模デモも計画されるなか、庶民派のイメージにそぐわぬ取り締まりに乗り出している。

選挙は2014年の前回と同じジョコ氏と野党党首プラボウォ氏の一騎打ち。プラボウォ氏を支援するイスラム強硬派の全国組織「イスラム防衛戦線」は12月2日、ジャカルタで大規模な集会を予定する。
国内に700超の拠点を持つうえ、人口の約68%が関わるとの調査もあり、影響は小さくない。

ジョコ氏を支持する国内最大の穏健派イスラム団体の集会で、イスラムの教義を記した旗が燃やされたことに怒り、「反イスラム」と批判している。

同戦線は2年前の12月2日、ジョコ氏の盟友だった当時のジャカルタ州知事を批判するデモに関与。同知事を「イスラムを侮辱した」と攻撃し、翌年の選挙で敗北に追い込んだ。大統領選でも、その再現を狙っているとみられる。

プラボウォ陣営の副大統領候補サンディアガ氏は15日の会見で、宗教対立が選挙に持ち込まれることに「危険で、望まない」と懸念を示した。

だが、陣営はジョコ氏に支持率で20ポイントの差をつけられており、プラボウォ氏も「1%の金持ちが富の半分を独占」「失敗国家に陥る」と述べるなど危機と脅威を強調する。

家具職人の家庭出身で庶民派イメージが強いジョコ氏だが、最近は再選を狙い反対勢力の摘発を強化。

捜査機関の反汚職委員会は、ジョコ氏が前回選で敗れたスマトラ島北部アチェ州の知事など、今年だけで少なくとも20の自治体の首長を汚職容疑で逮捕した。疑惑を抱え、ジョコ氏支持に寝返った政治家もいる。

警察も「大統領交代」を掲げる市民運動への取り締まりを続ける。中心的な2人を別件の容疑で逮捕し、活動を沈静化。インドネシア政治の専門家からは、ジョコ氏による国家権力を使った弾圧との指摘も出ている。【11月19日 朝日】
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アチェ州知事の汚職容疑については、彼らが掲げるイスラム法適用なら「手を切り落とす」という話にもなります。

****インドネシアの州知事が汚職 イスラム法適用なら手を・・・****
インドネシアで唯一、イスラム法に基づく刑罰が定められているスマトラ島北部のアチェ州で、州知事が反汚職法違反の疑いで逮捕された。

州知事が幹部を務め、国からの独立を目指した闘争組織「自由アチェ運動」(GAM)がイスラム法の厳守を求めてきただけに、イスラム強硬派やネットユーザーからは「州知事をイスラム法で裁き、手を切断すべきだ」との声が出ている。

捜査機関の反汚職委員会(KPK)が3日、イルワンディ・ユスフ州知事(57)らを逮捕した。インフラ事業に絡み、州内の県知事から現金約5億ルピア(約380万円)の賄賂を受け取った疑いが持たれている。

アチェ州では同性愛など一部の「犯罪」をイスラム法で独自に取り締まっている。KPKは国の反汚職法に基づいて訴追するためイスラム法は適用されないが、イスラム至上主義を掲げるイスラム防衛戦線(FPI)は、窃盗犯の手を切断するイスラム法の定めを踏まえ、「州知事の手を切断すべきだ」と主張。

また、ツイッターなどでも「収賄の罪は盗みより重い」「イスラム法は弱者にしか適用されないのか」といった声が相次いでいる。

 イルワンディ氏は5日、地元メディアに、容疑を否認したうえで「イスラム法に汚職の定義はない。自分は国の法律に従う」と話した。GAMの元幹部で、2007年~12年に州知事を務めた後、昨年に再選した。【7月8日 朝日】
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「イスラム法に汚職の定義はない」・・・・イスラム法に規定のない女性のバイクの乗り方などについて、さんざん拡大解釈して取りまりを行っていながら、この言い草は笑止です。


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