孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  アッサム州でイスラム系住民190万人超が無国籍化され、追放される懸念

2019-08-31 23:37:50 | 南アジア(インド)

(国民登録簿の最終版が発表される前に警戒するインドの治安当局者ら=インド北東部アッサム州で8月30日、ロイター【9月1日 毎日】)

 【経済は失速の懸念】

州首相時代の実績から経済的手腕が期待されたインドのモディ首相ですが、ここのところインド経済の減速があきらかになってきています。

 

****インド GDP プラス5% 6年ぶりの低水準*****

インドのことし4月から6月までのGDP=国内総生産の伸び率は前の年の同じ時期と比べてプラス5%となり、米中の貿易摩擦などを背景に6年ぶりの低い水準にとどまりました。

経済成長の持続を2期目の公約の柱に掲げるモディ政権にとって、経済の底上げが最大の課題となりそうです。

 

インド政府が30日発表した、ことし4月から6月までの四半期のGDPの伸び率は、前の年の同じ時期と比べて5%のプラスでした。

前の3か月と比べると、伸び率は0.8ポイント低くなり、2013年の4月から6月以来、6年ぶりの低い水準にとどまりました。

これは、自動車をはじめとした国内の消費が低迷しているのに加え、製造業や農林水産業など幅広い産業で落ち込んだことが要因となっています。

インド経済は、ここ数年7%前後の高い成長を続けてきましたが、ことしに入ってからは、米中の貿易摩擦などを背景に経済の減速が一層、鮮明になっていて、2期目をスタートさせたモディ政権にとって経済成長の持続が最大の政治課題です。

モディ政権としては今後、外国資本による投資の規制緩和などの対策を講じる方針で、今後、経済の持ち直しが実現するのか注目されます。【831日 NHK

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1%未満の低成長にあえぐ日本からすれば5%というのは非常に高い数値ですが、膨大な絶対的貧困を抱え、大量の失業者が存在し、年々爆発的に人口が増大しているインドにとっては、社会の安定を保つのが難しくなる「低成長」にもなるのでしょう。

 

【ヒンズー至上主義で求心力を維持しようとするモディ政権 190万のアッサム州のイスラム系移民を無国籍化へ】

どこの国の政権も、国民の生活に直結する経済の状況が悪くなると、外交的対立を加速させて民族主義を鼓舞するなどの方策で、国民の目をそらして求心力を高めようとしがちです。

 

もとより、モディ首相には経済的手腕への期待という側面以外に、ヒンズー至上主義の懸念が当初からありました。

 

上記のような国内経済の停滞を糊塗するためにも、国民多数派に受け入れられやすいヒンズー至上主義的傾向が強く前面にでてきていることは、国内のイスラム教徒迫害の問題、カシミールでの自治権はく奪の問題等の関係で、これまでもしばしば取り上げてきました。

 

そのひとつが、20181025日ブログインド 「本物のインド人」と認められないイスラム系住民400万人を無国籍化・追放する企て“で取り上げた、北東部アッサム州におけるイスラム教徒移民の無国籍化の問題です。

 

アッサム州にイスラム系移民が多い背景およびこれまでの経緯は、以下のようにも

 

****英領時代流入、70年代に急増****
アッサム州で国民登録が実施された背景には、隣国バングラデシュからの移民の存在がある。
 
ヒンドゥー教徒のアッサム人が多くいた土地に開拓農民や紅茶農園の働き手としてイスラム教徒が移住してきたのは、現在の国境線が引かれる前の英領時代にさかのぼる。1947年のインド建国時点で、相当数のイスラム人口があった。
 
さらに71年、イスラム教徒がつくったパキスタンからバングラデシュが分離独立を宣言すると内戦が勃発。多数のイスラム系難民が流入した。国民登録が71年以前に居住していた証明を求めるのはこのためだ。
 
当時のインド国民会議派政権は難民を積極的に帰還させようとはしなかったようだ。

移民排斥運動を主導する全アッサム学生連盟(AASU)のバッタチャルジャ最高顧問は「政権与党が難民に有権者証を乱発し、自分の票田にした」と指摘する。州内の有権者数は70年から79年にかけ、50%増えたという記録がある。
 
少数派になることを恐れたアッサム人は70年代末から抗議運動を始めた。83年には一部が暴徒化しイスラム教徒2千人以上を虐殺した。ネリー村は最も被害が大きかった現場の一つだ。
 
混乱を収拾するためインド政府は85年、AASUの要求をのむ形で国民を登録し直すと約束した。しかし、その後の政権は問題を先送りし続けた。【20181024日 朝日】

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モディ首相が、71年以前に居住していた証明ができないイスラム系住民を無国籍化しようとしているという件を20181025日ブログで取り上げましたが、その懸念がいよいよ現実のものとなっています。

 

****190万人が無国籍状態になるおそれ インド アッサム州****

インドのアッサム州で暮らす およそ190万人が隣接するバングラデシュからの不法移民だとして、住民登録簿から抹消され、無国籍状態になるおそれが出ています。

 

最悪の場合、国外退去処分となる可能性もあり、ミャンマーの少数派イスラム教徒、ロヒンギャの人たちと同じような状況になるのではないかと懸念されています。

 

インド北東部のアッサム州には、1971年のバングラデシュの独立戦争前後に数百万人ともいわれる少数派のイスラム教徒が移民として流入し、先住民との間で衝突が繰り返されてきました。

州政府は、独立戦争の前から家族で州内に住んでいたことを証明する文書を提出できない住民は不法移民にあたるとして4年前から調査を進め、31日、最終的な住民登録簿を公表しました。

それによりますと、およそ1906000人が登録簿から抹消され、今後、無国籍状態となる可能性があるということです。

州政府は、これらの住民に対し、今後120日以内に異議申し立てができるとしていますが、最悪の場合、国外退去処分となる可能性もありミャンマーの少数派のイスラム教徒、ロヒンギャの人たちと同じようなことが起きるのではないかと懸念されています。

ヒンドゥー至上主義を掲げるモディ首相率いる与党・インド人民党は先の総選挙でバングラデシュからの不法移民に強硬な路線を打ち出し支持を獲得していました。

モディ政権は、今月、イスラム教徒が多く住む北部ジャム・カシミール州の自治権の撤廃を強行したばかりで今後、イスラム教徒からの反発が高まることも予想されます。【831日 NHK

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問題があるとはいえ、数十年にわたり積み上げられてきた秩序を、支持層の多数派ヒンズー教徒には受け入れられやすい形で一挙に整理しようという点では、カシミールの自治権はく奪とも共通した流れです。

 

【社会・治安当局に蔓延するイスラム系住民への人権侵害】

少数派イスラム教徒への不寛容・厳しい姿勢は、モディ首相ひとりのものではなく、多くの国民や軍・警察に支持され、共有されていることが、より重要な問題です。

 

****「殴るくらいなら撃ち殺してくれ」 カシミール住民がインド軍の拷問を訴え****

インドが実効支配するジャンムー・カシミール州の自治権剥奪をめぐり、同州の住民がインド軍から暴行や拷問を受けていると主張していることが分かった。

 

複数の住民がBBCに対し、けがの痕を見せ、棒で叩かれたり電気ショックを与えられたと証言した。BBCは、この訴えが事実かどうか、インド当局から確認を得ることはできなかった。

 

インド軍は、「事実無根で、根も葉もないもの」だと主張している。

 

州の閉鎖、通信手段の停止

ジャンムー・カシミール州に70年にわたり、独自の立法・行政・司法制度といった一定の自治性を認めてきた憲法370条が廃止された5日以降、同州には前例のない制限が課されている。

 

3週間以上にわたり州が閉鎖され、通信手段が停止された影響で情報は少しずつしか伝わってこない。

 

同州には、何万もの軍隊が追加配備された。さらに、地元の政治指導者や実業家、活動家を含む約3000人が拘束されていると報じられている。その多くは、州外の刑務所にすでに移送されている。

 

当局は、こうした動きは、この地域での法と秩序を維持することを目的とした先制措置だとしている。

 

人口の大半をイスラム教徒が占めるジャンムー・カシミール州は、現在では、インド連邦政府管轄下の2つの小さな領地に分割されている。

 

分離主義者との争い

インド軍は、過去30年以上にわたり、インドからの独立またはパキスタンへの編入を求める分離主義者との争いを続けている。

 

インドは、パキスタンが過激派を支援し、同地域での暴力行為を扇動していると非難している。カシミール地方の一部を実効支配するパキスタン側は、この訴えを否定している。

 

インド国内の多くの人は、憲法370条の廃止を歓迎し、「大胆な」決断を下したとして、ナレンドラ・モディ首相を称賛している。自治権廃止措置は、主流メディアからも幅広い支持を得ている。

 

インド軍による夜襲や拷問

過去数年で反インド闘争の中心地となった同州南部を私は訪れ、少なくとも6つの村に足を運んだ。そのすべての村の複数住民から、インド軍による夜襲や暴行、拷問行為といった、同様の証言を得た。

 

医師や保険当局は、症状に関わらず、患者についてジャーナリストに話すことを嫌う。しかし、複数の村民は、治安部隊から受けたというけがを私に見せてくれた。

 

住民の話によると、ひとつの村では、数十年にわたるインドとカシミールの取り決めを覆すこととなった、憲法370条廃止の決定からわずか数時間後に、インド軍が家から家へと回っていたという。

 

あるきょうだい2人は、眠っていたところを起こされ、屋外へ連れ出されたと話した。そこには、村の男性12人ほどが集められていたという。私たちが話を聞いた全員がそうだったように、きょうだいは報復を恐れ、身元を明かすことはなかった。

 

「あいつらは、私たちをめった打ちにした。『私たちが一体何をしたというんだ。私たちがうそをついたのか、何か悪いことをしたのか、村の人たちに聞けばいい』と訴えたが、あいつらは耳を貸さなかったし、何も言わずに私たちを殴り続けた」

 

「やつらは、私の体中を殴った。私たちを蹴り、棒で叩き、電気ショックを与え、ケーブルで打った。脚の後ろを叩いた。気絶すると、意識を取り戻させるために電気ショックを与えてきた。棒で叩かれて叫ぶと、泥で口をふさがれた。自分たちは無実だと訴えた。なんでこんなことをするのか尋ねたけど、話を聞いてくれなかった。殴るな、殴るくらいなら撃って殺せと訴えた。神に、命を奪ってくれと懇願していた。拷問に耐えられなかったので」

 

2時間近く拷問、意識失うと電気ショック

(中略)

インド軍は拷問を否定

インド軍は、BBCに宛てた声明で、「訴えにあるような、民間人を乱暴に扱った事実はない」と反論した。

インド軍報道官のアマン・アナンド大佐は、「この手の詳しい訴えは、私たちに通達されていない。こうした訴えは、悪意のある者たちによるものだろう」と述べた。

 

アナンド氏は、民間人を保護するための措置を講じているとし、「軍の対抗策による死傷者は出ていない」と付け加えた。(中略)

 

人権侵害は数百件

しかし今年初め、2つの有名なカシミール人権団体が公表した報告書によると、カシミールで過去30年間に発生した人権侵害は、数百件にのぼるという。

 

国連人権委員会(UNCHR)もまた、カシミールでの治安部隊による人権侵害をめぐり、包括的で独立した国際的調査を行うため、独立国際調査委員会(COI)の立ち上げを求め、49ページにわたる報告書を公表している。

 

インドは、こうした訴えや報告書の内容を拒否している。【830日 BBC

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