孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インドネシア  消える森林、守る森林、増やす森林

2007-12-12 17:56:35 | 環境

(インドネシア チェーンソーの手入れをする二人 モザイクがかかっているところをみると違法伐採でしょうか? “flickr” By Films4Conservation )

10日ほど前に目にした記事です。

****地球にも愛を、結婚や離婚の記念に木を植えて温暖化対策、インドネシア******
インドネシアのジャワ島のスラゲンではこのたび、新しく結婚するカップルまたは離婚する夫婦を対象に、植樹が義務化されたという。
愛情をちょっと地球におすそ分けし、地球温暖化対策に貢献しようという試みだ。

報道によれば、結婚予定の人はチークやマホガニーといった広葉樹の苗木5本を植えなければならない。
苗木は自分たちで用意するか、2万5000ルピア(約300円)で買って、結婚式の立会人に提出する。
その後、苗木を受け取った当局が植樹するとしている。

一方、離婚する夫婦の場合は、苗木25本か4万ルピア(約470円)を寄付しなければならないという。
当局者は「寄付金は苗木の購入に充てられ、購入された苗木は夫婦の住む地域に植えられる。地球温暖化対策の一環と位置づけている」と説明している。【12月3日 AFP】
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国連の気候変動枠組み条約第13回締約国会議(COP13)が開催されているインドネシアでの、話題づくりの一環でしょうか。
非常に面白い記事で記憶に残りました。
特に、離婚の場合も植樹が必要で、しかも結婚時より本数・金額が多いというところがなんとも。
実効性は・・・はなはだ心もとないところがありますが、当局がどれだけ本気(そんなものがあればの話ですが)になるかということ次第でしょう。

ただ、インドネシアの森林破壊はハイペースで進んでおり、世界の森林破壊の中でも相当なウェイトを占めています。
単にCOP13の開催国ということだけでなく、その森林破壊防止を考えると、このような国民ひとりひとりにその意義を周知していく試みが本来は非常に大切であることは間違いありません。

全世界の化石燃料の使用によるCO2排出量が年260億トン、これに対し、森林減少によるCO2排出量は年60億トンほどで、化石燃料の4~5分の1を占めています。
その森林が近年急速に減少しており、その保護・再生がCOP13での主要議題のひとつです。

例えばアマゾン。
******アマゾン熱帯雨林の60%、2030年までに減少の危機*******
世界自然保護基金(WWF)は6日、森林破壊と気候変動によって2030年までに、アマゾンの熱帯雨林の最大60%が消滅または破壊され、世界各地に連鎖的に影響を及ぼすと警告する報告書を発表した。
世界の主要な二酸化炭素吸収源のひとつであるアマゾンが、気温上昇によって干ばつの危機にさらされており、また森林破壊は「地球の肺」と呼ばれるアマゾン一帯に深刻な被害をもたらしかねないと警鐘を鳴らした。
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南米の森林破壊は年430万ヘクタールで、食肉確保のための牧畜転換や道路建設が主因。
年400万ヘクタールが失われるアフリカ北部の亜サハラでは、木炭製造のための森林破壊が要因と指摘されています。
一方、インドネシアの森林破壊は年間190万ヘクタールに達していると予想されています。
特にスマトラ島の熱帯雨林は、01年の世界銀行報告では“2010年には全滅する”と予測されていました。
特にその後事態が改善したという話もありませんので、全滅の方向で進行中ということなのでしょう。

インドネシアの森林破壊の主要な原因は、皮肉なことに、最近ヨーロッパでCO2対策として需要が急増しているバイオディーゼルのためです。
このあたりの話については、先日TV(NHK クローズアップ現代)で取り上げていました。
私の当ブログでも12月2日(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20071202)であつかいました。

バイオディーゼル原料のアブラヤシ栽培のため森林が破壊されていくだけでなく、それまでCO2を吸収貯蔵していた泥炭層の乾燥で大量のCO2が逆に大気中に放出されます。
そのマイナス影響は、ヨーロッパでのバイオディーゼル変換によるプラス効果をはるかに上回るものになります。

森林の保全・再生のためには、伐採の防止・制限による森林減少防止があります。
再生のためには植林があります。
植林の場合、もともと森林がなかった砂漠周辺地域などでは、用地の確保が困難であるという問題があります。
また、樹木の生長に時間がかかるため、森林減少で排出された量に相当する炭素を再吸収するためには数十年の時間がかかります。

開発途上国の植林を援助促進する仕組みとしては、「クリーン開発メカニズム」(CDM:先進国援助で途上国の森を植林で増やせば、先進国のCO2削減に算入できる仕組み)があります。
しかし、先述のTVで取り上げていましたが、現実にはCO2の取引相場が非常に低いため、植林して炭素クレジットを得ても経済的には全く採算がとれない(1億出資して利益が1000万円程度といったレベル)そうで、実施している企業は“社会貢献・ボランティア”という位置づけでやるしかない・・・という状況で、取り組み例もごく僅かのようです。

なお、今回のCOP13で、増やす植林だけでなく、森が減らないようにする対策を支援しても算入対象とすることになり、パイロットプロジェクトが始まることになりました。
焼き畑農業を続ける農民に別の生計手段を確保するための援助や適切な森林経営の指導などの事業が見込まれています。

森林減少防止については、もっと手っ取り早く、法律で伐採を禁止してしまうこともあります。
アルゼンチンでは、グリーンピース・アルゼンチンなどの市民団体の150万人署名などの活動によって、11月29日に天然林の伐採を中止する国内法が成立しました。
この法令により各州の政府は1年間伐採許可が与えられないそうです。
今後は地方議会と国会の双方が承認しなければ伐採できず、さらに環境影響調査を当局に提出しなければ開発できなくなったそうです。
また伐採承認前の公聴会開催と伐採後の野外での廃材焼却禁止も定められました。
各州の減収は国の自然保護基金から補てんされるそうです。【12月9日 IPS】

しかし、強制的な伐採禁止は違法伐採という抜け穴を生むこともあります。
ジャングルが消えつつあるインドネシアで生産される木材の半分から4分の3近くが違法伐採で、背景には密輸業者の横行などがあるそうです。【12月7日 産経】

また、どのような取り組みも、森の資源を生活の糧にしている現地の人々の生活をどうするのかという視点をなおざりにすると、結局住民の生活を破壊するか、違法伐採が横行する事態になります。
先述のTV番組では現地の人に植林・森林保護へのインセンティブを与える取り組みが紹介されていました。

マイクロクレジットのような小額事業資金を地元住民にNGOが融資します。
融資を受けた住民は、一定本数の植林を行うと利息が免除されます。
更に、植林した樹木の一定割合が成長すると元金返済も免除されるとか。
資金は先進国から出ているみたいでした。
このような融資例として、2万円ほどの融資で魚の養殖を始めた男性とか、肥料・農薬などを販売する店舗を始めた住民などが紹介されていました。

現地で観光旅行をする際、車をチャーターしてガイドを雇うと1日で100ドルぐらいは普通にかかります。
そんな散財をしている身には“耳が痛い”話ではありました。

ただ、代表的なマイクロクレジットであるバングラデシュのグラミン銀行の場合、利率自体は事業資金では20%程度とかなり高くなっています。(それでも現地の金融事情からするとかなり有利な条件なのでしょうが。)
返済も数人の連帯責任で完済が求められます。
先日のサイクロン被害の際にも、大勢の利用者が被害にあいましたが、ノーベル平和賞も受賞したグラミン銀行創始者のユヌス氏は「支払いの免除はしない。返済条件はいくらでも相談に応じる。払えるまで待つ。今免除したら今後何かあるたびに免除を求めるようになってしまう。」という対応でした。

そういうグラミン銀行と比較すると、植林を絡めた先の融資事業は、詳細がわかりませんが、随分と利用者・住民に有利なシステムのようにも思えます。
その分、融資資金のかなりが戻って来ないので原資を常に出資国に頼らざるを得ないことになります。
また、借り手のモラルハザードなどはどうでしょうか?
大規模にうまくまわる仕組みであるなら、非常に結構な話かと思います。

本格的に市場メカニズムを駆使してCO2を減らしていこうとするなら、すべての生産財・消費財がその生産過程でCO2放出・削減にどれだけかかわっているかを何らかの形で明示して、そのスコアに応じた負担を環境税などで求める仕組みが必要でなないでしょうか。
それによってCO2が“コスト”として明確に意識され、生産者はできるだけCO2削減につながる方向に向かいますし、消費者も購入時にその商品がどれだけ環境に負荷をかけているかが確認でき、高負荷商品は割高になるということで需要も抑制される・・・そこまで行けばCO2削減は本格化するでしょう。

そうなると、恐らくCO2相場はいまよりはるかに高くなるでしょうから、炭素クレジットを媒介としたCDMやREDDなどの植林・森林防止援助事業もまた採算がとれるようにもなるでしょう。
言うだけならいとも簡単なことですが・・・。
しかし、もし温暖化に地球の、人類の将来がかかっているのなら誰か検討してもいいのでは?


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