孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベネズエラ  圧力を強化するアメリカ しかし、出口は見えず、怒りの矛先はアメリカにも

2019-08-07 22:17:37 | ラテンアメリカ

(マドゥロ派の集会で、「介入反対」と書かれたプラカードを掲げる女性=2019227日、カラカス、岡田玄撮影【86日 GLOBE+】 こういう支持者に対しては、配給等の面で優遇がなされているのでしょうか)

 

【圧力を強化するトランプ米政権】

このところアメリカ・トランプ政権は、経済破綻で人道的危機も深刻化する南米ベネズエラの反米・左派マドゥロ政権への圧力を強化しています。

 

****トランプ米大統領、ベネズエラに対し断交や封鎖を検討****

トランプ米大統領は1日、ベネズエラに対して断交や交易経路の封鎖といった措置を検討していると述べ、同国のマドゥロ大統領に辞任を迫るための制裁を強化する意向を示した。

トランプ氏は封鎖などの措置を具体的にいつ、どのように実施するかについては説明しなかった。トランプ政権はこれまで、ベネズエラに対する軍事行動は避けつつ、マドゥロ氏に対して外交的、経済的手段で圧力をかける手法に重点を置いてきた。

ベネズエラ情報省はコメントの求めに応じていない。

米国などの西側諸国は野党指導者であるグアイド国会議長をベネズエラの正当な指導者として認める一方、ロシア、中国、イランはマドゥロ氏への支持を表明している。【82日 ロイター】

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****米大統領、ベネズエラ政府資産凍結=マドゥロ政権へ圧力強化****

トランプ米大統領は5日、米国内にあるベネズエラ政府資産の凍結を盛り込む大統領令を出した。米政府が「正統性を欠く」と見なすマドゥロ反米政権に対する圧力強化の一環。

 

大統領令はベネズエラ政府資産凍結のほか、財務省が制裁指定したマドゥロ政権幹部に「物質的、財政的、技術的な支援を行った人物」に関しても、資産を凍結し米入国を原則禁止するよう命じた。【86日 時事】 

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私は“資産”には縁のない貧乏人なのでよくわかりませんが、アメリカがいずれこうした強硬な措置に出ることはマドゥロ政権側も当然に予定したでしょうから、それなりの対応も進めてきているのではないか?、“資産凍結”がどの程度の効果があるのだろうか?といった感も。

 

【出口が見えない膠着状態】

アメリカ側の強硬な姿勢は、事態が膠着して出口が見えないことへの苛立ちのようにも思えます。

アメリカが支援するグアイド「暫定大統領」の求心力も低下しています。

 

****ベネズエラ「2人の大統領」半年 打開の糸口見えず 人道状況は悪化****

南米ベネズエラで独裁的なマドゥロ大統領に対抗し、野党連合のグアイド国会議長が1月に「暫定大統領」就任を宣言してから半年が経過した。

 

米国など50カ国の支持を受け、一時は国内でも高い人気を誇ったが、政権交代の見通しは立たず「2人の大統領」が併存する異常な状況が続いている。また深刻な経済危機で国民の大量流出が止まらず、人道状況も悪化の一途をたどっている。

 

グアイド氏は暫定大統領の就任宣言から半年となった23日、首都カラカスで開かれた反政府集会に参加。マドゥロ氏を「独裁者」と批判し「われわれは勝利しなければならない」と訴えた。

 

だが、現地メディアによると、集まった群衆は数百人。数万人がグアイド氏に熱狂した1月時点の集会と比べ、同氏の求心力の低下が際立っている。

 

グアイド氏は、マドゥロ政権の後ろ盾である軍部の切り崩しを図ってきたが、麻薬組織などと癒着し利益を得てきた軍幹部らは政権を支持したままだ。

 

グアイド氏が4月末に軍部に呼びかけた蜂起が失敗に終わると、約40人が拘束、追放され、野党連合側の弱体化や分裂も指摘されている。「半年たっても何の実権も持てないグアイド氏に国民が失望を感じている」(現地情報筋)という。

 

対立が深まる一方で、5月にはノルウェー政府の仲介でマドゥロ政権側と野党連合側の直接対話が開始され、今月もカリブ海のバルバドスで協議が行われた。

 

ただ、昨年5月に行われた大統領選のやり直しを求める野党連合側に対し、マドゥロ氏は、野党連合側の弱体化を狙い国会議員選挙の前倒しを要求。議論は進展がみられない。

 

反米のマドゥロ政権打倒を画策し、グアイド氏に暫定大統領就任宣言を促した米国も有効な手立てを打てないままだ。

 

米メディアは、トランプ大統領はグアイド氏による蜂起失敗で「側近に激怒した」と報じており、以降はベネズエラ問題ではなく、イラン問題への言及が目立つようになった。

 

石油産業への制裁で外貨獲得手段を封じ、政権関係者に経済制裁を発動するなど圧力を強めているが、トランプ氏自身も「体制転換には時間がかかる」と述べるなど手詰まり感が漂う。

 

一方、マドゥロ政権を支持するロシアは、ベネズエラに軍人を派遣するなどして両国間の軍事協力を強化しており、米露のにらみ合いが続く。

 

国連は6月にベネズエラから逃れた難民や移民が400万人に達したと発表。7カ月で100万人も増えたとし「驚異的な流出スピード」と指摘した。慢性的な食料や医療品不足が深刻化し、今年末までに国外流出者はさらに100万人増えるとの観測もある。【727日 産経】

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アメリカだけでなく南米諸国を含めた国際圧力も、マドゥロ批判を続けてはいますが、有効な手立てを見いだせていないのが実情です。

 

****対ベネズエラの外交圧力に限界 リマ会議、盛り上がり欠く****

南米ペルーの首都リマで6日開かれた南米ベネズエラ情勢を巡る約60カ国による外相級国際会議は、反米左翼マドゥロ政権の友好国ロシアや中国などが欠席する中で盛り上がりを欠いた。

 

共同声明を発表したり事態打開のための有効策を打ち出したりすることはできず、外交圧力の限界を露呈した。

 

「われわれは武力ではなく、平和的な解決を模索している」。主催国ペルーのポポリシオ外相は終了後の記者会見で、ベネズエラ人記者から「政権側にその意思がないのに、なぜ自由で民主的な大統領選実施を要求し続けるのか」と問われ、従来の姿勢を繰り返した。【87日 共同】

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【アメリカが圧力を強めるほどに暮らしは追い詰められ、怒りの矛先は政権からアメリカへと向かうことにも

食べることもままならない状況に市民生活を追いやった失政を続けながらも、マドゥロ政権がなかなか倒れない、その“しぶとさ”については、これまでもしばしば取り上げてきました。

 

さすがに国民の支持は失いながらも、それでもマドゥロ政権が権力を維持している背景には、既得権益を共有する軍上層部の政権支持、昨年だけで5千人以上が“超法規的処刑”されたというような民兵組織を使った暴力支配、対外的なロシア・中国の支援もありますが、それまで政治的に無視されてきた貧困層に莫大な石油収入を元手に手厚い支援を行ったチャベス前大統領の遺産、南米で我が物顔に介入を繰り返してきたアメリカへの反感もあります。

 

****ベネズエラ危機はなぜ膠着するのか 理解するカギは「アメリカ」にある****

乾いた皮膚に浮き上がる骨、うつろなまなざし。今年5月にベネズエラ西部マラカイボで出会ったミゲル・ブランコ(25)には、たかるハエを払う力さえ残っていなかった。スラム街を歩くと、衰弱した人々がそこかしこにいた。かつて、このスラムの住民のほとんどが政権を支持していたというが、今は違う。

 

今年2月、カラカスで与党の集会の取材中、警備する警察官が声をかけてきた。チャベスが生きていたころは、この大通りや周囲の通りを500メートル以上にわたり、群衆が埋め尽くしていた、と説明する。

「動員なんてなかった。みんな、チャベスをひと目見たがっていた」 

 

この日の光景は対照的だった。近くの州からも支持者を乗せたバスやトラックが次々と到着するが、大通りは300メートルも埋まらない。「少ないな」とつぶやいた警察官は、「実は」と続けた。「国境近くに転勤したら、国から逃げたいんだ」。そう小声でささやくと、仕事に戻った。

 

経済が崩壊し、深刻な人道危機の広がりを前に、マドゥロ政権は急速に支持を失っている。経済だけが問題ではない。はびこる汚職に庶民は怒りを募らせている。

 

当初は人道危機はないとしていたマドゥロ政権は、今では「米国の経済制裁が原因で危機になった」と主張を変えた。だが、汚職を目にし、制裁以前から変わらない苦しい生活を実感し続けている人々は、政権の説明をもはや信じていなかった。

 

しかし、だからといって、庶民が反政権派に単純に肩入れしているわけでもない。

 

■チャベスが語った「世界の真実」

高層ビルが整然と立ち並ぶ周囲の斜面を、ブロックを積み上げた家々が無秩序に埋め尽くす。標高900メートルを超す盆地に広がるカラカスの光景は、この国の貧富の差を映し出す。

 

大統領府近くのスラム「123日」地区。カラカスを見渡す、この斜面の頂上には、2013年に亡くなったチャベス前大統領の遺体が安置される「山の兵舎」と呼ばれる施設がある。

 

その近くに、小さなほこらがあった。チャベスとイエス・キリストの像が並ぶ写真が貼られ、マリア像とともにチャベスの像がいくつもまつられていた。ベネズエラ独立の英雄、シモン・ボリバル(17831830)の肖像もある。近所のエリサベス・トレス(54)がチャベスの死の直後から守り続けてきた。

 

トレスは「チャベスが大統領になるまでは、食事にも事欠く暮らしをしてきた私たちにとって、チャベスは神様なのよ」。民兵のエドゥアルド・シャイコ(65)は「われわれの永遠の司令官、チャベスに目を見開かされた。世界の真実を知ったんだ」と力説した。

 

彼らが語る「世界の真実」とは、「米国とその手先の富裕層が、ベネズエラや中南米の富を奪い、人々を貧しいままにしてきた」という歴史観だ。

 

貧困を余儀なくされてきた人々にとって、この歴史を打ち壊そうと語ったチャベスの言葉と行動を支持することは、彼らが人間として扱われる「新しい世界」の建設を実現することに他ならなかった。

 

シャイコは言う。「真実を知った人間は、二度と後戻りはしない。革命と祖国を帝国主義者から守ることが重要なんだ」

 

■米国の圧力が生むジレンマ

チャベスの思想の源流、シモン・ボリバルはスペインの植民地だった中南米を一つにまとめ、鉱物資源を国有化し、先住民や黒人も平等に扱おうとした人物だ。自身の政策を「ボリバル革命」と名付けたチャベスは、国名も「ベネズエラ・ボリバル共和国」に改めた。

 

だが133月、チャベスはがんでこの世を去る。後継指名された副大統領ニコラス・マドゥロは「私はチャベスの息子だ」と演説した。ボリバル、チャベス、マドゥロへと歴史、そして物語をつなげた。

 

長年政権を支持してきた電気工のマルコス・ペニャ(62)は、この3人の肖像が描かれた壁を見ながら言った。「ボリバルは神、チャベスはその息子。マドゥロは、チャベスの息子だ」

 

中南米は「米国の裏庭」と言われた。冷戦期、キューバ革命が起こると、米国は幾度となく革命政府の転覆を図った。社会主義政権が誕生したチリをはじめ、米国に不都合な政権があればクーデターを支援。そして、米国の後押しを受けた各国の軍事政権は、左翼活動家を逮捕、拷問し、殺害した。

 

1980年代以降は、米国と国際通貨基金(IMF)が主導する「新自由主義」が南米大陸を席巻した。国家財政の立て直しのため、公共部門が縮小され、国営企業の民営化や市場経済の導入が進んだ。米国などの外国資本の影響力が増し、貧富の差は拡大した。

 

チャベスの訴えは、記憶を共有する中南米の貧困層や左派にも響いた。チャベス政権は高騰する原油の販売で得た収入を、国内の低所得者層だけでなく、周辺国の左派陣営にも提供。相次ぐ左派政権の誕生につながった。

 

マドゥロ政権の退陣を求める米トランプ政権は、反政権派で暫定大統領就任を宣言したグアイド国会議長への露骨な支援を続けている。

 

だが、グアイドは4月、軍に離反を呼びかけたものの失敗。政権交代を求めるデモに連日参加していた国民の期待は一気にしぼんだ。

 

マドゥロ、グアイド双方が大衆の支持を失うなか、米国は経済制裁を続けるが、圧力を強めるほど、庶民の暮らしは追い詰められる。

 

「苦しめているのは米国だ」。この記憶がよみがえれば、怒りの矛先はマドゥロ政権から米国へと向かうことになる。チャベスを生んだ火種は、いまもくすぶり続けている。【86日 GLOBE+

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現実問題としては、グアイド氏が支持を失った今、事態を変える力を持つのは軍部だけでしょう。

経済状況がいよいよ困窮して、軍上層部が享受してきた既得権益が失われることがあれば、政権と軍の間に対立も・・・ということぐらいしか想定できません。

 

その間、国民の苦難は更に深刻化しながら続くという、やりきれない現実です。

 

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