孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

サウジアラビア  オリンピックへの初の女性選手参加 女子スポーツに関する国内・国外の障害

2012-06-27 22:36:35 | 中東情勢

(サウジアラビアにも女子サッカーチームがあるのでしょうか?。なお、本文最後に取り上げている失格となったイラン女子サッカーチームは、ヒジャブを含めて上記写真よりずっと活動的なユニフォームでした。 “flickr”より By AslanMedia http://www.flickr.com/photos/aslanmedia_official/6966877099/

【「中東で唯一女性蔑視を続ける国」のレッテルを回避
イスラム教の中でも戒律に厳しいワッハーブ派が国教となっているサウジアラビアでは、日本や欧米の感覚からすると、女性の権利が著しく制約されているように見えます。

そうしたなかで、徐々にではありますが、国際的価値観に併せて女性の権利を拡大する動きもみられます。
2011年6月22日ブログ「サウジアラビア  女性の自動車運転解禁を求める動き クリントン米国務長官も支援」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110622)では女性の自動車運転に関する動きを、
2011年9月27日ブログ「サウジアラビア  女性の参政権を認めることで「アラブの春」に対応」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110927)では女性参政権に関する動きを取り上げました。

オリンピックへの女性参加も宗教界に強い反対論がありこれまで認められてきませんでしたが(オリンピックどころか女性の体育授業も認められていません)、女性の社会進出支援を進めるアブドラ国王の主導で参加解禁が決定されました。

この件に関しては、先ごろ亡くなったナエフ・ビン・アブドルアジズ皇太子が3月に女性の参加を認める旨の発言をして注目されていました。

****女性の五輪出場を認めたサウジの思惑****
女子には体育の授業さえ受けさせないサウジアラビアで、皇太子がロンドン五輪に女性選手が出場することを認めると電撃発言した理由

サウジアラビアから驚きのニュースが飛び込んできた。今年夏にロンドンで開かれる夏季オリンピックに、女性が出てもかまわない――筋金入りの保守で知られるナエフ・ビン・アブドルアジズ皇太子がそう発言したというのだ。
女性の権利が制限されるサウジアラビアでは、これまで女性がオリンピックに出場したことは一度もない。出場が実現すれば、同国の女性の権利拡大につながる大きな一歩になるかもしれない。

アルジェリアのアル・ハヤト紙によれば、ナエフは「女性としての品位を保ちつつ、イスラム法と矛盾しない」形でなら、という条件付きで女性選手の出場を認めたという。
さらに、サウジアラビアの女性スポーツ解説者リーマ・アブドラが同国の聖火ランナーの1人に選ばれたと、中東の衛星放送アルアラビーヤは伝えた。

一方、国際オリンピック委員会(IOC)は、最近行ったサウジアラビア当局者たちとの会談はとても「建設的」だったとしている。「サウジアラビアは女性選手の出場に向けて動いていると確信している」と、公式発表でも述べている。

激しく「動いたり跳ねたり」はご法度
しかし、楽観的な見方ばかりではない。イギリスに拠点を置く中東専門のニュースサイト、ミドル・イースト・オンラインは、今回のナエフの発言はアラブの春のような抗議運動をかわすための取り組みの一環だと指摘する。「若者に広がる反体制的なムード、そしてスポーツをする機会を求める女性の声の高まりに応えるものだ」

米人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの研究者で、先ごろサウジアラビアの女性選手への差別に関する報告書を手がけたクリストフ・ウィルケも、厳しい見方を示している。「飾り物の女性を突然引っ張り出して、すべて順調だと言っても通用しない」と、ウィルケはロサンゼルス・タイムズ紙に語った。「いいステップではある。しかしサウジアラビアでは、女性のスポーツ文化そのものを生み出す必要がある」

サウジアラビアの女性選手がオリンピックの出場基準を満たせるか、疑問視する声もある。同国の公立学校は、女子が体育の授業を受けることさえ認めていないからだ。
ロイター通信の報道によれば、かつてサウジアラビアの最高宗教学者会議のトップは、若い女性がスポーツで激しく「動いたり跳ねたり」すると処女膜が破れ、処女性が失われると懸念していたという。

これまでオリンピックに女性選手を送り込んだことがないのは、サウジアラビア、カタール、ブルネイの3カ国だけ。カタールは既に、ロンドン五輪に女性選手が出場することを認めると発表している。実態はどうあれ、サウジアラビアもこれに続かなければ、「中東で唯一女性蔑視を続ける国」のレッテルを貼られかねない――そんな危機感が今回のナエフの発言の背後にはあったのかもしれない。【3月26日 Newsweek】
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“女性の権利拡大”に理解を示したというよりは、国内の体制批判や、国際的女性蔑視批判をかわす・・・そんな狙いの措置のようですが、まあ、それでも一歩前進とは言えるのでなないでしょうか。

参加選手は選考中
そんな動きを受けて、サウジ五輪委は今月中旬、女性参加の最終決定し、25日には馬術競技(個人障害飛越)の選手が有力との報道がなされました。

****サウジアラビア:ロンドン五輪に女性選手初出場へ****
サウジアラビア五輪委員会はロンドン五輪(7月27日開幕)に女性選手の出場を初めて認めることを決めた。英メディアが報じた。女性のスポーツ参加には国内イスラム教右派から強い反対があるが、サウジ政府は女性の権利拡大の姿勢を国際社会にアピールする必要に迫られたようだ。

英BBC放送などによると、サウジ五輪委は今月中旬、女性参加の最終決定を行ったが、ナエフ皇太子の死去(16日)で正式発表が遅れているという。
保守的なイスラム教国のサウジは、国内では女性の体育教育さえ禁じている。今回、女性参加の条件として、ヘジャブ(女性の頭髪を隠すスカーフ)着用などを選手に求めるとみられる。馬術競技(個人障害飛越)のダルマ・マルハス選手が有力だ。

国際オリンピック委員会(IOC)によると、過去の五輪に女性選手を1人も出場させていないのはサウジ、カタール、ブルネイの3カ国。いずれもイスラム教の影響の強い国だが、IOCは3カ国にロンドン五輪への女性参加を許可するよう求めていた。カタール、ブルネイも女性の参加を容認するとみられている。【6月25日 毎日】
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馬術なら肌の露出がありませんのでサウジアラビア当局としても認めやすいのでは(ただし、激しく「動いたり跳ねたり」する競技ですが)・・・とも思ったのですが、翌日には馬術のダルマ・マルハス選手は参加資格がない旨の報道がなされています。

****消えた五輪出場、サウジが初許可の女性選手****
公の場での女性のスポーツ参加を禁止しているサウジアラビアが、女性選手の五輪出場を初めて許可したと報道された馬術競技のダルマ・マルハス選手(20)について、国際馬術連盟(FEI)は25日、同選手は最低限の資格基準を満たしていないため出場できないと発表した。

マルハス選手は7月27日に開幕するロンドン五輪で、サウジアラビアから初めて出場する女性選手になると報じられたばかりだった。
ロンドン五輪の出場資格の認定期間中、マルハス選手は愛馬が負傷したため1か月間、指定競技会に出場できず、必要資格を満たせないまま認定期間は6月17日に期日を迎えたという。

FEIのイングマール・デボス事務局長は「しかし他の競技では国際五輪委員会(IOC)が現在、多くのサウジアラビアの女性選手の選考を行っていると理解している」と付け加えた。【6月26日 AFP】
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国歌演奏が終わると、審判が突然失格を宣言
イスラム圏の女子スポーツには多くの障害があります。
国内の障害はもちろんですが、イスラムの特殊性に関する国際的な障害もあるようです。
サウジアラビアよりは女性の社会進出が許されているイランの女子サッカーチームの“悲劇”が話題になったこともあります。

****服装の悲劇に泣いたイランのなでしこ****
国際サッカー連盟がイラン女子チームの12年ロンドン五輪予選への出場を禁止。試合中のスカーフ着用が規則違反と言うが……

6月3日、アンマン(ヨルダン)のスタジアム。女子サッカーのイラン代表チームの面々がピッチに姿を現した。12年のロンドン・オリンピック出場を目指して、8カ月にわたり過酷なトレーニングを積んできた。この日のヨルダン戦は、アジア2次予選の重要な第1試合だった。

選手たちのユニホームは、長袖シャツに長ズボン、そしてヒジャブ(頭から首を覆うスカーフ)。イスラム教の伝統に従った保守的な服装だ。

国歌演奏が終わると、審判が突然宣言した──イランのユニホームはFIFA(国際サッカー連盟)の規定に違反しており、出場資格がない、と。
この瞬間、オリンピックの夢が断たれた。数人の選手は茫然とピッチに膝をつき、泣き始めた。「愕然とした」と、キャプテンのニルーファー・アルダラン(25)は本誌に語った。「落胆を隠そうにも隠せなかった」

事件は大きな波紋を生んだ。接触プレーの際に首が絞まる危険があるのでヒジャブ禁止は妥当だとFIFAは言うが、人種差別的・性差別的だとの批判が上がっている。この措置によりイスラム教徒の女子選手全般の出場資格が奪われかねない。

イランの女子サッカー選手は、これまでも十分過ぎるほどの障害にぶつかってきた。この国の女性は、公の場で髪の毛と首、腕、脚を露出することが法律上許されておらず、保守派は公衆の面前で女性がスポーツをすることすら認めてこなかった。

長年の働き掛けの結果、05年にようやく女子サッカー代表チームが結成されたが、女性スポーツ選手への逆風はやんでいない。イランの高位の宗教指導者であるアリ・サフィ・ゴルパイエガニは昨年、スポーツで女子選手がメダルを取るのはある種の「恥」だと言っている。

それでも、女子サッカー選手たちは努力を続けてきた。(後略)【2011年9月7日 Newsweek】
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“国歌演奏が終わると、審判が突然宣言した”というのは、選手たちにとってあまりにむごい措置のように思えます。ヒジャブが駄目ならもっと早い段階でその旨を伝えておくべきでしょう。イランへの嫌がらせという訳でもないでしょうが・・・・。
国内の女子スポーツへの偏見・蔑視を乗り越えてきた女性への配慮があってしかるべきでしょう。

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