孤帆の遠影碧空に尽き

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イスラエルと日本 政治的障壁を超える「人手不足」という経済的要請 政治打破の一歩か、さらなる悪化か

2018-11-14 23:17:24 | パレスチナ

(韓国で日本企業100社超が集まる就職面接会で、リクルートスーツ姿で詰めかけた韓国人学生ら=7日、ソウル市内【11月10日 産経】)

【イスラエル 政治的な壁を越えて進むパレスチナ人雇用】
継続的に高い緊張状態が続いているパレスチナ・ガザ地区では、11日から13日にかけてイスラエル軍とハマスなどパレスチナ武装組織との間で激しい衝突があったものの、エジプトの仲介などもあって、一応“停戦”が合意されています。

ただ、依然として不透明な情勢であることには変わりありません。

****応酬激化のガザ衝突で停戦合意 ハマスとイスラエル****
パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスなどの武装組織は13日、攻撃の応酬が激化していたイスラエルと停戦に合意したと発表した。イスラエルのメディアなどによると、同国当局者も合意を認めた。停戦はエジプトなどが仲介した。

合意を受け、13日夜から双方の攻撃はおさまりつつある。ただ、イスラエルは治安閣議を開き、必要に応じて作戦を続けるよう軍に指示。ハマスもイスラエルが攻撃すれば抗戦する構えで、情勢は見通せない。

イスラエル軍の特殊部隊が11日、ガザ地区に侵入して銃撃戦になり、ハマス軍事部門幹部を含む7人とイスラエル軍幹部1人が死亡した。

ハマスなどは12〜13日、イスラエル側に約460発のロケット弾などを発射し、1人が死亡。イスラエル軍は武装組織の拠点約160カ所を空爆し、7人が死亡した。

2014年夏の大規模戦闘以来、最大規模の攻撃の応酬で、事態の悪化が懸念されていた。【11月14日 朝日】
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上記のような緊張・衝突は残念ながら毎度のことではあり、イスラエルとパレスチナの間の交渉を途絶え、和平の道筋が見えない状況にあります。

パレスチナ側、イスラエル側双方に、相手への不信感が募り、フラストレーションが高まっていることは、10月30日ブログ“改善しないパレスチナ情勢 形骸化するオスロ合意の枠組み アラブ・世界にひろがる現状是認の動き”でも取り上げました。

そうした政治的動きとは別に、イスラエル側の「人手不足」という経済的事情から、イスラエル企業に雇用されるパレスチナ人が増加しているという、ちょっと意外なニュースも。

****IT大国イスラエル、パレスチナ人求む 政治より仕事、若い世代に強い就労意欲 ****
イスラエルのハイテク企業各社は、深刻な労働力不足に対処するため、ヨルダン川西岸のパレスチナ人の雇用を迫られている。和平合意がなく、政治的緊張が続く中、イスラエルとパレスチナの新たな経済的結び付きが確立されつつある。

イスラエル政府によれば、「スタートアップ大国」の異名の元となった同国の革新的技術分野は、ソフトウエアプログラマーやエンジニアなど1万人の人手不足に直面している。これは、隣国との戦争を除けば、同国の経済成長にとって最大の脅威の一つとなっている。

イスラエルの人材に高い報酬を払うことをいとわないアルファベット傘下のグーグルやアマゾン・ドット・コム、マイクロソフトなどの米国企業との競争もその一因だ。イスラエルの移民関連の法規も、ユダヤ人以外の技術を持つ労働者を海外から呼び込むことを難しくしている。

ヨルダン川西岸に本社を置くパレスチナ人労働者の人材会社、アサル・テクノロジーズのMurad Tahboub最高経営責任者(CEO)によれば、現在約1000人のパレスチナ人エンジニアが、イスラエル企業や国際的な企業で働いている。これは前年をおよそ10%上回る水準だという。

アサルに在籍するコンピューターエンジニアのOday Dahadha氏(25)は、2014年にイスラエルのハイテク、ハードウエア企業であるメラノックス社との業務契約で働き始めるまで、イスラエル人と会ったことがなかった。

Dahadha氏は「他の国際的企業で働くのと同じだ」と話す。何年もの仕事を通じてプログラミング言語のパイソンを習得したので、いつか自分の会社をつくりたいと語る。

ヨルダン川西岸を活動拠点とするDahadha氏は、メラノックス社の会議に出席するため、年に10回ほどテルアビブを訪れるが、その際に検問所を通過するのに何時間も費やすのは「いい気分ではない」という。

パレスチナ人はかつて、好調なイスラエルのハイテク業界において、まれな存在だった。多くのパレスチナ人は、和平合意なしにイスラエルの企業で働くことに反対している。こうしたつながりが、ヨルダン川西岸地区とガザ地区におけるイスラエルの支配の現状を固定化してしまうことを恐れているのだ。

著名なパレスチナ人実業家、ムニブ・アルマスリ氏は、「われわれはこれらの(イスラエル)企業と対等な立場でビジネスができることを望んでいたが、今は一切のビジネスをしていない」と話す。同氏はかつて、世界経済フォーラムを通じ、米オバマ前政権の和平への取り組みを支援する方法について、イスラエルの企業幹部と話し合ったことがある。同氏は和平合意が実現するまで、イスラエル企業と協力するのをやめていると話した。

一方で、一部のイスラエル人は、暴力や政治的な変動がパレスチナ人労働者とのビジネスを阻害する恐れがあることを懸念している。

だが、イスラエルの人材不足の深刻さや、イスラエル企業が提示し得る高い給与が、政治的な壁を壊しつつある。

前出のTahboub氏は、「イスラエルの市場に需要があればあるほど、彼らは人材を求めて隅々まで探し回るようになるだろう」と話す。

イスラエルは輸出の半分近くをハイテク分野に依存している。ハイテク業界などを支援する政府機関、イスラエル・イノベーション庁の主任科学者、アミ・ アペルバウム氏は人手不足が続けば、経済成長が停滞するだろうと述べる。

イスラエルの需要は、失業率が18%を超えるヨルダン川西岸地区の経済を拡大しようとするパレスチナの取り組みと融合し、一つの国家のような金融基盤を築きつつある。

パレスチナの情報通信技術企業を代表する統括組織「パレスチナ情報技術企業協会」によると、パレスチナの大学は毎年、情報技術(IT)分野の卒業生を2500〜3000人輩出しており、その多くはイスラエル企業が提供する就労経験や高い給与を欲しがるという。

1年前にヨルダン川西岸地区のエンジニアを雇用し始めたイスラエルのヘルツリーヤに本拠を置くアウトソーシング会社、ワン・エクセキューション・ハブのエリラン・シャロン氏は、「高齢の世代にとっては政治の問題のほうが重要だが、若いパレスチナ人は働きたいという気持ちの方が強い」と話す。

トランプ米政権では和平案の作成に際し、担当チームがハイテク分野のイスラエル人、パレスチナ人の双方と協議している。この和平案は今後数カ月のうちに公表される見通し。ドナルド・トランプ大統領が昨年12月、(テルアビブの)米大使館をエルサレムに移転し、同市をイスラエルの首都と認定すると発表して以来、パレスチナの政治指導者たちはトランプ政権との接触を拒否している。

それでもイスラエルのハイテク企業幹部は、地理的に近いパレスチナの労働力の方がいまよりも活用する余地があると指摘する。(中略)

イスラエル経済紙ザ・マーカーによれば、イスラエル人エンジニアの平均年収が13万ドル(約1480万円)前後なのに対し、パレスチナ人エンジニアの場合は平均4万2000ドルだ。

Dahadha氏の勤務するメラノックスのパレスチナ人社員数は全社員数の約4%の145人で、パレスチナ人の雇用数としては同国最大という。同社ではパレスチナ人の雇用拡大を計画している。

パレスチナ人の採用には想定していなかった利点もある。9月のユダヤ教の祭日でイスラエル国内のほとんどの社員が休みだった際、同社最大の顧客である米マイクロソフトに影響を及ぼす恐れのある問題が発生した。

 同社のエヤル・ウォルドマンCEOによると、「パレスチナ人の社員たちが問題を把握し、解決した」という。同CEOは同社がパレスチナ人を採用するのは経済面での合理的理由があるからだと指摘、「われわれは慈善事業ではない」と述べた。【11月12日 WSJ】
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【日本でも外国人労働者の受け入れ拡大 就職難の韓国からは日本企業就職の動きも】
深刻な人手不足が経済にとって大きな障害となり、これまでとは異なる外国人労働者への対応を余儀なくされている点では、これまで同様に移民政策はとらないとしている日本もイスラエルと非常によく似た状況にあります。

****外国人材に首相「上限」 試算、5年で最大34万人 法改正案審議入り****
外国人労働者の受け入れ拡大に向けた出入国管理法(入管法)改正案の審議が13日、衆院本会議で始まった。安倍晋三首相は受け入れ見込み数について近日中に業種別に明らかにする考えを示した上で「上限として運用する」と語った。

受け入れ数の上限規制は国会審議で焦点の一つとなっており、政府として上限を設定する方針だ。

首相はこの日の答弁では受け入れ見込み数を示さなかったが、「分野別に、5年ごとに向こう5年間の見込み数を示す」と明らかにした上で、「受け入れ業種における大きな経済情勢や雇用情勢への変化が生じない限り、上限として維持される」と答弁した。(中略)

政府は外国人労働者の受け入れ先として14業種を検討。受け入れ人数について、初年度の2019年度は約3万3千~約4万7千人、23年度までの5年間で約26万~約34万人と試算していることが13日、関係者への取材でわかった。厚生労働省の2017年の統計では、国内で働く外国人は過去最高の約128万人となっていた。

また、人手不足の規模は初年度で約61万~約62万人、19年度からの5年間で約130万~約135万人に上ると見込んでいることもわかった。政府は数値についてさらに精査したうえで、14日に国会に示す方針。

改正案には、人手不足が解消すれば新たな受け入れを中止・停止する措置が盛り込まれている。
野党が「受け入れ停止となったらすぐに帰国させるのか」と指摘すると、首相は「すでに在留する外国人材の在留を打ち切り、直ちに帰国させるということは考えていない」と答弁。雇用契約が続く限りは在留が認められるとの見解を示した。

改正案は、政府が指定した業種で一定の能力が認められる外国人労働者を対象に「特定技能1号」「2号」の在留資格を新設することを柱とする。政府は来年4月の新制度導入を表明。そのためには今国会での改正案成立が必要となっている。【11月14日 朝日】
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また、イスラエルとパレスチナほどの対立ではないにせよ、日本に対する根深い不信感を持つ韓国の若者らにも、政治問題よりも経済を優先させる動きが出ています。

****日本企業面接会に韓国の若者2000人超****
元徴用工訴訟で日本企業に賠償を命じる最高裁判決が出た韓国で、日本企業112社が参加した就職面接会が開かれ、2000人超の若者が集まった。

国際信義にもとる判決に日本からの批判は強いが、就職難の韓国の学生にとって日本企業はなお有望な就職先だ。歴史認識をめぐる日韓関係の冷え込みをよそに、就活戦線は熱気を帯びていた。

7日、ソウルの「日本就職博覧会」会場はスーツ姿の若者であふれていた。25歳の男子学生は「韓国では努力しても報われない。歴史認識は違うが機会を与えられれば日本に感謝しないと」と言う。博覧会は韓国への投資誘致などを担う大韓貿易投資振興公社(KOTRA)が主催した。
 
経済協力開発機構(OECD)によると韓国の若年層失業率(15~24歳)は2017年、10・3%(日本4・7%)と高い。大企業を目指して学歴や成績、語学力といった“スペック”競争は激しく、海外を視野に就活する学生も多い。
 
情報系の専門大学を来年卒業する趙秀珍(ジョ・スジン)さん(20)は「日本で就職した先輩から中小企業でも労働環境がいいと聞いて数社面接を受けたが、技術力や人間性を評価してくれると感じた」と好印象を語った。(中略)

■「国と個人の問題は別
人材が欲しい日本企業側と就職したい韓国学生側のニーズは一致し、竹島や慰安婦、徴用工と歴史認識をめぐる問題が次々と持ち上がるなかでもKOTRA主催の面接会に参加する日本企業は毎年増加。面接会を通した日本企業への就職者数も年々増えている。

面接を受けたのは書類選考を通過した人たちだ。多くの若者が「国と個人の問題は別。日本を旅行し日本人が親切だと知っている」と話した。日本のメーカー採用担当者も「判決のビジネスへの影響は心配だが相互理解の姿勢も必要」と、採用の続行に意欲を示す。
 
KOTRAの鄭●(=火へんに赫)(チョン・ヒョク)グローバル雇用創出室長も「韓国の学生はグローバル企業で活躍できる語学力があり、文化的に近い日本で適応しやすい。日韓は問題もあるが人材を交流して互いに発展していきたい」と、熱心にアピールしていた。【11月10日 産経】
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【政治的障壁を突き崩す一歩となるか、あるいは、状況を悪化させるだけに終わるか・・・】
こうしたイスラエルや日本の状況は、政治的には改善が厳しい状況に風穴をあけて変化をもたらすきっかけともらりうる動きですが、実際に関係改善への一歩となるか、あるいは国民感情を刺激するような事態を招き、関係をさらに悪化させるだけに終わるかは、政府の問題への取り組み姿勢によります。

イスラエルの場合は、パレスチナとの共存という国家的安全保障にかかわる問題ですし、今後急速に人口減少が進む日本の場合、韓国人に限らず、中国人、東南アジア諸国からの労働者を含めて、これまでのように門戸を閉ざした社会を続けるのか、共存の道を模索するのかの試金石ともなります。

日本について言えば、日本国内の外国人労働者の境遇には多くの問題があり、単に受け入れを拡大すれば経済的に助かるという問題でもありません。

受け入れる外国人労働者の人間としての境遇を守るためにも、あるいは、ある程度は不可避的に発生するトラブルで外国人への抵抗感も強い一部国内世論を刺激し、社会全体の排外的方向への変質を招かないようにするためにも、慎重な配慮が必要とされる問題です。

中国も、日本の対応を注視しています。

****中国人技能実習生の待遇問題に再び注目が集まっている―中国メディア****
2018年11月13日、中国新聞網は、日本の外国人労働者受け入れ拡大政策発表を受け、「中国人技能実習生の待遇問題に再び注目が集まっている」と伝えた。

7日の参院予算委員会での報告によると、日本に住む外国人技能実習生が失踪する理由として最も多いのが「賃金に対する不満」で、全体の87%に達した。

ある中国人技能実習生の男性は、仕事中に機械で手の指を切断したものの、会社側は治療費用を払わなかったばかりか、帰国を促したという。

また、別の中国人実習生の女性は、縫製工場で働いていたが、残業の時給はわずか300円だと訴えた。さらに、別の女性実習生は、会社側に配置換えを求めたが聞き入れられず、うつ病になって飛び降り自殺を図ったという。

中国新聞網は「日本の社会や世論は、外国人技能実習生の労働環境が劣悪で、賃金は低く抑えられ、安全面でも問題があると認識している。日本政府は実習生の権利を保証していない。今後外国人労働者の受け入れを拡大するのであれば、まず環境整備を進めることが必要だ」と指摘した。【11月14日 レコードチャイナ】
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野党側の対応は、政策論議で政府案の問題点を改善していくというよりは、政治的に対決姿勢をアピールする方針とも指摘されており、そうなると政府・与党側は数の力でこれを抑え込み、原案の問題点を残したままスタートする事態も懸念されています。


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