孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  国王不在の政治空白 強権的軍事政権への不満が噴き出す「最悪シナリオ」も

2016-11-05 21:21:05 | 東南アジア

(12月1日即位も報じられているワチラロンコン皇太子 プミポン国王死去に伴う大きな空白を埋めることができるか・・・ 写真は【11月3日 中日】)

王制批判取り締まり強化
先月13日にプミポン国王が死去したタイでは国王・王室が国民から深く敬愛されており、その点では日本とも近しいものがあります。
ただ、そこには当然ながら決定的な差異もあります。

日本でも、私が若い頃に比べると、天皇あるいは天皇制というものに対して批判的・消極的な表現はあまり目にしなくなったような気がします。そうした考え方の人が少なくなったのか、そうした表現をすることを控えるような風潮がなんとなく強まったのか・・・。

タイは“なんとなく”ではなく、不敬罪が厳然として存在する国であり、単に国王が深く敬愛されていたというだけでなく、国王・王室への批判的言及は厳しく罰せられます。

更に言えば、クーデターで権力を得たプラユット暫定首相の現行軍事政権は、国王権威を後ろ盾に、国王を頂点する伝統的社会的秩序を維持しようとしていますので、国王・王室に対する批判は、“国体”批判・政権批判ということにもなります。

****王室侮辱者は国を出て行け」=タイ国家警察長官が非難****
タイ国家警察のチャクティップ長官は26日、プミポン国王が13日に死去して以降、警察が捜査している不敬罪事件が20件に上ると明らかにするとともに、王室を侮辱する者は「国を出て行くべきだ」と非難した。首都バンコクの国家警察本部で記者団に語った。
 
チャクティップ長官は不敬罪容疑者について「タイで暮らしたくないのなら、国を出て外国で暮らすべきだ」と批判。「航空券を買うお金がなければ私のところに来い。私が買ってやる」と続けた。【10月26日 時事】 
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****タイ政権、王制批判取り締まり強化 24時間ネット監視*****
軍主導のタイの暫定政権が、王制を批判する「不敬行為」を取り締まるため、ネット言論の監視を強めている。

24時間態勢の監視機関を設置し、不適切と判断したウェブサイトを遮断するため、グーグルなどに協力を要請している。プミポン国王死去後の社会の動揺を防ぐためとしている。
 
監視機関は約100人態勢の「サイバーセキュリティー作戦本部」。政権は21日にグーグルとユーチューブの担当幹部を首相府に呼んで、王室の名誉を傷つけたり、タイ国民の間の対立をあおったりするような内容のサイトや動画を遮る手段に関して協力を求めた。27日にはLINE(ライン)の代表者と会談。近くフェイスブック側とも協議するという。
 
英字紙バンコク・ポストによると、1日平均30~40のサイトのアドレスが遮断され、ユーチューブの動画もおよそ100のアドレスが見られなくなっている。グーグルは27日、朝日新聞に「各国政府からの削除要請に対しては明確で一貫した対処方針が我が社にはある。タイでそれを変更することはない」と回答した。
 
プラユット暫定首相は国王が死去した13日から王制批判への厳しい対処を始めた。一方、国民の間でもソーシャルメディア上で不適切な言動をした者を割り出して暴力を振るうなどの「社会的制裁」が目立ちはじめ、政権は「制裁は司法機関にゆだねよ」として対応を強化した。
 
政権は、国外で王制批判を続けているタイ人を不敬容疑者として各国に引き渡しを求めることも決め、法務省が外務省を通じて関係各国に協力を要請した。【10月29日 朝日】
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政治空白を招く皇太子即位の遅れ
こうしたタイ政治にあって、国王の死去は大きな政治空白ともなりますが、ワチラロンコン皇太子(64)の即位が先延ばしにされていることが、皇太子の国民的不人気(10月14日ブログ“タイ 次期国王は“奇行の人”ワチラロンコン皇太子 今後の国民との関係は?”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20161014)もあって、多くの憶測を呼んでいるようです。

****タイ国王崩御で浮かび上がる、王位継承問題と政情不安****
後継者問題と今後の政情
・・・・軍事政権のプラユット暫定首相は葬儀後、7日から15日以内に王位を継承すると発言。しかし、数時間後にウィサヌ副首相が取り消すという異例の発表があった。同副首相は、国王の葬儀後、最大で172日後に王位を継承するとし、理由として皇太子が今も国王の死を悼む時間を希望していると伝えている。

ちなみに皇太子が王位継承を見送ったことで、枢密院議長のプレム氏が暫定摂政に就くことが決まり、国王の職務を代行するという。
 
即位時期が後ろ倒しになったのは、財産分与の問題もあると言われている。2016年10月、中国メディアの東方頭条網が報じた内容によると、国王の遺産は約6兆円にも上るというものだった。また、2008年にフォーブスが伝えた額も約3兆8000億円と“世界で最も裕福な王族”と報道された。

タイの王室庁は、資産額について具体的な数字を公表していないが、皇太子を含めて兄妹1男3女で財産分与すれば、時間がかかるのも当然だろう(ただし次女のシリントーン王女以外は王族以外と結婚したため、王位の継承権はない)。また、利権争いとなれば、それに紐づいた第3者が介入してくることは想像に難くない。

即位延期のメリットとは? 成り立つ軍事政権の正当性
各メディアですでに報道されている通り、皇太子はこれまでの素行から国民の支持を得ているとは言いがたく、人気からみれば3女のシリントーン王女が絶大。(中略)

あくまでもこれは想像の範疇だが、皇太子の即位を遅らせることで、王族に対する国民感情が落ち着くこと、いわばクールダウンの意味合いが感じられる。あまりにも国王の存在が大きすぎたため、即位後すぐに後継者に対するアレルギーが起こらないとも限らない。

現段階で国民の心を散り散りにするのはこの国にとって、政治面、治安面においてもマイナスばかり。最大172日後とされているが、国王崩御による心の傷が癒されてきた頃には、国民感情に変化が訪れることも予想され、そのときには日本と同じような立憲君主制が確立されるかもしれない。(後略)【10月29日 WEDGE】
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皇太子本人が、制約が大きい国王即位を望んでいないのでは・・・という話もあるようですが、プミポン国王死去前の次期国王をアピールするような行動からは、そうも思えないような・・・わかりません。

数か月して国王崩御による心の傷が癒され、皇太子がスムーズに次期国王に即位・・・・というのが、政権が望むシナリオですが、政治空白が長引くと不測の事態も懸念されることから、12月1日即位の話も出ています。

****<タイ>皇太子の即位、12月1日か****
ロイター通信は31日、タイのプミポン国王の死去を受け、軍事政権が12月1日にワチラロンコン皇太子(64)が即位できるよう準備を進めていると報じた。複数の軍高官の話として伝えた。
 
報道によると、皇太子は私用でドイツに滞在中だが、11月に帰国するという。10月13日に国王が死去し、プラユット暫定首相は皇太子への王位継承を発表。しかし、皇太子が追悼のため即位を遅らせるよう求めていた。
 
プラユット氏はその後、早ければ10月中にも即位が可能との見方を示していた。ただ、皇太子が即位時期をどう考えているのかは明らかになっておらず、今回の12月1日もずれる可能性がある。【10月31日 毎日】
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タクシン派だけでなく、民主党も軍事政権批判へ
政治空白で懸念される要素としては、タクシン派を中心とした軍事政権への抵抗があります。

軍事政権にとってタクシン派は、選挙による農民・貧困層の支持を背景に政権が目指す伝統的社会秩序を変質させようとする勢力・・・ともみなされており、タクシン派へのバッシング・締め付けが続いています。

****インラック氏に1000億円請求=コメ担保融資で損失―タイ軍政****
タイ軍事政権がコメ担保融資制度で発生した巨額損失をめぐり、インラック前首相に対し、約357億バーツ(約1060億円)の損害賠償支払いを求める行政命令を通知したことが21日、明らかになった。
 
同制度はコメ農家支援策としてインラック政権時代に導入されたが、市場実勢を上回る価格で政府がコメを買い上げた結果、損失額が大きく膨らんだ。軍政の調査委員会は先に、損失額を約1780億バーツ(約5300億円)とし、インラック氏にはその2割を支払う責任があると結論付けていた。(中略)【10月21日 時事】 
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そうしたなかでの下記判決はやや意外な感もありました。軍事政権とべったりの感がある司法のなかにも、異論もあるのでしょうか。

****タクシン派政治家に無罪判決=軍政批判も「表現の自由」―タイ裁判所****
タイ・バンコクの刑事裁判所は31日、ソーシャルメディアで軍事政権を批判し、コンピューター犯罪法違反に問われたタクシン元首相派のワタナ元商業相(59)に無罪判決を言い渡した。
 
人権団体や地元メディアによると、ワタナ氏は3月初め、フェイスブックにプラウィット副首相兼国防相ら軍政を強く非難するメッセージを投稿。第三者や公共に害をもたらす可能性の高い「誤った情報」をコンピューターシステムに持ち込むことを禁じたコンピューター犯罪法に違反したとして、起訴された。
 
裁判所は判決で、ワタナ氏のメッセージは誤りとは言えず、暫定憲法で保障された「表現の自由」の範囲内と判断した。【10月31日 時事】 
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軍事政権が、政党政治を制約する危険性が大きい新憲法制定を主導したことで、軍事政権批判はタクシン派だけでなく、これまでタクシン派と対立してきた二大政党のひとつ、民主党にも及んでいます。

今後、軍事政権の強権的な統治が続き、民政移管の遅れなどが表面化すれば、軍事政権と幅広い国民運動の対立という構図も考えれます。

深南部のイスラム反政府勢力やウイグル族関連のテロも
更に、タイ政治は以前から深南部のイスラム勢力の反政府活動を抱えていますが、こちらも政治空白に乗じて活動を活発化させることも懸念されます。

****タイ南部の飲食店前で爆発、1人死亡18人負傷****
タイ南部パタニ(Pattani)にある飲食店付近で24日、爆弾が爆発し、1人が死亡、18人が負傷した。うち数人は重体だという。警察と目撃者が明らかにした。(中略)

仏教徒が多いタイの治安当局に反発し自治権拡大を求めるマレー系の戦闘員らによる反政府運動では、これまでに6600人以上が死亡している。その多くが一般市民とされる。【10月25日 AFP】
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****タイ南部で襲撃多発、3人死亡=イスラム勢力の犯行か*****
タイ南部3県で2日夜、イスラム武装勢力の犯行とみられる襲撃事件が同時多発的に発生し、3人が死亡、複数の負傷者が出た。地元メディアが3日伝えた。(後略)【11月3日 時事】
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また、昨年8月にバンコクで起きた爆弾テロでは、軍事政権と中国の関係を批判するウイグル族の関与も報じられています。

【「微笑みを浮かべた金正恩」への不満が爆発する「最悪シナリオ」】
国民の服喪の思いが一段落したとき考えられる、上記の不安定要素が絡んだ“最悪シナリオ”としては、以下のような指摘も。時期的には来年1月下旬あたり・・・とか。

****タイ内政は血みどろの抗争へ****
外資企業「脱出」が本格化
頂点に立つ人物の死が国の運命を変えることは少なくない。権力構造や社会が〝重力〟を喪失し、流動化を始めるからだ。プミポン国王を失ったタイはまさにその状態にある。

クーデターで権力を得たプラユット政権は国王という正当性の後ろ盾を失い、今後、強権政治に向かわざるを得ない。タイは「二十世紀型混乱」に戻り、軍が学生、市民に銃口を向けた一九七三年、九二年のような流血の混乱もあり得る。日本はじめ外資企業のタイ脱出(タイグジット)も本格化するだろう。
 
かつてタイ人の最大の娯楽は格闘技のムエタイだったが、この十年ほどはサッカーが人気ナンバーワン。(中略)だが、タイ国内リーグは国王死去で今シーズンの全日程を打ち切った。
 
国民はそれを当然のものと受け止め、政府は外国人観光客にも「黒っぽい服装」の要請を出した。国が一丸となった服喪にプミポン国王の存在の大きさと国民の喪失感が窺える。

公務員の服喪期間は一年間だが、店舗や学校、イベントは数週間後には平常に戻っていく。それを最も恐れているのはプラユット暫定首相だろう。

来年一月下旬が重大な局面に
二〇一四年五月のクーデター後、軍事政権を批判する政治家、弁護士、ジャーナリストを次々に拘束、政権批判をしない誓約書に署名させ、それでも言うことを聞かない人物は「思想矯正所」に送り込んだ。

軍による政治支配を永続化するための憲法改正案を今年八月に国民投票にかけたが、メディアに、政権にとって不都合な内容の報道を禁じ、集会、討論会も認めず、国民に真の内容を知らせないままで、強引に得た賛成多数だった。

「微笑みを浮かべた金正恩」と言われるのがプラユット首相であり、米欧各国政府は憲法改正案を手厳しく批判した。現政権を主要国で支持しているのは日本と中国のみ。憲法改正案の賛成多数を評価する声明を出した日本政府には米欧から強烈なブーイングが起きた。
 
日本では中小も含めタイへの進出企業が多いことやタイそのものへの好印象もあって軍政批判は少ないが、世界の目はまったく異なる。その事実を見落とせば、今後のタイの展開を読み違えるだろう。

「一連の仏教儀式の終わる没後百日目の来年一月下旬が重大な局面になるだろう」。タイの地元メディアの記者はこう指摘する。

軍事政権に対しては、インラック前政権与党でタクシン派のタイ貢献党はもちろん、対立する民主党も反対しており、軍事政権の「民政復帰ロードマップ」をまやかしと批判している。

温度差はあるにせよ主要二政党は軍事政権打倒に動くのが確実。服喪期間は軍事政権にはモラトリアム、政党にとっては反軍政国民運動を起こすための準備期間といえる。
 
〇六年にタクシン政権を倒したクーデター以降、一四年のクーデターまでタイ国内は「赤シャツ(タクシン派)対黄シャツ(反タクシン派)」の対立構図で動いた。

都市部のインテリ、既得権益層を代表する黄シャツは軍との関係も悪くはなかったが、クーデターで一変した。これから起きる反軍政は赤シャツと黄シャツの合体した国民運動になり、知識人、学生、市民が軍政のスチンダー首相打倒に動いた九二年の五月事件に似た構図になる。
 
一四年のクーデター直後は国民の多数は軍政に政治安定と景気回復、汚職の追及を期待していたが、強権政治による「不安な安定」しか達成できていないことに失望感が広がっている。

バラマキ的な公共工事で景気刺激を繰り返すものの、外資の進出の減少で景気は悪化し、昨年の成長率は二・八%まで下落。「ASEANの優等生」は「落ちこぼれ」に転じつつある。
 
国民の軍政への見方が変わりつつあるのは隣国、ミャンマーでアウン・サン・スー・チー氏が率いる民主化が進み、外資の評価が高まっているからでもある。

ミャンマーより自由のない、閉塞した政治にタイ人は辟易し始めている。軍政に抑圧されてきたタクシン派の牙城、タイ東北部ではこれまで農村で武器の蓄積が度々発見されているが、さとうきび、ゴムなど農産品の市況低迷もあって「農民蜂起が起きてもおかしくはない状況」(タイメディア関係者)だ。

日本経済界は幻想を捨てるべき
今後、軍政打倒の活動シナリオはふたつだ。
第一は、バンコクで民主派勢力、学生、市民が市の中心部の道路、交差点などを占拠し、長期籠城によって混乱を引き起こす。
第二は、タクシン派農民が農村部で地方官庁や警察署などを取り囲み、軍政の退陣を求める。

ふたつとも〇六年以降、繰り返し起きたことだが、今回は「市民対軍政」の対立となる。軍が動けば一〇年春の「バンコク市街戦」のように市中心部でロケット弾が飛び交う事態になるが、今回は軍政退陣を求める側が一枚岩で市民などの動員力が大きいことから衝突の規模は大きくならざるを得ない。
 
農村部から市民側に武器が持ち込まれたりすれば、まさしく内戦化するだろう。
軍政側には引くに引けない理由がある。もし民主政権が再び誕生すれば、一四年のクーデターの首謀者は確実に逮捕され、裁判にかけられるからだ。

七三年、九二年の衝突ではプミポン国王が仲裁し、関係者の処罰は国外追放など穏当なものになった。国民も国王の処断ゆえに納得した。国王なき今回はそうしたソフトランディングは期待できない。

多数の犠牲者を出し、国際的な批判、制裁を受けたとしても軍政打倒の動きを封じ込めなければ、プラユット首相はじめ軍政幹部には過酷な運命が待ち構えている。
 
さらに、タイ南部五県の分離を求め、警察署襲撃などを繰り返してきたイスラム組織は軍政の弱体化こそ自らに有利になるため、バンコクなどで市民と軍の衝突が起きれば混乱を助長するような活動を展開する恐れがある。
 
タイには中国の新疆ウイグル自治区から亡命を求めて来たウイグル人が多数いる。軍政は中国からの支援取り付けのため、そうしたウイグル人を中国に強制送還。その多くが中国で処刑された。ウイグル人のタイ軍政に対する報復は昨年のバンコク中心部でのテロなどすでに数件起きており、バンコクなどで衝突が起きれば彼らも活動を活発化するだろう。
 
タイは服喪の季節が明けるとともに激しい変動期に突入する。日本の経済界には「タイで衝突は起きても破壊的な状況にはならない」という「温和で平和なタイという幻想」がある。だが、対立を収める緩衝材であり、スタビライザーだった国王が去った今、幻想は捨てるべき時だ。【「選択」11月号】
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そこまでの混乱はなかなか想像できませんが、12月1日即位という話は、政治空白が長引くことによる混乱を防止する意味合いもあるのでしょう。ただ、皇太子が即位しても、かつてのプミポン国王のような社会調整機能は難しいかも。
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