孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ラオス  メコン川ダム建設を延期 東南アジア国際関係の縮図

2012-05-16 10:14:21 | 東南アジア

(4月24日 ダム建設を請け負うタイの建設会社チョーカンチャンの株主総会に合わせて、ダム建設に抗議する集会を開いたタイの市民活動家グループとメコン流域住民 
タイは、本文にも書いたように、銀行・産業界は建設を後押しする立場にありますが、流域住民は建設に反対しています。
この地域の農民など貧困層を「赤シャツ隊」として政権支持基盤とするインラック政権としても、扱いが難しい面があります。
なお、デモの先頭に掲げられているのは、「メコンイルカ」とともに乱獲や環境破壊で絶滅の危機にある「メコン大ナマズ」のようです。 “flickr”より By International Rivers http://www.flickr.com/photos/internationalrivers/7111047765/ )

【「メコン川の(ダム)工事は行っていない」】
****ラオス、メコン川でのダム建設を延期 流域国に配慮****
ラオス政府は10日、同国北部で計画されていたメコン川での「サイニャブリ」ダム建設工事を延期すると発表した。

同ダムの建設をめぐっては、環境への影響を懸念するメコン川流域諸国から計画の中止を求める声がでていたが、エネルギー・鉱業省電力局のビラポン・ビラウォン局長は、AFPの電話取材に対し、「メコン川の(ダム)工事は行っていない」と語った。

サイニャブリダムについては、隣国タイの建設大手チョーカンチャンが4月、ラオスに建設した子会社サイニャブリ・パワーと24億ドル(約1900億円)規模の水力発電プロジェクトの契約を結んだと発表。
メコン川下流の国々からは影響を不安視する声があがっていたが、チョーカンチャンは、すでに3月15日に工事に着工したことを明らかにし、完成まで8年かかる見込みだと付け加えた。
一方、ビラポン局長は、工事はまだ準備段階だと語っている。

メコン川流域国のカンボジア、タイ、ラオス、ベトナムから成るメコン川委員会(MRC)は前年12月、ダム建設による影響の調査結果が判明するまで工事には着手しないことで合意していた。

これについて、ビラポン局長は、すでにダム建設で予想される影響を調査した報告書を近隣国に提出しており、現在は関係国からの了承を待っている状況だと説明。「報告書によって近隣国の理解が得られ、ダム建設を進められるものと確信している」と語った。
世界の貧困国の1つであるラオスは、水力発電に国の活路を見出そうとしている。「東南アジアの電力源」として、先進近隣諸国に電力を輸出していく計画だ。

だが、カンボジアとベトナムは出力126万キロワット(KW)規模のサイニャブリダムによる農業や漁業への影響を危惧している。
これに対し、タイはダム建設に積極的で、水力発電所の完成後には電力の大部分を買い取ることでラオスと合意している。

しかし、環境活動家らは、メコン川本流で水の流れがさえぎられれば富栄養化が進み藻の発生を招くほか、産卵のために上流に移動する魚たちが遡上できなくなると警告している。【5月15日 AFP】
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建設を計画するラオスに、「特別な関係」のベトナムが強硬に反対
東南アジアの大河メコン川は、流域の中国、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムにとって、農業・漁業・工業用水・飲用水・観光など、その生活を支える基盤となっています。
それだけに、メコン川でのダム建設は、上流国と下流国の水資源を巡る深刻な争いの種ともなります。

メコン川の水力発電開発による電力輸出を国家経済の柱としたいラオスが進めるサヤブリ・ダムの計画に、これまでラオスとの友好関係を重視してきた下流国ベトナムが公然と反対を明らかにして、計画の成り行きが注目されていることは、11年10月18日ブログ「メコン川流域「ゴールデン・トライアングル」で中国輸送船襲撃  今後深刻化する水資源争奪戦」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20111018)でも取り上げました。
この問題は、ラオスへ進出する中国と、南シナ海で中国と対立するベトナムが、メコン川の水資源をめぐっても対立を深める・・・という側面もあります。

***越とラオス「特別な関係」亀裂 メコン川ダムで対立、中国の影****
「特別な関係」で結ばれていたはずのベトナムとラオスに亀裂が走った。ラオスが計画するメコン川へのダム建設にベトナムが公然と反対したのだ。抗仏・抗米戦争をともにした「戦闘的団結」のほころびは南進の勢いを強める中国を利しかねない。「水は血より濃い」のか。

問題のダムはラオス北西部のサヤブリ県にラオス政府が計画している。メコン川本流のダムは、下流部分ではこれが最初となる。出力126万キロワットの水力発電所を建設し、電力の大部分を隣国のタイに輸出する計画だ。
内陸の小国ラオスは山が多く、水力資源に恵まれている。電力開発と売電は遅れた経済を発展させるための国家戦略の柱だ。サヤブリ・ダムは「東南アジアの電力基地」に国を改造する重要な一歩と位置づけられている。

しかし、メコン本流へのダム建設は環境や生態系に大きな影響を与えると域内外の環境団体は強く反対している。漁業や農業に深刻な被害がおよび、下流域の住民6千万人の生活が脅かされると専門家は警告する。
反対の輪にはベトナムも加わった。ダム建設は、ベトナム最大の穀倉地帯であるメコン・デルタへの影響がとくに大きいとベトナムは懸念する。今年に入って国内メディアには「上流からの土砂の流入が妨げられ、海水の浸入でデルタが大打撃を受ける」などという専門家の指摘が相次いで紹介された。

それまでのラオスに関する報道では「友好」や「協力」などの美辞麗句が躍るのが常だっただけに、公然たるラオス批判は異例中の異例だ。メコン下流ではサヤブリに続いて10カ所ほどのダム建設計画がある。ベトナムとしては、きれいごとを言っている場合ではないという判断のようだ。

メコン川開発の調整機関であるメコン川委員会(タイ、ラオス、カンボジア、ベトナムで構成)は4月にサヤブリ・ダム建設の是非を協議したが、物別れに終わった。ベトナム代表は徹底した影響評価を行うため「最低10年間の延期」を求め、カンボジアとタイからも慎重論が出た。

強行突破は無理と見たラオスは先月、ベトナムとの首脳会談の場で計画凍結の方針を伝えた。影響を評価する調査をやり直すためとしており、計画を断念したわけではない。(後略)【11年6月23日 産経】
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メコン川におけるダム建設の問題として、水量減少によりカンボジアのトンレサップ湖やベトナムの穀倉メコン・デルタへ十分な水が行かない時期が出ること、メコン川の魚は流域住民の主要な蛋白源となっていいますが、ダム建設によって漁獲量の低下が懸念されること、魚の産卵のための遡上が妨げられなど生態系に影響を与えること・・・などが指摘されています。【11年12月10日 チェンマイUpdateより】
上記産経記事にあるように、メコン・デルタへの海水侵入も懸念されています。

メコン川委員会(MRC):「追加調査が必要」】
このメコン川ダム建設問題については、11年12月8日、メコン川周辺4カ国のラオス、タイ、カンボジア、ベトナムの閣僚級が参加したメコン川委員会(MRC)によって、建設計画が棚上げされています。

****メコン川のダム開発計画中止、「追加調査必要****
メコン川流域のダム建設や開発計画が一時的に中止されることが決まった。
メコン川周辺4カ国のラオス、タイ、カンボジア、ベトナムの閣僚級が参加した8日のメコン川委員会(MRC)は、「開発が周辺環境に及ぼす影響のさらなる調査が必要」と結論。

ラオス政府は今年4月から実施している当該プロジェクトが環境に与える影響に対する調査を完了したとしており、今回の会合ではこの調査に対する是非が下されると予想されていた。また、会合では開発パートナーとして参加した日本を含む各国に対し、追加調査の協力を要請している。

メコン川に建設が予定されていた12基のダムをめぐっては、下流地域における稲作へのダメージや周辺地域の生態系破壊などが危ぐされており、周辺諸国や下流域の住民、環境団体などから反対の声が強まっていた。一方で、水力発電による周辺諸国への売電などを模索していたメコン川上流のラオスや、周辺流域のインフラ整備へ多額の投資を予定していた中国などにとっては痛手となる。【11年12月12日 EMeye】
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ラオスが期待する建設承認は得られませんでしたが、環境保護団体やベトナムが望んでいる「10年間延期」までは明言せず、“追加調査が必要”という形での計画保留でした。
もっとも、メコン川委員会(MRC)には強制力はないので、最終的にはラオスの判断ともなります。

最貧国ラオスの苛立ちと困惑
サヤブリ・ダム建設を後押ししているのが、タイだとも言われています。
ダムによって発電された電力はその殆んどをタイが買い取る計画で、また、建設はタイの銀行の融資で、タイの建設会社が行うことになっています。

そうした建設を進めたいラオス・タイの思惑、阻止したいベトナム・カンボジアなどの思惑が交差して、冒頭記事のような建設が始まったのか、そうでないのか・・・どうもはっきりしない状況となっています。
ラオス政府が“延期する”と言っているのですから、そうなのでしょう。
中国の影響も含めて、このダム問題は東南アジアの国際関係の縮図ともなっています。

環境保護という立場からは、当然に「計画中止を」ということなのでしょうが・・・。
ラオスには9年前、数日間の観光旅行で行っただけですが、その時の印象は“何もない国”というものでした。
観光資源にも見るべきものは少なく、地下資源も未開発なアジア最貧国ラオスにとって、今利用できるのは豊かなメコンの流れだけです。
しかし、それも周辺国との関係でままならない・・・ラオスの苛立ちもわかる気がします。
恐らく、「特別な関係」で結ばれた「戦闘的団結」を強調する「友好国」ベトナムの圧力は、相当に強いものがあるではないでしょうか。中国やタイの甘い囁きも。
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