孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

移民・難民をめぐる状況、新型コロナでカオスに それでも増加する命がけの密航

2020-11-14 22:12:50 | 難民・移民

(リビア・フムスの浜辺に運ばれた、転覆した移民船の生存者ら(2020年11月12日撮影)【11月13日 AFP】)

 

【新型コロナ禍で難民再定住事業はカオスへ】

欧米を目指す移民・難民の話題は、欧州に大挙押し寄せた頃に比べると目立たなくなってはいますが、状況が改善した訳でもなく、今年3月以降の新型コロナ禍による国境封鎖、国際フライトの運航停止などによってむしろ悪化しています。

 

各国のビザ発給業務の停止、大使館機能の縮小などで、難民再定住事業は無期限停止状態にもなっています。

 

****コロナ禍にあえぐ世界の難民 渡航制限で生命の危機****

今年3月13日、ミシェル・アルファロ氏がジュネーブの国連本部にあるオフィスを離れるまで、彼女の任務は順調に進んでいた。世界で最も脆弱な立場にある難民のために住居を見つけるという仕事だ。

 

だが4日後、事態はカオスへと転じた。新型コロナウイルスの感染拡大を恐れた世界各国の政府は国境の封鎖、ロックダウンの実施、国際航空便の運航停止を発表した。国連は、難民再定住プログラムの中断を余儀なくされた。

 

難民問題を担当する国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)で再定住プログラムを指揮するアルファロ氏は、「あの週にすべてが崩壊した」と振り返る

 

新型コロナの蔓延によって混乱に陥った人々は数百万人にも上る。アルファロ氏が支援してきた難民たちは、戦争と暴力、紛争や迫害からの脱出を約束されていた。 

 

状況次第で、申請から何年もかかる審査過程を経て、米国やカナダといった国で新生活を始めるチャンスを獲得することもできたはずだ。しかし、何千人もの人々が突然、多くは電話1本で、彼らが乗るはずだったフライトが運航中止になったことを知らされたのである。

 

ソマリア出身の23歳、ユバー・モハメドさんもその1人だ。前夫からイスラム原理主義を奉じる武装集団アルシャバーブへの参加を強要されたため、彼女は逃げだした。その後、モハメドさんの父親はアルシャバーブにより殺された。彼女は3月24日に英国向けのフライトに搭乗する予定だった。

 

モハメドさんは難民として過した辛い5年間について、「自分がどこに向かっているのか分からなかった」と語る。「ただ進んでいくだけで、自分では何もコントロールできなかった」

 

<難民の再定住率は大幅に低下>

国連のデータによれば、2020年上半期、難民の再定住率は2019年の水準に比べ69%減の10000人強になってしまった。再定住プログラムは6月に再開されたが、ペースは以前よりも大幅に低下している。

 

パンデミック(世界的大流行)が襲来したとき、移民をめぐる空気は厳しくなっていた。グローバルな連帯を維持しようという国際的な努力がますます疲弊するなかで、パンデミックがさらに新たな綻びを生み出した。

 

ナショナリズム、感染への恐怖感、経済への懸念、高齢化する有権者の変革に対する抵抗により、「迫害や虐待、暴力のリスクに直面した人々は庇護に値する」という戦後長きにわたり定着していたコンセンサスは損なわれつつある。

 

英国政府は今月、フランスからの不法移民を運ぶボートの増加への対処をめぐり、軍の協力を要請した。ギリシャは今年に入ってトルコからの移民数千人の受け入れを拒否しており、ボートで漂着する難民を阻止すべく警戒を強化している。欧州連合は、欧州大陸南岸への移民流入に歯止めをかけるため、アフリカ諸国に数十億ドルの資金を拠出している。

 

難民再定住プログラムにおいて最も多くの難民を受け入れているのは米国であり、近年では、米国が受け入れる難民の過半数がこのプログラムを経由している。

 

だが、2017年に反移民政策を公約として就任したドナルド・トランプ大統領のもとで、このプログラムを介して米国にたどり着く難民の数は半分以下に減少した。同大統領はほぼ同じ公約を掲げて再選を目指している。米国は昨年、国連の仲介により再定住した難民の3分の1を受け入れているが、現在、受け入れを縮小しつつある。(中略)

 

国連の試算では、緊急の支援を必要としている難民は140万人。だが、新型コロナ以前から、彼らのために資金を集めて新たな住居を見つけることは困難だったという。

 

再定住プログラムを担当するアルファロ氏は、「今年は難民にとっては特に困難な年になっている」と言う。「再定住に協力していた国は、どこも(新型コロナの)影響を受けている。無傷の国は存在しない」

 

<希望の旅立ち、直前の中止> 

ソマリア出身の23歳、モハメドさんが足止めを食らっているのは、ジュネーブから2000マイル南に離れた、ニジェールの首都ニアメ郊外の砂原に設けられた難民キャンプだ。2人の子の母であるモハメドさんは、国連が運営するアムダレイユ難民キャンプの小さなテント型の建物で風雨を凌いでいる。フライトが中止になったことをUNHCR職員に知らされたのは、出発予定日のわずか数日前だった。(中略)

 

彼女の旅が始まったのは2015年だ。「一番安全なのは子供を置いて夫から逃げることだ」と父親から言われ、彼女は沿岸の都市ボサソに向かうバスに乗った。

 

ある男性が、アデン湾を越えてイエメンに向かうボートに乗らないかと声をかけてきた。数十年にわたり、紛争から逃れようとするソマリア人にとっては定番のルートだ。だが、この提案を受け入れたことで、彼女は気づかぬうちに難民相手の密航請負業者のネットワークにはまり、金品を奪われ、レイプされ、イエメンからスーダン、リビアへと売られていった。

 

家を離れて数日後、彼女は居場所を知らせようと父親に電話を掛けたという。だが電話に出た継母は、父親は娘の脱出を助けたために武装勢力に殺された、と告げた。

 

リビア南部では、ある密航請負業者がモハメドさんを繰り返しレイプした。彼女は2016年の春、その男の子供を流産した。男はモハメドさんを捨て、彼女は北への旅を続けた。

 

その年の暮れ、リビア北部の移民一時収容所で、モハメドさんは別の密航請負業者から殴打された。十分な旅費を持っていないことを告げたためである。

 

2016年、ピックアップトラックの屋根のない荷台で、ガソリン臭い水をすすりながら、スーダンからリビアへとサハラ砂漠を越えた。その途上、モハメドさんの心はずっと残してきた子どもたちへの想いで溢れていた。彼女は、子どもたちが他の家族と一緒にいると思っている。

 

「彼らがどこにいるのかは分からない」と彼女は言う。「私は母親なのに、子どもたちと一緒にいられない。ただ泣くだけだ」(後略)【9月3日 ロイター】

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【増加するスペイン・イタリアを目指す移民・難民 事故も多発】

そんな状況にあって、正規の難民・移民手続きを経ることなく、密航請負業者に身をゆだねて、命がけの渡航を試みる者も多く、それに伴って事故による死者も。

 

“ 仏沿岸で難民ボートが転覆、少なくとも3人が死亡”【10月28日 CNN】

 

****移民船が転覆、少なくとも140人死亡 今年最多の犠牲者****

西アフリカのセネガル沖で移民を乗せた船が転覆し、少なくとも140人が死亡した。国連の国際移住機関(IOM)が29日に明らかにした。このルートを航行する移民船は急増しているが、今回の転覆による犠牲者の数は今年に入って最も多かった。

 

IOMの発表によると、同船には約200人が乗船していた。セネガルとスペインの海軍や、近くにいた漁船などが59人を救出し、20人の遺体を回収したと報じられているという。

 

同船はセネガル西部のムブールを出航してスペイン領カナリア諸島に向かっていたが、出航から数時間後に火災が発生、セネガル北西部のサンルイ沖で転覆した。

 

IOMによれば、地中海中部では過去1週間の間に4隻の転覆が相次ぎ、英仏海峡でも1隻が転覆していた。西アフリカからカナリア諸島を目指す移民船の数は、今年に入って4倍以上に増え、1万1000隻に上っていた。

 

「若者の絶望に付け込む人身売買網や密輸網を解体させるため、政府や関係者、国際社会の連帯を求める」とIMOは訴えている。

 

セネガル政府とIOMはサンルイに調査団を派遣して、救助された人などの支援に当たる。

IOMによれば、9月だけでも移民663人を乗せたボート14隻が同じ航海を試み、うち4分の1以上が転覆したり遭難したりしていた。【10月30日 CNN】

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上記記事にあるように、アフリカから欧州を目指す場合のルートとして、スペイン領カナリア諸島を目指す移民・難民が増加しています。

 

****移民漂着、2日間で1600人超 スペイン・カナリア諸島****

スペイン・カナリア諸島の当局は8日までの2日間で、アフリカから1600人超の移民が漂着したと明らかにした。短期間にこれほど多くの移民が漂着したのは約10年ぶりだという。

 

救急当局によると、7日にはグランカナリア島、テネリフェ島、エルイエロ島に計1000人超が流れ着いた。移民らは耐航性の低い船、約20隻に分乗していたという。エルイエロ島では1人が遺体で収容された。さらに翌8日朝には、約600人が別の複数の船で漂着した。

 

数か月前に欧州連合とリビア、モロッコ、トルコが国境管理の強化をめぐって合意に至って以降、北アフリカ沿岸から100キロほどに位置するカナリア諸島では、難民の漂着が急増している。

 

スペイン内務省のデータによると、今年1月以降これまでにカナリア諸島を目指した不法移民は、昨年同期比7倍を上回る1万1000人超となっている。 【11月9日 AFP】AFPBB News

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スペイン・カナリア諸島だけでなく、リビアからイタリアを目指す難民・移民も増加しています。

 

****リビア沖でゴムボート転覆 欧州めざす難民ら94人死亡****

北アフリカ・リビア沖の地中海で12日、欧州をめざしてリビアを出港した難民・移民を乗せたゴムボート2隻が相次いで転覆し、少なくとも94人が死亡した。この海域では11日にも、NGOの難民救助船が難民・移民を乗せたゴムボート1隻を見つけ、111人を救助したが、救助船に泳いで避難しようとした6人が死亡した。

 

イタリアメディアなどによると、12日に転覆した2隻のゴムボートには女性や子どもを含む140人以上が乗っていたという。これまでにリビアの沿岸警備隊や漁師によって47人が救助された。11日に死亡した6人の中には生後6カ月の男の子もいた。

 

国際移住機関(IOM)によると、欧州をめざして地中海を渡ろうとして死亡した難民・移民は今年、少なくとも900人に上る。IOMは13日に出した声明で「地球上で最も危険な海上ルートを終わらせなければならない。移民・難民を安全に下船させ、無意味な死をなくすため、各国は連帯しなければならない」と訴えた。

 

イタリア内務省によると、リビアやチュニジアなどのアフリカ北部をゴムボートなどで出港し、イタリアなどの地中海沿岸の欧州諸国をめざす難民・移民は今年急増している。今年1月から今月13日までに地中海を渡ってイタリアに上陸した難民・移民は3万1214人で、昨年同期(9944人)の約3・1倍となった。【11月14日 朝日】

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【「玄関口」で高まる緊張】

「玄関口」ともなっているスペイン、イタリア、ギリシャでは、その後の移送も決まらず、現地では緊張状態も生じています。

 

****ギリシャ警察、火災で住む場所失った難民に催涙ガス 難民キャンプ新設めぐり衝突****

難民キャンプの火災で1万人以上が生活場所を失ったギリシャ・レスボス島で12日、新たな難民キャンプの建設に抗議する難民と警察が衝突し、警察が催涙ガスを噴射した。

 

火災当時、モリア・キャンプには収容可能人数(3000人)を大幅に超える約1万3000人が暮らしていた。難民は島を離れることを切望している。

 

警察と難民の衝突は、ギリシャ当局が設置した仮設キャンプ近くで起きた。警察の封鎖線近くに火が放たれ、消防隊が消火にあたる場面もあった。

 

難民はモリア・キャンプへ続く道を封鎖する警察に接近し、「自由」を訴えるプラカードを掲げながら新しいキャンプ施設の建設に反対した。

 

新施設の建設をめぐっては島の住民からも強い反発が上がっており、救援物資の配達を止めようと住民が道路を封鎖している。

 

現在は生活場所を失った難民のために、同島カラテペに新たなキャンプが設置されている。(中略)

 

モリア・キャンプには約70カ国からの難民が生活していた。そのほとんどはアフガニスタンからの難民だった。

 

難民問題めぐり欧州が分断

主にイタリアやギリシャへ渡った大量の難民の扱いは、欧州各国を長年にわたって分断させてきた。

欧州中部や東部の多くの国は、難民の受け入れを分担するという考えに公然と抵抗している。

 

イタリアとギリシャは、裕福な欧州北部の国々がさらなる対応を取らずにいると非難してきた。

 

難民のために何が行われているのか

ギリシャのノティス・ミタラチ移民相は、新たな難民キャンプで12日から火災で避難場所を失った人たちの一部を受け入れる方針だと述べた。

 

ドイツは11日、モリアで生活していた身寄りのいない未成年者400人を受け入れることで、欧州10カ国が合意したと発表した。

ホルスト・ゼーホーファー独内相は、モリア・キャンプでの火災が「欧州で何を変えなくてはならないか、私たちに鋭く突きつけた」と述べた。

 

しかし複数の慈善団体やNGOのグループはドイツ政府に宛てた書簡で、未成年者だけでなく全ての難民が、追加の支援策を必要としていると訴えた。

 

この公開書簡の中で、同グループは、「モリア・キャンプでの恥ずべき状況や火災による大惨事は、欧州の難民政策の失敗がもたらした必然的な結果だ。今や欧州は、ついに影響を受けた人々を助けなければならない状況に置かれている」とした。

 

火災について分かっていること

地元警察によると8日夜、モリア・キャンプ内の3カ所以上から出火があり、キャンプがほぼ壊滅状態となった。

同キャンプをめぐっては、火災の数時間前に新型コロナウイルスの検査で35人の陽性者が出たとの報告があった。このうち8人は隔離されていたとみられる。

 

当局は先週、ソマリアからの難民1人の新型ウイルス感染が確認されたことを受け、施設を隔離状態に置いていた。

ギリシャのミタラチ移民相は、隔離措置が講じられたことを受け、亡命希望者が火をつけたと述べた。感染が確認された人の中には、家族全員での隔離を拒否した者もいたと報じられている。

 

一方でミタラチ氏は、キャンプの破壊を目的とした意図的な放火だとは明言しなかった。

一部の難民はBBCペルシャ語に対し、モリア・キャンプで難民とギリシャ軍が衝突した後に火災が発生したと証言した。【9月13日 BBC】

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【命がけの渡航で欧州にたどり着いても、開けぬ展望】

無事に欧州にたどり着いても、その先には展望はありません。

上記ギリシャのように、施設で希望もなく収容される人々、なかには自力でフランスからイギリスを目指す人々も。。

 

****「神と海とわれわれだけ」 危険な英仏海峡横断にかける移民****

ゴムボートで英仏海峡を渡り英ドーバーの海岸を目指すワリドさん(中央)や兄家族らの移民(2020年9月11日撮影)。

 

ついに英国だ!何年もかけて歩いた国は数知れず、フランス沿岸の清潔とは言い難いキャンプでの数週間と英仏海峡の荒波に小さなゴムボートでもまれた7時間を経て、ワリドさんは、ついにやり遂げた。

 

ワリドさんは「死のルート」と呼ばれる海峡横断に成功したが、友人のファラさんは、フランス側で出発の機会を待つばかりだ。

 

AFPの取材2チームは、仏北部沿岸の街グランドサントから英仏海峡を越え英南部のドーバーを目指すクウェート人のワリドさんとイラク人のファラさんを3週間にわたって同行取材した。50代のファラさんは、アルワちゃんと重度の糖尿病を患うロワネちゃんの娘2人と一緒に行動している。

 

仏沿岸からドーバーの白い崖までの距離はわずか33キロ。晴れた日には対岸が見える距離だが、海峡を行き来する船の数は世界有数を誇り、その横断には最大級のリスクが伴う。

 

仏海事当局によると、今年1月1日から8月31日までに海峡の横断を試みた移民は6200人に上る。昨年は、1年間で2294人だった。

 

金銭的に余裕があればインフレータブルボート(ゴムボート)に乗ることができるが、そうでない場合はパドルボードやカヤック、浮き輪などに頼ることになる。

 

今年8月、ゴムボートで横断を試みた28歳の移民が溺死した。昨年は4人の遺体が海上や仏海岸で見つかっている。(後略)【11月13日 AFP】

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“(イギリスにたどり着いた)ワリドさんは歓喜し、どっと疲れが出て、そして感情がこみ上げた。突然、携帯電話を取り出して海に投げ入れた。これまでの軌跡を全て消すためだ。一緒に乗っていた人々も両腕を空に伸ばし、大声を出した。”【同上】

 

命がけの7時間の航行の末にイギリスにたどりついたワリドさんですが、新型コロナのロックダウンに揺れるイギリスでどのような生活が待っているのか・・・そうした欧州での厳しい生活に関する情報が移民・難民に伝わっているのか?

 

そうした情報を承知で、それでも「座して祖国で死を待つよりは・・・」と、命がけの渡航に賭けるのか・・・。

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