孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  8日に総選挙 「ザ・レディー」ことスー・チー氏はどこへ向かうのか?

2020-11-06 22:38:35 | ミャンマー

(ミャンマー・ヤンゴン郊外で開催された国民民主連盟(NLD)の選挙集会(2020年10月25日撮影)【11月6日 AFP】 車の前面にはスー・チー氏の看板 国内的には、シー・チー氏の威光はいまだ健在のようです。)

 

【与党 議席減も過半数維持が焦点 悪くとも第1党は維持か】

ミャンマーでは11月8日に総選挙が行われることについては、10月21日ブログ“ミャンマー コロナ禍のもとでの総選挙 選挙から排除されるイスラム教徒 中国マネーの影でも取り上げました。

 

前回ブログで触れた内容に変化はなく、明後日に投票が行われます。

 

スー・チー国家顧問率いる与党NLDは、公約が実現されておらず、議席を減らすことも予想されてはいますが、スー・チー氏の圧倒的知名度、新型コロナ禍を逆手にとった与党側の強引な選挙戦略もあって、過半数、少なくとも第1党は維持する“そこそこの結果”はあげるのでは・・・と推測されています。

 

****ミャンマーで8日に総選挙 スー・チー氏与党に失望感****

任期満了に伴うミャンマー総選挙が8日、投開票される。

 

アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相の与党・国民民主連盟(NLD)が優勢で、上下両院で単独過半数を維持できるかが焦点。

 

スー・チー氏人気は健在だが、NLDが前回2015年総選挙で打ち出した公約の多くは未達成。少数民族武装勢力との和平を期待した地方住民を中心に失望感も漂っており、逆風となる可能性がある。

 

総選挙は、上院(定数224)、下院(同440)のうち、25%の軍人枠を除く498議席を改選する。

 

前回選挙でNLDは改選議席の約8割を獲得し、軍系政党の連邦団結発展党(USDP)を抑えて圧勝。軍が半世紀以上、実権を握ってきたミャンマーで文民政府を実現した。国軍と少数民族武装勢力の和平実現や、軍政下で作られた憲法の改正などの公約が支持を集めた。

 

だが、NLDの政権運営は、強い影響力を持つ軍に配慮せざるを得ず、苦しいものとなった。

 

軍の抵抗などによって和平の機運は高まらず、逆に17年8月には西部ラカイン州で国軍とイスラム教徒少数民族ロヒンギャの衝突が発生。大量のロヒンギャ難民が隣国バングラデシュに逃れ、国際問題に発展した。

 

憲法についてもNLD政権は今年1月に改正案を国会に提出したが、軍系議員の反対に直面し、軍の権限を弱める案はことごとく退けられた。

 

今回の選挙では、前回選挙で和平実現を期待した票が野党側に流れるとの見方が出ている。政府は、武装勢力との摩擦が続く州の一部選挙区で「安全が確保できない」として投票実施の見送りを決めたが、地域政党への支持が厚い一帯が含まれており、「野党つぶし」との批判が集まる。

 

野党側は新型コロナ禍を受けて、投票延期を呼びかけたが政府は拒否。大規模集会が規制されたことなどで選挙戦は盛り上がりを欠いており、知名度や組織力で勝るNLDに有利との見方も出ている。

 

人口の約7割を占めるビルマ族を中心にスー・チー氏への支持は根強く、NLDは過半数割れでも第1党は維持できる見通しだが、議席を大きく減らせばスー・チー氏の求心力にかげりが出る可能性がある。【11月6日 産経】

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【国内的には争点にならないロヒンギャ問題】

国軍によるロヒンギャ弾圧をめぐる問題への消極姿勢、国軍擁護の姿勢から、スー・チー氏の国際的評価は大きく落ちていますが、国内的には“違法移民”ロヒンギャ弾圧・追放は問題視されていません。

 

****触れぬ総選挙 ミャンマー、8日投票 隣国に難民70万人****

総選挙を8日に控えたミャンマーで、少数派イスラム教徒ロヒンギャが蚊帳の外に置かれている。

 

アウンサンスーチー国家顧問が率いる与党・国民民主連盟NLD)を含め、大多数の政党はロヒンギャ問題に触れず、争点にもなっていない。根強く残る差別意識のもと、迫害から逃れて隣国バングラデシュで暮らす約70万人の難民は帰還への希望を見いだせずにいる。

 

「長い間虐げられてきた。選挙に何を期待しろというのか」。バングラデシュ南東部コックスバザールの難民キャンプ。4人の子を抱えるアシフさん(38)は、故郷で目の当たりにした焼き打ちなどへの不安がぬぐえず、ミャンマーに戻れない。不衛生な環境で新型コロナウイルスの感染拡大にもおびえ、「いつまでこんな暮らしを続けなければいけないのか」と嘆く。

 

2017年8月、ミャンマー西部のラカイン州に住む大勢のロヒンギャが国境を越え、バングラデシュに逃げ込んだ。国軍は、先に攻撃を仕掛けてきたロヒンギャの武装勢力を掃討するための作戦だったと説明している。だが、難民となったロヒンギャの多くが、家族が殺され、家を焼かれたなどと証言した。

 

ミャンマーバングラデシュ両政府は18年にロヒンギャの帰還を進めることで合意したが、帰っても安全が保障されないとして、希望する者は現れない。

 

この問題でミャンマー政府は、国際社会から厳しい批判を浴びている。だが大多数の政党は、ロヒンギャに関心を示していない。

 

国民の約9割を仏教徒が占めるミャンマーでは、ロヒンギャバングラデシュからの移民とみなされ、多くが国籍も移動の自由も認められていない。ロヒンギャへの差別も根強く、融和的な態度を取れば有権者の反発を買いかねないのが実情だ。

 

また、ロヒンギャ問題に取り組むことは、国軍の行為の責任を問うことにもつながる。国会の議席に4分の1の「軍人枠」を持つなど、国軍は民政移管後も政治に大きな影響力を持っており、スーチー氏も配慮せざるを得ない。

 

ミャンマーの政治アナリスト、マウンマウンソー氏は「次の選挙でどの政党が勝っても、国軍の協力を仰がなければならず、この問題に言及することに消極的になっている」と指摘する。

 

こうした状況について、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは「ロヒンギャが参加を拒まれている限り、この選挙は自由で公正なものではない」と批判している。【11月4日 朝日】

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【スー・チー氏の姿勢や政権運営には与党内の一部には批判も】

ロヒンギャ弾圧は問題視されていませんが、「ザ・レディー」ことスー・チー氏には与党内でも不満・批判は一部にあるようです。(大勢は、スー・チー氏に忠実に従う感じでしょうが)

 

スー・チー氏が“唯我独尊”的な性格で、そのせいもあって、若手・後継者が育たないという問題はかねてより指摘されていました。

 

更には、かつて軍事政権を批判していた与党が、今や当時の軍政と同じような強権的な反対派取締りを行っているとの批判も。

 

****「非常に独裁的」 スー・チー氏らNLD幹部に若手苦言 ミャンマー****

かつて民主主義の推進派とうたわれた元政治犯で、現在はミャンマーの政権与党・国民民主連盟の幹部となった年配の指導者らが今、抑圧、差別、検閲を行う当事者になったとして非難されている。

 

NLDが圧勝した2015年の総選挙から5年が経過した。今月8日の総選挙でも、NLDの勝利が広く予想されている。

 

この選挙の結果を受け、ミャンマーに民主主義を根付かせたいとする大勢の若者がNLDに参加した。

 

しかし、NLD上層部については、軍事政権に反対して服役した経験のない者には閉ざされたままとなっており、実質的に若者らを日陰に追いやっている。

 

NLDの現職議員で青年部の元代表アウン・フライン・ウィン氏は、「自分らが将来の政治的指導者になるのだと誇らしく思った」とAFPに語った。「しかし、残念なことに、そうはならなかった」

 

NLDの最高意思決定機関を構成する12人の平均年齢は、同党の代表で文民のリーダーでもあるアウン・サン・スー・チー氏を含め、70歳以上となっている。そして12人全員、軍事政権に反対して刑事施設への収容もしくは自宅軟禁を経験している。

 

NLDの若手党員の役割については、主に年長者の補助に限定されており、党外の人と話す際には許可が必要とされ、また演説をするには内容の「検閲」が求めらえれていると説明した。

 

「抑圧的な仕組みになってしまっている──軍事支配の頃の制度と変わらない」とウィン氏は述べ、「政治犯だったからといって、国を統治する方法を知っているわけではない」と続けた。

 

■ザ・レディー

2015年にスー・チー氏のNLD所属の下院議員として選出されるも、昨年に離党し、現在は「人民さきがけ党」の党首を務めるテ・テ・カイン氏もNLDの運営に批判的な見方を示している。

 

同氏は、党内では能力よりも忠誠心が評価され、細かいことまで上層部が干渉し、「ザ・レディー」と呼ばれるスー・チー氏に対して誰もが腫れ物に触るように接していると主張。「NLDの運営方法は秩序を欠き、非常に独裁的だ」と述べる。

 

少数民族が多数派を占める多くの地域ではNLD離れが広がったが、NLDは主要民族ビルマが多い地域では盤石な支持基盤を誇っている。

 

公の場で自分の意見を言えば、自身も親族もネット上でバッシングを受けるとカイン氏は言う。

「NLDにはもはや、わが国の問題を解決する道は示せない」

 

NLDは、1988年に起こった軍政に反対する民主化運動から発生した。

現在75歳になったスー・チー氏への支持が高まったのはこの時だった。国家的英雄となったスー・チー氏は、15年間の自宅軟禁に置かれた。政治的思想のために拘束された約1万人のうちの1人だ。

 

■何の疑いも持たずスー・チー氏を支持

NLDの「逆転した役割」についても指摘されている。

 

NLDは政治的抑圧を受けた当事者らが率いる政党ではあるが、政権の座に就いてからは反対派を取り締まっているというのだ。

 

事実、現政権の下で拘束された活動家の人数は急増している。最近では、活動家15人が拘束され、そのうち2人は軍部によるラカイン州での暴力行為の疑いを非難したことで、実刑6年の有罪判決を言い渡された。

 

人権監視団体、「ビルマ政治囚支援協会」の共同創設者ボー・チー氏は、これまでに実刑判決を言い渡された、または裁判を待っているという政治犯は、現在537人いると話す。

 

チー氏自身も軍事政権時代に収容された経験を持つ。そして釈放後には、関わりたくないとの雰囲気を周囲から感じたと言う。

 

しかし、今日の若い活動家らは、何の疑いも持たずにスー・チー氏を支持する人々と向き合わねばならず、状況はほとんどよくなっていないと指摘する。

「ほとんどの人は、誰かがスー・チー氏に盾突くことを望まないのです」 【11月6日 AFP】

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かつての「民主化運動のカリスマ的指導者」であった「ザ・レディー」は、これからどこへ向かうのか?

 

【依然として厚い国軍の壁】

唯我独尊的な姿勢はともかく、公約である憲法改正や少数民族との和解については前進させたいところでしょうが、国軍の壁は厚いようです。

 

****コロナ禍の中で総選挙、疑問呈す ミャンマー国軍トップ、改憲は否定的****

ミャンマー国軍トップのミンアウンフライン最高司令官が5日、総選挙(8日)を前に朝日新聞の質問に書面で答えた。

 

新型コロナウイルスの感染が広がる中での総選挙の実施に疑問を呈し、アウンサンスーチー国家顧問率いる与党・国民民主連盟NLD)が目指す憲法の改正にも否定的な見解を示した。

 

 ――総選挙に対する軍の基本的な姿勢は。

 「2015年の選挙は自由で公正だったので、野党だったNLDが選挙に勝てた。現政権が設立した選挙管理委員会は、この選挙が自由で公正だと保証しなければならない」

 

 ――新型コロナの感染が広がり、国軍系の連邦団結発展党(USDP)は総選挙の延期を求めてきた。

 「新政権発足までには十分な時間がある。コロナが大流行している現状では、この期間の一部はコロナの厳格な予防と制御に使われるべきだ。選挙を12月に延期することも可能だった」

 

 ――国会の4分の1の議席を軍人議員に割り当てている憲法について、NLDは民主的でないとして改正を訴えている。

 「国軍には、すべての市民に平和や安定、安全をもたらす義務がある。議席の4分の1に参加しているのは、この目標に向けて取り組んでいるからだ。(少数民族の武装勢力との)武力紛争という独特の状況にあり、和平交渉も続いていること、我々のシステムがまだ完全に成熟していないことも理由だ」

 

 ――少数派イスラム教徒ロヒンギャへの迫害をめぐり、国際社会はあなたや軍を厳しく批判している。

 「国際社会は政治的な理由で我々に圧力をかけている。(ロヒンギャが)ミャンマーの領土内に住むことには反対しないが、市民権の問題や先住民の定義、権利については単に国内法の問題でしかない。この問題への国際的な介入は受け入れられない」

 

 ――ミャンマー政府は軍による犯罪行為があった場合には、国内で適切に対処すると主張しているが、国際社会は自浄能力を疑っている。

 「我々は対テロ作戦においてさえも、民間人への暴力にかかわった兵士や部隊には、法に基づいて適切な処罰を科す」

 

 ■与党が有利、透ける強い不満

ミンアウンフライン氏はコロナ下での総選挙実施に疑問を表明。現政権と選管に対して「自由で公正な選挙」の保証を求めた。コロナによる街頭での選挙活動の制約などが、優勢が伝えられる与党・NLDに有利に働くとみられることへの強い不満がうかがえる。

 

今回の選挙で、NLDは前回よりは議席を減らすとみられてきた。それだけに、NLDへの追い風となりかねない状況への危機感が野党勢力には強い。

 

スーチー氏らが目指す軍の政治関与を定めた憲法規定の改定には、改めて否定的な考えを示した。軍の政治支配が長く続いたミャンマーで、この規定は民政移管後も軍の影響力を保つ足がかりであり、簡単には手放せない。改憲には軍人議員の賛成が欠かせず、総選挙後にNLD政権が継続しても、困難な状況が続きそうだ。

 

ロヒンギャへの迫害問題では、国際社会の介入を拒否する姿勢を改めて明確にした。【11月6日 朝日】

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国軍への配慮が欠かせないスー・チー氏ですが、国軍の反対を押し切って選挙を強行する力はあるようです。

8日の総選挙の結果がどうなるかはわかりませんが、アメリカ大統領選挙よりはまともな選挙にはなるでしょう。

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