孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  ロシア・イランの動き 女性の社会参加の象徴が、またひとつ消える

2016-12-27 22:06:09 | アフガン・パキスタン

(アフガニスタン・カブールの飛行場でカメラに向かってポーズを取るパイロットのニロファル・ラフマニさん(2015年4月26日撮影)。殺害の脅迫などからアメリカ亡命を申請【12月27日 AFP】)

ロシア:タリバンとの関係強化
シリアやイラクなど内戦・紛争が溢れている世界で、“忘れ去られた国”ともなりつつあるアフガニスタンの情勢に関する情報はあまり多くありません。

基本的には、タリバンの攻勢が強まり、アメリカが手を引こうとしている(特に、「アメリカ第一」で、対外的にはISにしか関心がなさそうなトランプ次期政権にとっては、アメリカの利益に直接関係しないアフガニスタンの重要性は今以上に低いものとなるでしょう)なかで、“今ほど人生に希望が持てないと感じたことはない。出口が見当たらないのだ。不穏な時を過ごしている”(現地記者)【11月9日 AFP】という状況にあることは、11月10日ブログ“アフガニスタン タリバンの攻勢で、出口のない不安に置き去りにされる人々”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20161110でも取り上げました。

かつては、少なくとも首都カブールは安全と見なされていましたが、それも怪しい状況です。

****<アフガン>カブールで国会議員宅襲撃 7人死亡、6人負傷****
アフガニスタンの首都カブールで21日夜、武装集団3人が国会議員の自宅を襲撃し、治安部隊と銃撃戦になった。アフガン当局によると、議員は無事だったが、親族ら少なくとも7人が死亡、6人が負傷した。武装集団3人も全員死亡。旧支配勢力タリバンが犯行声明を出した。
 
地元メディアなどによると、武装集団は1人が自爆した後、残る2人が敷地内に侵入し立てこもった。標的となったのは、タリバンが攻勢を強める南部ヘルマンド州の選出議員で、タリバンは「重要な軍事会議」を狙ったとしている。【12月22日 毎日】
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アメリカの影響力が小さくなれば、それを埋めるように周辺国や関係国が動き出します。

アフガニスタンに強い影響力を有するのは何と言っても、タリバンの後ろ盾となってきた隣国パキスタンですが、ソ連時代のアフガニスタン侵攻で“痛い思い”をしたロシアの動きも報じられています。

****アフガニスタン政府と米国が懸念、ロシアとタリバンが関係強化か****
アフガニスタンと米国の当局は、ロシアとアフガニスタンの反政府武装勢力タリバンのいかなる関係強化も治安情勢を複雑化させる可能性があるとして、懸念を強めている。

ロシア当局は7日、モスクワでの会見で、タリバンへの支援提供を否定し、タリバンとの限定的な接触は、和平交渉に参加させることを目的としたものだと述べた。

アフガニスタン政府の指導者らは、ロシアのタリバンへの支援は政治的なものとみられるとし、最近モスクワで一連の会合が開かれたと主張。また、タジキスタンの武器や資金を含むより直接的な支援に関して、アフガニスタンの情報や防衛当局が神経をとがらせていると述べた。

アフガニスタン駐留米軍のニコルソン司令官は先週、ワシントンでの会見で記者らに、ロシアは、アフガニスタンに「悪い影響を与える」国としてイランやパキスタンに加わったと非難した。【12月8日 ロイター】
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今になってタリバンとの関係を模索するロシアの思惑はよくわかりませんが(タリバンの軍事的・政治的存在感が今後強まる事態への布石でしょうか)、ソ連崩壊の背景ともなったアフガニスタン侵攻失敗のトラウマがありますから、シリアのように軍事的に深入りすることはないでしょう。

現アフガニスタン政権とタリバンとの間で、アメリカに代って影響力を発揮しようというところでしょうか。

イラン:「アフガニスタン政府・国民を支援する上でのイランの決意は固い」】
アフガニスタン駐留米軍のニコルソン司令官は、アフガニスタンに「悪い影響を与える」国としてイランやパキスタンを挙げていますが、パキスタンについてはタリバンの後ろ盾ですから、そういうことになるでしょう。

イランは一応、アフガニスタン政権を支援する立場をとっています。

****イラン外相、「アフガニスタンを支援する上でのイランの決意は固い」*****
イランのザリーフ外務大臣が、「アフガニスタンが安定し、安全な先進国となるために、同国の政府と国民を支援する上での、イランの決意は固い」と語りました。

ザリーフ外務大臣は4日日曜、インド北西部アムリトサルで行われたイスタンブール・プロセス「アジアの中核」会合で、地域における麻薬生産や過激派の暴力の拡大に触れ、最近の国連薬物犯罪事務所の報告によれば、麻薬の生産は昨年43%増加し、テロ組織や麻薬密輸ネットワークが勢力を拡大する下地が整っていると語りました。

また、アフガニスタン国内でテロ組織ISISの活動が拡大していることに触れ、イランはアフガニスタン政府の主導による、地域諸国の可能性すべてを用いた平和へのプロセスが継続され、アフガニスタンが恒久的な平和に向かうよう希望していると強調しました。

さらに、「イラン、インド、アフガニスタンの、イラン南東部チャーバハール港の開発に関する合意書は、アフガニスタンが国際水域を通じて世界市場にアクセスするための重要な一歩であり、アフガニスタンの発展を支援する」としました。

ザリーフ外相は、アフガン難民の支援に関しても、「イランは37年間、アフガン難民およそ300万人を受け入れてきた。彼らは皆、衛生・教育上の公共サービスを活用しており、一方でイランは国際社会から何の支援も受けていない」と述べました。【12月4日 Pars Today】
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イランはシーア派国家ですので、スンニ派のタリバンとはもともと関係がよくなかったのですが、ここ数年はタリバンと指導者とも接触して、その関係を強めているとも言われています。

イランも、アフガニスタン政権・タリバン双方との関係を強めて、今後の“混乱”において影響力を発揮しようというところでしょうか。

新しい時代の女性の象徴でもあった「アフガニスタンのトップガン」アメリカ亡命
旧タリバン政権時代には、女性の権利が、一人では外出も許されないほどに著しく制約されていました。

11月10日ブログでも取り上げたように、“アフガニスタンでは過去2か月に300以上の学校が破壊されており、その大半に(女子教育を標的としている)国内各地で攻勢を強めているタリバンが関与していた”【10月30日 AFP】とのことで、タリバンの姿勢は今も基本的には変わっていないようです。

その点が、今後タリバンが政治的に前面に出てくる事態に対する大きな懸念です。

アフガニスタン政府の統治下で、現在はそれなりに女性の社会参加も進んではいますが、タリバンに限らず保守的勢力は女性の進出に対して強い抵抗を示しています。

****空港勤務の女性5人と運転手、銃撃受け死亡 アフガニスタン南部****
アフガニスタン南部で17日、空港で勤務する女性5人と運転手が銃撃を受けて殺害された。紛争で荒廃した保守的な同国で、雇用される女性たちの危険性が浮き彫りとなった。

殺害された女性らは民間会社の従業員で、空港で女性旅行者の荷物や身体検査を担当していた。同国南部カンダハルにある空港にワゴン車で向かう途中、バイクに乗った3人の男に銃で撃たれたという。(中略)
 
アフマドゥラ・ファイジ空港長は、殺害された女性たちは女性が仕事に就くことを認めない人々から殺害予告を受けており、身の安全に懸念を抱いていたと述べた。
 
1996年から2001年まで厳格なシャリア(Sharia、イスラム法)でアフガニスタンを支配していた旧支配勢力タリバンは女性が家の外で働くことを認めていないが、今回の事件には関与していないとしている。
 
しかしアフガニスタンの働く女性は以前から、武装勢力や保守的なイスラム主義者から襲われる危険に直面してきた。
 
アシュラフ・ガニ大統領は、罪のない市民と女性の殺害は「アフガニスタンの敵の弱さの現れだ」と語った。また国連も殺害を非難し、「迅速で効果的、かつ公平で透明性の高い捜査」の実施を呼びかけた。
 
2001年のタリバン政権崩壊後、アフガニスタンの女性は目覚ましい進歩を遂げたものの、公的な仕事をする女性まだ少なく、相変わらず暴力や抑圧、虐待を受けている。
 
アフガニスタン法務長官室の統計によると女性に対する暴力事件は昨年は約5000件、今年は1~8月で3700件以上に上っている。【12月18日 AFP】
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こうした働く女性にとって厳しい環境にあって、アフガニスタンで初の空軍女性パイロットとなったニロファル・ラフマニさんは「アフガニスタンのトップガン」とも呼ばれる非常に目立つ存在でした。

ラフマニさんは“アフガニスタン人女性たちの希望の象徴”でもありましたが、“目立つ存在”であるだけに、常に命の危険にさらされる不安からアメリカへの亡命を希望したことが話題となっています。

****アフガン初の女性パイロット、米国に亡命申請で衝撃広がる****
アフガニスタンで初の女性パイロットとなったニロファル・ラフマニさん(25)が米国での訓練を終えた後、同国に亡命を申請したことを明らかにし、アフガニスタン国内では政情不安や女性の権利、若者の大量流出といった問題への国民的議論をあおる出来事として衝撃が広がっている。
 
米軍のエースパイロットを描いた米映画「トップガン」にちなみ「アフガニスタンのトップガン」と呼ばれてきたラフマニさんは、15か月にわたった米空軍での訓練コースを終えて先週、アフガニスタンへ帰国する予定だった。

しかし帰国の前日、ラフマニさんは自分の身の安全に懸念を感じていることを理由に、帰国しないと宣言。アフガニスタン国内では、国を「裏切った」とする批判が巻き起こる一方、人権活動家などからは支持する声が上がっている。
 
アフガニスタン国防省のモハマド・ラドマネシ報道官はAFPに対し「米国での彼女の発言は無責任で予想外だ。彼女は若いアフガニスタン人の手本となるはずの人物だったのに。彼女は国を裏切った。残念だ」と述べた。
 
ラフマニさんは2013年、アフガニスタンのタリバン旧政権以降、初めて固定翼機のパイロットになった女性として、戦闘用ブーツにカーキ色のオーバーオール、パイロット用サングラスを着用してメディアに登場。何百万というアフガニスタン人女性たちの希望の象徴となった。

しかし有名になったことで、反政府勢力から殺害脅迫が届くようになり、いまだに女性は家から出るべきではないと考える人が多い保守的な国で、男性の同僚から侮辱されることも常だった。
 
昨年AFPが首都カブールで行ったインタビューでラフマニさんは、自分の身を守るために常に拳銃を携行していることや、男性たちによる性的なまなざしには慣れているが、標的とならないよう、空軍基地から出るときは制服を一切着用したことがない、などと話していた。【12月27日 AFP】
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保守勢力の脅迫だけでなく、親族の「名誉殺人」標的にも
ラフマニさんの置かれている厳しい状況については、以前から報道されていました。
下記は去年8月のウォール・ストリート・ジャーナル記事です。

****アフガン軍初の女性パイロット、脅迫に揺らぐ夢****
ニロファル・ラフマニさんは21歳でアフガニスタン空軍の固定翼機を操縦する初の女性パイロットになった。これは父親の夢でもあったし、家庭外でのアフガン女性の役割を著しく高めるシンボルともなった。
 
だが、彼女の人生がおかしくなり始めたのもこのころだった。ラフマニさんは「これは私の理想の仕事だった」とし、「辞めたいと思う日がくるとは考えてもみなかった」と話す。
 
今23歳になったラフマニさんは、生意気にも男性中心の世界で働いていると批判され、タリバンと親戚の両方から殺すぞという脅しを受けている。彼女だけでなく両親や兄弟まで命の危険を感じ、家族8人は人の目から隠れて暮らしている。快適な中流階級の暮らしは失われた。
 
米軍主導の連合軍がラフマニさんの功績を宣伝し、彼女は同時多発テロ以降のアフガン人を象徴する一人となった。カーキ色のオーバーオールを着て、髪のスカーフを緩めに巻き、パイロット用のサングラスをかけた若い女性パイロット、ラフマニさんの写真はネットで瞬く間に広まった。
 
しかし、米国とその同盟国がアフガンで男女平等を目指して多大な努力をしているにもかかわらず、ラフマニさんの経験は、女性の権利に限界があることも浮き彫りにした。

アフガンでは女子学校が開設され、女性が労働人口に加わり、ブルカ(イスラム教徒の女性が着用する衣装)の着用を止める女性もいるなど、社会に変化も見られている。しかし、女性に権利を与えようとする取り組みは時として、アフガンの伝統と衝突してきた。
 
ラフマニさんはタリバン政権崩壊後の米国が後押しする秩序を取り入れた家庭で育った。アフガン空軍が女性を採用し始めたとき、家族に励まされてパイロットに応募した。
 
彼女は2012年、訓練中にウォール・ストリート・ジャーナルに対し、「アフガンでもこの権利が認められるべきだ」とし、他の女性にも参加を呼びかけた。「私は他の人々にとって実例となるために入隊を決断した」と話していた。
 
ラフマニさんは、兵士を戦場に運ぶターボプロップ式の「セスナ208」を操縦している。戦死した兵士の遺体を運ぶこともある。1年ほど前、彼女は機長になった。(中略)

2013年までには、ラフマニさんはアフガンでよく知られるようになっていた。そしてそのころ、脅しの電話もかかり始めていた。最初は、怒鳴られたメッセージの理解に苦しんだ。電話してきた男たちは彼女が話す現地語のダリー語を話していなかった。それでもメッセージは明らかだった。「辞めなければ殺すぞ」
 
その後、一通の手紙が彼女の自宅に届いた。13年8月3日付のその手紙には「われわれの警告を真剣に捉えていない」と書かれていた。「イスラム教では女性が英米人と協力しないよう教えている。今の仕事を続けるのであれば、自分と家族の破滅の責任を負うことになる」。
 
この脅しには、パキスタン北西部スワート渓谷の武装勢力パキスタン・タリバン運動(TTP)の署名があった。それは「マララ・ユスフザイから学ぶように」と助言していた。

ノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんは女性の権利を求めて活動したとして、故郷のスワート渓谷でTPPに襲撃され、危うく命を落とすところだった。ラフマニさんと家族は一時的にインドに逃れた。
 
もっと恐ろしかったのは、家族に恥をかかせたと非難する親戚からの脅しだったとラフマニさんは話す。(中略)
 
ラフマニさんの親戚の男性たちの中には、叔父たちやいとこも含め、一族の名誉を回復する唯一の方法は彼女を罰することだと主張する者もいた。ずっと前から住んでいたカブールの自宅への侵入者を守衛が阻止した事件を受けて、一家はこの家を売却した。その後、数カ月おきに住まいを転々と変えた。
 
ラフマニさんはインドから戻った後、アフガン空軍から退職を求められた。理由は任務を放棄したからだという。ただ、米国主導の連合軍からの圧力で、パイロットの仕事を失わずに済んだという。
 
過去1年間にラフマニさんの弟は2回、襲撃を受けた。最初は通っている大学付近で銃に撃たれそうになり、2回目はひき逃げにあって腕を折った。一家の生計を支えていたエンジニアだった父親は昨秋、職を失った。退職前にはラフマニさんの一件で同僚たちから嫌がらせを受けていたという。
 
ラフマニさんの姉も影響を受けた。夫の家族に嫌われ、今では離婚している。離婚はアフガンではまれで恥ずべきことだと考えられている。その結果、姉は4歳になる息子に1年以上会っていないという。
 
ラフマニさんは「初めから分かっていれば、家族をこんな目に遭わせなかった」と話す。「自分たちが置かれた環境にもかかわらず、家族は今でも私を支えてくれている。家族の支えがなかったら、生きていないと感じることもある」。
 
3月に米国務省はラフマニさんに「勇気ある国際女性賞」を与え、仕事のためにとった個人的リスクをたたえた。彼女は米海軍のアクロバット飛行隊「ブルーエンジェルス」とともに米カリフォルニア州サンディエゴを訪れ、市長が15年3月10日を「ニロファル・ラフマニ機長の日」と宣言した。
 
ラフマニさんの上司は彼女に米国行きを許可することを渋った上、帰国しても彼女の栄誉を全く評価しなかったという。
 
アフガン空軍の広報官は「脅しを受けているのはニロファルだけではない。パイロット全員だ」とし、「敵は男性も女性も区別しない。彼女は脅威に立ち向かい、勇敢に国に奉仕すべきだ」と述べた。
 
ラフマニさんによると、家族に対する脅しや攻撃について上司たちは、「どこに足を踏み入れているのか知っていたはずだ。入隊を強要したわけではない」と語っている。
 
アフガンではパイロットが不足しているにもかかわらず、ラフマニさんはセキュリティー上のリスクから、7月上旬以来、飛行していない。
 
米軍はラフマニさんに一時的に米国に拠点を移し、C-130輸送機の飛行訓練を受ける機会を提供している。(中略)
 
現在、アフガン空軍にはラフマニさんを含め3人の女性パイロットがいる。ラフマニさんは「私は本当に軍で働きたい。本当に空軍にとどまりたい」と話す。「でも、今のような状況を続けることはできない」【2015 年 8 月 6 日 WSJ】
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タリバンなど保守勢力だけでなく、親族からの“名誉殺人”の標的にもされていたようです。
アメリカが“アフガニスタン民主化の象徴”として支えてきたようで、そのことを嫌う向きもあることも想像されます。

こうした圧力にさらされてきたラフマニさんの亡命を“彼女は国を裏切った”と非難するのは、あまりに酷に思われます。

彼女が志を全うできる環境を提供できなかった自分たちのふがいなさを恥じるべきでしょう。
残念なことに、アフガニスタン女性の“灯”が、またひとつ消えました。

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