孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

モンゴル  良好な関係を維持せざるを得ない中国との関係 内モンゴルの状況 世界最悪の大気汚染

2018-08-25 21:38:09 | 東アジア

(首都ウランバートルの街を覆うスモッグ【8月25日 WEDGE】)

中国との良好な関係を推進せねばならない構図 「過去のことは追求しない」との両国方針で歴史問題は封印
日本では大相撲以外には、政治的にも、経済的にも、あまり話題になることがないモンゴル。

隣接する中国国内にも広大な内モンゴル自治区も存在することもあって、チベットやウイグルへの中国政府の“弾圧”とも評されるような厳しい姿勢のなかで、モンゴルと中国の関係、中国国内おけるモンゴル族の状況については関心がもたれるところです。

中国の圧倒的な影響力を受ける点では、他の中国周辺国と同様ですが、モンゴルの場合、日本の4倍の面積にもかかわず人口は約300万人ということで、13億人の中国とはけた違いの格差もあります。

*****中国との提携、モンゴルには受け入れざるを得ない事情****
中国政府外交部の陸慷外交官は24日の定例記者会見で、モンゴル国を公式訪問した中国の王毅外相が、モンゴル側から大いに重視されたことについて、「モンゴル国は『一帯一路』を共に建設する天然のパートナーだ」などと述べた。

モンゴル人の間での対中感情は良好とはいえないが、政府としては中国との良好な関係を構築をせざるをえない状況だ。

王外相とバトトルガ大統領などモンゴル政府要人との会談では、モンゴル側から「一帯一路」など中国の政策に深くかかわり、中国側によるモンゴルにおけるインフラ建設やエネルギー、電力分野の協力について、両国がガイドラインの設定を早めるなどの提案があったという。

王外相も、モンゴル国がインフラ建設を早めることを支持し、モンゴル国が「発展のボトルネック」を突破することを助け、モンゴル国が「一帯一路」により現実的な利益を得ることを支持するなどと述べた。

陸慷外交官は24日の記者会見で、「中国とモンゴルは山も川も連なった、友好的な隣国だ。モンゴル国は『一帯一路』を共に建設する天然のパートナーだ」などと述べ、両国の協力で双方が新たなチャンスを得ることができるなどと主張した。

しかし、モンゴル国民の対中感情は、良好とは言えない状況だ。まずは、人口がわずか300万人程度のモンゴル国が人口が14億人近い中国に接しているという、「人口圧力」に対する警戒感がある。

しかも、内陸国であるモンゴル国は、海への出口を中国に抑えられているという恐怖感がある。

また、裕福になった中国人男性がモンゴル国で愛人を持つなどの行為に対する嫌悪感もある。

しかし、自国経済を安定して発展せねばならないモンゴル国政府には、中国との良好な関係を推進せねばならない構図がある。そのため、モンゴル国政府は中国の意向を最大限に受け入れねばならない「宿命」を持っていると言える。

なお、中国国内では、内モンゴル自治区を中心に580万人のモンゴル族(モンゴル民族)が暮らしている。中国における民族分類は戸籍上のもので、実際にはモンゴル語を全く話せないモンゴル族も多いが、それでも、中国国内のモンゴル民族人口はモンゴル国よりも多いと考えてよい。

モンゴル国と内モンゴル自治区の歴史的所属については中国側とモンゴル国では見解が分かれている。

モンゴル国側は「モンゴルはもともと中国とは別の国。元朝時代にはモンゴルが中国を支配したが撤退した。内モンゴル自治区は本来、モンゴル人の土地だったが、歴史の経緯により手放すことになった」だ。

一方の中国は「モンゴル民族はもともと中国の多くの民族の一つだ。20世紀になってからの歴史の変動により、モンゴル国は中国から分離した。ただし中国はモンゴル国の独立を承認した」との見解だ。

双方の歴史見解は異なるが、中国はモンゴル国の独立を認め、モンゴル国も中国領内モンゴルの領有権を主張する考えはないと明言している。

つまり双方が、「過去のことは追求しない」との方針を堅持しているので、「歴史問題」が表面化することはない状況だ。【8月25日 レコードチャイナ】
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「モンゴル民族はもともと中国の多くの民族の一つだ。20世紀になってからの歴史の変動により、モンゴル国は中国から分離した。ただし中国はモンゴル国の独立を承認した」という中国側認識は、モンゴルならずとも、中国周辺国としては大いに異論があるところです。

そうした“中華思想”的発想が東アジアの緊張を高めることにもなり、また、“強国”に成長した中国が周辺国から本当の意味でのリスペクトを受けられない所以でもあると思いますが、現実政治世界にあってはモンゴルにとっては如何ともしがたいものもあります。

日本も加担した民族分断の悲劇も
中国側に組み込まれている(中国的認識からすれば、本来はモンゴル国自体が中国の一部であるが・・・ということになりますが)内モンゴル自治区については、以下のようにも。

****内モンゴル自治区****
内モンゴル自治区と名のつくものの、地方政府トップの自治区主席などをモンゴル族が務めているのみで、自治区設立から60年間続いた漢民族の流入によって漢民族が人口の80%以上を占めており、その他モンゴル族・ダウール族・エヴェンキ族・オロチョン族・回族・満洲民族・朝鮮族などが居住している。モンゴル統一や独立を求める罪を犯す人は法律により最大で無期懲役に処される。

現在ではモンゴル自由連盟党や内モンゴル人民党などが内モンゴル独立運動を行っている。南モンゴル民主連盟代表のハダが拘束されるなどモンゴル民族の分離独立運動は徹底的に取り締まられている。【ウィキペディア】
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チベットやウイグルへの対応を見れば、モンゴル民族運動への中国の神経質な対応が想像できます。

中国の対応だけをあげつらうのは片手落ちで、かつては日本も“満州国”としてモンゴル族を実質支配し、ノモンハン事件では、モンゴル族間の同族の争いに駆り立てた歴史的経緯もあります。

****ノモンハンと文化大革命 モンゴル族悲哀の歴史 藤本欣也****
(中略)満州里会議が成果なく幕を閉じる中、満蒙国境の草原地帯で39年に勃発したのがノモンハン事件だった。
 
「同じ民族同士が戦う悲しい戦争でした」
こう語るのは、ノモンハンに近い内モンゴル自治区アムグランで文物管理所長を務める巴図孟和(ばともうわ)さん(60)だ。モンゴル族の出身である。
 
日本でノモンハン事件と呼ばれる戦闘は、日本・満州国の連合軍と、ソ連・モンゴル人民共和国の連合軍が戦った。このうち満州軍の主力は、戦場一帯を地盤とするモンゴル族の部隊で構成されていた。
 
つまり、モンゴル民族同士が戦場で相まみえたことになる。
 
「モンゴルの大地でモンゴル人同士が血を流した。恥ずかしいことです」
巴図さんには、満州軍の兵士だった伯父がいる。
 
「モンゴル族の部隊は空に向けて発砲する兵が多かったといいます。脱走兵もたくさんいたそうです」
伯父は重傷を負った。ソ連兵に撃たれた、と話していたという。
 
戦闘は、兵力・物資に勝るソ連側が人的損失を被りながらも優位に展開し、4カ月後に停戦した。
 
満州軍の一員としてノモンハンに参戦したモンゴル族の苦難は、共産中国の建国後も続く。
 
50〜60年代、中国人民解放軍によるチベット制圧の過程で、モンゴル族は部隊派遣を命じられ、今度は高地での戦闘を強いられた。
 
こうした「忠誠」や「貢献」にもかかわらず、「少数民族の中でも特にモンゴル族の被害が甚大だった」(被害者家族)というのが、文化大革命(66〜76年)である。
 
問題視されたのは、過去の対日協力だけではない。当時は中ソ対立の時代で、ソ連の衛星国、モンゴル人民共和国との関係も疑われた。10万人以上が犠牲になったとの説もある。
 
7月下旬、中国人観光客でにぎわうノモンハンの戦場跡を訪れた。草原に政治スローガンの看板が立っている。中国語とモンゴル語で記されていた。
 
民族の団結強化  民族の進歩促進  民族の経済繁栄  美辞麗句が並ぶ。つまりは、いずれも現代の中国やモンゴル族の社会で実現していないということだ。
 
その背後にたゆたう少数民族の歴史を、草原で無邪気に馬と戯れる一般の中国の人々は知るよしもない。【8月23日 産経】
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【“世界最悪の大気汚染”を生むスラム街の石炭 そこに遊牧民を追いやる環境変化
話をモンゴル国に戻すと、“大草原”のイメージにもかかわらず、モンゴル・ウランバートルは世界の首都では最悪の深刻な大気汚染に苦しんでいます。

****酸素カクテル」を飲む住民も、モンゴル首都の強烈な大気汚染****
モンゴルの首都ウランバートルでは、大気汚染に耐えかねた住民たちが、汚染された空気から身を守る最後の手段として「ラング(肺)ティー」や「酸素カクテル」を飲んでいる。だが保健当局によると、それらの効果は立証されていない。

国連児童基金(ユニセフ)の報告によると、2016年に世界中の首都で最も大気汚染が深刻だったのはウランバートルで、インドのニューデリーと中国の北京がそれに続いた。ユニセフは報告書の中で、すべての子どもや妊婦を危険にさらす健康危機だと警鐘を鳴らしている。

気温がマイナス40度にまで落ち込むこともある世界で最も寒い首都では、いわゆるゲル地区と呼ばれるスラム街の住民たちが調理や室内の暖房用に石炭ストーブを使用しており、大気汚染が急激に悪化している。

汚染源の大半はゲル地区のストーブだが、道路輸送や発電所からも有害なガスが発生している。(後略)【5月18日 AFP】
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「ラング(肺)ティー」というのは、肺の洗浄効果をうたうお茶とのことです。

直接の汚染原因はゲル地区と呼ばれるスラム街の住民たちが使用する石炭にあるにしても、そうした状況に陥っている背景には、気候変動も絡んだ環境変化で遊牧生活ができなくなっている現状があるようです。

****ゾド」に生活を追われるモンゴルの遊牧民****
(中略)増幅の一途をたどるウランバートルは、近年深刻な大気汚染に悩まされている。

そもそもウランバートルは盆地であるため、大気が留まりやすい。冬は世界平均の25倍もの汚染物質で大気が充満し、ついに“世界最悪の大気汚染”というレッテルを貼られることになった。
 
事実、数メートルの先の信号の表示が“ガスって”見えないので交通事故に危うく遭うところだった。息を吸うと何かが入り込んでいて喉や鼻を刺激するわ、目なんて沁みて痛いわで、スーパーでマスクとサングラスを急遽購入した。(中略)

現場や人々を取材する中でこの惨状の原因が見えてきた。気候変動である。
 
気候変動によって放牧を放棄せざる得なくなった元遊牧民たちが、ウランバートルに押し寄せ、ゲル地区と呼ばれる遊牧民たちのゲル(移動式住居)の密集地域を形成した。

この都市スラムで彼らは廉価な石炭で暖をとったり料理をしたりしてギリギリの生活を送っている。元遊牧民たちは、口々に「ゾドにやられた」と叫んだ。遊牧民たちに何があったのか?ゾドとは一体何者なのか?

冬の魔物「ゾド」
今年の冬、ゾドによる被害が最も大きかったウランバートルから西へ400キロのウルハンガイ県に向けて車を走らせた。いたるところで、家畜の死骸が無残にも四方八方に転がっていた。
 
ゾドとはモンゴル語で寒雪害を意味する。ゾドの発生要因は、冬の草地を覆う雪氷の増雪や夏の少雨や干ばつなどにより牧草の欠乏が続く気候状態である。

ゾドが発生すると家畜は夏に十分な牧草を食べられず、脂肪が蓄えられなくなり、越冬できず大量の家畜が死に絶える。

国民の約30%が遊牧民であるモンゴルでは、家畜を失うことは財産を失うこと同じ。多くの人々の命や生活をも脅かすことになる。(中略)

気候変動で「ゾド」が増加傾向に
ゾドの研究者であるモンゴル環境省気候変動対策課のバトジャルガル博士に話を聞いた。
(中略)博士は「気候変動の影響でゾドの発生数が増加傾向にある」と指摘。(中略)

博士によると、一昔前は12年に1度くらいの頻度でゾドが発生していたのに対し、近年は3.8年に1度の頻度で起きているという。このまま温暖化が進めば、遊牧民が消え、モンゴル国の3割を占める国民の生活基盤が失われる恐れがあるのだ。

ゾドによる社会問題
(中略)ゾドによって家畜を失った人々の多くが遊牧生活を止めざるをえず、ウランバートルに押し寄せてきている。その数は年々増え続け、ウランバートル人口の6割を占める約90万人に達した。

(中略)遊牧民たちは、遊牧生活で使っていたゲル(移動式住居)を設置しまくり、今では巨大な「ゲル地区」が形成された。

(中略)遊牧しかしたことがない彼らは、なかなか職が見つからず、3K(きつい、危険、汚い)の職場環境の仕事しか得られない。彼らの生活は困窮し、アルコール中毒や犯罪に手を染める人たちもいる。こうした元遊牧民が「環境難民」として肩を寄せ合っている。(中略)

現在では、もはやこれ以上ゲルを建てられない状況に陥り、今年1月、政府は、ウランバートル市内に流入する遊牧民を規制する条例を制定。

しかし、それでも墓地をぶち壊してゲルを建てる遊牧民までいるという。政府が、遊牧民の流入を規制した要因に、冒頭の「大気汚染」問題があるのだ。

「環境難民」が生む次の環境問題
ゲル地区に住むソロンゾンボルドさん一家もその一人。彼らの「ゲル」からは、調理やマイナス50度の極寒に耐えるために燃やした石炭から出る汚染物質を含んだ真っ黒な煙が上がっている。

煙の街と化したウランバートルの病院には、廊下に溢れかえるほどの患者が、大気汚染を原因とする「肺炎」などの病気を患って、受診に来院している。
 
毎年400人を超える幼児が大気汚染を原因とする病気で死亡しているという。胎児や妊婦にも大気汚染の影響が及んでいる。

(中略)子供の夢を叶えるため、両親は大気汚染に加担していることに胸を痛めつつも、安価は石炭で生活を支えている。
 
(中略)ゲルから排出された煙は、富裕層らが住む地区に流れやすく、ソロンゾンボルドさんの妻は、富裕層から罵倒され唾を吐かれたそう。「申し訳ない。でも仕方ないんです。非難の目を向けられることのない遊牧民に戻りたい…」と胸を詰まらせた。(後略)【8月25日 WEDGE】
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一方、絶滅の危機に瀕していたモンゴルの古代馬の繁殖が行われているとか。

****絶滅寸前モンゴルの古代馬 繁殖プログラムで生息数回復、故郷の草原へ****
乱暴に足が踏み鳴らされると、シベリア上空を飛行していた小型軍用機が揺れた。同機がチェコのプラハからモンゴルの草原へと輸送しているのは、希少な4頭の馬だ。

かつて絶滅の一歩手前だった古代種の馬、「プルツワルスキー(モウコノウマ)」は、故郷の草原で生息数を回復しつつある。
 
胴体が丸くて足が短く、砂色をした馬たちは今、世界各地の動物園の繁殖プログラムによって絶滅の危機をなんとか免れ、徐々に故郷の野生動物保護区に放牧されている。
 
1932年からプルツワルスキーの繁殖に取り組んできたチェコのプラハ動物園は、世界中で新たに生まれた子馬を追跡して系図を作り、2011年に、モンゴルにプルツワルスキーを戻すプロジェクトを立ち上げた。
 
雌の4頭は、「野生馬の草原」を意味するタキンタルで野生の群れと一緒にされる予定だ。1969年にはプルツワルスキーが1頭にまで減ってしまっていたこの地で、今では220頭の群れが自由に駆け回っている。【8月25日 AFP】
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古代馬の繁殖は喜ばしいことですが、群れが自由に駆け回る草原が今後も存続するのか・・・・。

そこに暮らす人間にも、せめて馬並みの関心が払われたら・・・とも。

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