孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  違法建築物撤去命令に垣間見える、共産党政権下の「私有財産制」の危うさ

2020-01-06 22:57:09 | 中国

 (取り壊される陝西省秦嶺国立公園の高級別荘=中国中央テレビから【2019年1月27日 陳言氏 J-CASTニュース】)

 

【陝西省国立公園内の違法建築問題 「生態環境保護」と「地方政府の汚職摘発」という建前のもと、党内権力闘争の側面も】

 

****中国共産党、陝西省元トップの党籍剥奪…習主席の意向か「中央決定重視せず」****

中国共産党の汚職摘発機関・中央規律検査委員会は4日、陝西省トップだった趙正永元党委員会書記が、「党中央の決定や手配を重視しなかった」などとして党籍剥奪処分にすると発表した。

 

国営中央テレビによると、習近平国家主席は、趙正永氏が書記だった2014年以降、省内の国立公園で違法に建てられた多数の別荘を取り締まるよう6回にわたって指示したが、地元政府は18年まで本格的な対応をとらなかった。これが習氏の怒りを買ったとみられている。習氏の意向が働いて今回の処分につながった模様だ。

 

香港紙・明報は、別荘の多くは最高指導部メンバーの趙楽際・中央規律検査委書記が陝西省党委書記だった07〜12年に建てられたことから、地元政府は習氏との間で板挟みだったと伝えている。

 

趙楽際氏は今回、習氏の意向を受けて元部下である趙正永氏を処分せざるを得なくなったとみられる。党関係者の間では習氏と趙楽際氏の間で不仲説が流れている。【1月5日 読売】

*******************

 

この案件は、以前から報じられていたもので、1年前の2019年1月には下記のようにも。

 

****習近平、面従腹背を許さず 「ゆかりの地」陝西省元トップに鉄槌****

中国国内では年明けから、新たな権力闘争を予感させる動きが起こっている。

 

2019年1月15日、共産党中央指導部は西北部・陝西省のトップを2012年から4年間務めた趙正永・前同省共産党委員会書記を「重大な規律違反の疑いで取り調べている」と発表した。陝西省の多数の党・政府の高官も処罰されているようだ。国立公園内に違法に建てられた多くの高級別荘が事の発端とされる。

 

木で鼻をくくったような......

発表に先立つ1月10日ごろ、中国・中央テレビの前触れ報道が始まった。

 

同省の省都・西安市の秦嶺国立公園に多くの別荘が建設されたが、現在はすべて取り壊された――。秦嶺は国の環境保護区域にあり、元々住んでいた農民の住宅以外、マンションや別荘を建てることは固く禁じられている。

 

(中略)習近平総書記にとって陝西省はゆかりの地。文化大革命時代にそこに下放された経験があり、そもそも父・習仲勲の出身地だ。

 

その省都近くに違法に建てられた高級別荘には、2014年から注目していたようだ。この年5月、習氏は「環境保護のため」、秦嶺の別荘を取り締まるよう指示。

 

だが、省の党委員会は「秦嶺には202棟の別荘が建っているが、主に農民が勝手に建てたもの」という調査結果を出した。

 

習氏は同年、もう一度取り締まりを発出。だが、省の党委員会は「別荘の問題は既に解決済みだ」という木で鼻をくくったようなコメントをメディアで発表するのみだった。

  

 2017年5月、習氏は中央政治局の集団学習の場で、秦嶺の別荘問題をとりあげ、語った。「急がねば、またしっかり取り締まらなければ環境破壊の問題は絶え間なく起こり、中国の生態系悪化の趨勢を根本から転換することは難しくなる」。さらに昨年7月にも、習氏は秦嶺の別荘問題をとりあげた。(中略)

 

業を煮やしたように

(中略)この問題で、習氏は当初、「環境保護のために取り締まれ」と指示していた。だが昨年7月に業を煮やしたように、いささか怒気混じりにこう語った。「まず政治規律の点から取り締まり、面従腹背を許すな」

   

中央テレビの報道でも、「政治の決まり」が強調されている。共産党総書記の指示を聞くことなく、党規約に違反した者たちが処分されたというわけだ。では、なぜ、趙・前陝西省党書記らは習氏に、面従腹背の動きを続けたのか。それが今後の見どころである。【2019年1月27日 陳言氏 J-CASTニュース】

*******************

 

“なぜ、趙・前陝西省党書記らは習氏に、面従腹背の動きを続けたのか”・・・その権力闘争的な側面にについては、以下のようにも。

 

******************

習近平の直接の指示で行われたこの別荘強制撤去事件は、「生態環境保護」と「地方政府の汚職摘発」という建前があり、また背後には、元陝西省書記で元政治局常務委員兼中央規律検査委員会書記の“趙楽際おろし”という習近平の党内権力闘争の側面もあった。

 

秦嶺北麓は国家公園に指定される重要な生態保護地区で、2003年に陝西省はこの地域でいかなる組織、個人も一切、不動産開発をしてはならないとし、2008年には秦嶺環境保護条例を制定した。しかし実際は2003年以降、別荘開発が行われており、その背後には陝西省党委員会ぐるみの汚職があった。

 

環境保護・生態保護に力を入れている習近平は2014年、この問題に初めて言及し、2019年1月までに違法建築別荘1194棟を洗い出して1185棟を撤去、9棟を没収し、4557ムー(約3万アール)相当の土地を国有地として回収。

 

この問題に関わった陝西省長の趙永正は失脚し、大量の陝西省、西安市の官僚が処分された。そして今行われている四中全会で、ひょっとすると当時の陝西省書記であった趙楽際にまで累が及ぶか否か、というところまで来ている。

 

趙楽際は共産党のキングメーカー、長老・宋平派閥に属しており、習近平の父、習仲勲と昵懇であったこともあって、第19回党大会では習近平の後押しで政治局常務委員入りし、王岐山の跡を継いで中央規律検査委書記についた。

 

だが、宋平と習近平の関係が険悪になるにつれ、習近平の趙楽際に対する風当たりは強くなっていた。秦嶺北麓の別荘強制収用はそのこととも関係があると言われていた。【2019年10月31日 福島 香織氏 JB Press】

*******************

 

趙楽際氏は、習近平主席への権力集中を実現するうえでの最大功労者・王岐山の跡を継いで中央規律検査委書記に抜擢されるぐらいですから、習氏の信頼が非常にあつかったと思われます。

 

“2012年の第18期中央委員会全体会議における政治局委員および中央書記処書記への選出・任命、それからの組織部長への任命は、驚きをもって「黒馬」(ダークホース)と評された。もちろん習氏による抜擢によるものと周囲に受け止められている。”【ウィキペディア】

 

問題となった違法な別荘の多くは趙楽際・中央規律検査委書記が陝西省党委書記だった07〜12年に建てられたものとのこと。

 

しかし、その習氏と趙楽際氏の関係が悪化したようです。そこらあたりが、習氏が秦嶺北麓の違法建築を問題視したこと、再三の習氏の指示にもかかわらず地方政府が動かなかったことの背景にあるようですが、中南海の出来事の詳細はよくわかりません。

 

なお、趙楽際氏については、青海省および陝西省における経済運営手腕が高く評価されていました。問題となった秦嶺北麓の違法建築も、そうした積極的な経済運営の一環ではあったのでしょう。ただ、環境保護にも積極的だったとも。【ウィキペディアより】

 

【党・政府によって恣意的に運用される「私有財産制」】

上記の陝西省・秦嶺北麓の違法建築の問題は、習近平政権の環境保護政策、地方政府の汚職体質、習氏と趙楽際氏の関係の文脈で語られることが多いのですが、より広い視野で見れば、違法建築の撤去命令は地方政府の新たな「錬金術」、さらには共産党体制における私有財産のあり方に話が及ぶとの指摘も。

 

****中国北京市、またも強制立ち退き 郊外戸建に住む中所得者が対象****

中国北京市はこのほど、違法建築物として郊外の住宅を取り壊すことを決定し、住民に立ち退くよう命じた。住宅の所有者らは18日、合法的に物件を購入したとして鎮政府の前で抗議デモを行った。(中略)

 

北京市昌平区崔村鎮政府17日の通知書によると、香堂村の工業園小区にある40棟の住宅が違法建築物であるとし、住民に対して18日内に撤去するよう指示した。「撤去しなければ、鎮政府が強制的に取り壊す」という。立ち退きの補償金も支給しないとした。

 

18日、千人以上の住民が崔村鎮政府の前に集まり、「立ち退きに反対」などのスローガンを叫び、抗議活動を行った。

米ラジオ・フリー・アジア(RFA)22日付によれば、ある男性の住民は、抗議者の前に現れた韓軍・鎮党委員会書記に対して、「20年前の物件購入契約書に村、鎮、区の3つの役所の認印が押されているし、国土局のハンコもあるのに、なぜ数日内に立ち退きしなければならないのか?契約書がここにあるのに、路上生活しろとはあまりにも理不尽だ」と怒鳴り付けた。

 

しかし、崔村鎮政府は19日に新たな公告を出し、10の地区、総面積約3万平方メートルの物件が、許可のないまま建設されたため、条例に違反したと述べた。

 

該当する10の地区には、3階建ての戸建てを含む約3800棟の住宅があり、1万人以上が住んでいる。(中略)

 

村民はRFAの取材に対して、周辺の他の鎮でも同様の立ち退きが行われていると話した。北京市当局は、この方法で土地を再収用してから、不動産開発企業に譲渡し、新たな分譲物件を建設する計画をしているという。

 

北京市トップの蔡奇氏は2017年11月にも、違法建築物の取り締まりと称し、厳しい冬の中で多くの出稼ぎ労働者に立ち退きを命じた。市民や知識人から批判が噴出した。

 

今回立ち退きの対象になった住民が大紀元に提供した情報では、北京市昌平区政府が来年1月4日までに実施する立ち退き計画によって、数十万人の住民が影響を受けるという。

 

同住民は「2年前に北京市政府は、家屋や工場などを取り壊し、300万人の『低端人口(低所得者)』を追い払った。冬を迎える今、当局は今度はわれわれ『中端人口(中所得者)』を追い払おうとしている」「大規模な取り壊しで、郊外に住む公務員や中間層、海外帰国者、元党幹部らはみんなホームレースになる」と嘆いた。【2019年10月29日 大紀元】

*******************

 

****「違法建築だから退去せよ」中国で私有財産権の危機****

毛沢東の土地改革が繰り返されるのか?

 

ローンを組んだり退職金をつぎ込んだりして購入した不動産が、ある日突然、違法建築なので撤去します、出ていきなさい、と通知されたらどうだろう? そんなことあり得ない、と不動産所有者の権利が比較的強い日本人なら思うが、これが今、北京でまさに起きている現実だ。

 

北京郊外で起きた別荘所有者たちのデモ騒ぎは、よくよく考えてみると、中国経済の暗雲到来を示す不気味なシグナルではないか。(中略)

 

習近平派の官僚政治家が指揮

(中略)RFAの取材で明らかになったのは、この別荘地強制撤去計画は、習近平派の官僚政治家、蔡奇・北京市書記が自ら指揮していること。

 

今回、強制撤去された土地は来年(2020年)1月1日の新土地管理法執行までに更地にされ、競売にかけられること。昌平区はテストケースであり、これが成功すれば、この手法は全国に広がるらしいこと、である。

 

昌平区では少なくとも百善鎮、流村鎮、南口鎮、十三陵鎮などの別荘地が撤去対象になりそうだという。こうした政策によって不動産を没収される不動産所有者は少なくとも全国で数十万戸単位になるのではないか、という噂も広がっている。

 

新たに財政収入が見込める手段

前述したように、昌平区の不動産所有者は主に都市部の小金持ちだ。彼らはみな不動産購入証明を持っており、昌平区政府機関の認可印も押されている。(中略)これら不動産販売価格の5%がインフラ建設費用、管理手続き費などの名目で鎮政府に納められていた。

 

あらためて言うまでもなく、地方政府のこれまでの財政収入の大半が、農地の再開発から生まれてきた。農村の集団所有の土地を郷・鎮政府、あるいはそれ以上の上級政府が、そこに住んでいる農民を追い出し、強制収用する、あるいは低い補償金で収用し、デベロッパーに譲渡あるいは貸し出して再開発し、これを都市民に高く売りつけてきた。地下鉄など公共交通の整備とセットにして付加価値を上げることもあった。

 

この過程で、日本の地上げ屋も真っ青なアコギな強制土地収用が行われることもあった。村民が出稼ぎに行ってしまい、人が住まなくなった農村宅地を再開発した、というケースもあるが、強制収用は農村の“群衆事件”(暴動)の原因の上位でもあった。

 

ただし、現在は大都市・中都市周辺の農村宅地はだいたい再開発が進み、新たな農村宅地の強制収用は難しくなってきている。

 

早い話が、地方政府としては、ちょうど新しい土地管理法(以下「新土地法」)が施行されるタイミングで、すでに再開発した別荘地などを没収し、強制撤去して再開発すれば、また新たに財政収入が見込める、ということなのだ。

 

別荘の強制撤去の嵐が吹き荒れるか?

一旦、再開発され分譲された別荘地の強制撤去問題として思い出すのは、陝西省西安市郊外の秦嶺北麓別荘・強制収用事件だ。(中略)

 

この事件は陝西汚職と権力闘争の面が強調されて報じられてきたが、よくよく考えてみれば、別荘購入者たちはきちんと契約書を交わし、金を払い、合法的に別荘を所得していた。だが彼らの財産所有権は、習近平の掲げる“エコ(生態環境保護)は正義”という思想と“強権”の前に完全に吹っ飛んでしまっている。

 

この別荘所有者の多くが党の高級官僚であったこともあり、庶民から見れば、ざまあ見ろ、という感じだろうが、同じ論法をあらゆる別荘地、再開発地に当てはめれば、こんな恐ろしいことはあるまい。

 

この秦嶺別荘事件を踏まえて今年5月、国務院は全国違法別荘問題精査整理プロジェクトアクション電話会議を開き、この問題に関する国務院通知を行った。この通知が今回の平昌区の別荘没収通知につながっている。習近平の「生態文明思想」の指導のもと、全国で別荘の強制撤去の嵐が吹き荒れるかもしれない。

 

問題はこうした別荘の持ち主が、必ずしも汚職官僚だけではない、ということだ。昌平区の別荘地などは、都市の中間層が所有者の主流ではないだろうか。

 

つまり、「生態文明」を建前にすれば、一般庶民が虎の子を投じて取得した私有財産をいくらでも政府が奪えるという前例を昌平区の件は作ろうとしている、ということではないか?

 

これは1946年から共産党が行った「農地改革」の建前のもとの地主からの土地・財産略奪のマイルドな再来、と見る向きもある。

 

結局、得をするのは地元共産党政府

もう1つ注目すべきは、来年1月1日から施行される「新土地法」の意味合いだ。

 

この法律が施行されると、農村が集団所有する農村宅地の使用権を自由に譲渡・売却できるようになるため、農民たちの土地の権利、私有財産権を強化するものと歓迎されていた。だが、少なからぬ農村政府、鎮政府はすでに農村宅地に住宅や別荘を建てて、都市民小金持ちに分譲してきた。

 

現在、農村に多くみられる「別荘地」などの不動産は、農村の集団所有の土地の上に建てられ、不動産権は上物の「小産権房」と呼ばれる物件に限定される。これは土地使用権とセットで売り出される「大産権房」よりも値段が安く、都市中間層が購入しやすかった。

 

現行の土地法では、農村宅地は農民に居住する権利があるだけで、その土地の使用権自体は譲渡できない。だが、大都市の住民は異常な不動産高のせいで郊外に住宅や別荘を欲している。一方、農村は貨幣経済の浸透のせいで、現金収入が欲しい。

 

双方の希望を満たす形で、大都市周辺には、土地は農村の集団所有のまま、上物は都市民個人が購入するといういびつな不動産所有(小産権房)形態が急速に広がったのだ。

 

昌平区崔村鎮のケースでは 20年前、村の党幹部がこうした小産権房を都市の小金持ちに売りつけ、鎮の財政収入源にした。この財政収入モデルは当時「社会主義新農村模範」などともてはやされたものだった。

 

だが、来年(2020年)1月1日からの新土地法が施行されると、土地の使用権そのものが他者に譲渡できるようになる。ならば、それを機に土地使用権と上物をセットにしてより高額に競売できるではないか。

 

折しも習近平の「生態文明思想」を打ち出せば、ほとんどの農村・別荘地が違法建築とこじつけられる。

 

農民の土地に関する権利を強化するとされる新土地法だが、結果的には中間層市民の私有財産権を踏みにじるために利用され、「結局、得をするのは地元共産党政府」という話ではないか。

 

市場主義経済と決別するシグナルか

中国の土地・不動産問題は複雑だ。目下、都市部の不動産の高騰はバブルとみられ、そのバブルがそろそろ弾けるとの懸念が強まっている。

 

同時に、そうした不動産が立っている土地は公有地である。不動産と土地の使用権がセットとなっている「大産権房」であっても、その土地使用権期限は開発開始から住宅地70年、商業用地40年といった期限がついている。

 

土地使用権期限は購入時期や不動産が商業区か社区(住宅区)にあるかによってかなり差があり、浙江省温州市などの早期の再開発地域などではそろそろ使用権期限切れになる土地もある。

 

期限切れが来た時の対応法は地域によってまちまちだ。更新料支払いによって使用権延長を認めるところもあるが、将来、法律一つで、いつでも国や機関、地方政府に土地使用権の返納を求められることもあり得るということが、今回の昌平区の件でうかがえる。

 

中国の人口の半分近くは不動産など私有財産をほとんど所有していない農民だ。彼らは一部の不動産所有者に対しては「腐敗やずるいことをして蓄財している悪い奴」というイメージを抱いている。かつて地主から土地を没収したように、都市の小金持ちから不動産を没収することは、中国共産党がかつてやってきた、きわめて社会主義的な施策と言うこともできる。

 

だが、もし、こういう手法を習近平政権が取り続けるようであれば、それは中国が市場主義経済と決別の方向に舵を切る、というシグナルかもしれない。

 

そうなれば、中国経済がさらに減速するだけでなく、財産を奪われる側の中間層の不満と抵抗が社会の安定にどれほど影響を与えるかについても注意する必要があるだろう。【2019年10月31日 福島 香織氏 JB Press】

*******************

 

コメント