孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インドネシア・パプア州  襲撃事件、国軍の掃討作戦で混乱も ミャンマー“ロヒンギャ”のミニ版

2019-02-25 22:21:31 | 東南アジア

(インドネシア東部パプア州ワメナで、仮設の避難所で授業を受ける子どもたち(2019年2月12日撮影)【2月24日 AFP】)

【蛇で尋問 背景に少数民族への差別・優越意識、独立運動の存在、軍・警察の強権体質】
ニューギニア島は日本の国土の約2倍、世界の島の中ではグリーンランドに次ぐ面積第2位という大きな島です。

西半分は独立国家のパプアニューギニアで、東半分はインドネシア領のパプア州・西パプア州となっています。

2週間ほど前、そのインドネシアのパプア州で警察による蛇を使った尋問(“拷問”と呼ぶべきでしょう)が話題になりました。

****蛇で尋問 動画拡散 警察が謝罪 インドネシア・パプア州****
インドネシア東部パプア州の警察署で、警察官が巨大な蛇を使ってパプア人男性を「尋問」する様子を撮影した動画がネット上に拡散。

人権団体などからの抗議を受け、警察署長が「ふさわしくない方法だった」と謝罪した。ロイター通信が伝えた。
 
映像では後ろ手に縛られ、首に蛇を巻き付けられた男性に対し、捜査員が蛇の顔を押しつけながら、携帯電話の盗難について質問。「何回盗んだ」との質問に「2回だけ」と答える様子などが記録されている。
 
同州ジャヤウィジャヤ警察のスワダヤ署長は謝罪文を発表し、「蛇は毒のない種類で人に慣れていた」と釈明した。
 
パプア地方ではインドネシアからの分離独立を求める小規模な武力闘争や非暴力の住民運動が続き、治安部隊による人権侵害が繰り返し報告されている。パプア問題に詳しい弁護士は「パプアでの蛇を使った『拷問』は初めてではない」としている。【2月11日 毎日】
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蛇嫌いの私としては、ニュースを読んだだけで気分が悪くなりますが、「蛇は毒のない種類で人に慣れていた」云々は「そんな問題じゃないだろう!」といったところです。

この種の蛮行がまかり通る背景には、上記記事も指摘しているように、パプア地方で続くインドネシアからの分離独立運動の存在があります。

更に言えば、インドネシア多数派のパプア地方住民ら少数民族への蔑視があるとの指摘も。

****インドネシア警察、ヘビ押し付けて容疑者取り調べ 背景に少数民族への差別・優越意識****
<警察の尋問が行き過ぎた背景には、インドネシアが抱える少数民族への差別があったのか?>
インドネシアの東端、ニューギニア島の西に位置するパプア州の山間部にあるジャヤウィジャヤ県で、地元警察が窃盗の容疑で逮捕したパプア人男性の尋問に生きたヘビを使って脅している様子が2月8日にインターネット上の「ツイッター」にアップされ炎上。2月10日に地元警察の責任者が謝罪し、州警察のトップも事実関係の調査に乗り出す事態となっている。

インドネシアでは国家警察や国軍という治安組織による一般市民への人権侵害事件は後を絶たず、少数民族、宗教的少数派のキリスト教徒、さらにLGBTなどの性的少数者に対する行き過ぎた暴力がたびたび明らかになっている。

こうした背景には世界最大のイスラム人口を擁する国という宗教的理由や少数者への「非寛容性」が顕在化している現状、そして多数派の心中に潜在する差別感、優越感があるといわれている。

ヘビの頭を容疑者の顔や口に近づけ尋問
インドネシア各紙などの報道によると、インターネット上に動画が流出、拡散したのはパプア州中心部の山間部にあるジャヤウィジャヤ県警察の取り調べの様子。

窃盗容疑で逮捕された男性(名前、年齢不詳)が床に座らされ、両手を後ろ手に縛られた状態で首や身体に全長約2メートルのヘビが巻きつけられている。

動画をみると恐怖のために叫んでヘビから逃れようとする容疑者の男性に対して、警察官とみられる私服男性がヘビの頭部を近づけている。

容疑者の怖がる様子に対して周囲からは笑い声とともに、「(ヘビに)キスしろ」「口を開けろ」などの声が飛び、私服の警察官がインドネシア語で「携帯電話を盗んだのは何回だ」と問い詰め、男性が「2回だけだ」と「自供する」様子が収められている。

この虐待された男性は肌の色や頭髪などからパプア人とみられ、私服の男は男性のズボンの裾からヘビを中に潜り込ませようとしている様子も撮影され、すでに8万回近く再生されている。

これは警察官による容疑者の尋問の様子で、パプア州ではこうしたヘビを使った尋問がこれまでも行われていると人権活動家などが指摘していることも地元マスコミは伝えている。

謝罪したものの警察の調査は動画流出の"犯人探し"か

ジャワウィジャヤ県警察のトニー・アナンダ・スワダヤ署長はロイター通信に対し「容疑者の自供を得るための行為だったが適正な方法ではなかった」と謝罪の意を表明する一方、「使用されたヘビは毒のない種類のヘビで、人にも慣れているヘビだった」と弁解、男性に危害を加えるつもりでのヘビ使用ではないことを強調した。

さらに同県警察の上部組織に当たるパプア州警察のアハマッド・ムストファ・カマル報道官は「現在警察の監察部署による内部調査が行われている。もし違法行為が見つかれば相応の措置を取る」と話している。

インドネシア人記者は警察が表向き謝罪して警察官の人権侵害を立件しようとしていることに関し「問題は誰がこうした違法な尋問をしたかではなく、誰がこうした動画を外部に流出させたかであり、その"犯人探し"に躍起となっているのが実状」と警察組織内部の実態を打ち明ける。

パプア州の抱える特殊事情
パプア州は隣接の西パプア州とともに1998年に崩壊するスハルト長期独裁政権時代は、西端のアチェ、南東の東ティモールと並んでインドネシアからの武装独立運動が盛んで国軍は3地域を「軍事作戦地域(DOM)」に指定して内外のマスコミの現地入りを制限していた。

その一方で現地に精鋭部隊を派遣して武力鎮圧を続けた結果、「略奪、暴行、拷問、虐殺」などの人権侵害事件が多発、その大半が国際社会の指弾を受けながらも依然未解決あるいは迷宮入りとなっている。

アチェは2004年12月のスマトラ沖地震と津波を経てイスラム法(シャリア)が適用される特別な州としてインドネシアにとどまることを選択、東ティモールは2002年5月に住民投票を経てインドネシアからの独立を果たしている。

結果として旧DOMでパプアだけが細々ではあるものの依然として独立組織「自由パプア運動(OPM)」による独立武装闘争が継続しているという実情がある。

2018年12月2日にはジャヤウィジャヤ県に近いンドゥガ県でインフラ整備の道路建設現場で働くスラウェシ島などからの建設作業員が正体不明の武装集団に襲撃されて19人が殺害される事件も起きている。

増援部隊を派遣した国軍による武装集団の鎮圧作戦が展開中だが、国軍は「武装した犯罪集団」による犯行としているが、実際にはOPMの分派による犯行とみられており、依然として同州山間部の治安が不安定な状態であることが浮き彫りとなった。

根深いパプア人へ差別、偏見、優越感
こうした歴史的背景も今回のような治安組織によるパプア人への人権侵害の根底にあるとの見方は強い。

そうした差別意識、偏見、優越感は治安組織に限らず、中央政府などジャワ人主体のインドネシア全体に言えることでもある。

8月17日の独立記念日に最近はジョコ・ウィドド大統領以下閣僚、国軍・警察の首脳が各民族の伝統衣装で着飾って参列することが好例化している。その際にほぼ裸体に近く、野獣の牙や角、鳥の羽などでパプア人の格好をして喝采を浴びる人が必ずいる。

実際のパプアでは裸体に男性は「コテカ」と呼ばれるペニスケースだけという伝統的装束は相当な山間部に行くか、観光客向けでしか実際はないのだが、そうした衣装を身に付けることをパプア人は「未開民族みたいに馬鹿にされている」と感じていることを大半のインドネシア人は気づかない、あるいは気づかない振りをしているとの指摘がある。

今回のヘビを使った尋問のケーズは、たまたま動画が流出して大きな話題になっているが、こうした背景を考える時、インドネシアが掲げ、ジョコ・ウィドド大統領も主張する「多様性の中の統一」や「寛容性」という国是が所詮、少数派には無縁のものであるとの印象をどうしても拭えなくなる。【2月12日 大塚智彦氏 Newsweek】
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警察が、形ばかりの謝罪(あまり謝罪にもなっていませんが)の一方で、動画流出の“犯人探し”に躍起となっているであろうことは容易に想像できます。

パプア地方が受けている差別・貧困、「自由パプア運動(OPM)」による独立運動などについては、約1年前の2018年1月26日ブログ“インドネシア領ニューギニア  開発の遅れ、差別的処遇が生む貧困と独立運動”でも取り上げたことがあります。

インドネシア国軍の独立運動に対する人権無視・苛烈な弾圧は東ティモールでも明らかにされたところで、パプア地方における軍・警察の苛酷さもまた、容易に想像されるところです。

【建設作業員襲撃事件で拡大する混乱 軍は関与否定】
そうした状況で、上記記事にもある昨年12月の建設作業員襲撃事件が起きています。
犠牲となった作業員らは、国営建設会社イスタカ・カルヤの下、パプア州ンドゥガ県でインフラ設備を増強するために橋や道路の建設に当たっていたとされています。

****「殺すか、殺されるか」と犯行組織が主張 インドネシア大量虐殺****
インドネシア東部パプア州のジャングルで多数の建設作業員が殺害された事件で、犯行に及んだとする反政府武装組織は7日、殺害したのは作業員の姿を装ったインドネシア軍兵士であり、正当な軍事標的だと主張した。
 
この事件では少なくとも16人が殺害されており、現在も遺体の捜索が行われている。
 
パプア独立派の反政府武装組織、西パプア民族解放軍は、先週国営建設会社に雇われ働いていた約20人を殺害したと犯行声明を出している。
 
同組織で広報を担当する人物は「彼ら(作業員)は変装したインドネシア軍兵士であり、われわれの敵だ」「これは戦争だ。殺すか、殺されるかだ」と語った。また「われわれも(隣国)パプアニューギニアのように独立を希望する」と訴えた。
 
目撃者や軍の発表によると、作業員らの多くは後ろ手に縛られ、処刑されるかのように射殺された。逃げようとした作業員らは喉をかき切られ、ほぼ斬首された状態で発見された遺体もあったという。また事件の調査に携わっていたインドネシア軍兵士1人も殺害された。
 
当局によると、武装勢力40〜50人がジャングルへ逃げ込んでおり、軍が行方を追っている。
 
パプアニューギニアとの国境沿いにある同州で暮らすパプア人の多くはインドネシアを、土地を占領している植民者だとみなしており、貧困にあえぐ同州のインフラ強化はインドネシア政府が支配を強めるための手段だと受け止めている。
 
またインドネシアの治安部隊に対しては以前から、軍事力を乱用し、パプアの先住民であるメラネシア人の活動家や平和的な抗議行動の参加者らを超法規的に殺害している疑惑が持たれている。【2018年12月10日 AFP】
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貧困に取り残されたパプア地方住民の生活向上を可能とするインフラ強化を“インドネシア政府が支配を強めるための手段”とみなすことはどうでしょうか?

独立ありきの前提で言えば、インドネシア政府の行うことはすべて悪ということにもなるのでしょう。

なお、インドネシア政府の支配強化という線での話で言えば、20世紀初頭まではインドネシア政府にとってパプアは「使い道のない島」でしたが、現在は「インドネシア政府は資源が豊富なパプア地方を確固として掌握し続けるため、兵士や警察官を多数配置している。」【2016年12月1日 AFP】とのことです。

独立を目指す武装組織の主張の妥当性への疑問はありますが、体質的に人権などへの配慮に欠くインドネシア国軍の報復が峻烈だろうということもまた想像できます。

実際、現地では混乱が拡大しているようです。

****子ども数百人が戦闘逃れ避難か、インドネシア・パプア州****
情勢不安が続くインドネシア東部パプア州で、児童・生徒数百人が戦闘を逃れて避難したと、地元の非政府組織が明らかにした。

同地では、独立派ゲリラによって民間人の建設作業員が殺害された事件を受け、軍事的な報復措置が取られたとの報告があるものの、今のところ確認されていない。
 
パプア州では昨年12月、人里離れた森林地帯にあるキャンプで、政府の関連事業に携わる作業員16人が独立派ゲリラに殺害された。これを受け、装備が貧弱かつ組織化されていないゲリラと、強力なインドネシア軍との、散発的ながらも数十年にわたって続く衝突が一気にエスカレートした。
 
NGOや地元の教育当局者によると、この事件後に衝突が相次いだことを受け、同州ンドゥガ県当局は400人を超える児童・生徒を、隣接するジャヤウィジャヤ県の中心地ワメナに避難させたという。
 
NGO「ンドゥガのための人道ボランティア」の関係者はAFPに対して、「一部の子どもたちはトラウマ(精神的外傷)を負っている」と述べ、「軍服姿の兵士らが学校にやって来た際、(恐怖で)逃げ出した子どももいた」と明かした。
 
兵士らが放火や嫌がらせをしたり、家畜ばかりか民間人を殺したりしているとの訴えもある中、地元住民や活動家らによると、他にも多くの住民が隣接県に避難したか、森林地帯に逃げ込んだとみられるという。
 
地元の軍司令官は、子どもたちが避難した事実を認める一方、理由は軍の存在ではなく、域内の教員不足だと説明している。
 
NGO関係者によると、授業はテントの中で行われており、子どもたちは親族の家に滞在。児童・生徒と一緒に教員約80人も避難したという。
 
パプア州の教会指導者や活動家らと連絡を取り合っているという、弁護士のベロニカ・コマン氏は、ンドゥガの軍事作戦で避難を余儀なくされた人々は少なくとも1000人に上ると指摘。「インドネシア政府は軍事作戦を命令したものの、国内避難民への支援は全く行っていない」と語った。 【2月24日 AFP】
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【軍の報復による混乱、社会全体で強まる不寛容、制御できない指導者・・・・ミャンマー・ロヒンギャに共通する面も】
襲撃事件を契機に“装備が貧弱かつ組織化されていないゲリラと、強力なインドネシア軍との、散発的ながらも数十年にわたって続く衝突が一気にエスカレート”・・・・ミャンマーのロヒンギャ武装組織に対する国軍の民族浄化的弾圧を想起させます。

“兵士らが放火や嫌がらせをしたり、家畜ばかりか民間人を殺したりしている”とも言われる状況や、混乱・残虐行為への軍の責任を認めないあたりもそっくりです。

もちろん、ロヒンギャの方は70万人を超える難民ということで、弾圧の規模ははるかに大きいものになっていますが。パプアはロヒンギャ弾圧の“ミニ版”のようにも。

インドネシアにしても、ミャンマーにしても、民族的・宗教的少数派(パプア州住民の4分の3がキリスト教徒)への不寛容が根底にあって、国軍の強権的体質が弾圧を引き起こしているように見えます。

インドネシア全体についてのイスラム重視・宗教的不寛容の高まりについては、1月27日ブログ“インドネシア  世界最大の華人社会 大統領選挙に絡んで高まるイスラム重視の宗教的不寛容 ”でも取り上げました。

インドネシアのジョコ大統領もミャンマーのスー・チー氏も国民的人気は高い、比較的民主化には理解のある指導者ですが、多様性・寛容さを重視するとしていたジョコ大統領も大統領選挙に向けて、不寛容の流れに逆らえない・・・といったあたりは、ミャンマー国軍の弾圧を制御できない“かつての民主化運動の旗手”スー・チー氏にダブるところがあります。

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