海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

麻生首相来沖

2009-03-11 05:40:27 | 米軍・自衛隊・基地問題
 3月7日に麻生首相が来沖した。次期衆院選挙に向けた地方遊説の一環ということだが、街頭演説は行わず、名護市辺野古のキャンプ・シュワブ基地を視察することもなかった。仲井真知事との対談でも、普天間基地の「移設」問題や不発弾問題で具体的な発言はなく、県内マスコミの報道は首相の消極姿勢に批判的な記事が目立った。とは言っても、日帰り日程の慌ただしい中で、糸満市の国立沖縄戦没者墓苑での献花、県選出・出身国会議員、県議会議員との昼食会、自民党県連女性局主催の集会での講演、不発弾事故被害者への見舞い、県医師会をはじめとした各団体との面談や要請への対応など、首相が精力的に動いていた点を見落としてはならないだろう。
 別に麻生首相を持ち上げているのではない。支持率が低迷している不人気な首相で、選挙応援の期待値が低いのは事実だろうが、仮にも一国の首相であり、政権党の党首なのだから、表に出ないところでの動きも色々あっただろう。衆議院選挙に向けての県内情勢の情報収集や分析、選挙区候補者の調整など、県内自民党幹部との間でどのような話し合いが持たれたのだろうか。知事との対談でも最後の5分間は、副知事や自民党県連の幹部らを室外に出して、差しで話をしたという。そこでもいったい何が話されたのか。在沖海兵隊のイラク移設に関する協定や環境アセスメントの問題など、辺野古の新基地建設に向けて政府の強硬姿勢が目立つ中での来沖であり、たんなる地方遊説の一環として片づけてはならないだろう。
 3月8日付琉球新報朝刊では、「記者団と一問一答」として首相のコメントが載っている。〈首相就任後初の沖縄視察の目的と感想〉に続いて記者が訊いているのが、不発弾問題への対応と、〈普天間代替施設について、滑走路を沖合に移動してほしいという地元の要望にどう対応する考えか〉である。この質問をしたのが、地元メディアの記者なのかヤマトゥのメディアの記者なのかは分からない。しかし、ここでいう〈地元〉とはどこをさしているのだろうか。沖縄県か、名護市か、辺野古区か。また、〈要望〉している主体はそれらの地域の住民なのか、首長なのか。仲井真知事や島袋名護市長は「沖合移動」を求めているが、県民世論は「県内移設反対」が多数であり、県議会でも「県内移設反対」の決議が上がっている。それらを曖昧にしたまま沖合移動を〈地元の要望〉とする記者の質問は、かなり乱暴であるし政治的作為さえ感じさせる。
 不思議なのは、県内メディアの記者がどうして「県内移設」に反対している県民世論を麻生首相にぶつけないのか、ということだ。今さらそういう質問をしても仕方がないと思っているのか。あるいは、「県内移設」自体を問うと仲井真知事にも問題が及ぶと遠慮しているのか。いずれにしろ、どれだけ「社説」で「県内移設」に反対だと主張しようと、それを首相や知事に突きつけて質問することすらできないのでは、しょせんは絵に描いた餅にすぎない。
 記者の質問が「沖合移動」をめぐる問題に終始するとき、そこでは辺野古新基地の建設それ自体、つまり普天間基地の「県内移設」は前提化されている。そうやって「県内移設」に反対する県民世論や議会決議を無視し、隠蔽することによって、新基地建設は既定のものという世論誘導が図られるのだ。
 普天間基地の「移設」問題をめぐって麻生首相と対する記者の目線は、県知事目線ではあっても県民目線ではない。県庁内の記者クラブにいて、日頃接する相手は仲井真知事や県の幹部という日々を送っている中で、目線=意識も知事や県幹部と同一化して、「沖合移動」という視点からしか問いきれなくなっているのか。記者たちは自分の目線の高さに気づいているのだろうか。

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2 コメント

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おかしい!! (夢子)
2009-03-12 03:53:17
同感です。すでにあきらめムードのメディアの姿勢が透けて見えますよね。基地の移転問題では無条件で返還すべきなのはあちら様なのにこちらがぺこぺことあちら様の条件に飲み込まれているのはおかしいです。基地の賃貸に伴う金
に取り込まれているせいか?日本とアメリカ政府に反対のこぶしを突き付けるべき者たちが、その罠にはまった形が現況に見えます。日本の中の植民地沖縄ではもう展望が見えないのです!琉球国宣言でもして、国連に一票を持つ身分になって基地にも反・否を突き付けなければならないのかも??日本の中の沖縄はいつまでも利用され続けるシステムかもしれません。そろそろ日米への幻想を断って、もっと別の道を模索する時かもと昨今考えています。どうでしょう?
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Unknown (吟遊茶人)
2009-03-19 23:51:21
いつも舌鋒鋭い目取真氏の地元紙への批判、同感です、といいたいところですが、しかし、もっと問題なのは中央メディアではないでしょうか。いまや大本営と化した腐った中央紙の膨大な記事がネットで垂れ流される日々、諦め、倦怠、脱力を覚えることすらあります。中央紙にない地元目線の記事を発信する地元2紙は文字通りわれわれのかすかなる希望です。
だからこそ批判し叱咤すべきなのでしょうが。
少ない資本、乏しい広告費、購読料値上げすれば、すぐに部数激減につながる厳しい地元の経済状況といった環境で、企業としてよくやっているもんだと思います。日本財団の寄付呼びかけ広告まで掲載するのにはあきれましたが。しかし最大のスポンサーである一般読者を忘れた新聞など、不況で吹き飛ぶでしょう。いっぽうで新聞に力を発揮させるのは読者のリテラシーでもあります。新聞が県民の声を発信できないとすれば、その責任は一方は読者たる県民にあると思う。

ところで沖縄北方担当相を勤め今や沖縄利権の大ルートである尾身幸次氏への県内企業からの政治資金に関する問題、記憶が不確かですみませんが、地元紙で取り上げられたことはあるでしょうか?沖縄幸政会なる団体から尾身氏の政治団体への多大な寄付、それも普天間移設にからむ土建企業団体からの便宜供与を期待するものとしか思えない寄付の件、あるネットの記事で知りました。このような地元企業と自民党中枢部との裏取り引きも、県民には知る権利があるわけで、地元紙ならではの取材力と勇気を発揮して欲しいものです。
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