海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

大浦信行氏の作品を排除

2009-04-15 01:42:07 | 生活・文化
 4月14日付の琉球新報、沖縄タイムスの社会面は、沖縄県立博物館・美術館で開催されている「アトミックサンシャインの中へin沖縄ー日本国平和憲法第九条下における戦後美術」展で、昭和天皇の写真をコラージュした大浦信行氏の作品が、沖縄県教育委員会と県立博物館・美術館の「要請」=圧力によって展示からはずされたという記事がトップになっている。

 〈同展を企画した外部キュレーターの渡辺真也さんによると、一月末に主催者側から大浦さんの作品を取り下げてほしいと言われ、協議を重ねた結果、二月末に同作品の出品を取りやめることで開催合意に至ったという。
 同館の牧野浩隆館長は「作家の自由な活動を否定する立場にはないが、沖縄の教育施設であり、公正中立なものを扱うなどの観点から総合的に見て(展示は)適切でないと判断した」と説明。金武正八郎県教育長は「(主催者側には)教育的観点から配慮をお願いした」と述べ、具体的な理由については言及しなかった」〉(09年4月14日付琉球新報)。

 日本の憲法には表現の自由や検閲の禁止も謳われていたはずだが、憲法九条を主題とした美術展でそれを侵害するのだから、呆れはてる弾圧事件である。
 牧野浩隆館長は、稲嶺恵一前沖縄県知事の時代に副知事を務めていた。今回の記事に接して、10年前の1999年に起こった沖縄県平和祈念資料館の展示内容改竄事件を思い出した人も多いはずだ。日本軍による住民虐殺や壕追い出しなどを表した展示に対し、監修委員や専門委員を無視して、勝手に内容を改竄しようとした県三役の一人が、当時の牧野副知事だった。
 沖縄戦の歴史を「修正」しようとする牧野氏らの策謀は、沖縄県民の猛反発を呼んで頓挫した。その後、牧野氏は稲嶺知事とともに普天間基地の「県内移設」=辺野古への新基地建設を進めていく。しかし、海上への新基地建設を目論んだそれも、住民運動の力で阻止され破綻した。そういう前科を持つ人物が、「作家の自由な活動を否定する立場にない」だの、「公正中立なものを扱う」などと口にしているのだから、白々しい限りだ。だいたい「公正中立」な芸術作品が存在すると牧野館長は考えているのか。こんな愚かな発言をする人物が、館長を務めていること自体がおかしいのだ。
 元もと牧野氏は大分大学経済学部卒業で、琉球銀行の幹部から副知事になり、稲嶺県政では経済分野を主として担っていた。そういう経歴を持つ門外漢の牧野氏が、なぜ沖縄県立博物館・美術館の館長になっているのか。
 稲嶺県政から仲井真県政に替わり、副知事の任期を終えた牧野氏は、天下り先として沖縄都市モノレール株式会社の社長ポストを狙っていた。しかし、牧野氏は副知事時代に沖縄県物産公社の社長を務めていたが、同公社のわしたショップが経営不振から相次いで閉店し、責任を取る形で辞任したという過去があった。そのことから牧野氏の経営能力には疑問が持たれていて、県の政財界に反対の声が多く、結局、沖縄都市モノレール株式会社には天下れず、県立博物館・美術館の館長というポストに就くことになった。これは私が複数の人から聞いた話と新聞記事などから理解した経緯である(注参照)。
 沖縄県立博物館・美術館は、その構想段階から多くの疑問、批判があり、運営形態をめぐっても議論が沸騰する中でスタートしている。そういう中で博物館と美術館を併せて運営していくには、大変な力量が必要だと思うのだが、専門知識や運営の経験がなく、経営能力にも疑問のある牧野氏があてられ、県幹部の天下り先の一つくらいにしか館長が位置づけられていないのだ。
 その結果として、芸術の価値や表現の自由の意味も分からない愚かな館長や、元高校教師(理科)の教育長によって、今回の弾圧事件が起こっているのである。

 〈今回の件について大浦さんは「展示前だったとはいえ、富山県と同様、表現の自由の否定だ。米軍基地が集中するなど戦後日本の縮図である沖縄で起きたことが問題だ」としている。
 同館の指定管理者である文化の杜共同企業体は「私たちは展示のスポンサーであり、美術館に沿った展示を求めるのは当然。契約以前の交渉段階の話であり、渡辺さん自身の判断で大浦さんの作品を外しただけだ」とコメントしている〉(同琉球新報)

 大浦氏のコメントはまったくその通りだ。沖縄への米軍基地集中は沖縄戦の結果であり、昭和天皇の戦争責任や「天皇メッセージ」の問題と切り離せない。沖縄において憲法九条を問うなら、沖縄戦ー米軍基地ー昭和天皇裕仁ー憲法九条は切り離せないものとしてある。むしろ、大浦氏の作品こそ沖縄でまっ先に展示すべきだろう。それを右翼の脅迫も何もない前から、自主規制という形で弾圧・排除している。それが「戦後日本の縮図である沖縄で起こったことが問題」なのであり、その問題はたんに美術関係者にとどまらず、沖縄県民に広く問われている。
 一方で、文化の杜共同企業体のコメントには大きな疑問がある。企画・運営者としての主体性がなく、まるで自分たちには関係ないかのようだ。大浦氏の作品が排除されたことを、表現の自由への弾圧事件として認識できないのだろうか。
 新聞の短いコメントだけでは真意が伝わらないこともあるだろうから、今後事実関係がもっと明らかにされ、関係者の意見や考えが積極的に公開されていくことを望む。この問題はうやむやにして終わらせてはならない。沖縄県立博物館・美術館のあり方が根本から問われている。

注:琉球新報電子版07年5月17日付の記事には、〈県の出資する主要な第3セクターの役員人事で県は16日までに、沖縄都市モノレール社長に前副知事の牧野浩隆氏(66)、那覇空港ビルディング(NABCO)社長に前副知事の嘉数昇明氏(65)を起用する人事案を固めた。いずれも任期満了に伴うもの。既に両氏に打診しており、それぞれ6月の株主総会と取締役会を経て正式決定する〉とある。
 ところが、その8日後の琉球新報電子版5月25日付の記事では、以下のように人事が変わるのである。

 〈県は24日までに、今秋開館する県立博物館・美術館の初代館長に前副知事の牧野浩隆氏(66)を起用する方針を固めた。館長は非常勤で、11月1日付で任命される。牧野氏は受諾の方向。
 一方、沖縄都市モノレール社長には、元オリオンビール副社長で、現在、興南学園理事長の比嘉良雄氏(71)に就任を打診する構えで、近日中に同氏と面会する。
 県は一時、牧野氏に沖縄都市モノレールの社長就任を非公式に打診したが、牧野氏が最終的に辞退した。
 他方、同社内や県庁内には比嘉氏の指導力や経営手腕を評価する声も高く、バス統合準備室長を務めた経験から交通政策にも明るいとして同氏の起用が有力となった。ただ、比嘉氏は関係者の意向確認に対し、態度を明確にしていない。
 一方で県は博物館・美術館長も副知事経験者などを念頭に水面下で調整を進め、副知事を2期8年務め、同博物館・美術館の建設にもかかわった牧野氏の経験を評価した〉
 
 牧野氏が自ら辞退したかのように読めるが、そんなきれいごとではなかろう。県立博物館・美術館の館長は非常勤であり、沖縄都市モノレールの社長とは待遇面で大きな差がある。県幹部の天下り人事をめぐって、一週間ほどの間に激しいかけひきがあったことが伺える。




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5 コメント

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大浦信行の作品の一部が見られます (檜原転石)
2009-04-15 09:21:26
▼「大浦信行の《遠近を抱えて》は
いかにして90年代的言説を準備したか」

http://www.interq.or.jp/leo/lgallery/kaziya.text.html
ベトナムの写真でも (goose)
2009-04-15 23:32:11
たまたま訪問した時には、名カメラマン石川文洋氏のベトナムの写真を展示していました。
一枚が、残酷すぎるというのでしょうか?、展示からはずされていました。石川氏が残酷なのではないでしょう。残酷なのは、戦争であり、特に、攻めた側でしょう。そういう写真が、戦争を、残虐阻止する可能性はあっても、促進する可能性は小さいでしょう。
これはまずいなあ、残念だなあと思いながら観覧しました。
この話題も、同じ文脈で、削除されているのではないかと危惧します。
戦争を推進する言動、写真、ゲームは良いが、戦争の邪魔になるものは、許せない、とするお上の押しつけが。
お礼 (目取真)
2009-04-16 05:05:29
檜原さん、良い資料の紹介有難うございました。
石川文洋氏の写真展は見ていないので、沖縄タイムスの報道で写真が外されたことを知りましたが、石川氏と参観者をバカにした対応でしょう。
今回、沖縄県立博物館・美術館は世界に恥をさらしました。
私のブログに引用させていただきました (小倉利丸)
2009-04-29 13:10:20
はじめまして。大浦さんの作品の検閲について、富山でかつて起きた際に、裁判も含めて大浦さんと闘ってきたことがあり、今回の事件も人事ではありません。私のブログに目取真さんのコメントも引用させていただきながら、私の考えていることなど書きました。お読みいただけると幸いです。小倉利丸
ブログを拝読しました (目取真)
2009-04-30 16:18:26
小倉さんのブログを拝読しました。
富山県近代美術館での問題など、関連する文章も読めて、当時の状況と現在の状況を改めてさせられました。
昭和天皇が死んで20年にもなるのに、いまだにタブーを再生産しようとする沖縄県立博物館・美術館の今回の弾圧事件は、極めて危険な動きだと考えています。
牧野浩隆館長の個人的資質や県の天下りの問題もありますが、言うまでもなく問題の根はもっと深く広くひろがっています。
もっと議論を行う必要がありますが、ただ、現状は沖縄内でも不十分な状態です。
県内紙は数回の報道で止め、文化欄での論評もなされていません。
このまま問題を曖昧にして終わらせようという流れを感じます。
それではいけないので、私としては5月2日に琉球新報の「風流無談」に批判を出す予定です。

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