海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

書評:サイード・アブデルワーヘド『ガザ通信』

2009-12-27 13:48:30 | 読書/書評
〈日時:2008/12/27(土)12:51
 件名:攻撃

攻撃!
何十もの高層ビルが爆撃された。死亡者は120人以上、負傷者は何百人にものぼる。標的になったビルのうち、ひとつは我が家から100メートルのところ、別の10階建てのビルは別方向に120メートルのところにある。
子どもたちも妻も私も今のところ無事だ。
恐ろしい光景だ〉(10ページ)。

 ちょうど1年前にパレスチナのガザから発せられたメールである。発信者はガザにあるアル=アズハル大学教授のサイード・イブラーヒーム・アブデルワーヘド氏。本書にはアブデルワーヘド氏が、イスラエル軍のガザ攻撃が始まった08年12月27日から09年2月19日までの間、世界に発信したメールが収められている。
 冒頭のメールから10数分後には次のメールが発信されている。

〈日時:2008/12/27(土)13:03
 件名:クリスマス・ニュース

25の建物がイスラエルに空から攻撃された。建物はすべて木っ端微塵にされた。死者はすでに推定250人に達する。
負傷者は何百人にものぼるが貧弱な設備しかないガザの病院では、彼らは行き場もない。
電気も来ないが、ディーゼル発電機でなんとかこれを書いている。
世界にメッセージを送るために。
携帯電話もすべて使用できない!(イスラエル軍は特殊電波を発信して携帯の通話を妨害していた)〉(11ページ)。

 アブデルワーヘド氏のメールを京都大学教授准教授で現代アラブ文学を専門とする岡真理氏が受信する。ボランティアで平和関係の文書・記事を翻訳しているグループTUPと協力して岡氏は、アブデルワーヘド氏のメールを翻訳して広げていく。本書はそうやってインターネットを通して伝えられていったメールと「停戦」後にガザを取材したフリー・ジャーナリスト志葉玲氏の写真によって構成されている。
 いつ自らの住居が攻撃されるかもしれない恐怖と緊張に耐えながら、イスラエル軍の攻撃によって子どもたちや武器を持たない市民が殺され、傷つけられていく様子をアブデルワーヘド氏はメールで発信し続ける。そして、家族を殺された人々や手足を失った若者、血にまみれた教科書、破壊された街を写した志葉氏の写真は、ガザで起こったことを伝えている。

〈日時:2009/1/1(木)18:34
 件名:嘆きと悲しみと死と 2009年元日のガザ

嘆きと悲しみと死と 2009年元日のガザ

2009年元日のガザはどのような姿か?
死がガザを覆い尽くしている。嘆きと悲しみが2009年という新年の挨拶なのだ。
血と大量の死体の匂いがする!毎分のように悪い知らせが新たに届く。
爆発音、爆撃、ミサイルの飛来音、崩壊、すさまじい破壊、イスラエルの無人機、アパッチその他の軍用ヘリ、F16型戦闘機、足元を揺るがす大地。
破壊の跡がいたるところに。
死体、千切れた四肢、泣き叫ぶ子ども、幼子や夫を探し求める母親。
どこに行けばいいのか、どこに隠れればいいのか、誰にも分からない!イスラエルの攻撃のもとでは、安全な避難場所などどこにもありはしない〉(46ページ)。

 2009年はそのようにして始まったのだ。そのことが今、どれだけ日本で意識されているだろうか。本書に納められた解説で岡氏は、次のように記している。

〈だが、実際にパレスチナ人を殺しているのがイスラエル軍であり、アメリカ製の武器や兵器であるにしても、私には、この数年間、ガザに閉じ込められて人権の一切を否定されていたパレスチナ人の生に対してこの世界が、そして私たちが無関心であったことが、もっと言えば、国連の安保理決議にもかかわらず、彼らが違法な占領のもとで、40年以上にわたり人権停止状態におかれてきたこと、さらに彼らのパレスチナへの即時帰還の権利を認める国連総会決議にもかかわらず、60年以上ものあいだ、4世代、5世代にもわたり難民生活を強いられていることに対して無関心であったことが、この法外な戦争を可能にしたもののように思えてならない〉(129ページ)。

 ガザの地では今日、人々はどのように過ごしているのか。1年前に殺された人々や傷つけられた人々、今も占領と難民生活を強いられている人々の生について考えたい。岡氏が指摘するように、私たちが無関心であることが〈法外な戦争を可能〉にしているのであり、とりわけ米軍基地が目の前にある沖縄の私たちは、パレスチナ(直接米軍が攻撃しているわけではなくても)やイラク、アフガニスタンで殺されている人たちと無関係ではあり得ないのだ。

サイード・アブデルワーヘド 岡真理+TUP=訳 岡真理=解説 志葉玲=写真『ガザ通信』(青土社)定価 本体1500円(税別)

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