財部剣人の館「マーメイド クロニクルズ 第三部」配信中!「第一部 神々がダイスを振る刻」幻冬舎より出版中「第二部 完結」

(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

第一部 第7章−3 ネクローシスとアポトーシス

2020-01-13 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

「儂の力を試してみるかね?」

「不思議な波動ね。やさしさや憐れみを持たないくせに悪意や傲慢さもない。そのくせ、とてつもない凶暴さを秘めている。上陸寸前の台風、爆発寸前の活火山、あるいはメルトダウンが始まりかけた原子力発電所とでも言えばよいかしら」

「マクミラよ、気をつけて口を利くがよい。今の儂は脳髄のパワーが全開になっておる。かつて冥界の神官だったかどうか知らぬが最高の英知を獲得した儂に対して気安い物言いではないか」

「気をつけるのはどちらの方? 人間の英知などたかが知れているのではないかしら」

 そう言いながら、マクミラが背中から真っ赤な二条の鞭を取り出した。

 彼女とマッドは一触即発だった。

 ジュニベロスの三首の口からもゆっくりと、だが着実に瘴気(しょうき)がはきだされて周りに漂い始める。

「ドクトール無礼ではないか、初対面のレディに対して。これ以上の失礼があるならわたしとケルベロスの息子たちが相手をするぞ」

「久しぶりに表に出たところにケンカ腰でカッとなっただけじゃ。お転婆娘が鉾を収めるなら、儂にも大人げない態度をとる理由はない」

 マッドが言う。

「いいでしょう。わたしは本性を隠して様子を見ようとする態度が気に入らなかっただけ。納得出来るプランを提示するなら、ヌーヴェルヴァーグ財団は望むとおりの支援をしましょう。お互い駆け引き無しといこうじゃないの」

 ジェフはやれやれという心境だった。大切なマクミラにこんなところでケガでもされては冥主プルートゥに会わせる顔がない。

「よかろう。話してやろうではないか。フランケンシュタイン計画。ふざけた名前がつけられたものだが。あれは今から十一年前のことだった」

 

              

 

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第一部 第7章−2 魔道とマッド

2020-01-10 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 うっかりすると殺し屋と間違われかねないアウトフィットだったが、知的な顔立ちを見れば大学教授のように見えないこともなかった。

「こちらこそ辺鄙な山奥にまでご足労願って恐縮です。日本語がお上手ですね。一度、早い時期に貴方に会っておきたかったもので」

 魔道を一目見た3匹が唸り始めた。

「ヌーヴェルヴァーグ嬢はどこにいらっしゃるにも三匹の盲導犬(英語でseeing eye dog)をお連れと聞いていましたが、どうやらどう猛犬(seemingly excited dog)の間違いでしたか」

「盲導犬は常に『親愛なる犬』ですわ。どうぞマクミラとお呼びください」

「わかりました。マクミラ、ここからは英語でお話ください。以前ボルチモアで5年研究生活を送ったのでわたしもいちおうのコミュニケーションには困りません」

「いちおうのコミュニケーションですか・・・・・・」

 一瞬、マクミラは冥界での神官時代を思い出した。

 静かにするよう指示されておとなしくしているが、三匹は唸るのを止めただけでいつでも飛びかかれる姿勢を取っている。

「さっそく聞きにくいことを伺いますが、学問の世界を追われることになったいきさつをお聞かせいただければと思います」

「ご遠慮なく。長い話で退屈しなければよろしいのですが」

「フランケンシュタイン計画。これ以上興味深い話はないはずですわ。だけどその前に本当の人格に出てきてもらいましょうか」

 マクミラの口調が急に変わった。

「本当の人格とは?」

「わたしの心眼はごまかせないわ。他人の節穴はごまかせてもね。それにキル、カル、ルルもわかっているようだわ」

 再び唸り始めた三匹の盲導犬がだんだんと興奮していく。

「何をおっしゃっているのか、私にはわかりかね・・・・・・ウッ、頭が痛い」

 突然苦しみだした魔道の顔がゆがむ。

フッフッフッ! 

最初からわかっていたな、とさっきとは別人の声が答えた。

整えられていた髪が逆立ち両眼が鬼火のように燃え上がったかと錯覚するほど力に満ちあふれていた。

「儂が魔道の影の人格ドクトール・マッドじゃ」

「こうこなくては。ミシガン山中くんだりまで来たかいがない。さあ、革フェチさん。いったい魔道とマッドとどちらがフェッチ(註、fetchは死の直前に現れるといわれる生き霊)か、教えてもらおうかしら」

 青白い顔のまま、みるみるマクミラの唇に赤みが射してくる。

 その時だった。

 キル、ルル、カルの周りに小さい爆弾でも破裂したような音がして三匹が一匹の強大な魔犬ジュニベロスに変化した。

 

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第一部 第7章−1 マッド・イン・ゾンビーランド

2020-01-06 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 一九九〇年十月。

 真紅のドレスをまとったマクミラの姿は、いつビックアップルの社交界にデビューしてもおかしくないほどだった。最高級サングラスの奥の閉ざされた両眼さえ彼女の美しさを引き立てはしても減じてはいなかった。

 現実には、勝手気ままな生活と引き替えにマクミラは社交界の注目を集めるどころか、親しい友人の一人さえいなかった。

 誰にも心を開かない理由は、周りの波動にシンクロしてしまう特異体質だったからだ。澄んだ波動の相手と一緒なら心の澱がなくなりエネルギーが満ちてくる。逆に、いやな波動を発する相手と一緒だと心に大きな穴が空いて体調が悪くなる。

 そのせいでマクミラは人付き合いをひどく限定してしまった。

 特にやっかいだったのは女性の受けが悪かったことだ。

 男性に対して彼女は魅力的過ぎた。たまに外出しても、病弱そうに見えると殿方に親切にされてよいわね、何も知らないお嬢様の振りをして、といった悪意の波動にさらされた。そうした誹謗中傷の波動に疲れたマクミラは、ジェフとおしゃべりをして過ごすのが常になった。

 その日、マクミラはミシガン州に出かけた。

 まだ三十歳代半ばの若さでゾンビーランド責任者に就任した魔道斉人(まどうさいと)と話し合いを持つためだった。かつては日本の名門大学で将来を嘱望される天才医学者だったが、禁断のプロジェクトを業を行って大学を追われたのだった。

 学内の倫理委員会の許可なしに、彼は「フランケンシュタイン計画」として知られる脳死患者の人体実験を繰り返した。もっとも脳死は人間の死であると主張して、「人体実験」にはあたらないと自己弁護したらしいが・・・・・・

 魔道は、中央棟最上階奥の理事長室で待っていた。

 ジェフとマクミラは三匹の盲導犬キルベロス、カルベロス、ルルベロスを従えてエレベータを出るとドアをノックした。

「プリーズ、カムイン!」

 男が完璧な英語で応じる。

「遅くなってごめんなさい。こちらから時間を指定しておいて」

 マクミラが日本語で答えた。

 黒革のハーフコートにレザージーンズを着た男が振り返った。

 

 

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第一部 序章〜第6章のバックナンバー

2020-01-03 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

  
 財部剣人です! 新年明けましておめでとうございます! 第三部の完結に向けてがんばっていきますので、どうか乞うご期待。

「マーメイド クロニクルズ」第一部神々がダイスを振る刻篇あらすじ

 深い海の底。海主ネプチュヌスの城では、地球を汚し滅亡させかねない人類絶滅を主張する天主ユピテルと、不干渉を主張する冥主プルートゥの議論が続いていた。今にも議論を打ち切って、神界大戦を始めかねない二人を調停するために、ネプチュヌスは「神々のゲーム」を提案する。マーメイドの娘ナオミがよき人 間たちを助けて、地球の運命を救えればよし。悪しき人間たちが勝つようなら、人類は絶滅させられ、すべてはカオスに戻る。しかし、プルートゥの追加提案によって、悪しき人間たちの側にはドラキュラの娘で冥界の神官マクミラがつき、ナオミの助太刀には天使たちがつくことになる。人間界に送り込まれたナオミ は、一人の人間として成長していく内、使命を果たすための仲間たちと出会う。一方、盲目の美少女マクミラは、天才科学者の魔道斎人と手を組みゾンビー・ソルジャー計画を進める。ナオミが通うカンザス州聖ローレンス大学の深夜のキャンパスで、ついに双方が雌雄を決する闘いが始まる。

海神界関係者
ネプチュヌス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 海主。「揺るがすもの」
トリトン ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ネプチュヌスの息子。「助くるもの」
シンガパウム ・・・・・・・・・・ 親衛隊長のマーライオン。「忠義をつくすもの」
ユーカ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 第一次神界大戦で死んだシンガパウムの妻
アフロンディーヌ ・・・・・・ シンガパウムの長女で最高位の巫女のマーメイド
アレギザンダー ・・・・・・・・・・ 同次女でユピテルの玄孫ムーの妻のマーメイド
ジュリア ・・・・・・・・ 同三女でネプチュヌスの玄孫レムリアの妻のマーメイド
サラ ・・・・・・・・・・ 同四女でプルートゥの玄孫アトランチスの妻のマーメイド
ノーマ ・・・・・・ 同五女で人間界に行ったが、不幸な一生を送ったマーメイド
ナオミ ・・・・・・・ 同末娘で人間界へ送り込まれるマーメイド。「旅立つもの」
トーミ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ナオミの祖母で齢数千年のマーメイド。
ケネス ・・・・・・・・・ 元ネイビー・シールズ隊員。人間界でのナオミの育ての父
夏海 ・・・・・・・・・・・・ 人間界でのナオミの育ての母。その後、ニューヨークに
ケイティ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ナオミのハワイ時代からの幼なじみ
ナンシー ・・・・・・・・・・・・・・・・ 聖ローレンス大学コミュニケーション学部教授

天界関係者
ユピテル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「天翔るもの」で天主
アスクレピオス ・・・・・・・ 太陽神アポロンの兄。アポロノミカンを書き下ろす
アポロニア ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ アポロンの娘で親衛隊長。「継ぐもの」
ケイト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ アポロンの未亡人。「森にすむもの」
シリウス ・・・・・・・・・・・・・・ アポロニアの長男で光の軍団長。「光り輝くもの」
               で天界では美しい銀狼。人間界ではチャック
アンタレス ・・・・・・・ 同次男で雷の軍団長。「対抗するもの」で天界では雷獣。
                            人間界ではビル
ペルセリアス ・・・・・・・ 同三男で天使長。「率いるもの」で天界では金色の鷲。
                         人間界ではクリストフ
コーネリアス ・・・・・・・・・・・・・ 同末っ子で「舞うもの」。天界では真紅の龍。
   人間界では孔明

冥界関係者
プルートゥ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「裁くもの」で冥主
ケルベロス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3つ首の魔犬。「監視するもの」で
  キルベロス、ルルベロス、カルベロスの父
ヴラド・“ドラクール”・ツェペシュ ・・ 親衛隊の大将軍。「吸い取るもの」で
       人間時代は、「串刺し公」とおそれられたワラキア地方の支配者
ローラ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・“ドラクール”の妻で、サラマンダーの女王。
「燃やし尽くすもの」
アストロラーベ ・・・・・・・・・・・・・・ ヴラドとローラの長男で、親衛隊の軍師。
                            「あやつるもの」
スカルラーベ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 同次男で、親衛隊の将軍。「荒ぶるもの」
マクミラ ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 同長女で、人間界に送り込まれる冥界最高位の
神官でヴァンパイア。「鍵を開くもの」
ミスティラ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 同次女で、冥界の神官。「鍵を守るもの」
ジェフエリー・ヌーヴェルヴァーグ・シニア ・・・パラケルススの世を忍ぶ仮の姿
ジェフエリー(ジェフ)・ヌーヴェルヴァーグ・ジュニア … マクミラの育ての父

「第一部序章 わたしの名はナオミ」

「第一部第1章−1 神々のディベート」
「第一部第1章−2 ゲームの始まり」
「第一部第1章−3 シンガパウムの娘たち」
「第一部第1章−4 末娘ナオミ」
「第一部第1章−5 父と娘」
「第一部第1章−6 シンガパウムの別れの言葉」
「第一部第1章−7 老マーメイド、トーミ」
「第一部第1章−8 ナオミが旅立つ時」

「第一部第2章−1 天界の召集令状」
「第一部第2章−2 神導書アポロノミカン」
「第一部第2章−3 アポロン最後の神託」
「第一部第2章−4 歴史の正体」
「第一部第2章−5 冥界の審判」
「第一部第2章−6 "ドラクール"とサラマンダーの女王」
「第一部第2章−7 神官マクミラ」
「第一部第2章−8 人生の目的」

第一部 第3章−1 ドラクールの目覚め

第一部 第3章−2 仮面の男

第一部 第3章−3 マクミラ降臨

第一部 第3章−4 マクミラの旅立ち

第一部 第3章−5 海主現る

第一部 第3章−6 ネプチュヌス

第一部 第3章−7 マーメイドの赤ん坊

第一部 第3章−8 ナオミの名はナオミ

第一部 第3章−9 父と娘

第一部 第3章−10 透明人間


第一部 第4章−1 冥主、摩天楼に現る

第一部 第4章−2 選ばれた男

第一部 第4章−3 冥主との約束

第一部 第4章−4 赤子と三匹の子犬たち

第一部 第4章−5 一難去って・・・

第一部 第4章−6 シュリンプとウィンプ

第一部 第4章−7 ビッグ・パイル・オブ・ブルシュガー

第一部 第4章−8 なぜ、なぜ、なぜ

第一部 第4章−9 チョイス・イズ・トラジック

第一部 第4章−10 夏海の置き手紙 

 

第一部 第5章−1 残されし者たち

第一部 第5章−2 神海魚ナオミ

第一部 第5章−3 マウスピークス

第一部 第5章−4 マウスピークスかく語りき






 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


  

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第一部 第6章−10 おかしな組み手

2020-01-01 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 なぜ、攻撃してこないのかしら? 

 ナオミは思った。もしかして女だと思ってバカにしてる?

 その時、トーミの声が聞こえてきた。

 ナオミ、違うぞえ。この龍、どうしてよいか迷っておる。心を読んでごらん。神界から来たもの同士、今のお前さんならできるはずだよ。

 おばあ様・・・・・・

 ナオミのマーメイドの能力が、瞬間的に解放されて龍の心の中が見えた。

 真っ赤に目を充血させた龍が暴れていた。だが、暴れながらも龍は自分自身に戒めを課すかのように身をよじっていた。

 ライフ・エナジーを打ち込むんじゃ。再び、トーミの声が聞こえてきた。

 わかったわ。

 ナオミは弓を引き絞るポーズを取ると、龍をつかまえて離さない憤怒をはじき飛ばすための生体のエナジーをため込んだ。次に、身体を一回転半させて得意の後ろ回し蹴りでミドルキックを打ち込む。

 その刹那、孔明に不思議な表情が浮かんで信じられないようなスキができた。

 いける!

 蹴りを放った。

 マーメイドの蹴りが決まると孔明の身体が数メートルも先のコンクリートの壁に打ち付けられた。

 ナオミが近寄ると、すでに彼の顔色は平常に戻っていた。

「スキありね」

 そう言われても、なぜか孔明はうれしそうだった。

「見えたよ。君の回し蹴りが、マーメイドのスプラッシュに・・・・・・」

 ナオミが黙ってはだけた胴衣を引っ張って孔明をひきおこすと背中から胸にかけての真紅の龍のタトゥーが見えた。

「おしろい彫りでね。ふだんは見えない」

「ということは?」

「今日は熱くなったということさ」

 気がつくと連中が拍手をしてくれていた。

「すごいじゃないか」チャックが言う。

「今度はオレと勝負してくれよ」クリストフが、両手を広げながら言う。

「初めて見た。孔明がダウンするところ」ビルは本当におどろいたようだった。

 ナオミは、LUCGの練習に参加するようになった。孔明の名誉のためつけ加えておくと、それ以降ナオミが彼から一本を取ることは一度もなかった。

 ナオミとケイティの話を聞いて興味を持ったLUCGのメンバーも、逆にディベート部の活動に参加するようになった。秀才揃いだった彼らは、瞬く間に貴重な戦力になった。

 こうしてナオミは、新しい仲間たちを得た。同時に、マクミラの準備するトラブルに巻きこまれる時も着実に近づいていた。

 

 

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第一部 第6章−9 逆鱗に触れる

2019-12-30 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 真っ赤になった孔明の顔が次に怒りで黒くなると、三人は後ずさった。

「ナオミ、逃げろ。まさかクリストフが孔明に触れられるとは思っていなかった」

  チャックが、絞り出すように言った。

  孔明が、構えをとる。

  さっきまでとは比べものにならない禍々しいくせに、同時にあやしいまでに美しい龍がいた。

  威圧感どころではない。右手が振られると光りの流れが生まれてすいこまれそうになる。龍が足を高くあげると虹の流れが空気を切り裂いた。虹は高く空まで続くかと思われた。龍が移動すると闘気が渦を巻いた。カンザス名物の竜巻かと錯覚するようなつむじ風が起きた。龍の潮の流れに乗るような動きにはわずかのムダもなかった。

  雨の少ないカンザスだったが突風が吹き雨雲が忽然とわき出てきた。

  怒気を感じてナオミはクリストフが孔明の逆鱗に触れたのがわかった。

  中国の伝説では、龍は八十一枚の鱗を持つが(八十一は多くの数の象徴にすぎず)、実際には数千枚の鱗を持つ。そして、龍はあごの下に逆向きの鱗が一枚だけ生えており触れられると激怒すると言われている。

「どうする?」クリストフが、ビルに声をかける。

「どうするって、奴が頭に来ちまったんだからしようがないだろ」

 チャックが落ち着いて言う。

「一度にかかるぞ」

「ワン、ツー、スリィ」

 かけ声に合わせて、三人が孔明に飛びかかる。

  チャックは低い構えから目にも止まらぬスピードで飛びかかった。ビルは受け身を取るように倒れ込むと転がりながら迫った。クリストフは怪鳥音を上げると飛び蹴りを仕掛けた。

 ハァッ! 

  孔明のかけ声が響き渡って、三人がはじき飛ばされる。

  何があったか見て取れたのはナオミだけだった。

 孔明はチャックとビルを左右の掌丁ではじき飛ばすと、振り向きもしないでクリストフにカウンターの後ろ飛び回し蹴りを食らわせた。三人ともかなりのダメージを受けていた。

「ちっくしょー、大丈夫か?」

 チャックが、再び攻撃をしかけようとする。

 どいて! 

  チャックを押し返してナオミが言った。

「この龍はわたしが眠らせる。目覚めさせるきっかけを作ったんだから」

  ナオミはゾクゾクするほどうれしかった。久々に手加減なしで戦えそうね。

  ナオミは闘気を身にまとった。

  格闘家同士にだけに聞こえるスイッチがオンになった。構えは女ブルース・リーといった感じで、『死亡遊戯』の左手を前方に、右手をあごのあたりに構えて腰を割るポーズ。

  孔明はナオミにかかってこいと小さく手招きした。

「なめないでよ!」 

  攻撃を開始すると、彼がディフェンスの天才だと気づいた。

 ショルダーやアームブロックさえ用いず、スェイバックとダッキングだけで突きをかわしていく。かわすと言うより流れる、よけると言うより漂うという動きだった。

  タイミングを計るにつれて、ナオミの攻撃が鋭さを増していく。アッパーカットの要領の掌丁打ちやかかと落としをしかけながら懐に飛び込むタイミングを計る。

  孔明の軽やかなステップワークに、ナオミは二人でダンスを踊る錯覚におちいった。ナオミは、ローリングソバットから後ろ回し蹴りと連続技を繰り出した。ふつうならとっくに勝負ありだがギリギリのタイミングでかわされてしまう。

 

 

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第一部 第6章−8 ファントム

2019-12-27 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

  ナオミは吹き出した。

「ハワイから来たと思ってバカにしているの。ファントム・オブ・ザ・キャンパスってわけ。あなたたち本当は演劇部?」

「冗談だと思うのも無理ない。だが、黒マントのあやしい人影が深夜にうろついているのは本当だ。大学のキャンパスなんて、変質者野郎にはたまらなく魅力のある場所らしい。さあ、送っていこう。泊まっているのは学生寮だね」

「送ってくれるのはうれしいけどひとつ教えて。あなたの拳法、不思議な動きをしてる。シラットにも似ているし、カラリパヤットの動きも入ってる。でも、わたしが知ってるどの拳法ともちがう」

「驚いたな。クンフーと間違われたことはあるが・・・・・・正解は、古代中国の龍神拳さ。今では使えるのは俺とじいちゃんだけになっちまったけど」

「わたしもパパからマーシャルアーツを習ってたの」

「お父さんから?」

「ネイビーだったの。海辺で毎日練習したわ」

「ホントかい?」彼が肉付きのよい腰をちらっと見た。

「疑うの? それならここで手合わせしてみる」

「女と組み手はしない主義だ」

 ナオミには絶対に許せないことが三つあった。一つ目が、育ててくれたケネスと夏海がバカにされること。二つ目が、オンナだからと差別されること。最後が、出身地のハワイを低く見られることだった。

「ここは男女同権の国アメリカよ。日本と一緒にしないで。それともマーシャルアーツと聞いて怖くなった?」

ケイティが例によって服の端を引っ張っているが、その気になったら後には引けないのがナオミの気性だった。

だが、今回は思い通りにならなかった。

「孔明、ちょっと稽古を見せてあげたら納得するんじゃないか?」

 クリストフが割って入っていった。

「そうだな。皆、組み手に入ろう。まずは俺とクリストフからだ」

 ナオミはムッとしたが、とりあえずお手並み拝見といくことにした。

 クリストフは上体にバランスを置いて勝負するカンフー系らしくつま先で軽く二回ジャンプすると、フリッカージャブを次々と打ち込み始めた。手応えをたしかめるように最初はゆっくり、だんだんスピードを上げていく。

 孔明はゆうゆうとかわしていく。

 クリフトフは、腕組みをしたままジャンプすると空中コザックダンスを踊る鮮やかさで連続回し蹴りを見舞った。バラライカの響きが聞こえてきそうだった。

それを、流水の動きで孔明はかわす。

 クリストフはむだな攻撃が多くてすでにグロッキーになっていた。

「どうした? もっと思い切って来ていいぜ」

 けっして大柄とは言えない孔明が前年度全米カラテ選手権大会で決勝まで進出した秘密がこのディフェンスの妙技だった。キャンパスでは有名人だった彼は腕自慢たちからしょっちゅうケンカを売られていた。

 全米カラテ選手権決勝戦で蹴りがたまたまあごに入った時、怒りに我を忘れた孔明は相手を半殺しの目に遭わせてしまった。あやうく人殺しをしそこなった彼は誰に対しても技をふるうのをやめていたのをナオミは後から知った。最初からLUCGのハイレベルの稽古を見せるだけで、「かわいいチャレンジャー」にお引き取り願うつもりだった。

 女の子の前でいいかっこを見せるはずが不様な格好をさらしたクリストフは、やけくそで前蹴りを放った。それまで攻撃をやすやすとかわしていた孔明のあごをクリストフのつま先がまぐれでかすった。

「やべー」

 チャックが言うのと、ビル、クリストフが身構えるのが同時だった。

 

 

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第一部 第6章−7 仲間たちとの出会い

2019-12-23 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 一匹の真紅の龍が三匹の神獣たちと演武をしていた。

 しなやかな肢体の銀狼。背後が見えないほど巨大な雷獣。そして、所狭しと飛び回る金色の鷲。

 はるか昔、ネプチュヌス宮殿でゆうゆうと移動する海龍を見た記憶があるが、これほど見事なたてがみ、背びれ、鱗を見たことがなかった。

 落ち着きを称えたブラウンの瞳と裏腹に数本の角と爪はするどくとがり、掌中には龍の王族だけが持つ御霊があった。

 振り返った龍の目がナオミのところで止まった。

 幻視からさめると龍の刺繍が入ったチャイナ服に身を包んだ男がいた。

 時折前世からの縁ある人と再会するとナオミには記憶がよみがえった。神々の血筋を引く人間も人間界に存在しているのだ。

 微笑んだ顔には屈託がなく、孤独を好む龍族の性質は人間界の生活でなくなったようだった。

「どこかで、会ってないかな?」男がナオミに話しかけた。

「誰かに似ている気がするんだけど」

「たぶん初対面よ。もしもあなたがハワイ育ちじゃなければね」

「デジャブを感じたんだ。オレは蔡孔明(サイ・コーメー)。日本からの留学生だ」

 二人はすでには会っていたかもしれない。ただし、前世で。

「わたしはナオミ・アプリオール。まだここの学生じゃないけど、ディベート・キャンプのお手伝いしてるの。あなたたちは何してるの」

「俺たちは、St. Lawrence University Campus Guardians(聖ローレンス大学キャンパス警備隊)、略してLUCGだ」

「キャンパス・ガーディアンズ、暴走族には見えないから自警団?」

「ヘルズ・エンジェルスとかと一緒にしないでくれよ」

 孔明は苦笑いした後、こうつけ加えた。

「女の子だけでこんな時間にうろつくのは感心しないな」

 その言葉が合図になったかのように、孔明の仲間たちがナオミとケイティを囲んだ。 

「オレ、チャック・ハーベック。こいつの術に引っかかっちゃいけないよ!」

 ウルフカットの巨人が言った。額が張り出し狼のように細い目をしていたが、人なつっこい顔をしている。ただし、暗がりではスタジャンを着たフランケンシュタインと誤解されかねない。

「僕はウィリアム・シェルダン。ビルと呼んでくれ。女の子の夜歩きが不用心なのは同感だな」

 卒業後、マサチューセッツ工科大学の大学院に進学することになる秀才が言った。

 ヒッピーの生き残りのような服装を見て、将来二十代でノーベル賞候補者になると見抜いた者が果たしていただろうか。当時でも縦横の幅が変わらないくらい太っていたので、ナオミはこれで警備隊員が務まるのだろうかと心配した。

「こいつは女と見れば声かけまくる輩だ。俺はクリストフ・ボールデン、ずっと安全ですよ」

 自分の方がよほど危険そうなブロンドのベルギー人が言う。スエットスーツを気障に着こなしていたが、おそらく彼が着ればどんな服も気障に見えるだろう。

「あの。わたしはケイティ・オムニマス」

 どうやらハンサムなクリストフにときめいているようだった。男の子の前で自然とかわいく振る舞うケイティを見ると、自分にはなぜ同じように出来ないのかと思った。ナオミにできるのは、いつでも突っ張ることばかりだった。

「いつもここで練習しているの?」彼らを無視して、孔明に質問した。

「いつもはこんな時間にはしないんだが、今週からは練習をかねてキャンパス内を見回ってる。俺たちはもともとはカンザスシティの拳法道場仲間だったんだが、最近おかしな事件が頻発してるんでLUCGを結成したんだ」

「おかしな事件って?」

「これから学生生活をスタートしようという人に、こんな話をするのは気が引けるんだが・・・・・・聖ローレンス大でもキャンパス・レイプは毎年報告されているし、何年に一回は殺人事件さえ起こっている。ほとんどは外部者のしわざだけど」

「ハワイだって観光客の減少が怖くて報道されないだけでひどい事件は日常茶飯事だったわ。それで、おかしな事件というのは?」

「うん、ファントムが出没するって話だ」

 

 

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第一部 第6章−6 夏季ディベートセミナー

2019-12-20 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 聖ローレンス大学は、カンザスシティ空港から車で三十分ほど東に行ったカンザスシティの東のはずれに位置していた。

 空港からシャトルバスに乗ってミズーリからカンザスの州境に入ると、Ad astra per aspera. Welcome to the state of Kansas! (「星へ困難な道を。カンザス州にようこそ」)という州のモットーを使った看板が高速道路上に見えてきた。

 シャトルバスがわずか十五ドルで、彼女たちが住む予定の学生寮まで送ってくれることになっていた。学生総数が数千人というから米国では小規模の部類に入るが、地元では名門私立大学だった。

 小高い丘の頂上を占めるキャンパスは、やっかみをこめて「スノッブヒル」と呼ばれていた。広大なキャンパスを歩くと目の前を野生のリスが横切った。平原地帯特有の気候で五月から十月までTシャツで過ごせる一方、十二月から三月までは厳しい寒さが続くために春と秋が極端に短い。

 夏真っ盛りの七月、夜中だというのに学生寮はディベート・セミナーに参加する高校生の熱気であふれていた。ある者は指導員の大学生にアドバイスを求め、ある者は昼に図書館で収集した記事のコピーを刻んで資料作成に夢中になっている。

 初対面の時は知らなかったが、マウスピークスは聖ローレンス大学ディベート部監督だった。まだ入学前のナオミは正式指導員ではなかったが、彼女のすすめでヘルパーをしていた。

「マウスピークス先生、すごい数の高校生が参加しているんですね」

「どうぞナンシーと呼んで。二百名以上が全米中から参加しているわ。うちは二年連続で全米ディベート選手権準決勝まで進んでいるから、今年はかなり有望な子も来ているわ」

 この年に、全米選手権初優勝の栄冠をもたらすことになるマーチン・マーキュリーとロイド・アップルゲイトというスターがいたこともあり聖セントローレンス大学ディベート部は三十人を越える大所帯だった。

 米国では多くのディベート部が学校の支援下に置かれており、フットボールやバスケットボールと同じく対抗試合が行われている。ディベート部は一個師団を意味する“スクワッド”と呼ばれていたが、彼らの熱中振りを見ているとまさに戦場の兵士たちを思わせた。

 ディベートが体育系クラブと大きくちがうのは、ディベートにはプロリーグが存在せず多くのディベーターが卒業後、法科大学院に進んで弁護士を目指すことである。ケネディ大統領は高校時代にディべートの名手として知られていたし、ジョンソン大統領はかつて高校でディベートとスピーチの教師をしていた。このように将来、政界に進むことを目指すディベーターも少なくない。

 名門大学ディベート部は活動費を稼ぐためと、これはと思う学生をリクルートするため秋のシーズン開始前に三週間程度の高校生向けのセミナーをおこなう。逆に、ディベートの強豪校に進もうと考えている学生にとって夏のセミナーはどの大学に行くかを決める情報収集の場にもなっていた。

 一九八九年秋から翌春のシーズンに採用された高校生向け論題は、「連邦政府は刑務所に関する政策を変革すべし」だった。今回のセミナーには大学院に進んだ多くの歴戦の勇者たちも雇われインストラクターとして参加していた。聖ローレンス大学は学部教育中心のリベラルアーツカレッジで、大学院敷設の総合大学でなかったためにインストラクターには他大学出身者も多い。最初はマウスピークスが論題の分析方法について、次に外部から呼ばれた有名コーチたちが戦略面のレクチャーをした。

 ナオミは二百人からの高校生を預かるのは地獄を内に抱え込むことだと知った。彼らはわずかひと月にも満たないキャンプ中でも親を恋しがりチーム同士やチーム内でもつまらないことで張り合った。一言で言って、彼らは子どもだった。毎日が息をつく間もないほど忙しかった。

 食事に遅刻したり夜中に入れ込みすぎて体調を崩す学生がいるとパニックになりそうだった。もっともセミナーを手伝うことでナオミは自分自身がホームシックにかかることがなかったし、ディベート部の連中とも仲良くなれた。

 セミナーが中盤にさしかかり来週からチーム対抗の練習試合が始まろうという週末。

 夕方まで高校生たちのリサーチを手伝ったナオミとケイティが、図書館を出て寮まで帰ろうと歩き出した時だ。

 ナオミは、目の前で繰り広げられる光景にめまいを起こした。

 

          

 

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ドクター・スリープを見てきました!

2019-12-16 19:25:30 | 私が作家・芸術家・芸人

 財部剣人です! 原作を読んで楽しみにしていた『ドクター・スリープ』を見てきました。最初の三分の一は、ややディーン・クーンツ的な乗り(超自然的なものにも何かしら説明をとってつける、それが実は私のような彼のファンにはたまらないのですが)でスティーブン・キングファンには?という感じかも、でも真ん中の三分の一で各キャラクターが急に立ち上がりだして面白くなり、最後の三分の一はスゴイ怖い出来になっていました。

 この間、楽しみにして見に行った『ターミネーター:ニュー・フェイト』はまさかの観客5人だったのですが、今回は私を入れて12人でした。。。ネタバレになるので書きませんが、『シャイニング』映画版だけを見た人には、伏線となっているいろいろなストーリーが見えにくいかも知れません。逆に、キングの原作版『シャイニング』や『ドクター・スリープ』を読んでいる人は満足できるよい出来映えだと思います。

 

           

 

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