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(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

マーメイド クロニクルズ 第二部 第8章−5 ドルガとトミー(再編集版)

2017-02-07 00:00:40 | 私が作家・芸術家・芸人
 まずドルガが近寄っていった。
「小僧よ、我が姿が見えるのか?」
 しゃくり上げながら、トミーが答える。「見えるのって、お姉ちゃんの姿は他の人には見えないの?」
「フフフ、そうか。見えるものにとっては、見える方が当たり前。見えない方が不思議か・・・・・・なぜ泣いている?」
「携帯が、携帯が、壊れちゃった。もうママに連絡できない」
「はぐれ子か。母の名前はなんと申す?」
「夏海」
 ほー、我がとりつこうとしている人間の子なのか。 
 その時、ヌーヴェルヴァーグ・タワーの正面に夏海が現れた。向かいのビルの前で一人っきりの息子を見つけて、真っ青になっている。「トミー!」思わず、大声で名前を呼ぶ。
「アッ、ママだ!」トミーは、道路の向かいの夏海に向かって走り出した。すでに、信号が「止まれ」に変わったのには気がつかない。走り出した彼に、能天気な新婚カップルのキャデラックが突っ込んできた。
 アレッ、当たる。
 数秒にも満たないはずの時間が、超常感覚におちいったかのように長く感じられた。人は死の瞬間に人生を走馬燈のように振り返ると言うが、子供だったトミーには振り返るほどの長い人生自体まだなかった。
 ママがあぶないことしちゃダメと言ってたから、後で怒られるかな。もしも死んじゃったら、パパにもうだっこしてもらえないかな。託児所で仲良しになったジェーンは、いつまでも覚えていてくれるかな。
 車がだんだん近づいてきた。運転席のお兄ちゃんと隣の席のお姉ちゃんが、ビックリしてる。こんな時、車が近づいてくるのを動かないで待ってるなんて、バカじゃないかってテレビ番組を見ていつも思ってたけど・・・本当に、こんな時は身体がすくんじゃうんだ。
 さまざまなことを思った次の瞬間、トミーの身体は宙を舞っていた。

 気がつくと、今度は四人の魔女が目の前にいた。
「小僧、まだ我らの姿が見えるか?」ドルガが問いかけた。
 トミーの命は風前の灯火となっており、かろうじてうなずくのみだった。
 トミーは、不思議だった。それにしても、このおねえちゃんたち、変な格好してるぞ。えーと、こういうのを何と言うんだっけ? ママがいつか言っていたぞ。そうだ、コスプレだ!
 リギスがささやく。「どうやら生命の糸が切れかかっているようでありんす」
 メギリヌが言う。「ドルガ様、人間の命の一つや二つ、どうということがございましょう。今宵の目的は、キャスト連中にとりつくこと。さっさと用を済まそうではありませんか」
 その時、ライムが反論した。
「ドルガ様、お待ちを。人間とは、我々よりもはるかにか弱き存在でございます。ここでもしもこの小僧が亡くなれば、演出家の父もキャストの母もパフォーマンス・フェスタを続行することはできないでしょう」
 薄れ行く意識の中で、かわされている会話を他人事のようにトミーは聞いていた。考え込んでいたドルガが、気配を感じた。
 頭が暗い闇になっているために青白いドクロの面をかぶった死神タナトスが、蒼ざめた馬に乗って現れた。まさに今、トミーの魂を身体から切り離して冥界へ連れて行こうとしている。
 ドルガが、タナトスに語りかけた。「我は、死の神トッドの娘ドルガなり。このあわれなる子にしばしのいとまを与えんと欲す。紛争から飢餓、はては自殺と殺人が蔓延するこの人間界では、一人くらいは我が父の名においてなされた気まぐれを聞いてもよいであろう」
 一瞬、迷ったタナトスは、トミーの命を奪うことをあきらめると冥界に戻っていった。
 メギリヌが、皮肉を言った。「ドルガ様、小僧に情けをおかけになるとは、悪魔姫の名に劣るというものではありませぬか」
「誤解するではない。情けをかけたわけなどではない。ライムの言うように、計画続行にはこの小僧の命を救っておくことは必要不可欠じゃ。この小僧、不思議な力を持っておる。どうせ、我が母親の心と体を乗っ取ってしまうのだ。そばにいて、どうなるか見てみたくなったのじゃ」
 こうして、交通事故に遭ったトミーは奇跡的にかすり傷程度ですんだ。母親にこっぴどくしかられるという彼の予測は、はずれた。倒れている息子にかけよった夏海は、次の瞬間、ドルガに体を乗っ取られてしまった。


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