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(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

第一部 第2章ー6 “ドラクール”とサラマンダーの女王

2019-07-22 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 今宵、呼び出されたのは、「吸い取るもの」“ドラクール”ことヴラド・ツェペシュを父に、「燃やし尽くすもの」サラマンダーの女王ローラを母に持つ兄弟たちだった。
 人間界の出としては比類なき出世を遂げたかつての大将軍と冥界の業火をあやつる火蜥蜴の女王が並び立っていた。かつて歩を進めるたびに足下から吹き出すオーラで百匹の魔物をたじろがせ、爛々と光る双眼の一睨みで千匹の魔物を打ち震えさせたと言われるドラクールは鮮やかなビロードのマントを着こなしていた。だが、すっぽりかぶった頭巾のせいで表情は読めない。
 ドラクールと並ぶ時には妻ローラは美しい女性の姿をとるがサラマンダーの女王の証である真紅の長髪は燃え立つ炎のように逆立っている。彼女とドラクールとの結婚に関しては冥界では多くの反対があった。名門の娘がよりによって人間界から来た男を選ばなくても、とささやかれたものだった。
 批判を封殺したのは、ドラクールの圧倒的な力量だった。なにしろ、かつて侵略者に「ワラキアの串刺し公」と畏れられながら民には英雄として慕われたドラクールのこと、悪事に命を懸ける意気地は持たないくせに人間の弱みにつけ込むしか能のない悪事中毒患者たちなど敵ではなかった。
 冥界を支配することは、同時に精神世界を支配することを意味する。ドラクールとローラが、冥主親衛隊を指揮するようになったのはプルートゥにも幸いだった。それまで形だけ従っていた魔族たちの謀反の危機に悩まされることがなくなったのだ。
 二人の前で中心におさまるのは真紅のマントに身をつつむ長女マクミラ。
普段なら他人をひざまずかせても自らひざまずくなどありえない最高位の神官が、冥主にうやうやしく頭を垂れる。「鍵を開くもの」マクミラが何を考えているかは、誰にもわからない。だが、比類無き予知能力を持ち冥界の祭祀を取り仕切る権限を持つ彼女に刃向かおうというものなどいなかった。生まれながらにして盲目の双眼でいったい何を見るのか。
 右にはマクミラの双子の妹で白銀のマントに身をつつむ「鍵を守るもの」ミスティラがいた。サラマンダーの血が薄い彼女にも弱い予知能力があるが、偉大な姉に萎縮してなかなか本領を発揮できない。出産時に姉が炎を引き受けてくれたために無事だった瞳が、炎に照り映えて美しい。心やさしい性格が獣たちに好かれて、吸血コウモリや黒猫、ジャッカル、八咫烏(やたがらす)などの使い魔(ファミリア)たちに囲まれている。
 左には、長男で親衛隊の軍師、「操るもの」アストロラーベがいた。漆黒のマントと軍服に身をつつんだ偉丈夫は古今東西の魔術に長けている。彼の使う半透明の長ヤリには貫き通せぬものはないと噂されていた。暴君風の父親に似ない目深にかぶった帽子に隠されて普段は見えない青白い顔は一目で女性の心を奪う陰があった。かつてパウムシンガの長女アフロンディーヌをめとるという噂があったが、彼女が宮中に入って一生を過ごすことを決めてからは自分も生涯独り身の決心を固めたと言われる。
 左端にいるのが、次男で「荒ぶるもの」大将軍スカルラーベだった。冥界きっての暴れん坊で女性の受けは最悪に近い。だがいったん味方にすればこれほど心強い存在もない。一振りで千の魔物の首をはねとばす大鎌を背負った彼は、はげ頭に筋骨隆々とした体躯をドクロでできた鎧につつむ。兄弟の中ではサラマンダーの血を最も色濃く受け継いで、怒りだせば七日七晩インフェルノを吐き続けると言われる。
(おひさしゅうございます、プルートゥ様)
 月の女王アルテミスさえ嫉妬したと言われる美女マクミラが微笑を浮かべた。だが、その思念は氷の刃がつきつけられたように受け取ったものの背筋をぞっとさせる。

          

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