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(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

第三部闘龍孔明篇 第11章—4 人が生きる意味

2019-03-11 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 アポロノミカンを探求するアポロノミカンランドは、ミホシムにコントロールされた孔明が担当していた。孔明は、自分自身の意識を失ったままであり、夢の中でナオミを守って闘っていた。
 ミホシムによって、ナオミをゾンビーソルジャーたちから救う王子の役割を与えられた孔明は、十字架に貼り付けになったナオミを襲ってくる怪物たちを撃退し続けた。ミホシムがいなくなってからは、彼がナオミだと信じて守っていたのは、実はアポロノミカンだったのだが。
 孔明は、夢魔の女王シュリリスのインキュバスの息子たちが変化した怪物と闘うのに文字通り夢中になった。「快楽を与えるもの」ヘドミス。「隠微な喜びを与えるもの」クリプス。「欲望を与えるもの」デザイラ。「拘束される喜びを与えるもの」レストラたちとの闘いに全力を尽くした。
 だが、問題は肉を持つ身体でなくなった孔明の恐ろしいまでの強さだった。夢の中なら無敵のはずの夢魔が容易に倒されてしまうだけでなく、あやうく消滅しそうになるほど、肉の拘束を解かれた孔明は強かった。
 孔明が右手を振ると光が生まれ、足を上げると虹が空気を切り裂いた。
 彼が移動するにつれて闘気が渦を巻いて、巨大な龍に変身すると夢空間自体が破壊されそうなエネルギーが発生した。

     

 夢魔の女王だけあってシュリリスは、そんな孔明を恐れるより興味を持った。まず最初に、サキュバスの娘たちを使って深層心理に入り込ませ、これまで彼の人生に何があったのか、どのような教え導きを受けたのか調べさせた。次は、「はなやかなるもの」パピヨン、「美しきもの」プリシラ、「妖艶なるもの」ゼルゾラ、「酔わせるもの」カズームが、全力を尽くす番だった。彼女たちが孔明の深層心理の奥底で発見したのは、祖父青龍の影響だった。すでに孔明の人格の一部となっていた彼とは、会話さえ出来た。
「おじいちゃん、いったいどうやって孔明を鍛えたの?」パピヨンがリズミカルに話しかけた。
「ホッホッホッ、お嬢ちゃん、儂は孔明を強くしようと思ったことはない」
「強くしようと思ったことはないですって! じゃ、どうやって?」
「ふつう修行とは強くなるためにするもの。だが、孔明に関しては、修行とは己の強さを忘れ、捨て、押さえるためのものじゃ。闘いなら孔明は無敵どころか、抑えの利かないパワーの持ち主。だから刺青を入れて、力を弱めさせた。背中の龍の刺青は抑えきれない力を吸い取って、かろうじて人間として生きることを可能にしてくれた」
「人間として生きるのは、そんなにむずかしいことなの?」プリシラが惚れ惚れする美声で話しかけた。
「闇に対して、光の天使が現れて破邪の剣で悪魔を切り裂いて一件落着・・・・・・そんなことは脳天気なファンタジー作家のストーリーの中だけの話じゃ。現実は、あくまで地道に人がなすべきこととできることを考え、試行錯誤しながら学び、育っていくことしかできぬのじゃ。生きるとは、苦しみを己の糧とすることじゃ。苦しみは楽しみをより楽しくし、人に試練を与え、人に出口を考えさせる。だが、最も大切なのは、おそらく苦しみからやさしさを生むことを学ぶことじゃ。」


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