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(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

マーメイド クロニクルズ 第二部 第7章−2 3年目のシーズン(再編集版)

2017-01-26 00:00:17 | 私が作家・芸術家・芸人
 1993年秋から冬にかけて、ナオミは充実したディベート・シーズンを過ごしていた。7月に発表された今シーズンの政策ディベート論題は、「アメリカはNATO加盟国に対する軍事的コミットメントのひとつを破棄すべし」であった。ナオミとパートナーのケイティにとって脂の乗りきった3年生のシーズンは、ここまで最高の結果を納めていた。幕開けとなった9月の北アイオワ大学主催大会で準優勝すると、11月のノースウエスタン大学主催オーエン・クーン記念大会で3位。クリスマス直前に開かれた南カリフォルニア大学主催大会では初優勝と、参加した大会すべてで3位以内という見事な成績であった。
 今回の論題も、さまざまなケースを含んでおり、破棄される軍事的コミットメントの定義には、米陸海空軍のすべての現存するプログラムをリサーチする必要があった。さらに現存するプログラムの破棄だけでなく、これまで存在しなかったプログラムの採択も「軍事的コミットメントのひとつの破棄」であるために、リサーチの範囲は加速度的に広がっていった。この年、ナオミたちは「アメリカ軍は男性兵士だけにしか戦闘行為を認めていないが、これは性差別である。能力ベースで女性兵士にも戦闘行為への参加を認めるべきである」というケースを論じて、連戦連勝だった。
 モデル並の容姿のケイティとキリッとした顔立ちのナオミが早口で議論を展開すると、昨年よりさらに凄みを増した「カンザスの竜巻娘たち」は他大学にため息をつかせた。ただし、ため息をつくのは彼女たちの美貌の虜になった男子学生ばかりだった。肯定側に立ったときには、二つの利益が提示された。第一の「開かれた米軍」では、米軍全体の14%を占める女性は、白人男性と比べて指導的地位への登用が遅れており、女性の戦闘部隊の配属禁止こそ大きな障壁の一つであるという議論が展開された。
 第二の利益「ガラスの天井」は、フェミニストがよく指摘する女性が男性並みに出世しようとすると、彼女たちを押さえつける目に見えない障壁が存在するという比喩である。プランは、性別ではなく能力別の戦闘参加によって、男女差別の象徴的かつ劇的な改善につながるという議論であった。男女には体力的な差があるという一般論は、第二の利益によって簡単に反論できた。
 だが、女性の戦闘参加は部隊の指揮や結束を損なうという否定側の議論はやっかいだった。例えば、世界でもめずらしい女性の徴兵制のあるイスラエルでは、男性兵士が戦場で女性兵士をかばうことで現場の指揮系統の混乱をしばしば招いた。しかし、小さい頃から軍の戦闘に関する話をケネスから聞いていたナオミは、実際に戦闘に参加しなくても女性は通信兵や衛生兵として参加した戦闘でかなりの数の死傷者が出ており、戦闘以外で多くの女性兵死者を出している現状と、プラン採択後の変化を説明することで、肯定側で二人は連戦連勝だった。カリフォルニア大学バークレー校レトリック学部の看板教授でフェミニスト学者ジュディス・バトラーを引用して、社会的性差だけでなく、身体的性差さえもジェンダーをパフォーマンスによって構築されたものであると論じた。彼女たちの、男女が性差を基準としてではなく、能力を基準として同様の戦闘行為に従事するパフォーマンスが社会を大きく変化させると主張したのである。
 しかし、彼女たちも、否定側に立てば負けることもあった。大会で優勝するコツは、予選ラウンドの肯定側で100%の勝率を上げることだった。一見、きびしい条件に思えるが相手側の反論をある程度、予想できる肯定側では予選ラウンドでの負けは許されなかった。逆に、否定側では50%の勝率でよいとコーチから教わった。どこの大学も、肯定側では反論の反論まで、あるいはその先まで用意しているために実力伯仲したチーム同士では、なかなか全勝というわけにはいかなかった。だが予選ラウンドで肯定側では100%、否定側では50%の勝率を上げておけば、トータルで75%の勝率になるために決勝ラウンドに進めるのである。


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