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(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

第一部 第1章−5 父と娘

2019-06-14 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 シンガパウムは、元々が公爵家の跡取りだった。
 高位の巫女だったユーカと結婚した際に、文武に秀でたマーライオンとして親衛隊長に抜擢された。そのためナオミは幼少時、職務にかかりきりの父にかまってもらった記憶がない。
 だが、長じてナオミがたぐいまれな武の才を示すようになると、たまに稽古をつけてくれるようになった。稽古中、娘が父を「父」と呼ぶことはなく、父が娘を「娘」と呼ぶこともなかった。そのため、生まれて初めて親子のコミュニケーションが取れたナオミには稽古が待ち遠しいものになった。
 稽古は、常に波のリズムきらめくアクエリアムで行われた。
 そこに、のぞくものとのぞかれるものを分け隔てるガラスはなかった。展示されていたのは、珊瑚礁のこん棒、潮流によって流れ着いた古今東西の名刀、マーメイド一族に伝わる魔力を持った真珠貝など、人間界と海神界から集められた武具の数々だった。
 親衛隊には、海の怪物クラーケンや狩人オリオン、海主の末っ子トリトン、川の龍神アルペイオスなど、そうそうたる顔ぶれが揃っていた。すべて入れれば、数百にも上るメンバーがいたであろう。
 東門を守る「せき止めるもの」アルペイオスは、韋駄天で人間界の河という河を回り情報を集めていた。そそっかしくドジを踏んではネプチュヌスに苦笑されたが、仕事の熱心さには疑問をはさむ余地がなかった。だが、すさまじいペースで進む汚染にいつも浮かない顔をしていた。
 西門を守る「ひそむもの」クラーケンは巨大な海坊主で、いったん暴れ出せば互角に戦えるのは、海神界広しといえどシンガパウムくらいのもの。怪異な容貌で無口を絵に描いたような宮殿の番人。従う部下もなく巨大な体躯を孤独に海の底に深く沈めている。
 南門を守る「狩るもの」オリオンは、海神界きっての美丈夫であこがれる娘は多かったが自信家過ぎてナオミは好きではなかった。
 北門を守る「助くるもの」王子トリトンの方がずっとステキだった。遠くを見るような瞳でいったい何を考えているのか? いったん剣を振るえば、流れる大河さえも切り裂かれたことを忘れて流れ続ける達人。気品、威厳、高潔。そうした言葉が似合う神だった。
 ナオミは、神々からはかわいがられた。
 だが、父シンガパウムのナオミへの稽古は厳しいという表現が控えめに聞こえるほどだった。海神界に伝わる武術の数々を身体に叩き込もうと、毎日毎夜、激しい訓練が繰り返された。
 シンガパウムが闘気をまとうと、たちまち海水が沸き立ち二メートルほどの身体が十メートルを超える鬼神のように感じられた。ナオミは海中にもかかわらず冷や汗を流すのが常だった。シンガパウムのするどい爪は、ナオミにようしゃなく打ち込こまれ、蹴りはしばらく起きあがれないほどの痛みだった。
殺される。
 そう思った時、いつもどこからか思念が伝わってきた。
(恐れるな! 今のお主は恐怖の虜じゃ。恐れがお主を支配しているようでは勝機などない。鬼神が恐ろしいなら自ら鬼神となることじゃ。さすれば、鬼神を恐れる必要はなくなる)
 気がつけば、思念は目の前の鬼神から発せられていた。
 心の中で返事をすると、ナオミは虹色に輝くパールの鎧を身にまとった姿をイメージした。内側から闘志が湧いてきてシンガパウムに飛びかかっていった。
 ある時、シンガパウムがめずらしく講釈を垂れた。

   

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