新旧の書籍および映画の批評,作品解説.
Augustrait





[提供:新潮社]
 自然との接触を見うしなった現代世界にあって,スタインベックの提出する人間と自然の端的な結びつきは,その単純さゆえにいっそう神秘的に感じられる.うっとうしい農場生活をおくる人妻の,いっときの感情の昂揚と,その手痛い挫折を描いた名作『菊』をはじめとして,著者の郷里カリフォルニア州サリナス渓谷を舞台に,野生の男女のさまざまな人間模様を追求する13編――.

 カリフォルニア州サリナス渓谷に生きる人々の純朴さを描く短篇集.ジョン・スタインベック(John Steinbeck)は,1919年に入学したスタンフォード大学で海洋生物学を専攻した.しかし,入学翌年にはすでに授業を全休し,牧場や道路工事,砂糖工場などで様々な労働を経験している.

 村で尊敬を集める農夫ランドールが変貌したのは,亡き妻に強制されていた肩当てを脱ぎ去ってからのことだった(「肩当て」).天の牧場に住む怠惰な男モルトビーは,荒れ放題の農場を放置して,息子と自由な生活を送った.だが,町の教育委員から衣服を寄付されたモルトビーの心境は変化する(「怠惰」).夜明け間もないキャンプで朝餉(あさげ)を愉しむ男たちの一期一会(「朝めし」).全13篇.

 「成長しようとしてうずく筋肉,単なる必要を乗り越えて何かを作り出そうとうずく精神」という人間観を身に付けたスタインベックは,独自の文学的関心を培う.そこでは,労働問題や貧富の格差といった社会矛盾,生物学者エドワード・F・リケッツ(Edward F. Ricketts)との親交で生れた生物学的生命観の2要素が大きい.素朴な現地人の喜怒哀楽や深層心理が,短篇に生き生きと描き出されている.それはまた,長篇『怒りの葡萄』『エデンの東』にも通じる人間観や認識となって流れている.

コルテスの海 (プラネタリー・クラシクス)
ジョン スタインベック
工作舎

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Title: -
Author: John Steinbeck

ISBN: 4102101039
  • 『スタインベック短編集』大久保康雄 訳
    --新潮社,1954, 改版, 222p, 16cm
    (C) lapse




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