新旧の書籍および映画の批評,作品解説.
Augustrait





[提供:新潮社]
 『白い人』は,醜悪な主人公とパリサイ的な神学生との対立を,第二次大戦中のドイツ占領下リヨンでのナチ拷問の場に追いつめ,人間実存の根源に神を求める意志の必然性を見いだそうとした芥川賞受賞作.『黄色い人』は,友人の許婚者をなんらの良心の呵責も感じずに犯す日本青年と,神父を官憲に売った破戒の白人僧を描いて,汎神論的風土における神の意味を追求する初期作品――.

 キリスト教文学は,信仰の主題をもって,民衆に宗教的慰撫を与えることが求められる文学である.佐藤朔の指導でカトリック文学に傾倒した遠藤周作は,「白い人」で純潔主義の母,獣姦に耽る女中に挟まれる醜悪な主人公を置き,ニヒリズムと劣等感をともに成立させた.彼に対峙するパリサイ的な神学生という図式は,リヨンでカトリック文学研究に従事した3年間で精読したであろう,フランソワ・モーリアック(François Mauriac),ジョルジュ・ベルナノス(Georges Bernanos)のほか,戦後のフランス文学の類型に陥っていると芥川賞選考会では指摘されている.

 これについて選考委員の石川達三は, 授賞第一候補に遠藤周作をあげ,「私はこの作品を信用してもいいと思う」「古臭い類型ならともかく,新しい類型ならば外国にその例があっても無くとも,委員会はあまり気にしなくともいい」と評している.ペシミスティックな道徳劇は,良心を圧倒するサディズム志向という直視し難い人間観の提示.「黄色い人」では,空襲におののく不条理な日々の中,婚約者のいる従姉妹を犯す日本人青年,破戒僧となり破門となった白人神父を登場させている.カトリックの洗礼を受けた信者である日本人と西洋人.その所業は謹厳の対極にある非人道的で醜悪そのものであり,善・悪・罪・救済・懺悔と贖罪を根源まで追求していく汎神論の影響が強い作品である.

 キリスト教の日本的信仰と西洋的信仰の交唱を,両作品は旋回的に打ち出すものである.どちらか一方をもって,カトリック文学としての初期遠藤作品を語ることはできない.日本人独特の崇拝物,その対象観を「治す」ことに失敗したと自己批判する西洋の神父,帰国後に切支丹として処刑される武士の悲劇.その信仰に殉ずることの神髄は『侍』に,「愛の原像としての『母なる神』」が日本人の精神に根ざす主題の思索は晩年の『深い河』に――遠藤のライフワークとなるカトリック文学は,本書に編まれた二作から,徐々に巨大な方向性(宗教的主題と慰撫)を形成していったといえよう.

沈黙 (新潮文庫)
遠藤 周作
新潮社

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原題: 白い人・黄色い人
著者: 遠藤周作

ISBN: 9784101123011
  • 『白い人・黄色い人』遠藤周作
    --新潮社,1960.3, 改版, 161p, 15cm
    (C) 1960 遠藤周作




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