新旧の書籍および映画の批評,作品解説.
Augustrait





[提供:ザジフィルムズ]
 18世紀のイギリスで流行した家族の団らんを描いた肖像画.ローマの広大な邸宅でコレクションであるその「家族の肖像画」に囲まれ一人で暮らす孤独な老教授.ある日,裕福な実業家の妻ビアンカが愛人のコンラッドのために,彼の邸宅の2階の部屋を強引に借りてしまう.その日から,静かな教授の生活は崩れていく.孤独だった教授に,新しい家族が加わったのだ.しかし,教授は若いコンラッドを理解できず,それはやがて葛藤へと変わっていく….

 前作「ルートヴィヒ」(1972)完成間際,血栓症に倒れたルキノ・ヴィスコンティ(Luchino Visconti)は,左半身マヒの過酷なリハビリに耐え,車椅子を押して本作のメガホンを取っている.回復後の運動能力を考慮し,彼は美術のマリオ・ガルブリア(Mario Garbuglia)とともに,蝋燭の炎に照らされる数千冊の蔵書,飾られた象徴主義絵画や骨董品に埋もれた高級アパルトマンの教養空間を造り上げた.息をひそめ隠遁生活を送る老教授の室内に置かれているのは,18世紀イギリスで流行したカンヴァーセーション・ピース(家族団欒図).その静寂を,不穏な雰囲気をまとった者たちが乱しにかかる.

 ファシズムを支持する右翼の過激派と通じた夫をもつ伯爵夫人ビアンカとその娘リエッタ,学問を投げ出し過激な左翼思想に傾倒する青年コンラッド.名前も明かされない教授――知識人ヴィスコンティの精神的象徴――とは,本来相容れない人間たちである.自意識と美意識を研ぎ澄ませた教授は当惑する.ところが,放埓無比に思えたコンラッドと対話を重ねるうちに,彼の内面には思いのほか豊かな教養が隠れていることに気づくのだ.ヴォルフガング・A・モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart)のアリアK.418《あなたに明かしたい,おお神よ》レコードに耳をそばだてたコンラッドは,バーンスタイン盤ではなく「ベーム盤が好きだ」という.さらに,アーサー・デービス(Arthur Bowen Davies)の肖像画を瞬時に見抜き,独自解釈を披露してみせる.

 まさか,美術史に造詣深い貴族階級の自分が,共産主義に傾く青二才と価値観を通じ合うとは――教授の驚嘆はやがて悦びとなり,恐れに変わる.コンラッドは若く,美しい.それだけの知性を秘めながら,ファシストの実業家夫人の愛人となって自虐的に時間と肉体を持てあましているかと思えば,同世代の若者たちと乱交を愉しむ堕落生活に浸っている.彼らの我慢ならない乱痴気騒ぎに愕然としながら,教授は自分の凝り固まっていたはずの美意識やモラルというものが,自分で信じていたほどに強固なものではなかったことに気づかされるのだ.あたかも教養の上に積もっていた埃が舞い上がるように,彼は不可解な混乱に呑みこまれる.

 教授の心理的変遷を魅せるバート・ランカスター(Burt Lancaster)は見事.ヘルムート・バーガー(Helmut Berger)による退廃的な青年コンラッドは,ナイーブで危うい美しさで挑戦的というほかはない.貴族階級の連帯をもち出さずとも,老い先短い一教授の動揺を綿密に描き出すことで,デカダンな美意識の意外な脆さをヴィスコンティは巧みに主張している.しかし,その崩壊の兆しと進行,そしてコンラッドの悲運を知って「本当の家族になりたかった」とつぶやく教授の寂寥の境地は,また別の美しさを感じさせ唸らせるものだ.晩年のヴィスコンティ作品の代表となる雄篇といってよいだろう.


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原題: GRUPPO DI FAMIGLIA IN UN INTERNO
監督: ルキノ・ヴィスコンティ

製作:ジョヴァンニ・ベルトルッチ
原案:エンリコ・メディオーリ
脚本:スーゾ・チェッキ・ダミーコ エンリコ・メディオーリ
撮影:パスクァリーノ・デ・サンティス
美術:マリオ・ガルブリア
編集:ルッジェロ・マストロヤンニ
音楽:フランコ・マンニーノ
出演:バート・ランカスター ヘルムート・バーガー ドミニク・サンダ クラウディア・カルディナーレ シルヴァーナ・マンガーノ
  • 121分/イタリア=フランス/1974年
    (C) 1974 Rusconi Film,Gaumont International




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