新旧の書籍および映画の批評,作品解説.
Augustrait





[提供:中央公論新社]
 多くの宗教で,性欲・金銭欲などの自らの欲求を断ち切り,克服することが求められる.キリスト教も同様だが,それではヨーロッパにおける「禁欲の思想」はいつ生まれ,どのように変化していったのか.身体を鍛練する古代ギリシアから,法に縛られたローマ時代を経て,キリスト教の広がりとともに修道制が生まれ,修道院が誕生するまで.千年に及ぶヨーロッパ古代の思想史を「禁欲」という視点から照らし出す意欲作――.

 古代ギリシアでは,都市国家ポリスに応じて知恵,勇気,節制,正義の「四元徳」を成立させ,これに信仰,希望,愛が加えられて,カトリックの「七元徳」が一応完成をみた.一定の戒律に基づき清貧,貞潔,服従の誓願を立てて禁欲的な信仰生活を送る修道士の禁欲生活は,4世紀頃ローマ帝国による迫害の終焉に伴い「より徹底したキリスト教徒の生活を求めた人々によって盛んになった」という.

 本書は,西洋における禁欲思想の展開を心性史として再構成したもの.論の範疇は,ローマ帝国においてキリスト教が公認される4世紀から,アイルランドで独自の発展をみたケルト系修道制が聖コルンバヌス(Columbanus)により,ヨーロッパ大陸にもたらされる直前までである.古代ギリシア・ローマの身体/欲望統御法と,キリスト教の終末論的禁欲が結合して,禁欲的な修道実践に邁進するバシリカ型修道院が誕生する.

 そこでは,聖人を祀る墓廟が建てられ,聖人を崇拝する者たちが宗教心性にもとづく修道実践を行ったが,ローマ帝国の国教となった時期には,貴族層が司教職をこぞって求め,弛緩と混乱を招いた.聖コルンバヌスは,ケルト的伝統を汲む過酷な戒律からなるアイルランド修道制をもって――緩和化させた形ではあるが――弛緩した西洋修道制の本格的な改革に着手するのである.その前史となる著作であるが,様々な挿話の入れ方がぎこちなく,興をそがれる.

ヨーロッパ聖地巡礼: その歴史と代表的な13の巡礼地
イアン ブラッドリー
創元社

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原題: 禁欲のヨーロッパ―修道院の起源
著者: 佐藤彰一

ISBN: 9784121022530
  • 『禁欲のヨーロッパ』佐藤彰一
    --中央公論新社,2014.2, , 282p, 18cm
    (C) 2014 佐藤彰一




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