新旧の書籍および映画の批評,作品解説.
Augustrait





[提供:岩波書店]
 近年,米国で急拡大する監獄の民営化とその歴史的背景とは何か.劣悪な囚人労働の実態,建設業やハイテク監視機器企業など各種産業と監獄の利益共同体の形成,輸出される経営モデルまで,矯正とビジネスが結びつく構造を分析する.監獄ビジネスにおいて人種差別や性差別,貧困はいかに強化されているか.対案はどこにあるか――.

 10代から母親と共に公民権運動に参加し,パリ,ドイツに留学後1968年に米国共産党に入党したアンジェラ・デイヴィス(Angela Yvonne Davis)は,UCLA哲学科助教授となるが,共産党員であることを理由に一方的に解任される.アフリカ系解放運動に身を投じたデイヴィスは1970年に黒人運動団体ソルダット・ブラザース事件で逮捕,投獄されたが,国際的救援運動によって1972年に無罪判決を勝ち取っている.アイゼンハワー政権時代に用いられ始めた「軍産複合体」概念になぞらえ,デイヴィスは「産獄複合体」という概念を造りだした.
‘新しい監獄が建つたびにさらにまた新しい監獄が必要となった.合衆国の監獄制度が拡張するのにともなって,企業の監獄建設への参加,商品やサービスの提供,囚人労働の利用が拡大した.軍産複合体の台頭を思い起こさせるほどの規模で,監獄建設とその運営が,建設業から食品,保険医療設備にいたる巨額の資本をひきつけるようになった.そのため,われわれはこれを「産獄複合体」と呼ぶようになった’*1
 この言葉は,犯罪率の上昇が監獄人口増大の根本的原因だとする通俗的な考え方に,異議を唱える活動家や研究者が使い始めた.合衆国内の収監者激増と厳罰主義,監獄ビジネスへの巨額な資本流入は,1971年にニクソン政権が提唱した「麻薬との戦争」の全面展開後に現実化しており,1980年代以降に顕著である.軍需生産が一時的に減少した1990年代初頭,軍需ビジネスと監獄ビジネスの結びつきが認識されるようになったという.1960年代には囚人の数は30万人台だったが,2007年には230万人台へと10倍近くに増大している.犯罪発生件数は,逆に減少傾向を示しているにもかかわらず,投獄者数が爆発的に増大しているのは,厳罰化の流れの中で「スリーストライク制」(三度検挙されれば,犯罪の重さに無関係に厳罰が課せられる)の規定が多くの州で採用されたことが大きい.
‘懲罰産業はもはや,経済構造の周縁的存在ではない.建築資材から電子装置,衛生用品にいたるあらゆる種類の商品や,給食から治療,予防医療までのさまざまなサービスを提供する株式会社が,いまやこの監獄ビジネスに直接かかわっている.言い換えれば,政府の懲罰業務とはほとんど関係ないと思われている株式会社が,監獄制度の恒久化に強い利害関係をもつようになったのである.そのために,監獄制度の時代錯誤性はますます認識しにくくなっている.株式会社と懲罰制度の結びつきがより広くより強固になったのは,1980年代のことだった.とは言え,合衆国の監獄制度史を通じて,囚人は常に利潤の潜在的源泉だったのことも忘れてはならない.例えば,囚人は,医療研究の価値ある被験者にされ,監獄は,大学と株式会社を結ぶ主要な結び目になっていた’*2
 単純な窃盗で無期刑,禁固25年という例も多々ある.さらには,2001年9.11以来,中東系移民の人種差別的大量逮捕.移民帰化局拘留センターで不法移民の無制限拘留も収容人口の多さに貢献している.本書は,監獄建設とその運営に民間セクターが介入,建設業から食品,保険医療設備にいたる巨額の資本を動かす経営モデル,矯正とビジネスが結びつく構造がイデオロギー化されていることを問題視する.民営監獄会社は,連邦および州の収監者合計9万1,800人を抱える施設を所有し,運営を任されている.一番多くの民営監獄収監者を管理しているのは,テキサス州とオクラホマ州.民営監獄収監人口の全収監者に占める比率で言えば,ニューメキシコ州が44%で最も高く,モンタナ州,アラスカ州,ワイオミング州で25%を超えているという.公・民経営の監獄34か所をもつテキサスの場合,年間8,000万ドルの収入をもたらしている.
‘懲罰が株式会社の利潤の源泉となることを許さない制度が想定出来るとすれば,それはどんなものなのだろうか?人種や階級が懲罰の第一の決定要因とならない社会というのはいったいどんなものなのか?あるいは,正義実現の中心的手段が懲罰でないような社会とはどんなものなのか?
 このような疑問に対して答えねばならないわれわれ廃止主義者は,われわれの社会そのものおよびイデオロギーから監獄をなくしてしまう最終目標に向かう戦略や諸制度を頭に思い浮かべねばなるまい’*3
 このような産獄複合体に対抗する監獄運動の闘いのディスクールは,どこに求められるのか.本書の提案は監獄内の待遇改善ではなく,明確に監獄廃止である.囚人らの闘争的な抗議運動は,監獄というものは犯罪者を罰する場ではなく,更正の場であるべきとしたトーマス・オズボーン(Thomas Osborn)の獄制改革運動を背景に,処遇改善を意図する運動とは,そこが異なっている.デイヴィスは「学校の非軍事化」「すべてのレベルでの教育の再活性化」「精神病を含めた無料医療の全対象者への提供」「懲罰や復讐ではなく補償と和解基づく裁判制度」などを“監獄なき社会”の構想案としているが,監獄の変革と解体をめざす運動の理論的根拠としては弱小.彼女の改革意識は常に,監獄の永続性を支えてきた「社会的諸関係」にある.これは疑似社会学的言説に近い.

貧困という監獄―グローバル化と刑罰国家の到来
ロイック ヴァカン
新曜社

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Title: ARE PRISONS OBSOLETE?
Author: Angela Yvonne Davis

ISBN: 9784000224871
  • 『監獄ビジネス―グローバリズムと産獄複合体』アンジェラ・デイヴィス ; 上杉忍 訳
    --岩波書店,2008.9, , 157p, 20cm
    (C) 2003 Angela Yvonne Davis

    *1 本書
    *2 本書
    *3 本書




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