Augustrait






 満州の針葉樹林(タイガ)には、シカやヒグマ、テンが生息している。寒冷に強いこの地域の獣王が、シベリアトラである。彼らはベンガルトラやスマトラトラに比べても、全長370センチ、体重300キロに及ぶほどの威風を備える最大亜種である。

 額に「王」、首筋に「大」の字を紋様されたタイガの王者。生まれながらにその座につくことを宿命づけられていた。大森林を蹂躙する王の生涯を克明に描く本書は、想像力だけでは到達できない気迫に満ちた生態活写がなされている。
‘人間に敵意を持って現れる自然の力のなかでも、特に残忍で、恐ろしい二,三の肉食獣のうしろに、神の威光がある――と、無知な古代人は考えた’*1

 ロシア帝政時代、ニコライ・A・バイコフ(Nikolai Apollonovich Baikov)は、ペテルブルグ学士院の命で万週の自然の生態の研究に従事した。ロシア革命後、満州そしてオーストラリアと亡命するが、悠然たる自然の住人たちを数多く小説に遺した。森に君臨する王を頂点とするヒエラルキーと生死の闘争を、硬質な手触りの文体が余すところなく描いている。

バイコフの森―北満洲の密林物語  黄金の虎リーグマ  虎の瞳がきらめく夜

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Title: VELIKII WAN
Author: Nikolai Apollonovich Baikov
▽『偉大なる王』ニコライ・A・バイコフ ; 今村竜夫訳
-- 中央公論社, 1989
(C) Nikolai Apollonovich Baikov

*1 本書、pp.78-79