新旧の書籍および映画の批評,作品解説.
Augustrait





[提供:ポニーキャニオン,松竹]
 感謝祭の日,ケラーの娘アナとその親友の少女が,住宅街で姿を消してしまう.まもなく付近に停まっていた怪しいキャンピングカーを警察が発見し,運転していた青年アレックスを拘束.刑事ロキが事件を担当するが,何の証拠もなく釈放せざるを得ない.ケラーは娘を取り戻したい一心で,釈放されたアレックスを誘拐して,自らの手で口を割らせようとする.一方,ロキは他にも不審な人物を見つけて追うが,時間は刻々と過ぎていく….

 特定の原作によらず,オリジナル脚本による本作は,"ステージド・フォトグラフィ"の代表的写真家グレゴリー・クリュードソン(Gregory Crewdson)の作品からインスパイアされて製作されたという.クリュードソンは,画面の中にフィクショナルで不穏な世界を構築する演出を用いて,日常に潜む悲しみや狂気を描き出す.無為にたたずむ人物を閉鎖的な構図におさめた写真は,囚われ人のイメージを喚起させるものだ.感謝祭で神に捧げるための鹿を撃ち,祈祷文を唱える平凡で敬虔な清教徒一家の幼い娘が,感謝祭その日に失踪する.

 児童誘拐の事件性が疑われ,被疑者の青年がただちに浮上するが,証拠不十分で釈放される.最愛の娘を帰還させるため,父は青年を実行犯と睨み,彼を尋問し監禁のうえ壮絶な拷問を加える.真犯人の存在と素性が明らかになる過程で,怪しげな場所には迷路が描かれ,知恵と悪魔の象徴である蛇が現れる.明らかに一教徒の信仰を試す「試練」を基本プロットとするが,事件担当の冷静な若い刑事ロキが登場人物として出色.北欧神話の神の名をとり,干支に詳しく,首には全方位を見つめる「法と正義」の意味をもつ八芒星(オクタグラム)の刺青を刻んでいる.

 明らかに,ロキは異教徒で神(被害者)と悪魔(加害者)の代理戦争を調停する役目を担っている.神の側と悪魔の側の人間は,それぞれ罪人としての科(とが)をもつが,異教徒ロキは,自身の行為の判断基準に確たる信仰をもたない.信仰によらず行為する人間も,不信心という罪をもつとみなされるなら,すべての人間は何らかの罪過を必ずもっている.失踪した娘の父ケラーが,ロザリオを手に何度も贖罪を神に求めるのに対し,ロキの手に嵌められた指輪がしつこく登場してくる.それはフリーメイソンの指輪で,かつリアリストなロキの立場はイルミナティに近い.

 本作では,ロキは担当刑事として被害者(神)に肩入れし救済するスタンスをとる.しかし,イルミナティ創設者アダム・ヴァイスハオプト(Adam Weishaupt)の著書『新世界秩序』によれば,フリーメイソンリーの奥の院であるイルミナティは,あらゆる政府と宗教を破壊した後,イルミナティの統括する世界単一政府の樹立を目指す.キリスト教の信仰にもとづく断罪,そのあらゆる言説を俯瞰し併呑する異邦人がもっとも危険なはずだが,無害な正義漢のように描かれているのである.

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ギャガ

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原題: PRISONERS
監督: ドゥニ・ヴィルヌーヴ

製作: ブロデリック・ジョンソン キーラ・デイヴィス アンドリュー・A・コソーヴ アダム・コルブレナー
製作総指揮: エドワード・L・マクドネル ジョン・H・スターク ロビン・マイジンガー マーク・ウォールバーグ スティーヴン・レヴィンソン
脚本: アーロン・グジコウスキ
撮影: ロジャー・A・ディーキンス
プロダクションデザイン: パトリス・ヴァーメット
衣装デザイン: レネー・エイプリル
編集: ジョエル・コックス ゲイリー・D・ローチ
音楽: ヨハン・ヨハンソン
音楽監修: デヴァ・アンダーソン
出演: ヒュー・ジャックマン ジェイク・ギレンホール ヴィオラ・デイヴィス マリア・ベロ テレンス・ハワード メリッサ・レオ
  • 153分/アメリカ/2013年
    (C) 2013 Alcon Entertainment




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