新旧の書籍および映画の批評,作品解説.
Augustrait





[提供:岩波書店]
 不条理な悲劇を生き,神と対決するヨブ.イスラエルの知恵の集大成・箴言.神と人間と世界の意味を問う二つの文書は,苦難の時代に際しての,伝統的な思想・文学への問いかけを宿している.背後にひそむ民族の現実的・思想的危機の様相は,遠くその射程を現代にまで及ぼす.新鮮かつ挑戦的な新訳――.

 古代オリエントにおいては,格言や教訓詩,寓話,論争などの形式で神的宇宙的秩序への信仰を主題とする「知恵文学」が形成された.旧約では「箴言」「ヨブ記」「伝道の書」「ベン・シラの知恵」(外典)「ソロモンの知恵」(外典)などであり,バビロン捕囚後の前4世紀から前1世紀の末頃にかけて記録されている.死海の南に居を構え,名声・冨・家族すべてに恵まれていたヨブは信仰心あつく,神から特別に祝福される義人.天上世界の神と悪魔の"実験"により,ヨブには謂れのない災厄が次々に降りかかる.家畜財産をすべて失い,子らも全員死んだ.悪性の皮膚病でヨブ自身の健康も奪われ,駆けつけた友人たちは,彼のあまりの悲惨さにかけるべき言葉もない.ヨブは自分の生まれた日を呪う.「私の生まれた日は消えうせよ」.

 友人たちは全能者の試練を軽んじることなく神を求めよと説教する.それに憤激したヨブに見切りをつけ,友人たちは引き上げていくが,揺れ動いたヨブの信仰は最終的に神への信頼に落ち着いた.一転,神の啓示が下され,ヨブに大きな恩寵が与えられた.病は癒え,財産は元の2倍になり,再び健やかな子どもに恵まれ,その後ヨブは140年生き,4代の子孫に囲まれて平穏に暮らした.詩的構想力をもった無名の詩人によるこの物語は,旧約聖書の歴史物語と同じヘブライ語で書かれ,散文で語られている.ヨブの人生は,後に“単一神話論”と呼ばれるHeroes and the Monomyth(英雄と輪廻)の類型――英雄神話の「出立→イニシエーション→帰還」の構造――であり,あらゆる物語の「母型」を示すもの.本来,何の落ち度もない義人の「苦難」を主題とするプロットは,あらゆる人々の生涯に生じる「不条理」への対処法,それは神による行為の応報原理への懐疑なき信頼を結論づけている.

 自分を説得しようとする友人の弁証に対し,ヨブが得たのは苦痛から発する「問い」を超越してからの「信仰」.世界を統治するのは全能たる神であるから,その知恵と賢さを畏怖するために箴言序詞では「ヤハウェへの畏れは,知識のはじまり」(箴-七)と宣言される.そのイニシエーションの意味をヨブが深く感得しなければ,神の啓示と恩寵による聖化は訪れない(ことになる).それを知らしめる点では,「箴言」もなんら変わりない.こちらの表題には「イスラエルの王ソロモンの箴言」とある.神を恐れる以上の知恵はないという伝統的信仰に立脚しながら――おそらくはバビロン捕囚後の内憂外患をおさめる規範を作るため――,実際的処世訓を説く古代イスラエルの教訓や格言がさまざまに編集・集成されたものである.

旧約聖書各巻概説 (1954年) (基督教教程叢書〈第5集〉)
渡辺 善太
日本基督教団出版部

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Title: Iyob; Book of Job , Mishle; Proverbs
Author: -

ISBN: 4000261622
  • 『ヨブ記 箴言』旧約聖書翻訳委員会 訳
    --岩波書店,2004.3, , 387, 11p, 22cm
    (C) lapse




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