Augustrait





[提供:キネマ旬報社]
 1930年,9月.エリオット・ネスが,財務省から,ここシカゴに特別調査官として派遣されてきた.禁酒法下のシカゴでは密造酒ともぐり酒場は実に10億ドル市場といわれ,ギャングたちの縄張り争いは次第にエスカレートし,マシンガンや手榴弾が市民の生活を脅やかしていた.中でもアル・カポネのやり方はすさまじく,シカゴのボスとして君臨していた….

 世紀の悪法「禁酒法」は,第一次大戦後の穀物相場を下げるため,またアメリカ建国を自負する"潔癖主義者"ピューリタニストが,アイルランド系やイタリア系移民の酒癖の悪さに苛立って議会に訴えたことで成立した.アルコールの禁止には,国内のビール醸造に関与するドイツ市場に経済的打撃を加える意図もあったが,法施行以前の酒は取締り対象から外れ,当然混乱を招いた.アングラ経済の温床となったスピークイージー(ヤミ酒場)が乱立し,ニューヨークだけで10万軒以上あったと推計されている.ウイスキー製造のケンタッキー,ビール醸造のミルウォーキーを結ぶ大都市シカゴを拠点に,暗黒街の犯罪組織を拡大させていったアル・カポネ(Al Capone)は,その買収工作でも勢力を伸ばした.

 買収に屈しなかった酒類取締局捜査官エリオット・ネス(Eliot Ness)の特別捜査チームを,メディアは"アンタッチャブル"と持ち上げた.カポネ逮捕後,政治的野心を露わにしたネスは逆に足元をすくわれ,禁酒法廃止後にはアルコールに溺れ,不遇の晩年を送っている.本作は,彼の自伝にもとづく映画ということではあるが,ネスの叙述には信頼性の面で疑わしい点が多い.それでも本作が名作と名高いのは,ブライアン・デ・パルマ(Brian De Palma)の技巧が随所に光る演出によるところが大きいのだろう.「ボディ・ダブル」(1984)の成功後,サスペンス・スリラーに飽きを感じたデ・パルマは,国民から喝采で迎えられるヒロイズムを扱うことに興味を抱き,本作製作のメガホンをとる.

 シカゴ・ユニオン・ステーションでの銃撃戦は,ソビエトの古典映画「戦艦ポチョムキン」(1925)モンタージュ技法のオマージュだが,単にエピゴーネン(模倣)とはいえない完成度を誇る.いわゆるデ・パルマ節ともいえる長回しも,老警察官の殉職を描く痛々しい匍匐(ほふく)でしっかり存在感がある.しかし,本作で何より凄いのは,今も時代を感じさせないスタイリッシュで清潔感ある衣装(アルマーニ)である.しばしば,ジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)はファッションデザイナーでなければ映画監督になりたかった,と語っている.

 ネス役のケビン・コスナー(Kevin Costner)のチャコールグレーのスーツと赤ワイン色のネクタイにV字型ベスト.カポネに雇われた暗殺者は眩しいほどのホワイトスーツに身を包み,ストライプのシャツと黒いラインのパナマハットの調和が美しすぎる.禁酒法時代,乱立したヤミ酒場の多くは犯罪カルテルとつながり,イタリア系マフィアの肥しとなった.移民抑圧策としての禁酒法は,結果的にマフィアを育て莫大な利益をもたらす結果になってしまったわけだが,血なまぐさい世界に身を置く男たちの勝負衣装が,場面をきりりと引締め,隙を感じさせない.潔癖を自任していながら,インモラルを招くザル法を求めたピューリタニストの薄汚さを,嘲笑うほどの清潔感である.

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原題: THE UNTOUCHABLES
監督: ブライアン・デ・パルマ

製作: アート・リンソン
原作: オスカー・フレイリー
脚本: デヴィッド・マメット
撮影: スティーヴン・H・ブラム
編集: ジェリー・グリーンバーグ
音楽: エンニオ・モリコーネ
出演: ケヴィン・コスナー ショーン・コネリー アンディ・ガルシア チャールズ・マーティン・スミス ロバート・デ・ニーロ
  • 120分/アメリカ/1987年
    (C) 1987 Paramount Pictures