半農半X?土のある農的生活を求めて

「生きることは生活すること」をモットーに都会から田舎へ移り住み、農村の魅力を満喫しながら、日々、人生を楽しく耕しています

本:農業で成功するひと うまくいかない人

2017年06月01日 | 素敵な本
何かで見たか記憶にないのですが、「農業で成功するひと うまくいかない人」という本が面白そうだったので、図書館で予約しておいたら、その本が届きました。

著者の澤浦さんという方は、私も聞いたことがある名前で、家業を企業にし、やさいくらぶ、グリーンリーフという会社を次々と立ち上げ、新規就農者支援や独立支援の仕組みをつくり、自身だけでなく同志を成功に導いてきた人です。

私もいろいろな農業系の本を読んできましたが、この本は「お~、これは現場の人だからこそ書ける良い本だな~」と感心しました。

農業系の本というと、「本が売れる」ということが必要なためか、「農業で稼ぐ」みたいな感じの本や「田舎で殺されないために」といった本など、まあ、いろいろな本があります。

で、たいていの本は、熱い理想を書いている本、あるいは農業を経営の視点から見なければいけないといったそれらしきことが書いている本、あるいは、農業関係のライターさんが書いている色々煽る取材ものが多いのです。

どれも面白い角度で農業にフォーカスしているので、読んでいて面白いけど、記録や記憶に残るのは少ないと思うのです。

ただ、今回の本は「お~、その通りだな~」と私のような立場のものでも納得できるものです。


今回の本は具体的な事例が多いです。
書いてあるのですが、そもそも農業を生業としてやっていこう、という覚悟、決意がある子は、畑が好きで朝から晩までいることを厭わないし、きちっと研修も受けるし、とにかく作ることに熱心と書いてあります。

当たり前のことだけど、その通りだな~と思います。

畑が好きで、ある程度勉強し、ある程度資金を貯めて、その上で研修を受け、素直に教えを学び、地元に溶け込み、プランも立てて就農していく。
当たり前と言えば当たり前なのですが、そういった子が「成功する」といいます。

逆に、うまくいかない子は、農業の道に入っても3カ月や3年で「やはり自分には合わなかった」といって辞めていくそうです。
そういった子は、他の会社や業種でも同様に「自分には合わなかった」といって辞めていって農業に来た子が多いといいます。


これは成田近辺でも同じだろうな、と思います。

最近、「人・農地プラン」という制度が導入され、ここ数年で新規就農した若手農家は、年間150万の資金をもらえます。
一定の所得になるまで、これが5年、最長7年続きます。

私の知っている若い子も2人、この現金をもらっているのですが、話を聞いていると「ちょっと前の子に比べて、本腰が入っていないな~」と感じるのです。

この「人・農地プラン」は、農家が激減するのを歯止めするために出した思い切った政策です。

ただ、今までの全て自己資金で「独立していこう」と気概がある若者と違って、「150万ありき」で入って来るので、言葉を変えていえば「農業を生業にしていく覚悟」があまり感じられないのです。

今回の本でも触れていますが、成功する子は、農業が設備投資産業ということがわかっていて、投資をして機械を揃えていくことで作業効率、経営効率が上がっていくことがわかっているから、この150万を生活費に充てることは無く、投資に当てていくことが出来るといいます。

そりゃそうだな、と思います。

「150万はあくまで助成金で、それは生活費のためではなく立ち上げスピードを上げるためのもの。だから、事業を採算に早く乗せて助成金のお世話にならない状態までもっていこう」と最初から思っている子は、いわゆるマインドからして成功するマインドの持ち主ですものね。

でも、そういったマインドが無い状態で新規就農したら、実際に現金150万ありきで就農し、150万を毎年渡されたら、最初はどうしても生活費に充てるだろうし、その分、立ち上げの1年、2年の気合が甘くなるのは当然かもしれません。
もし、私もそういった形で就農したら、最初の事業計画は甘くなっていたでしょう。

その時点で、「貯金が無くなる前の事業を採算に乗せる」という覚悟をもってこの助成金が無い前に就農した子と、この助成金が前提の子ではどうしても違ってきていると思います。

私も個人事業主ですが、事業の最初は「貯金が無くなる前にいかに事業を採算ベースに載せるか」ということ最大のポイントです。
ここに全てを集中するわけです。
会社員で新規事業を立ち上げる時と全く次元が違う気合が入るのは、自分や家族の生活がかかっているからです。

だから、どういった助成金が使えそうなのかは勉強すればわかるのですが、あくまで他者からの資金目当てで事業をやっても、上手くいかなかったらその助成金を使った分の投資をどう処理するのか、という疑問も生まれますし、一番の問題は他者を頼ろうとするマインドが生まれてしまうということに気づいて、事業主マインドがある人は、たいてい事業立ち上げから助成金を活用するのはしないと思うのです。

もちろん、ある程度の投資、人材募集の段階になったら積極的に使うのは問題ないと思います。


また、私の知っている新規就農者の多くが、世の中の情報の影響もあるのですが、レストランやマルシェ販売にあこがれたり、自然栽培にあこがれたりして、「きちんとした野菜をある一定量作る」という志向があまりないのです。

それも私も最初はそうでしたから気持ちはわかります。
でも現実、農業をやるなら「農産物は経済作物」として考えなければいけません。
私はそれが自分に向かないから「農家」にはならなかったのですが、「農家」になるなら、「経済作物」として農産物を作り売らないと収入が入ってきません。

この本に書いてある通り、成功する子は「まずは技術を学ぶ」ために研修に入るわけですが、その「目的」は「自分の描く採算ラインに載せられるような技術体系を身につける」ということにあるわけです。

ところが、今は「自分のやりたいことをやる菜園」と「収入をたてるための事業」とがごっちゃになっている子が多い気がします。
あるいは、「農業は職人の世界で、技術が必要」という当たり前のことに気づかず、自然栽培にこったり、営業に時間を割く子も多いです。

この本にも書いてありますが「農業生産と営業を一緒にやるのは、上手くいかない」と事例で書いてあります。
これは一般の会社にも当てはまります。
営業、店舗、接客など現場で動き回る人が、商品開発やシステム構築などを同時にやるのは至難の業です。

農業は特に職人の世界で、自分の畑の癖、そして自分の技術体系を確立しなければ、1年を通して採算にのせられる野菜を作れません。
何はともあれ「まずは、求められる野菜をきちんと作っていける力=技術」を一刻も早く身につけなくてはいけない、という思いが当然必要なのです。

これは、新入社員が3年はまずはその業界の特徴、仕事の本質をわかるために自分のエゴは捨てて、徹底的に業界や仕事に染まることで、3年後から仕事が楽しくなってくる、というのと同じですよね。

そういったちょっと前には当たり前だった「石の上にも3年」というマインドが、今は新規就農者に限らず新入社員にも少ないのでしょうね。


農業も事業であり、独立して食っていけるようになるために、立ち上げのスピードが勝負であること。
農業は技術が必要で、その技術が一定以上にならないと、売るものが無いということ。
農業は労働集約型産業なので、機械・設備に投資することで効率が上がるため、最初は機械・設備に資金がギリギリの中で投資し続けなければいけないこと。
そのためには最初は既に何十年もやっている農家以上に、現場で朝から晩まで畑で働くことが好きという人でなければ務まらないこと。
3年ぐらいで人を雇えるようになったとしても、プレーイングマネージャーとして自分の技術力・労働力が雇用した人にも大きな影響を与えること。

そして、こういったことを教えてもらえる地元の篤農家、地元の農地や家屋や作物の育て方を教えてくれ、新参者としての信用をカバーしてくれるメンターとの結びつきが絶対条件であること。

こんな当たり前と言えば当たり前のことなのですが、こういったことは新規就農者はなかなかわからないと思います。

だからこそ、先輩新規就農者に何人もあって、あるいは研修先にいって「現実の農業の世界」を知ってから新規就農をするのが王道なのです。

この本はそういったことがストレートに、しかし事例をもって、現場で多くの新規就農者支援をし続けて来た人だからこそ、わかりやすく沢山書いてあります。

単なる農業本として読み物としてはそんなに面白くないかもしれないけど、きちんと農業をやっていこうと考えている人であれば「なるほど」と思えるようなことがつまっている、「とてもまともな本」で凄く参考になるんだろうな~と思いました。
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