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続続・次世代エコカー・本命は?(10)

2017-04-14 00:00:00 | Weblog
自社技術の流出を懸念
モデルチェンジの周期が長い独メーカー

 VWに限らず、ドイツの自動車メーカーは、良い製品をしっかりと作り、それを長く維持して利益を出すとともに、消費者や取引先の信頼を築いてきた。そうしたモノづくりの姿勢が消費者に浸透しているため、VWは不祥事の影響を最小限に食い止めることができたと考える。

2013年には、フォルクスワーゲンのゴルフが輸入車として初めて「日本カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞した(2013年11月23日)

 「良い製品をしっかりと作る」代表例が、第2次大戦後にVWが本格的に生産を開始した「タイプ1(通称ビートル)」だ。タイプ1は、改良を重ねながらドイツ国内で1978年まで製造が続けられた。メキシコではさらに2003年まで製造が続けられ、その結果、タイプ1の累計生産台数は2100万台を超えている。

 タイプ1の後継と言える「ゴルフ」は、1974年発売の初代から6~9年の間隔で新型にモデルチェンジをしている(08年発売の6世代目は4年で新型に)。日米の自動車メーカーのモデルチェンジ周期はおよそ4~5年である。これより長い間隔を置くのはVWだけでなく、他のドイツメーカーも同様だ。

ディーゼルエンジン車へのこだわり

 一方で、VWの長いスパンでモノづくりを考える姿勢は、ディーゼルエンジン車へのこだわりにもつながった。

 トヨタは97年12月、世界初の量産型ハイブリッド車「プリウスを発売した。エンジンとモーターという二つの動力源を持つハイブリッド機構で燃費の向上を図るプリウスの登場は、エコカー開発でしのぎを削っていた世界の自動車メーカーに大きな影響を与えた。しかし、VWなどドイツの自動車メーカーは、プリウスに対する関心が薄かった。そんな複雑な機構を用いなくとも、元来燃費が良いとされ、ヨーロッパでは小型車を中心に定着していたディーゼルエンジンの活用で代替できると考えた。

 19世紀末に開発されたディーゼルエンジンは、揮発性の少ない軽油を燃料とし、石油に限らず植物などから取れる油も使えることから、VWやダイムラー・ベンツは、植物由来のバイオ燃料を使うことで二酸化炭素(CO2)排出量を抑えることも検討していた。国内でも、てんぷら油の再利用といった話題がニュースになったこともある。しかし、「燃費向上」と「排出ガス浄化」の両面で、年を追うごとに規制が厳しくなるなか、ディーゼルエンジンの排出ガス浄化は、ガソリンエンジンに比べて達成がより難しく、浄化装置に多くのコストがかかるようになっていった。

 排出ガス浄化に関して、アメリカはカリフォルニアを中心に、ヨーロッパに先行して厳しい規制を設けている市場である。日本もまた、排出ガス規制が世界一と言われるほど厳しい。ところが、VWはガソリンエンジンを使うハイブリッド車を生産していない。そうした状況のなかで、VWはトヨタやゼネラル・モーターズ(GM)と世界一を争っていたのである。

 日本にいると、トヨタ、GMと並んで自動車業界の「ビッグ3」の一角であるVWは、アメリカ市場でも大きな販売力を誇っていると思いがちになる。しかし、VWのアメリカでの販売台数は、2016年で約59万台に過ぎない。約245万台のトヨタとは4倍の開きがある。一方のトヨタは、15年まで4年連続で世界一の販売台数を保持していたが、その屋台骨を支えているのはアメリカ市場だ。

中国市場で後れをとるトヨタ

トヨタの中国での年間販売台数は、フォルクスワーゲンの3分の1以下にとどまっている(2016年4月25日、北京モーターショーのトヨタ自動車のブース)

 VWがトヨタと世界一を競い、ついに世界一の座を得られたのは、中国市場で強みを発揮しているからである。16年のVWの中国での販売台数は約398万台で、前年より約44万台(12.2%)増加している。これに対しトヨタは、前年より約20万台(8.2%)増えたものの約121万台にとどまっている。VWの3分の1以下でしかない。VWとトヨタの世界販売台数の差が約21万台であることを考えれば、中国市場が両社の勝敗を分けたと言っても過言ではない。

 トヨタは、アメリカとは逆に、中国で大きく後れをとっている。その理由の一つに、中国市場への進出が遅かったという事情が挙げられる。VWは1985年に中国進出を果たしたとされているが、日本の自動車メーカーの中国進出は、ホンダが98年、日産自動車が2001年、トヨタはさらに遅れて02年である。

 日本メーカーが中国進出を躊躇(ちゅうちょ)し、出遅れてしまった背景には、中国政府が海外メーカーによる技術独占を阻止するため、海外メーカーと国内メーカーによる合弁会社(外資の出資割合は50%まで)設立を義務付けたこともあるだろう。
 これについても、モノづくりに対する日独の考え方の違いが影響している気がする。ドイツの自動車メーカーは、大手部品メーカーが開発した部品を組み合わせて新車を造る。例えば、独ボッシュは、ドイツのみならず、ヨーロッパではよく知られた大手部品メーカーだが、ドイツの各自動車メーカーは、ボッシュの部品を使ってそれぞれ独自性のある乗用車を生み出している。

 それは部品にとどまらない。たとえばBMWは01年、かつて英ローバーの人気車だった「ミニ」を買収し、自社で発売した。このミニは、ガソリンエンジン車は米クライスラー製のエンジンを、ディーゼルエンジン車ではトヨタ製のエンジンを搭載していた。エンジンという主要部品を他社に依存していたのだ。それにもかかわらず、運転してみれば、どちらもミニの謳(うた)い文句である「ゴーカートフィーリング」が体感できる、壮快な走りを実現していたのである。つまり、搭載されている技術がBMW独自のものでなくても、誰もが思い浮かべる「ミニの走り」を作り込めるのがBMWであり、またそれは、ドイツの自動車メーカーが得意とするクルマづくりであると言える。

自社技術の流出を懸念

 日本の自動車メーカーは、中国で合弁会社を設立して自動車を製造する際、自社の技術が中国へ流出してしまうのではないかと懸念したはずだ。日本メーカーは、ドイツメーカーと異なり、自社系列の部品メーカーを通じて、内製技術で新車開発を行うことを是としてきた。今日もなお、日本メーカーは、自社製の部品や技術へのこだわりが強い。自社の出資比率が50%以下の合弁会社となれば、中国側に自社の知見が渡ってしまうのではないかと懸念するのも当然であろう。

 それに対し、自社製へのこだわりがあまりなく、どこの会社の部品を使っても自社の持ち味を出せるドイツメーカーのVWには、合弁会社で中国に知見を持っていかれる懸念は比較的少ない。だから、中国進出にためらいはなかったはずだ。こうして、アメリカの4倍以上の人口を誇る中国で、VWはいち早く足場を固め、その市場で確固たる地位を築いていった。

「負のイメージ」にあまりとらわれない欧米の消費者

 とは言え、排出ガスの不正問題は、企業の信頼を大きく損ねる失態であり、顧客離れが起きてもおかしくない。実際、15年9月にVWの不祥事が発覚すると、日本では翌10月にVWの販売台数が一気に半減した。そして、国内輸入車販売台数で15年間守ってきた首位の座を、同じドイツ勢のメルセデス・ベンツに譲ったのである。

フォルクスワーゲンが中国市場向けに投入したセダン「フィデオン」(2016年2月29日)

 メーカーに不信感を抱き、購入を控える消費者心理はよくわかる。だが一方で、それまでのVWに大きな汚点はなかったし、同社のモノづくりへの信頼は厚かったはずだ。しかも、問題となったディーゼルエンジン車は日本では販売されておらず、ガソリンエンジン車には何の不具合もなかった。ディーゼルエンジン車にしても、最新仕様の新車については何ら問題ないと、VWは主張している。

 メーカーへの信頼という精神的な支えはもちろん、おろそかにできない。だが、今、目の前で売られている新車に不具合がないのであれば、買って損はないであろう。そのことを、海外の消費者は理解しているのではないか。事実、不祥事の震源地となったアメリカで、VWは16年の販売台数を前年よりわずか0.8%ながら増やしているのだ。
実際には先の3社合計では、58万7千台(←60万3千台)で-2.6%となっている。

 ヨーロッパにおいても、VWはドイツ、イギリス、フランスなどで販売台数を伸ばしている。つまり、欧米の消費者は、不祥事の「負のイメージ」にあまりとらわれずに、己の目で判断し、良いと思ったモノを買っているということだ。中国人もまた、欧米人と同じような思考で買っているのだろう。結果として中国は、VWが16年に最も販売数を伸ばした市場となった。

電動化の道に転換し競争

 VWは、今回の不祥事をきっかけにして、一気に電動化の道へ転換しようとしている。同社は、20年までに20種類以上に及ぶ新型の電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)を市場投入すると表明した。ディーゼルエンジンから電動化への転換は、アメリカ市場でのラインアップの充実も意味する。一方のトヨタは、昨年12月、トヨタグループの豊田自動織機、アイシン精機、デンソーからの人材を加えて、EV開発のための社内ベンチャーを設立している。

 トヨタとVWは今後、電動化を軸に、世界一の座を巡って熾烈(しれつ)な競争を続けていくことになるだろう。EVの開発でカギを握るのは、リチウムイオンバッテリーの信頼性・耐久性の向上と、大量生産による原価低減である。これは、自社グループだけで対応するのは難しい。そこで、内製部品に固執せず、他社の部品を組み合わせて使っても独自性のあるクルマを生み出せるかどうか。トヨタに限らず、日本の自動車メーカーのモノづくりが問われることになるかもしれない。

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プロフィル
御堀 直嗣( みほり・なおつぐ )
 1955年、東京都生まれ。玉川大工学部卒。大学卒業後はレースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。日本EVクラブ副代表としてEVや環境・エネルギー分野に詳しい。趣味は、読書と、週1回の乗馬。

http://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20170124-OYT8T50037.html?page_no=4&from=yartcl_page


この論考はちょっと饒舌すぎるが、次の記事の方が簡潔で要点をついている、と思われる。
(続く)
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