ATARI MUSIC STUDIO

ピアノを中心に様々な曲を編曲・演奏します。ブログでは音楽関係のつぶやきを中心に書き込みします。
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平均律とミーントーン(中全音律)

2021年04月01日 | 日記

今回は主に音律について、少しお話させていただこうと思います。
少し難しい内容も含まれますが、どうかお付き合いください。

現在私たちが普段耳にしている音楽(歌謡曲やポップス、ジャズ、ロックなど)は「12平均律」の音律で正しく調整されたサウンドです。
12平均律(equal temperament)とは、オクターブ(ドから上のドまで)を12等分し、ド以外の音の高さを決める音律です。
「12平均律」はオクターブ間の半音間隔を等しく100セントとしたため、「ロ長調」「変ト長調」など、シャープや♭がたくさんつくような、どんな難しい調性で演奏したとしても音律破綻を生じません。

「そんなのあたりまえじゃん!」

と現代人はつい思いがちですが、200年ほど前までは、平均律よりもっとメジャーな音律があったことをご存じでしょうか。
例えば、モーツアルトやベートーベンが活躍していた時代は「ミーントーン(中全音律)」で調律されたピアノが主流でした。

「あれ~?バッハってモーツアルトよりも前に生きた人だよね?バッハは「平均律クラビーア」を作曲してるけど?いったいどういうこと?間違ってない??」

と思う方はかなりクラシック音楽に精通してらっしゃる方でしょう。その通りで、J.S.バッハは18世紀ドイツで活躍した音楽家です。


J.S.バッハ(画像の転載元はこちら→ ヨハン・ゼバスティアン・バッハ - Wikipedia

バッハが生きていた時代にベートーベンはまだ生まれていませんし、バッハが亡くなった年にモーツアルト少年はまだ5歳。

様々な研究が進んでいて、平均律クラビーアの「平均律」は現代で言うところの「12平均律」を指していたわけではない、というのが最近の通説です。クラシック専門家のあいだでもあまり知られていないようなので、知っておくと得することがあるかも(?)です。


平均律クラヴィーア曲集第1巻 バッハ自筆譜の表紙
(画像の転送元はこちら→ 平均律クラヴィーア曲集 - Wikipedia

バッハは1740年前後で平均律クラヴィーア曲集を作曲しています。
表題(Das Wohltemperirte Clavier)のドイツ語訳は「様々な調で演奏可能となるように良く調整された鍵盤楽器のために」となります。
「平均律クラビーア」という表題にしても、元々は出版社側の都合によって付けられたものです。
ですが、平均律クラヴィーア曲集「第1集」も「第2集」も全ての調性で1曲ずつ作曲された24種調性曲集となっているため、「平均律」という出版社が付けた表題も、あながち的外れではなかったのでしょう。

この表題は「様々な調性において演奏可能な、ヴェルクマイスター音律のことを指しているのではないか?」というのが現代解釈となりますが、あるいは遠い未来に、全調で破綻のない音律が登場することを想い描きながら作曲していたのかもしれません。(すごい妄想・・・)

お話をミーントーンに戻します。
ミーントーン(中全音律)は、完全5度音程にうねりのない純正律に近く、長3度音程(メジャーコード)の響きが美しいのが特徴です。
ド-ソ、ソ-レ、レ-ラ、シ-ファ#のそれぞれの五度音程に関してだけは、1/4コンマ狭められていて、少しうねりが発生します。

12平均律と違い、どの調性で演奏しても破綻がない音律というわけではなく、♯が3つあるいは♭が2つより多い調は演奏不可能です。
詳しい説明は省きますが、ソ#-ミ♭は「ウルフの五度(Wolf interval)」と呼ばれ、とっても音痴な音程(異名同音破綻)が含まれているためです。

パイプオルガンやピアノ、クラビコード、ハープシコードなどの鍵盤楽器の類いは、いったんミーントーンで調律してしまうと、鍵盤の音程を変えることができません。
そのため、♯が3つあるいは♭が2つ以下の調で作曲されることが一般的でした。

♭#がない調・・・ハ長調  イ短調(C  major, A  minor)
♭が1つの調・・・ヘ長調  ニ短調(F  major, D  minor)
♭が2つの調・・・変ロ長調 ト短調(Bb major, G  minor)
#が1つの調・・・ト長調  ホ短調(G  major, E  minor)
#が2つの調・・・ニ長調  ロ短調(D  major, B  minor)
#が3つの調・・・イ長調 嬰ヘ短調(A  major, F# minor)

古典派時代までのクラシック音楽、特に鍵盤楽器作品は、上記調性のいずれかで作曲されることがとても多いです。
それ以上調号が増えると、鍵盤楽器では演奏不能になってしまうためですが、そう考えるとベートーベンのピアノ協奏曲第5番(変ホ長調)の出だしなど、当時は相当画期的なサウンドだったのだろうと妄想しています。
この頃になると、ミーントーン調律を脱却し、新しい音律(ヴェルクマイスターIII)などが試されていた時期だったのではないかと推測できます。

 

ここまでの小難しい話をものすごく、簡単に、ざっくりと要約すると・・・

「昔はドミソの和音がとても綺麗だった」

ということです。



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