マイペースおくやまの進化的考察

進化の研究は楽しい!というわけで、日常の研究生活で考えたこと、感動したこと、あるいは思いつきのネタの備忘録です。

ヤシの同所的種分化

2006-05-25 13:52:11 | 論文紹介
少しチェックが遅れていましたが、先週号のNatureに興味深い論文が出ていたので紹介します。

V. Savolainen et al. (2006) Sympatric speciation in palms on an oceanic island. Nature 441: 210-213.

種の多様性がどのようなメカニズムで生じるのかという問題は、私も含め多くの進化生物学者の主要な研究テーマとなっています。新しい種が生じる過程(種分化)には地理的な隔離に起因する異所的種分化と、純粋に生態的な分化に起因する同所的種分化の 大きく分けて二つのタイプがあります。前者は単純な過程であり、種分化の多くの場合がこれに起因すると考えられています。一方で後者は理論的には可能と考 えられており、また実際に起こっているはずではあるものの、定義上実証するのが難しく、これまでわずかな例しか報告されてきませんでした。本研究は隔絶さ れた小さな海洋島という特殊な地域で種分化したとみられるヤシの2種に焦点を当て、同所的種分化を実証する事を試みた研究です。



Lord Howe島はオーストラリアの東海上に位置し、640-690万年前に火山活動によって成立した12平方km未満の小さな孤島で、独特の生物相を有する場所として世界遺産にも指定されています。
そこには3属4種のヤシの固有種があり、その内Howea属 は2種からなる固有属で、同所的種分化が起きた系である可能性があるとして著者らは着目しました。Lord Howe島は非常に小さいため、島内で地理的隔離が成立するとは考えにくいからです。この2種は外部形態から容易に識別でき、雑種とみられる中間的な個体 もごくわずかしかみられないため、明らかな別種であると考えられます。

彼らはまずインド太平洋地域のヤシ科アレカヤシ亜科全67属を含む分子系統解析を行い、本属の単系統性を示しました。さらに彼らは得られた分子系統樹と複数の基準年代を用いて、Howea属が最も近縁な姉妹属Laccospadix属から分岐した年代を457-553万年前、Howea属の2種が分岐した年代を約192万年前(ノンパラメトリックレイトスムージング法)または100万年前より最近(ベイズ法)と推定しました。この結果は本属の祖先種が島に辿り着いたのが一回限りであり、その後島内で種分化を果たしたことを示唆しています。

次に彼らは両種の生態的特徴を野外調査から明らかにしています。この両種の花粉は風によって運ばれて(風媒)おり、H. forsterianaH. belmoreanaに比べて平均して6週間ほど早く咲く開花フェノロジーを持っている事を明らかにしました。またH. forsterianaが塩基性の石灰岩性土壌を好むのに対し、H. belmoreanaは中性から酸性の土壌を好むということも示しました。この土壌選好性の違いにも関わらず、両種は全調査プロットの20%で同所的に成育していました。

最後に彼らは両種間のゲノム中にある多型的な274AFLP座について遺伝子頻度の分化の程度(Fst)を調べ、うち4遺伝子座のみが有意に分化している事を明らかにしました。もし両種が異所的種分化によって生じたとするとゲノム全体に遺伝的分化が蓄積しているはずなので、このデータは同所的種分化の場合予測される状況によく適合しているといえます。

以上のデータから彼らはHowea属の同所的種分化について、以下のシナリオを提唱しています。
すなわち、まず450-550万年前に共通祖先種がオーストラリアからLord Howe島に入ってきた。その後、ごく最近(100万年前前後)に新たに隆起して生じた石灰岩土壌に適応して、H. forsterianaの祖先が分化した。H. forsterianaは生育する土壌の性質によって開花フェノロジーが変化することが分かっているので、このような生理的要因による花期の変化が両エコタイプ間の任意交配を妨げ、種分化に至った。

本研究は、同所的種分化のかなり信頼できる例を示したという点もさることながら、同所的種分化に至るシナリオを比較的はっきりと提示できている点が、このタイプの種分化現象を理解する上で重要であるということで高く評価されたのではないでしょうか。


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