脚と角

関西を中心に国内外のサッカーシーンを観測する蹴球的徒然草。

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葵の御紋ここに輝けり -EC3回戦 G大阪vs水戸-

2011年11月17日 | 脚で語るガンバ大阪
 今季の天皇杯は3回戦が平日に行われ、その大半でJ1勢とJ2勢のマッチアップが見られた。万博ではJ2・水戸が昨年、一昨年の王者・G大阪に挑戦。J1で優勝争いを繰り広げるG大阪を延長の末に水戸が3-2で下した。G大阪はよもやの敗戦、例年J2勢に苦戦する3回戦でまさかの結果となった。

 

 かなり寒い気温となった万博。平日の天皇杯ということもあってか、観客は3,000人に満たない。スタンドを多くは空席だったが、双方のゴール裏はサポーターがボルテージを上げていく。G大阪は、佳境のJ1で首位・柏と3位・名古屋とのデッドヒートが熾烈を極めてきた。水戸はJ2で16位という順位ながら、実は直近10試合ではわずか2敗しかしていない。かなりリーグ後半戦になって調子をあげてきたものの、この日の相手はG大阪。大方の人たちが順当なG大阪の勝利を予想しただろう。自分も10月に京都戦(2-0で水戸が吉原と鈴木隆の得点で勝利)で水戸の好調ぶりを目にしたとはいえ、その一人だったのは間違いない。

 G大阪は、日本代表で遠藤がいない。DF陣は中央を中澤と若手の内田が組み、左右に藤春、加地。中盤に二川、佐々木と中央に武井と橋本が顔を揃えた。2トップはキム・スンヨンと平井だ。
 対する水戸は、先日のFC東京戦で主軸のロメロ・フランクが出場停止。鈴木と小池が前線でコンビを組み、右SBとしても出場機会の多い西岡がFC東京戦同様中盤の底に入った。小澤、村田といったあたりの中盤の選手が積極的に飛び出してくるのが印象的だったが、この日はG大阪相手に守勢に回るものだろうと予想した。

 試合は序盤からG大阪が攻めあぐねて低調ぶりを露見した。なかなかシュートの機会がないばかりか、水戸の鈴木隆を中心とする前線のチェイシングにかなり手を焼いた印象だ。16分に佐々木が強引にミドルを狙い、少しリズムを引き寄せるかと思ったが、19分には水戸・小澤がG大阪・中澤のミスを突いてシュートまで持ち込む。どうも守勢に回るのは水戸の役目ではなかったようだ。

 
 水戸・鈴木隆のプレッシャーに思わず加地が苦戦。

 
 前半から仕掛ける水戸。
 小澤がエリアまで持ち込んで守備陣を翻弄。

 28分には水戸・小澤が再びゴール前でシュート。これはわずかにバーを越えたが、その直後の29分には、右サイドのアーリークロスに島田がダイビングヘッドで飛び込む。シュートはミートしなかったが、決定的な場面が続き、G大阪にとっては冷や汗ものだった。35分にも水戸は左CKに加藤がヘッドで合わせる。これもわずかにゴール右に逸れてしまったが、この水戸の勢いは本物だった。

 
 右SBとボランチをこなす西岡。
 展開力のある彼は地元、関西大出身。

 
 
 鈴木隆の駆け引きの巧さは衰えず。
 中澤がセルフジャッジで足を止めたところを突破。

 しかしながら、G大阪は高い技術をゴールに直結する。40分に佐々木がロングパスを左に振ると、駆け上がったキム・スンヨンにピタリ。そのままキム・スンヨンが左45度からシュートを決めてG大阪が先制に成功する。さすがJ1の強豪と呼ぶに相応しい決定力。これでG大阪が一層攻勢を引き寄せるかと思えた。

 
 キム・スンヨンがこの先制シュート。

 
 G大阪で好調な動きを見せていたのは佐々木。
 先制点のロングパスはお見事。

 ところが後半に入ると、依然水戸が元気を取り戻す。前半からの勢いは途切れることがなかった。50分、G大阪・内田の処理ミスを奪った水戸・小澤がそのまま持ち込んでシュートを決め、同点に追いついた。これには失点自体は「いつものこと」と万博のスタンドから多くのサポーターがかこつける余裕があったのかもしれない。しかし、それは違った。

 
 
 水戸の同点の場面。
 小澤がミスを突いて持ち込み、落ち着いて決めた。

 65分、佐々木がドリブルから正確なミドルシュートを決めてG大阪が再び突き放す。佐々木は前半から1人気を吐いたプレーでG大阪を牽引していた。しかし、この得点で一気に勝負をつけられるほど水戸は甘くなかった。この直後にG大阪は二川と平井を下げ、明神と川西の投入。もちろん川西の投入は追加点を奪えという指揮官のメッセージではあったが、この佐々木の得点の直前に水戸・村田のシュートを藤ヶ谷がセーブしている間一髪の場面があり、得点が奪われながらも水戸の推進力は衰えてはいなかった。

 
 藤ヶ谷のこの場面でのファインセーブが報われず。

 
 橋本はまだコンディションが今一つに思える内容。

 70分に水戸は、小池がエリア右手の角度のないところからシュートを放つ。これはゴールを肉薄するに終わったが、続く75分、島田が右サイドからドリブルで切り込んでシュート。これで得たCKに鈴木隆が頭で合わせて再び試合を振り出しに戻した。

 
 水戸のディフェンスリーダー尾本。
 空中戦での存在感もあった。

 
 武井はボールを回そうと奮闘。遠藤の代役は酷か。

 83分、G大阪・内田がハイボールをかぶってしまうミスで、ボールは水戸・小池に。小池が藤ヶ谷と1対1になるがシュートはポスト直撃という危ない場面が。10度を下回るかなりの寒さに包まれた万博では多くの観客がこの展開に震え上がっていただろう。89分には藤春がオーバーラップから完璧な折り返しを中央へ放り込んだが、キム・スンヨンがこれを合わせられず90分のフルタイムを迎える。

 
 藤春は随所に持ち味を見せた。
 89分のクロスは惜しかった。

 試合は延長戦へ。しかし、100分に小池のシュートが決まって勝ち越したのは水戸。113分にG大阪は佐々木がエリア中央で絶好のシュートチャンスを噴かしてしまう。115分には佐々木のシュートから得たCKを明神がわずかに決められない。118分には川西が加地からのボールを頭で落として、フリーだった武井がシュートを放つがこれもわずかにゴール左に外れるなど、ここぞという場面で決められないG大阪。なんとこのまま試合はタイムアップ。見事4回戦に駒を進めたのは水戸という結果になった。

 
 
 118分の武井の決定的なシュート。
 これを決められなければ敗戦も致し方なし。

 G大阪の天皇杯3回戦敗戦は、天皇杯でJ1勢が2009年から2回戦より登場するようになったこともあり、この10年では初めてのこと。だが、この10年間で幾度となくこの天皇杯の序盤で苦戦は強いられてきたことも記憶に新しい。2005年には当時J2だった横浜FCに3-3からPK戦の末7-6で勝利を収め、2006年にはJ2・湘南に2-1とかろうじて勝利。2007年にはこれまた当時J2だった山形を相手に2-2からPK5-3というギリギリの試合で勝利している。初優勝を果たした2008年のシーズンも初戦の甲府(当時J2)に2-1、そして昨季の栃木戦も終了間際に勝ち越し点を奪って3-2という薄氷の勝利だった。ここまでJ2勢に苦戦を強いられている過去のデータは興味深い。ともあれ、これでG大阪の天皇杯は終戦。残り3戦のJ1に絞られた。勝負の行方ではまだクラブワールドカップへの出場権も残されている。この敗戦がいかに影響するかは未知だが。

 
 残りの負けられないリーグ戦に影響するか否か注目。

 対する水戸は「ジャイアントキリング」と呼ぶには失礼なほどの対等、それ以上の内容での勝利。J2・16位とはいえ、最近の好調ぶりが発揮されたようだ。特に印象に残ったのは前線の鈴木隆の献身的な守備。G大阪DFにも筆紙にスライディングを仕掛けてまでのボールの奪いっぷりは、G大阪の平井の淡白なプレーとはなんとも対照的。これに加えて、村田、小澤、小池らアタッカー陣が気を吐くプレーを見せていた。天皇杯、次の相手はFC東京。この万博でしかと見せつけた胸に輝く葵の御紋がもうひと輝きできるか非常に興味深い。万博にこだまする水戸サポーターの凱歌は試合が終わってもしばらく止むことはなかった。

 
 
 J2で面白いチームの1つとして間違いない水戸。
 負傷中の吉原も笑顔で古巣との試合を楽しめたはずだ。


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