脚と角

関西を中心に国内外のサッカーシーンを観測する蹴球的徒然草。

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テレビでは観られないロスタイムのドラマ ~JFL前期第16節 佐川印刷VS三菱水島FC~

2008年06月14日 | 脚で語るJFL
 “テレビでは観られないドラマがある”とすれば、それがアンダーグラウンドなカテゴリーへと足を向けさせるには十分すぎる要因となろう。むしろ私は、そのドラマを求めて下部のカテゴリーに足繁く通う。今日のJFL前期第16節、西京極で行われた佐川印刷と三菱水島FCの試合は、その魅力が90分詰まったスリリングな試合となった。

 

 ここまで苦しい戦いが続く両チーム。勝ち点16で14位に沈む佐川印刷は、今季からこれまで6年間選手としてチームを支えてきた中森大介氏が監督を務め、昨年から新たに9名の新入団選手を迎えるなど大きな変革期を迎えた。昨年何試合か佐川印刷の試合を観戦している筆者は、前線で好連携を見せる濱岡、大坪、町中トリオが個人的にいたく気に入っていた。また、中盤で主将を務める東とエースの町中は共にG大阪ユース出身。攻撃の起点になる中井はC大阪ユース出身と所属選手にクラブユース出身の選手が多く、テクニックに溢れたそのサッカーは、このカテゴリー特有の“がむしゃらさ”も相まって、時折試合の結果に囚われずも魅力的に見える。今日の試合もそうだった。
 対する三菱水島FCは、引き分けを挟んで4連敗中。勝ち点9でアルテ高崎と並ぶものの、得失点差でわずかに最下位に沈んでいる。ガイナーレ鳥取に昨季は在籍していたMF徐暁飛(かつて札幌に在籍し、史上2人目の中国人Jリーガー)が加入し、中盤のテクニシャン山下、前線の長身FW森前を起点に何とか今日の試合は勝利を奪いたいところだ。
 そんな関係者でもなければなかなか足が進まないカードかもしれないが、西京極に334人の観衆を集めて真昼の13時にキックオフされた。

<佐川印刷メンバー>
GK31大石
DF22高橋、13金井、20松岡、14遊佐
MF15野澤、7東(89分=2吉田)、27吉木(68分=25猪狩)、6中井(75分=26奈良崎)
FW18大坪、11町中

<三菱水島FCメンバー>
GK1永冨
DF32徐(66分=5三宅)、2萩生田、3坂口、7川口
MF11菅(82分=14松永)、34田丸、4山下、33齋藤
FW18森前(70分=9中川)、36奥山

 開始早々だった。佐川印刷は、GK大石が大きく蹴ったボールが三菱水島DFの裏に抜け、ゴール前の大坪がこれをワンタッチで流し込み先制。開始1分経たぬうちに佐川印刷が、この日JFL出場100試合目となった大坪に花を添える自身のゴールで最高の出だしを見せる。序盤こそ佐川印刷のペースだったが、17分、三菱水島は、森前が左サイドの角度の無いところから強烈なシュート。これをGK大石がセーブするも弾いたところに菅が詰め、同点ゴールを決める。一瞬の隙を突いた見事な同点劇に岡山から駆けつけた数人のサポーターは歓喜に沸いた。
 ところが、23分に佐川印刷は金井の右CKから、ファーに飛んだボールを折り返したところにエース町中がニアで詰めて勝ち越しゴール。この日の佐川印刷はセットプレーの強さが光った。ここから更に佐川印刷が東、中井、大坪、町中の機動力と連携でペースを掌握。中森監督の目指す“人もボールも動くサッカー”の真骨頂が見えた。両サイドを効率よく使い運動量が落ちない佐川印刷、24分には町中が強烈な右足シュートで相手ゴールを脅かすと、29分には、右MF野澤が怒濤の攻め上がりからゴール前でのチャンスを演出。三菱水島は前半からその大半を苦しい守りの時間帯として過ごさねばならなかった。
 しかし、36分に三菱水島は、CKからDFの萩生田が惜しいヘディングシュートを放つと流れが傾いてくる。40分には、ここまで幾度か見せた鋭いカウンターの展開からエリア内で森前が相手DFに押されてPKを奪取。これを山下がきっちり決めると前半で三菱水島は劣勢ながらも2-2で折り返すことに成功する。

 

 前半の疲れを両チーム共に全く見せず、さらに運動量の上がる後半は、攻守の切り替えが激しくなり、スリリングな展開となった。序盤は三菱水島がペースを握る。ここでリズムを変えたい佐川印刷は、68分にJ2湘南から今季加入したMF猪狩を投入。これが功を奏し、29分には東のスルーパスに猪狩がシュートまで持っていくなど、リズムを手繰り寄せる絶好機を早速作り出した。33分には、遊佐の左CKにDF高橋が最高のタイミングで飛び込み3-2と再び勝ち越しのゴール。ここから佐川印刷が上手く試合をクロージングして終わるかと思われた。
 しかし三菱水島の熊代監督は諦めず、勝つためのゲームプランを実行する。終了8分前に190cmの大砲松永をここぞとばかりに投入。88分にはその松永がペナルティーアーク付近から強烈なシュートを放つと、三菱水島が怒濤の最終攻撃。“4分”を表示されたロスタイムが半分ほど過ぎた時ドラマは起きた。MF齋藤が最後の力を振り絞り放ったシュートは、エリア外からながらも佐川印刷守備陣のエアポケットを貫く。GK大石が反応したが、前のDFにわずかに当たったかコースが変わりゴールに吸い込まれた。3-3の同点。ロスタイムの劇的な同点ゴールに沸き立つ三菱水島イレブンとがっくりうなだれる佐川印刷イレブン。その後も残された数分でシュートを打ちに仕掛けた三菱水島が土壇場で追いついた形で試合終了となった。

 誰かがサボッていた訳ではない。佐川印刷はロスタイムも良く守った。しかし、これがサッカーの怖さ。ラスト1秒まで油断できない、勝負が決まらない不確定要素が存在する。“勝った”とどこかで思った瞬間にその怖さは牙を剝くのだ。攻守の切り替えが速いこの試合は、双方の奮闘を称えるかのような痛み分けに終わったが、十分にサッカーの面白さを感じさせてくれる好試合だった。


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